著者
吉田 寛
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.331-342, 2003-11-30
被引用文献数
15 17

本四連絡橋尾道〜今治ルート(西瀬戸自動車道)の伯方島で1975年に行われた植生基材吹付工の試験施工地において,客土種子吹付工により導入されたヤマハギ(Lespedeza bicolorvar.japonica Nakai)群落とイタチハギ(Amorpha fruticosa L.)群落についてこれまでの調査記録を整理し,施工25年後の植生調査を行った。その結果,客土種子吹付工で導入されたマメ科低木群落は,施工後約17年以降に自然侵入した木本植物の成長が進むことが確かめられ,イタチハギ群落やヤマハギ群落は,施工後25年間という長期スパンで観察すると,主に鳥散布や小動物の貯食によると思われる木本植物の自然侵入には有効に働いていると考えられた。また,客土種子吹付工と同時期に同じ法面に施工した厚層基材吹付工の24年後の調査結果をもとに比較すると,客土種子吹付工は導入したイタチハギ群落の持続性が厚層基材吹付工よりも低く,先駆性の落葉広葉樹やアカマツ(Pinus densiflora Sieb. et Zucc.)の自然侵入が早くからみられるのに対し,厚層基材吹付工は生育基盤の土壌化学牲などの違いからイタチハギ群落の持続性が高く,自然侵入種には先駆性の落葉広葉樹が少なく,常緑広葉樹のネズミモチ(Ligustrum japonicum Tunb.)とウバメガシ(Quercus phyllyraeoides A. Gray)が多くなることが確かめられた。マメ科低木群落を造成した場合の植生遷移は,主に先駆性の木本植物の自然侵入には導入群落の持続性が高い厚層基材吹付工より客土種子吹付工の方が有効と思われる。しかし,厚層基材吹付工を適用する場合において,導入種の高い持続性から得られる動物散布種の自然侵入促進効果を発揮させるために,マメ科低木類の発生期待本数を大幅に減量することにより,これらが単層で高密度に形成するのを回避したり,施工後早期に客土種子吹付工の施工後25年後にみられたような,先駆性落葉広葉樹と常緑広葉樹が混生した比較的疎な状態の多層の群落を形成することにより,客土種子吹付工が有する導入植生の早期衰退という法面防災上のリスクを伴うことなく,植生遷移をさらに早めることが可能ではないかと考えられた。
著者
額尓 徳尼 堀田 紀文 鈴木 雅一
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.338-350, 2009 (Released:2010-07-27)
参考文献数
54
被引用文献数
2 1

内蒙古自治区全域における砂漠化と緑化事業がもたらした植生変化の実態を把握するために,NOAA/AVHRR の衛星リモートセンシングデータから求めたNDVI(正規化植生指数)を用いた検討を行った。まず,文献から植生変化の実態が明らかな地域において,NDVI の変化と植生変化について比較し,1982~1999 年までの約18 年間における植生の変動を調べた。植生変化が少ない地域でのNDVI の変動から,植生増減を判断するNDVI 変化の閾値を検討し,1982~1986 年と1995~1999 年の夏季NDVI の差を ΔNDVI とし,植生の増減を8km 分解能のピクセル毎に求めた。そして,ΔNDVI により植生が変化した地域を抽出して図化した。その結果,内蒙古自治区全体としては,NDVI が増加した地域の割合が減少した地域の割合を大きく上回り,植生増加の傾向が示された。赤峰市(特に敖漢旗)の植生増加が顕著であり,次いでシリンゴル盟,フフホト市,バヤンヌール市の一部にまとまったNDVI 増加が示され,内蒙古全域においてNDVI が増加した面積が約20 万km2 程度見られた。北半球の高緯度地域では温暖化によるNDVI の増加が報告されているが,行政区毎に求めたNDVI が増加した地域の面積と,統計資料に基づいて集計した造林面積と耕地化された面積の合計に良好な比例関係が見られ,内蒙古自治区における夏季のNDVI 増加は主に緑化と農耕地の拡大という人為的な要因による植生増加である。一方で,NDVI 減少が抽出された内蒙古自治区西部(アラシャ盟),東北ホルチン砂地周辺などでは,もともと植生が乏しい地域であり,これらの地域では砂漠化による植生減少が指摘された。
著者
田中 崇之 菅本 裕介 宮崎 郁美 伊藤 裕太 浜口 昌巳 野田 泰一 小林 達明
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = / the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.193-198, 2004-08-31
被引用文献数
1 1

東京湾の人工渚におけるアサリの個体群動態と生残規定要因について2002年から2003年にかけ調査した。春に産卵された浮遊幼生は秋には生殖が可能になり,翌年の春には産卵を行っていると見られた。葛西海浜公園では2002年, 2003年ともに着底後のアサリの個体数減少が見られ,大雨時の河川水の流入に伴う塩分濃度の低下が主な生残規定要因として考えられた。また,幕張の浜では浮遊幼生は供給されているにもかかわらず,稚貝が見られなかったことから,波浪の影響, 青潮の影響が考えられた。これに対し,金沢海の公園,小櫃川河口干潟はアサリの個体数は安定していた。これらのことから,東京湾におけるアサリの生息条件は多様であり,生息地を再生するためには,その場に応じた対処が必要と考えられた。
著者
小野 芳 柳 雅之 工藤 善 手代木 純 輿水 肇
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.74-79, 2006-08-31
被引用文献数
7 9

