著者
川﨑 章惠
出版者
森林利用学会
雑誌
森林利用学会誌 (ISSN:13423134)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, 2017

<p>1980 年代以降の林業従事者の著しい減少と高齢化に対応して,2003年から開始された新規就業者の確保と育成を目的にした研修事業である「緑の雇用」事業は13年目を迎えた。本稿は,「緑の雇用」事業のフォレストワーカー研修生を対象に2013年度に実施したアンケート調査の再集計をもとに,研修生の属性や研修環境と「緑の雇用」事業集合研修とOJT研修の評価との関連を分析した。アンケート調査は全国森林組合連合会によって実施され,集合研修後に研修生に2,505通を配布,回収数は1,839である。その結果,1)集合研修については伐採・搬出に関わる技術の研修に対して評価や要望が高いこと,2)OJT研修についてはおおむね良い評価が得られていること,3)研修の評価と,研修生の年齢,前職・学歴,地元・UIターン別などの属性との関連性は見いだせず,研修の設計や研修体制を通じていかに研修生の学びへの動機づけをできるかが重要であることが明らかになった。</p>
著者
ポーイェ アントン ポトチニク イゴル 酒井 秀夫
出版者
森林利用学会
雑誌
森林利用学会誌 (ISSN:13423134)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.47-54, 2010-01-31

ブナの伐採が,その複雑で非対称性な樹冠特性,枝の配置,長さ,厚み,幹の曲がりからしてトウヒやモミに比べて危険度が高いという仮説を検証した。スロベニア国有林で1999〜2005年に発生した払い下げ作業員の事故を分析した。999件の事故のうち,528件が伐採中であり,そのうち475件がブナ,トウヒ,モミの伐採中である。伐採材積または本数に対する事故発生割合から,ブナ伐採がトウヒやモミに比べてどの程度事故の危険性が高いかを示した.I_kは伐採材積を,I_dは伐採本数を指標としたとき,ブナ伐採時はトウヒ,モミに比べて,I_dは1.1倍,I_kは1.5倍高い。くさび打ちのI_d,I_kはそれぞれ1.3,1.9倍,追い口切りは1.6,2.3倍,造材・玉切りは2.0,2.9倍と高い。かかり木除去,枝払いのI_kはそれぞれ1.4倍,1.2倍でありI_dは1.0倍,0.8倍である。概してI_kはI_dよりも高い。以上の結果は,今後広葉樹伐採の研修,作業準備などの事前の安全性確保,作業管理,作業組織,安全作業評価にとって活かすことができる。
著者
豊川 勝生 山田 容三 広部 伸二 上村 巧 今冨 裕樹 鹿島 潤
出版者
森林利用学会
雑誌
森林利用学会誌 (ISSN:13423134)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.183-192, 1997
参考文献数
6

ホイールグラップルスキッダを用いた集材作業について検討したが,材つかみ時間が全作業時間中4.6%のみであるため,従来のウインチスキッダ作業と比べ高い作業能率を示した。作業中のオペレータの平均心拍数は84拍/分で,生理的負担は軽く,最高心拍数は,後方を注視する材つかみ時に生じた。スキッダの主な前方注視野内妨害物は,キャビン,ボンネット,排気管であった。オペレータは排土板とタイヤをよく見ていたが,その立体角は小さい。「材つかみ」時の伐倒材や「実車走行」時の牽引材の後方確認は,グラップルスキッダの座席が右前へ17°傾いているため行いやすいが,体をひねる後向き操作が全作業時間の55.8%にもなった。スキッダ座席上の3方向の振動は,ISO基準の疲労減退曲線のレベル以下であった。オペレータ耳元騒音は,空車後進時,実車時で騒音レベルが高く,1〜4KHzで日本産業衛生学会の基準レベルを超えていた。この等価騒音レベルは80〜93dB(A)で,労働安全衛生規則の基準を超えるものもみられた。スキッダのレバー,ペダルの配置は,すべてJIS規格の適切な操作範囲内に配置してあった。スキッダのステップ高は推奨値より高いため,オペレータは乗降時に無理な姿勢を強いられていた。
著者
長谷川 尚史
出版者
森林利用学会
雑誌
森林利用学会誌 (ISSN:13423134)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.143-154, 2000-08-15
参考文献数
27
被引用文献数
3

