- 著者
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吉田 舞
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.71, no.4, pp.671-687, 2021 (Released:2022-03-31)
- 参考文献数
- 28
- 被引用文献数
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本稿は,外国人技能実習生の日本の労働市場への従属的包摂の仕組みを,受け入れ制度と労務管理に着目して考察する.技能実習生は,日本人労働者とは異なる労働力として,さまざまな制度的制約のもと,労働市場に組み込まれている.従来,これらについては,人権問題や労働問題として,その過酷な実態が告発されてきた.しかし,技能実習生は,必ずしも直接的な強制や,非人間的な抑圧だけで,管理されているわけではない.むしろ,その制度的立場ゆえに,「よくしてくれている」雇用主に対して,「ものが言えない」状況が強化されることもある.本稿では,このような視点から,制度と労務管理に組み込まれた「恩顧」のイデオロギーに着目する.そのために,以下を明らかにする.まず,地方の家族経営体で働く技能実習生の労務管理の事例から,職場における雇用主との疑似家族的労使関係や,労務管理の実態を明らかにする.次に,これらの労務管理に対する,技能実習生の4 つの対応パターン(耐える,帰国する,逃げる,闘う)を考察する.ここから,疑似家族的労使関係や制度的制約が実習生の対応選択に及ぼす影響を分析する.この結果,技能実習制度では,政策から現場レベルまで,「援助=よくしてやる」という恩顧の論理が貫徹しており,そのなかで,技能実習生が労働市場の底辺に組み込まれていることを明らかにする.