本研究では,屋上緑化の熱環境への負荷低減効果を定量的に算定するための基礎データとして,屋上緑化の蒸発散量の測定を行った。使用した土壌は黒土とパーライト系の人工軽量土,土壌厚は7cm,14cm,21cmの3種類であり,各土壌厚につき裸地と3種の植物の計4試験区を設け,夏・秋・冬・春の4シーズンの蒸発散量を小型ライシメータの重量減少によって測定した。その結果,黒土区で人工軽量土区より植物生育が悪いものが多く,蒸発散量が抑えられ,黒土区のペチュニアの8月の蒸発散量は裸地より少なかった。各土壌厚の中で8月の蒸発散量が最大だったものは,人工軽量土区のローズマリー(Rosmarinus officinalis L.)が7.2kg/m^2/day,人工軽量土区のバーベナ(Verbena.×hybrids)が12kg/m^2/day,黒土区のオオムラサキツツジ(Rhododendron pulchrum Sweet cv. Oomurasaki)が14kg/m^2/dayであった。
著者
湖東 朗 大沼 洋康 角張 嘉孝 Suhail A.ITANI HAFFAR Imad
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.12-19, 1990-07-20

アラブ首長国連邦(UAE)は極乾燥地に属し, 年平均雨量は100mm以下でしかも年変動がかなり大きい。したがって, UAEの農業は井戸水などによる灌がいに依存しているが, 無計画な農業開発は貴重な水資源の枯渇を招くおそれもあり, 潅がい水の有効利用のためには圃場に於ける水収支の研究が非常に重要である。本研究は(1)灌がい頻度がアルファルファの蒸散速度や葉温の日変化及び季節変化に及ぼす影響, (2)これらの因子がアルファルファの生長に及ぼす影響, 及び(3)気象因子がアルファルファの蒸散速度に及ぼす影響などを検討するために行った。ポロメータを用いてアルファルファの蒸散速度及び葉温の日変化及び季節変化を1988年4月, 8月, 11月及び1989年1月に測定した。毎日灌水する高頻度潅がい(F)区及び2日に1日灌水する対照(N)区の2つの区を設定した。灌水頻度が蒸散速度及び葉温に及ぼす影響は11月や1月の比較的寒い時期よりも, 4月や8月の暑い時期の方が大きかった。F区とN区の差は, N区の灌がいをしない日に大きく, 4月と8月におけるN区の蒸散速度はF区のそれよりも小さかった。葉温はN区よりもF区の方が低く, 両区の最大葉温差は4月及び8月にそれぞれ4℃及び6℃であった。アルファルファの草丈及び乾物収量は, 両区における蒸散速度や葉温の違いを反映してF区のほうがN区よりともに10%ずつ高かった。灌がいしない日におけるN区の推定蒸散量(TRn)はF区のそれ(TRf)よりも少なく, TRnとTRfの比は4月, 8月, 11月及び1月についてそれぞれ77%, 72%, 70%及び92%であった。F区の測定データを用いて蒸散速度と光量子量(QU), 飽差(VPD), 相対湿度(RH), 葉温(LT), ポロメータチェンバー温度(CT)との相関を調べた結果, QUとの相関が最も高いことがわかった。また, 光強度を変えて蒸散速度を測定した別の実験でも両因子間に高い相関関係がみられた。さらに, 重回帰分析により上記因子による蒸散速度の予測モデルを検討した。各月のデータについては, かなり高い相関が認められたが, それぞれの回帰係数については季節により違いがみられた。
著者
〓 徳泉 増田 拓朗 守屋 均
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.300-308, 2001-05-31
被引用文献数
2 2

西南日本において緑化樹としてよく用いられている常緑広葉樹3種(クスノキ, マテバシイ, アラカシ)の2年生ポット苗を用いて, 1996年の夏季と秋季に灌水停止実験を行い, 水ストレスが各樹種の光合成および蒸散活動に及ぼす影響を調べた。いずれの場合にも, 土壌乾燥に伴って葉内水分張力が低下したが, その低下の程度は樹種および季節によって異なった。実験に用いた3樹種の中では, マテバシイの葉内水分張力の低下が著しく, アラカシの葉内水分張力の低下が最も緩やかであった。マテバシイが土壌乾燥に対する抵抗が弱く, アラカシが強いという結果は, 既往の研究結果や筆者らの実際の緑地における経験と一致する。葉内水分張力と日光合成量, 葉内水分張力と日蒸散量の間にはともに密接な関係が認められ, 水利用効率は樹種, 季節に関わらず葉内水分張力-0.6〜-1.0MPa(pF3.8〜4.0に相当)付近で0になった。すなわち, 今回実験に用いた3樹種の水ストレスに対する耐性の違いは, 葉自体の水分生理的な能力の違いというよりも, 根の水分吸収能力および樹体の水分保持能力の違いによるところが大きいと考えられる。
著者
阿部 信之 橋本 良二
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.632-638, 2005-05-31
被引用文献数
2 3