林分の地位格差が林業経営の収益性に与える影響について分析した。スギ人工林林分収穫予想表から3水準の地位(上,中,下)および2水準の植栽密度(3,000本/ha,6,000本/ha)の計6通りの仮想林分において,収穫表に沿った施業を行った場合の収益性に関して試算を行った。80年生時点の「密植」における「地位上」と「地位下」の格差は,利用材積で3.18倍であった。収入間伐を実施できるまでの年数は「地位上」で26〜27年生時点であるのに対し,「地位下」ではすべて保育間伐となった。主伐後の総収支は「地位上」では45年生以降の主伐で黒字となったが,「地位下」では80年生時点でも赤字となった。また賃金単価を変動させて分析したところ,賃金単価が高くなるにしたがって地位の低い林分における収益性が急激に悪化した。伐出費と間伐および主伐収入が均等になる年数を比較した場合,賃金単価が2,000円/人・日程度であれば地位格差はほとんど見られないが,賃金が上昇するにつれて地位格差は非常に大きくなった。以上の結果から林分の地位格差は収益性に大きな影響を与えており,これらをゾーニングして管理する必要があると思われた。
著者
今冨 裕樹 鹿島 潤
出版者
森林利用学会
雑誌
森林利用学会誌 (ISSN:13423134)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.3-12, 2004-04-15
参考文献数
12
被引用文献数
1

本研究は温熱環境の視点から,生理的快適性に富むチェーンソー保護衣開発のための基礎資料を得ることを目的として,市販されている3種類のチェーンソー保護衣の衣服内気候を調べた。ズボンタイプの保護衣の着用は,冬季では,温冷感尺度は「やや暖かい」,快適感尺度は「快適」,春季では温冷感尺度は「暖かい」,快適感尺度は「不快」,夏季では温冷感尺度で「暑い」〜「非常に暑い」,快適感尺度は「非常に不快」に区分された。したがってわが国においてズボンタイプの保護衣の着用は冬季では適するが,それ以外の季節では温熱環境の視点から適用しにくいものと考えられた。チャプスタイプの保護衣の着用は,冬季ではズボンタイプの保護衣と比べて暖かさは劣るが,未着用に比べるとかなり暖かさが確保されること,春季では衣服内湿度が比較的低いためにさほど蒸れも感じられないこと,夏季では暑さや蒸れが感じられることがわかった。夏季では時折,留め具を緩めて保護衣内の換気をよくすることにより,暑さや蒸れによる不快感を緩和させることができるものと思われた。なお,保護衣内の温度上昇に伴う生体負担の変化を調べた結果,着用保護衣の違いから生じる温熱環境と生体負担との間に明確な関係を見出すことはできなかった。
著者
佐藤 宣子
出版者
森林利用学会
雑誌
森林利用学会誌 (ISSN:13423134)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.67-69, 2011-01-31
参考文献数
5
著者
坂本 朋美 芝 正己 川村 誠
出版者
森林利用学会
雑誌
森林利用学会誌 (ISSN:13423134)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.3-10, 2008-04-15

