著者
久保田 義弘
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学経済論集 = Sapporo Gakuin University Review of Economics (ISSN:18848974)
巻号頁・発行日
no.5, pp.41-62, 2013-03

本稿では,16世紀中期のスコットランドの宗教改革前夜の国際情勢の中で,スコットランド王国がイングランド王国とフランス王国に翻弄されながらも,自国のアイデンティティを模索し,スコットランドの自律あるいは自立に政治生命を賭けた国王メアリー女王の時代を調べる。イングランド王国によるスコットランド王国の征服・併合の策謀は,エドワード1世(在位1272年-1307年)やエドワード3世(在位1327年-1377年)に見られるたが,しかし,第1次独立戦争(1306年から1328年まで)や第2次独立戦争(1329年から1377年ごろまで)におけるスコットランドの勝利によって回避された。テューダ朝ヘンリー7世の治世下での経済力の伸展をベースにして,ヘンリー8世のフランス侵攻戦略によってイングランド王国による一体化攻勢が再開された。本稿の最初の節ではメアリー女王がフランスへの脱出し,フランス王妃になり,そして帰国したメアリー女王と王母マリー・ドゥ・ロレーヌの宗教政策と会衆指導層の戦いを概観する。次節では,メアリー女王の再婚と私設秘書ダヴィッド・リッチオならびにダーンリー卿ヘンリー・ステュワートの暗殺と,メアリー女王のイングランドでの陰謀の失敗とメアリーの死を概観する。それと同時に,1560年2月27日にイングランドとの間で結んだベリク協定(Treaty of Berwick)とエディンバラ条約(Treaty of Edinburgh)によって,スコットランドとイングランドの絆が強くなり,フランスとの古い同盟は反古にされ,両国の合同が間近にせまっていた。
著者
奥谷 浩一
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学総合研究所紀要 = Proceedings of the Research institute of Sapporo Gakuin University (ISSN:21884897)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.59-69, 2015-03-31

丸山眞男の『日本政治思想史』は戦後の日本思想史研究の画期をなす業績のひとつである.しかし,その後の日本思想史研究の蓄積は,この著作の時代的制約とさまざまな問題点とを明らかにしつつある.丸山は,東アジアの思想圏全体を俯瞰することなく,儒教と朱子学を我が国の封建制社会の支柱となった思想体系とのみみなし,江戸時代初期に強固に確立されたこの思想体系が荻生徂徠などの思想のインパクトを受けて解体され,これと並行して近代的意識が形成されたと解釈する.こうした理解は,この時代の複雑で豊かな思想空間を単純な図式によって把握し,限られた射程の準拠枠によって評価するものである.本論文では丸山のこうした日本思想史論の問題点をアウトラインにおいて提示する.
著者
浅川 雅己
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学経済論集 = Sapporo Gakuin University review of economics (ISSN:18848974)
巻号頁・発行日
no.10, pp.1-11, 2015-10

ジェーン・ハンフリーズの一連の研究の意義は,家族をユートピアとみる点にあるのではない。その意義は,労働者階級の自己再生産は,資本と賃労働の対抗関係,資本主義的生産関係の在り方に依存していることを示した点にある。ただし,このように理解することは,再生産をめぐる諸困難との対決を先送りすることを正当化するものではない。ハンフリーズの研究は,「労働供給のコントロール」が労働者階級の再生産の在り方を大きく左右するものであることを明らかにした。そこから,労働者階級の再生産戦略の今後についていくつかの示唆を引き出すことができる。論文Article
著者
児玉 敏一
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学経営論集 = Sapporo Gakuin University Review of Business Administration (ISSN:18841589)
巻号頁・発行日
no.10, pp.47-62, 2016-09-01

かつて「企業の寿命30年説」という言葉があった。この言葉の意味するものは,生物と同様に企業にもライフサイクルがあり,30年で寿命を終え,その後は企業を取り巻く新しい企業環境に適合できる形に脱皮していくか,それとも死滅するかそのいずれかしか選択の余地はないというものである。実際にかつて成功をおさめてきた多くの企業が過去の成功にしがみつき,環境適応を怠ることで市場からの撤退を余儀なくされていった。したがってそれぞれの企業が生き残りをかけて成長してゆくためには,過去の成功に引きずられることなく,常に自らの企業環境を見きわめそれらを有効に活用するための絶え間ないイノベーションが要求されている。このことは動物園の管理・運営においても例外ではない。旭川市旭山動物園の経営改革を契機として,かつて「閑古鳥が鳴いていた」多くの動物園や水族館がその人気を回復していった。しかしながら動物園や水族館を取り巻く諸環境は必ずしも「バラ色」ではない。リニューアルされた一部の施設があらたに注目される一方で,かつて注目され人気を博していた施設がその威光を失いつつある。それでは,持続可能な動物園改革とはどのようなものなのだろうか。本稿はこのような課題について考察したものである。
著者
玉山 和夫
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学経営論集 = Sapporo Gakuin University Review of Business Administration (ISSN:18841589)
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-24, 2015-08-31

