著者
長島 祐基
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.344-361, 2021 (Released:2022-12-31)
参考文献数
38

本稿ではP.ブルデューの作品受容研究の視点から,国民文化全国集会を事例として1950 年代の大衆的な作品発表会における参加者の作品受容の差異とそうした差異が発生する要因を考察した.近年のサークル研究は作品創造を通じた作り手の主体形成や,作品を通じた作り手と受け手の共感の形成を指摘してきた.一方で大衆的な作品発表が多様な観客に与えた影響の差異や,そうした差異が生じる要因は詳細に検討されてこなかった.本稿では分析を通じて既存のサークル研究が提示してきた運動像の乗り越えをはかるとともに,美術館を対象とするブルデューの作品受容論から文化運動の作品発表会を捉える際の 意義と課題を検討した. 国民文化全国集会の参加者の態度表明には学生,文化団体関係者,労働者といった参加者が所属する運動における作品の位置付けや,作品発表団体の文化的差異が影響した.この点でブルデューの作品受容論は大衆的な作品発表会における作品受容を捉える上で有用である.ただし,こうした社会各層毎の作品受容の差異は作品のコンセプト(「コード」)の提供不足や参加者相互の交流の不在という条件下において生じたものであり,一連の条件が変化していれば作品受容は異なる形になった可能性がある.また,絵画を対象としたブルデューの作品受容論では,演劇など他ジャンルの作品受容を十分に捉え切れない面がある.これらの点はさらなる検討が必要である.
著者
清水 亮
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.241-257, 2021 (Released:2022-12-31)
参考文献数
67

冷戦期にアメリカで確立した軍事社会学は同時代の軍隊・軍人・民軍関係などを中心的主題とし,軍事組織への積極的な社会調査を実行し,西側諸国を中心に国際的に普及した.これに対して日本では軍事社会学は長らく輸入されず,総力戦の社会的影響や経験・記憶の探究を中心に近年「戦争社会学」というかたちで学際的な研究が集積しつつある.しかし,日本にも社会学の軍隊研究は存在し,軍事社会学を参照した研究者も皆無ではない.本論の目的は,軍事社会学を参照した社会学者による軍隊研究の検討を通して,国際的に普及している軍事社会学と,日本社会学の軍隊研究との位置関係ならびに,ありえた接続可能性を明らかにすることにある.まずアメリカにおける軍事社会学の確立と各国における受容状況,日本の社会科学の隣接分野における軍事社会学との接点について検討した.そして冷戦期日本社会学における軍事社会学の参照状況として,従来から注目されてきた文化論的な戦争研究に加え,産業社会学からの組織・職業論の理論枠組みへの関心,ならびに教育社会学のエリート論からの実証研究の試みを明らかにした.それらは相互参照がなく孤立していた.しかし,軍事社会学の枠組みの直輸入でも,狭義の政軍関係論的展開でもなく,日本社会学との接続および戦後日本特有の実証的研究対象の発見によって,軍隊と社会の関係性に関するユニークな認識を生産しえたものだった.
著者
桑畑 洋一郎
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.37-54, 2022 (Released:2023-06-30)
参考文献数
28

近年,医学研究・臨床研究への患者・市民参画が進められ,病いの当事者が臨床試験に主体的に参画することが求められている.一方本稿で注目するHTLV-1(Human T-cell Leukemia Virus type 1)関連疾患も含めた病いの当事者は,こうした動きの前より,臨床試験に対して特有の意味を付与し活動を展開してきた.病いの当事者が臨床試験に対して構成する特有の意味世界を理解することも,現状において重要な意義をもつ.そこで本稿では,HTLV-1関連疾患当事者の病いの語りのうち〈治験の語り〉に注目し,当事者の意味世界とその背景を分析し考察することとする. 結果,HTLV-1 関連疾患当事者にとって治験とは,〈治癒/回復の頼みの綱〉〈存在可視化のツール〉〈連帯拡大のツール〉〈次世代との連帯の証〉であること,またこれに関連して,治験をめぐる〈参加の可否をめぐる葛藤〉〈連帯をめぐる葛藤〉があることが析出された.さらにこうした,治験を連帯と結びつける語りは,HTLV-1 関連疾患の病いの特性と関連した特有の背景から導き出されていることが明らかとなった. 臨床試験を実施する側とは異なる仕方で構成された当事者の意味世界を理解することは,臨床試験における関係主体間の相互理解を進展させる上で重要な意味をもつ.〈治験の語り〉は,そのための手掛かりとなるものであろう.
著者
直野 章子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.500-516, 2010-03-31 (Released:2012-03-01)
参考文献数
69
被引用文献数
4