地域森林管理の担い手としての森林組合に期待が高まる中,日吉町森林組合における施業の団地化が注目を集めており,全国から研修が相次いでいる。本研究は,日吉型団地化施業の導入における現状と課題を明らかにし,他の森林組合への普及可能性を考察した。日吉町森林組合で研修を行った9森林組合に対し,日吉型団地化施業の導入状況と導入上の課題,導入に伴う変化を聞き取り調査した。その結果,5組合がほぼ同様の事業に着手,1組合は実践に向け準備中,3組合が導入を見送っていた。導入の有無には,所有者意識や優良材生産の有無など,各地域の林業をめぐる状況が大きく影響していた。導入に至った5組合には,研修前からの準備や他機関との連携などの共通点が見られた。団地化施業導入に伴う主な課題は,人材育成や職員間の連携など森林組合の体制の強化であった。また,団地化施業の導入に伴い,職員の意識や組合の体制に変化も見られ,日吉型団地化施業が単なる団地化促進策にとどまらず森林組合改革のきっかけになる可能性も示唆された。今後は地域の所有者意識や生産目標などを踏まえ,日吉とは異なる独自の施業法や見積りの立て方などを工夫していく必要がある。
著者
ガンダスチャ スチャ 吉村 哲彦 山本 俊明 神崎 康一
出版者
森林利用学会
雑誌
森林利用研究会誌 (ISSN:0912960X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.117-123, 1995-08-15
被引用文献数
1

インドネシアの東カリマンタンに位置するバツアンパールのビレッジHTISP1とHTISP3で,産業造林の作業者の疲労調査を,フリッカーテスト,ブロッキングテスト,蓄積的疲労徴候調査によって行った。フリッカーテストの結果,おおむね作業前よりも作業後の方がフリッカー値が低下していた。ブロッキングテストの結果,天然更新の補整植栽作業による阻止現象は認められないという結果になった。蓄積的疲労徴候調査において,応答率を日本における橋梁建設工事作業者と比較したところ,身体的な疲労は,今回の調査結果の方が際だって大きかった。その理由として考えられるのは,赤道直下の過酷な暑さである。作業種,居住地,年齢別にその傾向の違いを調べたところ,作業種による違いはあまり大きくないが,「下刈り」が特性項目全般にわたって高くなっている。居住地による違いを調べたところ,身体的疲労はHTISP1の方が際だって高いという結果になったが,HTISP1はHTISP3よりも居住年数が長いため,疲労が蓄積しているのではないかと考えられる。
著者
仁多見 俊夫 廿日出 崇
出版者
森林利用学会
雑誌
森林利用研究会誌 (ISSN:0912960X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.5-13, 1991-03-15

パソコンおよびディジタイザを用いて,作業時間観測結果の分析作業を容易に行うことのできるシステムを作成した。作業現場で野帳に記入した作業時間観測結果をパソコンおよびディジタイザを用いて電気データに変換してデータファイルを作り,そのデータファイルを表計算プログラム群で処理することによって,作業工程,功程,サイクルタイム等の作業仕組みを検討するために必要な基礎的数値を容易に得ることができる。作業時間分析作業の能率を高めるとともに,パソコン上において対話式の処理作業を行うことを可能とすることによって,分析者の問題意識に基づく対象作業についての数量的な検討を,さまざまな側面から行うことを容易にした。
著者
清水 裕子 酒井 秀夫 南 知栄
出版者
森林利用学会
雑誌
森林利用学会誌 (ISSN:13423134)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.75-84, 1996-08-15
被引用文献数
3

新素材の作業服として,今回,綿・ポリエステル高次複重層糸織物の作業服Aと,アクリル極細繊維編物の作業服Bを下刈作業服に用いた場合の衣内気候について検討を行った。衣内温度,絶対湿度の変化の全体的な傾向は外気の黒球温度のそれに一致していた。作業服Aは,多量の発汗が生じたときは通気性が阻害され,衣内湿度が高くなっていた。作業服Bは吸水率が高くて通気性もよいが,汗で完全に濡れた場合には熱伝導率が大きくなる。作業服A,Bは本来,通常の屋外での着心地を重視した開発意図によるものであり,多量の発汗には適応しきれなかったが,例えば曇りで風があるときや,晴れていても湿度が低く,風があるときのように,風,湿度等の条件がそろえば,蒸散によって身体を冷やし,その機能を発揮することができるものと思われる。