- 著者
-
石田 佐恵子
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.1, pp.7-24, 2009-06-30 (Released:2010-08-01)
- 参考文献数
- 61
- 被引用文献数
-
3
今日の人びとの暮らしは,圧倒的なビジュアル文化に埋め尽くされている.ムービング・イメージ,すなわち「移動する〈仮想〉の視線」を扱う社会学を,ここでは「映像社会学」と位置づける.映像社会学とは,方法・対象・実践としての映像を総合的に考える領域と定義される.映像社会学への関心は1980年代から次第に高まってきたが,より注目されるようになったのは,文化論的転回以降の知的潮流と,デジタル化時代の新しい研究ツールとが合流する90年代後半のことである.この転回を受けて,映像や図像の意味は本質化を疑われ,徹底的に文化的な構築物として捉え直されることになった.本論では,文化論的転回以降の映像社会学の研究課題が示される.すなわち,映像制作と映像解読の双方の実践の場に研究する主体を置き,両者を連続的なものとして捉え直す,という課題である.こうした課題に近づくために,まず,社会学的な映像制作における諸条件が考察される.そこでは,撮影する主体と映像の移動性・流動性が強調される.さらに,社会学的な映像解読の手法について検討する.あわせて,グローバル時代の映像流通と受容とが議論される.これらの作業を通じて,視覚性の優位に特化した社会学的人間観を修正し,多様なオーディエンス,ジェンダー化された身体や規格化されない身体にとっての「見ること+聞くこと」の経験を,より広い身体の領域へと拓いていくことが,本論の目標点である.