著者
五十嵐 泰正
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.521-535, 2012
被引用文献数
2

多様性が価値として称揚される現代の都市においては, しばしば文化実践の当事者の疎外を伴いながらも, 周縁的な差異までも資源として動員されることが多くなった. しかし, 都市内部の多様性と都市間の多様性は二律背反の場合が多い現実の中で, 多文化都市における来街者を意識したまちづくりは, ある特定の地区に特定の文化的資源の選択的な集積を促し, 文化的次元でのゾーニングを志向しがちである. このような整理を踏まえたうえで, 本稿の後半では, そうしたゾーニングが困難な多文化的な商業地である東京都台東区上野2丁目地区における防犯パトロール活動に注目する. 執拗な客引き行為などを取り締まり, 良好な地域イメージを守ろうとするこの地区のパトロールには, 従来批判されてきたセキュリティの論理とコミュニティへの意識の接合を見出すことができる. しかし本稿では, パトロールをもっとも熱心に推進しているのが, 空間的ゾーニングに加えて時間的なゾーニング (住み分け) も難しい飲食店主層であることを明らかにしたうえで, セキュリティの論理ぐらいしかコミュニティ形成のきっかけとなりえない異質性と流動性がきわめて高い――すなわち高度に都市的な――地区では, 地域防犯への志向性こそが, 多様な人々の間にコミュニケーションのチャンネルを開く最大公約数的な契機であり, ゾーニング的な発想に基づいた排除的な多文化主義を克服しうる側面ももっていることを指摘した.
著者
正岡 寛司
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.22-41,113, 1968

以上において、根場部落における同族組織と親族組織を検討したが、最後に簡単な要約をもって結語にかえたいと思う。<BR>根場部落における同族関係は本家が直接・間接の分家を包摂するほど発達した同族団に展開しなかった。同族関係はかなりはやくから水平的な結合関係に変化し、先祖を共通にするという意識にもとずいた同族神祭祀や先祖祭りを中心とした固有の儀礼的な交際を持続してきている。<BR>そこで、日常的な交誼や協力関係は、オヤコ、とりわけイチオヤコの間において展開している。イッケシュが日常的な交誼や協力のあるいは家族行事へ参上する場合には、オヤコ関係のいくつかの段階区分に一定のきまった地位(多くの場合、イトコないしイトコナミ)を与えられて参与している。イッケシュをオヤコ関係のうちへとりいれて日常的な社会関係を展開している事実は、性質を異にする複数の集団や組織の存在を調整する処置であると考えられる。キンジョやオヤブンをもこの関係に組入れていることは、この事実を証明するものであろう。したがって、オヤコ関係は部落内の家と家との関係ないし瀋密度を表現する意義をももった親族組織であるといえよう。このことからも根場におけるオヤコ関係が決して同族関係の解体にともなって機能を顕在化するにいたったのでないことが理解されるのである。
著者
島薗 進
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.541-555, 2000
被引用文献数
1

近代化とともに宗教の影響力が衰えていくという世俗化論は, 1960 年代を中心に力をもっていた.確かに地域共同体に根を張って影響力を及ぼしてきた伝統宗教や新宗教のような組織的宗教は力を弱めている.かわって先進国では, 個人主義的に自己変容を追求するニューエイジや精神世界などとよばれるものが台頭してきている.この新たなグローバルな広がりをもつ宗教性を新霊性運動-文化とよぶことにする.情報と関わりが深く, メディアを介して個々人がそれぞれに学び取り, 習得するという性格が濃いこの新霊性運動-文化は, 現代社会で宗教の私事化が進む趨勢の現れであるように見える. ところが, 医療, 介護, 福祉, セラピー, 教育などの社会領域や, 国家儀礼, 生命倫理, 環境倫理などの問題領域に焦点を合わせると, 公共空間で広い意味での宗教がある役割を果たそうとする動向もある.これらの領域では, 近代の科学的合理主義ではカヴァーしきれない側面が露わになり, 宗教性, 霊性といったものを取り入れたり, 広い意味での宗教的な立場からの発言が強まったりする傾向が見られる.公共空間のある種の側面が再聖化する兆候といえる.この動向と世俗化や宗教の私事化と見えたものとは, 必ずしも矛盾しない.世俗化や私事化と見えたものには再聖化に通ずる側面が含まれていたし, 70 年代以降, 世俗化や私事化から再聖化の方向へ, ベクトルが転換する領域があったと考えられるからである.
著者
小室 直樹
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.22-38, 1967