本稿は次の仮説を検証するものである。仮説とは,より通貨に近いものの価格変化は2σ以上の大変動が趨勢を決定し,それ以外の場合には大変動は趨勢との連動性は薄い,というものである。玉山2015.2に示されるように,日次データで見た為替市場では2σ以上の大変動が為替レートの大勢を左右している。しかし同じく日次データで見た株式市場では,逆に1σ未満の小変動が株価の趨勢に沿っており,2σ以上の大変動は趨勢とは反対の動きをしている。株価ばかりではなく,日次データで見た長期国債利回りや資源・エネルギー価格においても,為替市場とは違い小変動が趨勢を左右し2σ以上の大変動は趨勢に反している。一方,満期1年以下の短期国債の日次変化は為替市場と同様に,2σ以上の大変動が趨勢と同じ変化を示し,小変動と趨勢は必ずしも連動しない。満期1年以下の短期国債は,ほとんど通貨そのものと言って良い。つまり短期国債の価格(利回り)とは,通貨で通貨を買った価格とみることができる。為替レートも通貨で通貨を買った価格である。これは,金価格についても言える。金が2重価格となった1968年から1992年5月まで(金が貨幣と認識されていたであろう期間,詳細は後述)の金価格(ドル/オンス)は,2σ以上の動きと趨勢が平行し,小変動と趨勢には連動性が薄い。それが1992年6月以降となると,逆に2σ以上は趨勢と反対の動きとなる。論文Article
著者
諸 洪一
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.96, pp.1-30, 2014-10

ペリーは如何にして日本を「開国」したのであろうか。本稿は、「無能」な幕府が、「不平等条約」を、アメリカに強要されるがまま受け容れた、とする日本の開国史の言説に再検討を加えるものである。ところで全く同じような言説が、日本による朝鮮の開国史にもまかり通っており、筆者はすでにこれを批判する論考を発表したことがある。ペリーと明治政府が、幕府と朝鮮に対して行った交渉は、砲艦外交には間違いないが、決して一方的な押しつけではなく、幕府も朝鮮も自前の伝統的外交論理でもって交渉に臨んでいた。何れの交渉も、互いの所与の条件を押し合い譲り合ったネゴシエーションであったが、後の日朝交渉は、日米交渉を学習したものだったのではなかろうか。How did Matthew C. Perry open Japan? This paper reexamines the claim that the United States forcefully imposed an "unequal treaty" on an "incompetent" Shogunate. There exists a similar claim that Japan opened Korea by similarly imposing an "unequal treaty" on an "incompetent" Chosun government. I have previously clarified that the Treaty of Ganghwado was concluded through a moderate form of negotiation. Without doubt, some degree of gunboat diplomacy occurred between the U.S. and Japan, as well as between Japan and Korea. However, both case of gunboat diplomacy was not completely one-sided. Japan's negotiation to the U.S. and Korea's negotitation to Japan were founded on traditional principles and reasonings, and all parties negotitated with under the given conditions and mutual concessions. Further, I believe that Japan's negotiation with Korea may have been based on how the United States negotiated with Japan.論文Article
著者
杉山 吉弘
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.97, pp.25-42, 2015-03

本論の課題は古典ギリシャ以来のエコノミー概念の基本的な意味と用法を明らかにすることであり,したがってまたたとえばフーコーの言う権力の「エコノミー」とは何かを問うことでもある。まず最初に,ラローシュによる語源的研究を活用して古典ギリシャのオイコノミア概念の解明を試み,エコノミー概念の基礎的な成り立ちを明らかにした。その考察に依拠して,アリストテレスのオイコノミア,神のオイコノミア,自然のエコノミー,アニマル・エコノミー,モラル・エコノミーなど,エコノミー概念の系譜学における主要なテーマについてその概要を論述した。本論で明らかになったことは,エコノミー概念は共同体の「管理運営」または「統治」を基本的な意味としつつ,ある全体の統御,統御の術または学,(被)統御系という複合的な用法をもつということである。The aim of this treatise is to throw light on the meaning of economy used from ancient times. For instance, what meaning has the economy of power that Michel Foucault insists on in his philosophy ? Therefore I try to retrace the genealogy on concept of economy. First of all, I attempt to inquire into, by means of the etymological study by E. Laroche, the concept of oikonomia used in ancient Greek literature. After this critical research, I treat the principal subjects of this genealogy, for example, oikonomia in the philosophy of Aristotle, oikonomia of Christian God, economy of nature, animal economy, moral economy etc. I come to the conclusion that the concept of economy has fundamentally the meaning of administration or government of community, and moreover the complex implications of control, art or science of control and order or system controlled.論文Article