記憶研究が流行となって久しいが,その背景にはポストモダニズム,ホロコーストに対する関心の高まり,「経験記憶」消滅の危機などがある.同時に,脱植民地化や民主化運動が記憶という課題を前景化したように,国際的に広がる記憶研究は,記憶が正義や人権回復の取り組みと深く関わっていることの表れでもある.記憶研究の劇的な増加に大きく貢献した「記憶の場」プロジェクトだが,「文化遺産ブーム」に見られるようなノスタルジアを助長する危険性もある.「記憶の場」を批判的な歴史記述の方法論として再確立するためにも,「場」に込められた広範な含意を再浮上させなければならない.その一助として,「記憶風景」という空間的な記憶概念を提起したい.記憶風景とは,想起と忘却という記憶行為を通して,個人や集団が過去を解釈する際に参照する歴史の枠組みであり,想像力を媒介にした記憶行為によって命を吹き込まれ,維持され,変容される過去のイメージでもある.この暫定的な定義をもとに,ヒロシマの記憶風景の現い在まを描いてみる.帝国主義の過去との連続性を後景に退け,前景に「平和」というイメージを押し出す,記憶風景の結節点が広島の平和公園だ.戦後ナショナリズムの文法に従って編成されてきたが,不気味な時空間も顔を覗かせている.それは,国民創作という近代プロジェクトにおける「均質な空白の時間」が侵食されていく場所でもあるのだ.
著者
瀧川 裕貴
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.84-101, 2020 (Released:2021-07-16)
参考文献数
66

現在,情報通信技術(ICT)の普及と発展は,われわれの社会そのものを再編成するとともに,これまでとは異なる方法とデータを用いるデジタル社会調査(計算社会科学)という新たな学問領域を生み出している.デジタル社会調査はこれまでの社会学の方法や理論にいかなるインパクトを与えるだろうか.本稿では,デジタル社会調査が特にインパクトを与えうる社会学の理論的・方法論的課題として次の3 つを挙げる.すなわち①社会ネットワークの構造や関係的メカニズムの解明,②因果の推論と因果メカニズムの解明,③意味世界の探求,である.これら3 つの課題についてデジタル社会調査による貢献の可能性を概説した後,実際の研究事例に即してより具体的に議論を展開する.その際,できるかぎり日本における研究の状況と研究事例も紹介するように努める.
著者
鹿又 伸夫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.283-299, 2017 (Released:2018-09-30)
参考文献数
21

日本の世代間所得移動と貧困の世代間連鎖に関する研究では, 成育家庭の経済状態から始まる影響の経路そして成育家庭の貧困から始まる地位の経路が, 貧富の世代間再生産傾向を作りだすことに焦点をあてている. しかし, 親の学歴や職業など他の成育家庭要因にくらべて, 成育家庭の経済状態から始まる影響経路が子世代の経済的格差を作りだすのかは, 検証されるべき問題である. その検証を, 全国調査データをもちいて, 経済状態を家計水準として測定し, 無職を対象に含めて行った. 分析結果は, 成育家庭の経済状態を始点とする影響経路だけが, 子世代の経済的格差を作りだす顕著な経路とはいえないことを示した. 子世代の経済的格差を作りだす主要な影響経路は, 成育家庭の経済状態, 親の学歴と職業がそれぞれ本人学歴に影響し, その本人学歴から離学後職業へ, 離学後職業から現職へ, そして現職から本人の経済状態へとつながる連鎖的影響経路だった. 男性での貧困に到達しやすい地位経路は, 成育家庭の貧困だけでなく親の低学歴からも始まっていた. しかし, 女性では現職から本人の経済状態への影響が男性ほど強くないため, 明確な地位経路はなかった.
著者
石田 佐恵子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.7-24, 2009-06-30 (Released:2010-08-01)
参考文献数
61
被引用文献数
3

今日の人びとの暮らしは,圧倒的なビジュアル文化に埋め尽くされている.ムービング・イメージ,すなわち「移動する〈仮想〉の視線」を扱う社会学を,ここでは「映像社会学」と位置づける.映像社会学とは,方法・対象・実践としての映像を総合的に考える領域と定義される.映像社会学への関心は1980年代から次第に高まってきたが,より注目されるようになったのは,文化論的転回以降の知的潮流と,デジタル化時代の新しい研究ツールとが合流する90年代後半のことである.この転回を受けて,映像や図像の意味は本質化を疑われ,徹底的に文化的な構築物として捉え直されることになった.本論では,文化論的転回以降の映像社会学の研究課題が示される.すなわち,映像制作と映像解読の双方の実践の場に研究する主体を置き,両者を連続的なものとして捉え直す,という課題である.こうした課題に近づくために,まず,社会学的な映像制作における諸条件が考察される.そこでは,撮影する主体と映像の移動性・流動性が強調される.さらに,社会学的な映像解読の手法について検討する.あわせて,グローバル時代の映像流通と受容とが議論される.これらの作業を通じて,視覚性の優位に特化した社会学的人間観を修正し,多様なオーディエンス,ジェンダー化された身体や規格化されない身体にとっての「見ること+聞くこと」の経験を,より広い身体の領域へと拓いていくことが,本論の目標点である.
著者
佐藤 毅
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.85-88, 1973-12-31 (Released:2009-11-11)
著者
柴田 温比古
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.135-150, 2021 (Released:2022-09-30)
参考文献数
39