The purpose of this paper is to present a theoretical reformulation of the structural functional analysis.<BR>One of the most tragic of this representative analysis in sociology lies in its imcompleteness in logical construction. From this imcompleteness come many confusion of thinking. So I do a trial for reformulation as follws : <BR>I. I give working definitions to the fundamental terms of this analysis after examing some of the usages.<BR>II. I discuss the fundamental theoretical issues of this analysis. This analysis contains many methodological problems that should be solved before it can claim the credit for a scientific method. These polemic issues are, in my opinion, as follows ;<BR>(1) Is it a tautology? (Tautological Trap) <BR>(2) How to operationalize this analysis? (Operational Trap) <BR>(3) How to find to a criterion to measure the extent and the level of a function? (Criterion Trap) <BR>(4) Is it a teleology? (Teleological Trap) <BR>(5) Can this analysis be used for the analysis of conflict in society? (Conflict Trap) <BR>(6) Can this analysis be used for the analysis of dynamical change of society? (Dynamical Trap) <BR>III. After examining these polemic issues, I give a theoretical model of my own to make this analysis a specified tool for social research. I postulate three working axioms and construct upon them main principles of this analysis, among which <I>the duality plinciples</I> and <I>the mechanism of double adjustment</I> play the major part.
著者
田巻 松雄
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.363-380, 2005

1980年代後半以降, 東・東南アジア地域内での労働力移動が顕著になった.この現象は, 経済のグローバル化のなかでアジア経済が全体的に躍進してきたこと, およびアジア域内における国家・地域間の経済格差が拡大してきたことを反映していよう.アジア域内の労働力移動は大量の非合法移民を生み出してきた.非合法移民の発生を「法的規制を無視して入国あるいは就労する人々」が生み出す問題とみることはあまりに一面的である.本稿では, 東・東南アジアにおける非合法移民に焦点を当てた.まず, その状況を俯瞰した上で, 主に移民政策を比較する視点から, 労働力に対する需要と移民政策との乖離, あるいは移民に対する規制強化が非合法移民を生み出す関係を検討した.また, 外国人労働力の後発的な受入国に共通する特徴や論理の抽出に努めた.非合法移民は, 国益の観点から外国人労働者の効率的な利用を図る受入国の政策と, 課せられた厳しい条件のなかでよりよい仕事と生活を求める外国人労働者の抵抗のせめぎあいが生み出す1つの産物である.
著者
アルベルト マルティネリ 矢澤 修次郎 柚木 寛幸
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.13-38, 2002
被引用文献数
1

本論文において筆者は, 21世紀初頭のグローバリゼーションが急速に進行する世界において, グローバルガバナンスと権力のアカウンタビリティの問題が焦眉の課題であることを論ずる.<BR>その問題に回答をだすために, 本論文は, まずはじめに, 現代世界において進行しているグローバリゼーションを如何なるものとして把握するのかを明らかにする.筆者はグローバリゼーションを, 広い視野から, 複数の原因をもつ極めて多層的な過程と捉える.その過程から, グローバルガバナンスがもっとも重要な問題として浮上してくる.何故ならば, グローバルな舞台において, かつて国民国家や民主主義が果たした機能を担うものが形成されていないからである.筆者は, グローバルな舞台における主要な行為者を検討し, 民主的なガバナンスを担うスーパーナショナルな制度形成の重要性を指摘する.またその文脈において, 具体例をヨーロッパ連合に採り, どのようにして民主的なグローバルガバメントを形成するのかを検討する.その検討から明かになることは, そうした制度の基盤になるものは, エトスとエポスをおいて他にないということである.国際学会は, この両者を共有しており, グローバル時代においてグローバルガバナンスを確立するために少なからぬ貢献をする可能性を秘めており, より積極的な活動を展開することが期待されている.
著者
盛山 和夫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.92-108, 2006

