- 著者
-
藤田 結子
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.4, pp.519-535, 2013-03-31 (Released:2014-03-31)
- 参考文献数
- 35
- 被引用文献数
-
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本稿は, 文化生産におけるナショナル・アイデンティティの構築について考察することを目的とする. 考察のため, 「欧米都市のアート・ワールドにおいて, どのような要因により『日本らしさ』の構築が促されているのか」という研究の問いを設定し, ファッション, インダストリアル・デザイン, 現代アートの各分野を対象に調査を行った. 調査方法にはマルチサイテッド・エスノグラフィーを用い, パリ, ロンドン, ニューヨーク, 東京などで参与観察とインタビューを実施した.調査の結果, 欧米都市のアート・ワールドでは異なる職業・役割をもつ人々を結びつける弱い紐帯が, さまざまな利益を生む活動に影響を及ぼしていた. しかし国境を越える人のフローが活発化し, アジア系のデザイナーやアーティストの活動が顕著になっている現在でも, バイヤーやコレクター, 記者・編集者など重要な判断や権力を行使する職業・役割においては, 白人が多数派を占めていた. この状況のもと, 白人性を「標準」とした価値観を基に, 日本出身のデザイナー, アーティストとその作品が本質的な「日本らしさ」と結びつけられていた.結論として, 制作者の「日本らしさ」への愛着によってナショナル・アイデンティティが再生産されているのではなく, アート・ワールドの職業・役割に見られる特徴的な人種関係と, その人種関係に基づく作者・作品への評価のあり方が「日本らしさ」の再構築を促していることが明らかになった.