本稿の目的は,第二次世界大戦以降,人の移動の拡大に伴って生じてきたとされる「市民権のリベラル化」の内実を理論的に再検討することである.本稿では,市民権を構成する2つの側面を〈成員資格〉と〈統合〉と名付け,両者の接合関係の観点から「リベラル化」の内実を再考する.〈成員資格〉と〈統合〉の両者の挙動は,「属性 ascription/業績 achivement」区分を用いることで近似的に定式化できる.従来的な国民国家の理念型の下では,前者は「出生」に基づくという点で属性主義的基準に,後者は各市民の社会における実体的なパフォーマンスに関わるという点で業績主義的基準に,それぞれ即して挙動していた.しかし人の移動が一般化するなかでは,出生が〈成員資格〉の画定基準としては適切でなくなるため,〈成員資格〉を〈統合〉に一致させ,両者を同時に業績主義的基準に基づいて画定するという戦略が浮上する.この〈成員資格〉の業績化というトレンドこそが「市民権のリベラル化」として観察されてきた事態の内実である.しかしそれは,近年の市民的統合政策の淵源となっており,さらには国籍剥奪の拡大や国籍をめぐる生得権の撤廃といった反直観的な帰結をも潜在的にもたらしうるという点で「イリベラル」な側面をも含んでいる.それゆえ市民権の真の「リベラル化」をめぐっては,属性主義的基準と業績主義的基準のよりよい併用の可能性こそが焦点となる.
著者
鳥越 皓之
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.81-84, 1977-03-31 (Released:2009-11-11)
著者
桑畑 勇吉
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.93-96, 1974-03-31 (Released:2009-11-11)
著者
山根 純佳
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.433-449, 2022 (Released:2023-03-31)
参考文献数
47

「女性職」であった施設介護の現場では,男性の参入と並行して男性が上位の職位に就く男性優位が再生産されている.本稿では,従来の「ケア労働=女性に適した労働」が「男性=理想的なケア労働者」というジェンダーに置き換わり男性の社会経済的優位が再生産されるメカニズムを,市場化された介護施設のマネジメントや実践における「長時間労働する身体」という「ヘゲモニックな男性性」の作用をとおして考察する. 介護保険制度下の「個別ケア」では,限られた人手で利用者の生活ニーズを支えるという家庭的ケアの再演が求められているが,そのケア実践は長時間労働する「献身的専門職」に依存している.この「献身的専門職」を前提にしたマネジメントの下では,「長時間労働する身体」というヘゲモニックな男性性を資源に男性が管理的地位を獲得する.一方夜勤専従を配置することで24時間型の献身的専門職モデルの転換を図った施設では,「長時間労働」と介護職の「有能さ」は結びつかず,長時間働かない女性の能力も評価されキャリアアップも保障されている.このようにジェンダーを再生産しないローカルな実践が多くの職場に広がれば社会全体の男性優位は変更されうる.しかし,福祉の市場化は,女性のケアの専門性や能力を活用しつつも,男性よりも低い地位や賃金にとどめる性別分離を促進しており,女性のケア労働の評価というフェミニズムの目標を後退させたといえる.
著者
三輪 哲
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.266-283, 2011-12-31 (Released:2013-11-22)
参考文献数
20
被引用文献数
1

父職のみで出身階層を測る「伝統的アプローチ」に基づいて, これまで世代間移動研究では, 相対移動パターンの国際的共通性という知見が蓄積されてきた. しかし近年になって, 世代間移動における母職の役割が見直され, それを含めた分析では実質的な結論が変わりうることが報告された. それを受けて, 本稿では, 日本, 韓国, 台湾の大規模調査データを用いて, 出身階層の測定において母職を含めた移動表分析をおこない, 従来どおりの知見が得られるかどうか追試をおこなった. その結果として, (1) 日本の, 特に男性では, 「伝統的アプローチ」によっても, 世代間の相対移動はまずまず説明できる, (2) 日本でも, 父階層に加えて母階層の情報をも用いて出身階層を測定したほうが, より世代間移動を適切にとらえられる, (3) 女性に関してのみ, 父母双方の階層を用いた場合において相対移動パターンに国・地域間の違いがみられ, その知見は出身階層として父階層のみを用いたときの結果とは異なる, という諸点が明らかになった. 男性における相対移動の構造的安定性が再確認された一方で, 女性においては母職を考慮することで移動の構造に異質性が見出される可能性があることがわかった.
著者
宮島 喬
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.42-59, 1968 (Released:2009-10-20)
参考文献数
9