一昨年のアメリカ社会学会会長ビュラウォイの講演以来, 「公共社会学」に対して熱心な議論が交わされている.これは現在の社会学が直面している困難な状況を「公衆に向かって発信する」という戦略で克服しようとするものだが, この戦略は間違っている.なぜなら, 今日の社会学の問題は公衆への発信がないことではなくて, 発信すべき理論的知識を生産していないことにあるからである.ビュラウォイ流の「公共社会学」の概念には, なぜ理論創造が停滞しているのかの分析が欠けており, その理由, すなわち社会的世界は意味秩序からなっており, そこでは古典的で経験的な意味での「真理」は学問にとっての共通の価値として不十分だということが理解されていない.意味世界の探究は「解釈」であるが, これには従来から, その客観的妥当性の問題がつきまとってきた.本稿は, 「よりよい」解釈とは「よりよい」意味秩序の提示であり, それは対象世界との公共的な価値を持ったコミュニケーションであって, そうした営為こそが「公共社会学」の名にふさわしいと考える.この公共社会学は, 単に経験的にとどまらず規範的に志向しており, 新しい意味秩序の理論的な構築をめざす専門的な社会学である.
著者
村瀬 洋一
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.21-40, 1999

政治的影響力は直接測定するのが困難であり, 全国レベルでの政治的影響力の格差に関する実証的研究は乏しかった。本研究は, 政治的影響力の指標として, 「政治的有力者との人間関係 (関係的資源) の保有量」という変数を用いて分析を行った。1975, 1995年の社会階層と社会移動全国調査 (SSM 調査) 男性データを分析した結果, (1) 1975年時点では地域間格差が明確に存在し, 議員との関係的資源は, 大都市部住民の保有は少ないことが分かった。 (2) 1995年時点でも, 大都市部住民の保有は少ないが, 町村や大都市よりも, 人口10万人未満の小規模な市において, とくに議員との関係的資源保有が多く, 地域とつきあい保有は凸型の関連があった。 (3) 資源保有の規定因としては, 年齢, 世帯資産, 自営業であること, などの変数が大きな規定力を持つ。 (4) 1995年では, 学歴や役職などの業績主義的変数が規定力を持つ一方, 地域の効果は縮小している。最近では, 政治的影響力の地域間格差の構造に変化が起きている。
著者
金 相集
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.175-191, 2003-09-30
被引用文献数
1 1

本稿はここ数年の間に幅広く普及し, 日常的なメディアとして頻繁に利用されるようになったインターネットと, 従来のメディアのなかで最も大きな影響力を行使してきた新聞との関係性を考察する.そのような公共圏を構成しているメディアの再編成によって, 公共圏における活動の主体はどのように変容しているかを考察し, また, そのような人々のメディア利用の変容とインターネット公共圏をどう関連付けて議論すべきかを明確にする手がかりとしたい.本稿では, 2000年韓国で起こった落選運動を事例として用い, それに関する新聞の報道内容とインターネット上での議論について主に「新聞とインターネットの相互参照の関係」, 「間メディア性による言説の変化」, 「メディア公共圏の複合化」という3つの観点から分析を行った.その結果, 新聞はインターネット空間で交わされる議論の主な情報源として用いられており, また, インターネット上での議論及び話題も新聞に影響を及ぼしているという結論が得られた.また, このようなインターネットと新聞の発する言説の相互参照関係によって, 一部新聞の報道内容に変化が生じていることが確認された.
著者
和泉 浩
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.54-69, 2002