上層木を強くすかした林地にコナラ果実を播き付け, 落葉被覆が実生の発生と成長に及ぼす影響を調べた。また, 圃場で, 落葉被覆が地表下3cmの土壌の温度とpF値に及ぼす影響を調べた。落葉被覆の影響は, 土壌のpF値に対して顕著であった。被覆量200gm^<-2>以下では土壌乾燥は急速に進んだ。一方, 400gm^<-2>以上では土壌乾燥は大きく抑制された。実生の発生率は, 被覆量90gm^<-2>では5%であったが, 被覆量180gm^<-2>および360gm^<-2>ではともに40%を示した。1成長期を経た実生重は, 被覆量によって異なり, 360gm^<-2>では180gm^<-2>に比べ20%近く大きかった。実生重については, 果実重や実生発生時期のほかに, シュート伸長様式が関与しており, 落葉被覆は実生発生時期と二次伸長の促進にかかわっていた。厚い落葉被覆は, 実生発生時期を遅らせるが, 二次伸長を促進した。厚い落葉被覆がもたらす土壌の湿潤性が, 二次伸長の促進を通して, 実生の成長量を増加させると考えた。
著者
阿部 信之 橋本 良二
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.484-491, 2008-02-29

播種時におけるコナラ種子の乾燥が,芽生えの発達経過や成長量にどのように影響するかを調べた。播種から出芽までの期間は,無乾燥に比べ弱度の乾燥でむしろ短くなり,さらに乾燥日数が増すと長くなった。播種から出芽までの期間の長い芽生えでは上胚軸伸長期間や展葉期間は短くなった。しかし,播種から展葉終了までの全期間は,播種から出芽までの期間に依存していた。種子乾燥にともなう播種から出芽までの期間の増大は,種子の脱水率の増大で説明されなかった。種子乾燥がもたらす芽生えの成長量の低下については,播種から出芽までの期間の長期化と脱水率の増大がそれぞれ関係していた。乾燥にともなう不出芽種子の出現状況を考えあわせ,播種に際しては,乾燥日数で5日間,脱水率では10%に至らない取り扱いが,一応の目安になると判断した。
著者
角田 真一 佐藤 裕隆 加藤 和生 野中 晃 大平 政喜 笹本 和好 上田 純郎
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.168-171, 2001-08
被引用文献数
3 1

浄水ケーキを主な原料とした土壌改良資材を作成し, 砂質土壌の物理・化学性, および緑化用植物の生育に及ぼす影響について調査した。浄水ケーキを主原料とした改良資材の砂質土壌に対する施用は, 従来より改良材として使用されている赤土+バーク堆肥と比べ, 難効性有効水分量, 液相率を高める傾向があり, また, 化学性に対しては肥料添加により無機成分含有量および, 肥料の保持機能を高める効果が認められた。茨城県波崎町の砂質土壌地帯において, 数種類の緑化用植物を植栽し, 試作した改良資材の施用効果について調査した。その結果, 試作した改良資材の施用は, 従来の改良材に比べ供試したほとんどの植物種の生育を高めた。また, 処理から約2年経過後, 従来の改良材に比べ肥料が充分に保持されていることから, 生育増進の主な原因が土壌の化学性の改善によるものと考察した。
著者
鈴木 弘孝 小島 隆矢 嶋田 俊平 野島 義照 田代 順孝
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.247-259, 2005-11-30
被引用文献数
7 9

本研究は, 近年ヒートアイランド対策や地球温暖化防止対策への対応等環境負荷の少ない都市環境を形成していくための有力な手法として着目されている壁面緑化について, 現在屋上の緑化や開発利用に取り組んでいる企業とその技術担当者へのアンケート調査結果に基づき, 壁面緑化の市場性, 普及の可能性等について民間企業と技術担当者の意識を把握し, 技術的課題への認識を整理することにより, 今後都市部において壁面緑化を推進していく上での技術開発の方向, 研究開発分野において重点的に取り組むべき対象と範囲を検討するための基礎的資料を得ることを目的としている。調査の結果, 民間企業等の意識として壁面緑化の今後の市場性拡大への期待が高いこと, 技術担当者の意識として壁面緑化に関する技術開発を推進していく上で, 緑化による温熱環境改善効果の定量化, 建設コストの縮減, 維持管理の簡素・効率化等を課題と認識していること, また壁面緑化の6種類のタイプについて対応分析を行った結果, 適用場所や普及可能性に認識の差異のあることが明らかとなった。