音楽という芸術を, 合理化の視点からとらえることはできるのであろうか.もしそれが可能であるとすれば, 音楽の合理化の西欧近代における固有の特性とはいったいどのようなものなのであろうか.未完の草稿として残された『音楽社会学』においてマックス・ウェーバーが探求しようとした, この西欧近代音楽の合理化の過程を, 西欧音楽における二重の合理化という視点から読み解くことが本稿の試みである.<BR>ウェーバーが音楽を社会学の対象にしたのは, 音楽に用いられる音組織が歴史的に構築されるなかで, 理性がきわめて重要な役割をはたしてきたことを見出したためである.ウェーバーは, この音組織を歴史的に構築してきた原理を, 間隔原理と和声的分割原理という2つの原理に区別する.この2つの原理にもとづき, 音組織は間隔的に, あるいは和声的に合理化されてきたのである.この2つの合理化は互いに対立するものであり, 他方のものに非合理, 制約, 矛盾をもたらす.ウェーバーの議論は一見, 近代の西欧音楽を和声的合理化においてとらえ, それ以外の音楽を間隔的合理化において特徴づけているようにみえる.しかし, 西欧近代の音楽の合理化の特性は, この対立する2つの合理化の交錯においてかたち作られているのである.この西欧近代音楽の合理化の矛盾した関係を明らかにすることこそ, ウェーバーの音楽社会学の試みである.
著者
里村 和歌子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.325-342, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
35

本稿は,「作家さん」というハンドメイド作品を自ら売る主婦たちの労働的行為に焦点を当てながら,なぜ,どのようにハンドメイド作品を売ることができるのかについて考察する.具体的には,先行研究で論じられた,美術,家父長制,資本主義という三つ巴のイデオロギーによって無償労働の「穴」に追いやられてきた「手芸」が,なぜ,現代の「作家さん」たちにとっては稼得源となるのかについて,フィールドワークをとおして考察した.その結果わかったことは以下の3 つである.1)「作家さん」は家内領域でたまたま発見したハンドメイドという技能を資源として市場で売ることで経済的対価を得ているが,それらは総じて低価格である.2)低価格の理由は,「作家さん」という存在が作家である以上に,無償労働の担い手として期待される主婦を前提としているからである.しかし3)完全に無償にならないのは,「作家さん」の雇用されない,自律的な協働が商品の交換価値を生んでいるためである.労働者とも主婦とも定義しきれない中途半端な存在である「作家さん」は,家内領域を足場にしたつくり売るという行為によって,ジェンダーにより不均衡に配分された公共/家内領域の境界を知らず知らずのうちにはみ出している.
著者
多喜 弘文
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.136-152, 2011-09-30 (Released:2013-11-19)
参考文献数
23
被引用文献数
3

本稿の目的は, 生徒の進学期待・職業期待と学校トラックの関連のあり方の日本的特徴を検討することである. そのための比較対象として, 学校と職業の結びつき方において典型的な特徴をもつとされてきたアメリカとドイツをとりあげる. 分析には, 各国の教育機関に通う15歳の生徒を調査対象にしたOECDのPISAデータを用いる.先行研究で使われてきた3つの指標を用いると, 3国の学校と職業の接続のあり方は以下のように整理することができる. 日本は, 学校による階層化の度合いが大きく, 国内で標準化されている度合いも大きいが, 学校と職業資格や技能との結びつきの度合いは小さい. ドイツは, 3つの指標の度合いが一貫して大きく, アメリカは一貫して小さい. 以上の指標の組み合わせから, 各国のトラックが進学期待と職業期待に対してもつ影響力に関する仮説を立て, それを検討した.分析結果は以下のとおりである. ドイツではトラックが進学期待と職業期待を強く規定しているが, アメリカではこれらに対するトラックの規定力は弱い. これに対し, 日本では所属するトラックが進学期待を強く規定するが, 職業期待とは弱い関連しかもたない. 以上の分析結果は, それぞれの国の学校と職業の結びつきに関する3つの指標のパターンと整合的に解釈できるものであり, 学校と職業の接続を背景としたトラックが生徒のアスピレーション形成に及ぼす影響の日本的特徴が明らかになった.
著者
河原 和枝
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.431-432, 2008-09-30 (Released:2010-04-01)