著者
村山 絵美
出版者
武蔵大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究課題は、ユタの「口寄せ」に注目し、「死者の声」を聞くと観念される行為が、依頼者のグリーフワークに与える影響について検討することを目的とするものである。平成26年度は、最終年度であるため、過去2年間の研究成果を踏まえた上での追加調査に重点が置かれた。具体的には、①平成26年6月に実施したフィールド調査、②追加資料の文献調査が挙げられる。まず、フィールド調査では、これまでに聞き取り調査を実施した関係者に、追加での聞き取りを行い、不明箇所を確認することができた。また、沖縄戦の慰霊の日である6月23日に、これまでの調査対象者に関連する慰霊祭に参加し、参与観察を行った。文献調査では、継続的に調査を行ってきた沖縄県立図書館郷土資料室を中心に追加調査を実施した。これにより分類作業のなかで明らかとなった不明箇所を確認することができた。今年度はフィールド調査、文献調査共に予定していた追加調査を実施することができたが、調査結果をまとめる予定であった後半の期間に療養を要する事態となり、これまでの成果を十分にまとめることができなかった。回復を待って、今後、随時成果をまとめ、公表していきたい。本研究課題の調査を通して、沖縄の戦後におけるユタの「口寄せ」に関する社会的な需要の状況を確認することができた。体系的な資料の整理などは、沖縄のシャーマニズムと近代化との関係を考える上でも、重要な成果といえる。ユタと依頼者とのやり取りのなかで「口寄せ」などのグリーフワークの役割を検討した研究は少ないため、研究の端緒を開くことができた意義は大きい。
著者
小川 栄一
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

研究代表者は、2012年度より「江戸語・東京語におけるコミュニケーション類型の研究」のテーマで科研費の交付を受け、現在は2018年度から第2回目の交付を受けている。2019年度における研究実績は次の2点である。(1)式亭三馬『浮世風呂』データベースの作成上記の談話分析を近世後期江戸語資料にも適応すべく、その基礎的な作業として『浮世風呂』データベースをコンピューター上に作成している。『浮世風呂』中の会話を句単位で区切った上で、話し手、聞き手、会話のタイプ、ストラテジーなどの情報を付加して、検索や集計が容易にできるようにしている。近い将来に公表することも予定している。(2)『浮世風呂』における敬語使用の特徴上記データベースを用いて、『浮世風呂』における敬語使用は、主として品格保持のために行われているという予測を立てている。その理由は、『浮世風呂』における敬語は、尊敬語・謙譲語の使用率が低く丁寧語・美化語の使用率が高いこと、年齢の上下関係に基づく使用(年長者には敬語を用い、年少者には用いないということ)とは明確には断言しにくいこと(たとえば、年少者に対する敬語使用が中層・上層では多いこと、完全に上下関係によるものであれば年少者に対する敬語使用はもっと少ないはずである、敬語使用は階層が高くなるほどその率が高くなる傾向が顕著であること、女性の敬語使用率が男性よりも高いこと)などの傾向があるからである。すなわち、『浮世風呂』では階層の高い人物や女性における敬語使用率が高いのであって、年齢や身分の上下関係においては明確な傾向が出ないことから、上下関係に基づく敬語使用よりも、品格保持のために敬語が使用される傾向が顕著と考えられる。これは江戸市民の高い意識に基づくものと考えられる。この結果を数値化した上で、近日中に論文として公表すべく執筆にとりかかっている。
著者
平野 千果子
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、植民地支配の過去をめぐる歴史認識について、フランスを事例に考察したものである。日本に比すると、フランスはアルジェリアを除けば旧植民地からの批判にさして直面してはおらず、そもそも植民地支配の過去が必ずしも「負」の歴史と捉えられているわけでもない。本研究では、フランス植民地のなかでも独立前から親仏的傾向が強いサハラ以南アフリカに注目し、社会史的手法によって、本国側の認識がいかに形成されていったかを考察した。
著者
小森 謙一郎
出版者
武蔵大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

本研究では、フロイト・レヴィナス・デリダが共有している「ユダヤ的なもの」を彼らのテクストに則して考察し、その議論に内包される「母なるもの」への眼差しが、性的差異の観点からして伝統的な男性優位の考え方にはもはや収容されないということ、またその限りにおいて彼らの言説が従来想定されてきたのとは別のユダヤ性を提示しているということを明らかにした。
著者
武田 尚子
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

「中間層」概念の形成・変容をめぐる国際比較を行い、イギリスにおけるベンジャミン・シーボーム・ロウントリーの社会調査と社会実践の関連について解明を試みた。また、日本の地域社会における「中間層」の形成・変容過程を調査し、都市空間、都市中間層の形成過程が密接に関連していることなどを明らかにした。
著者
小玉 美意子 小田 原敏 アンジェロ イシ 吉田 文彦 音 好宏 鈴木 弘貴 金山 智子 中 正樹 日吉 昭彦 黄 允一 小林 直美 沈 成恩 章 蓉
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、2008年8月に行われた北京オリンピック報道によって視聴者の対中国意識がどのように変化したか探ることを目的とし実施された。調査の結果、テレビニュース視聴者の中国(人)についての認識は、オリンピック前後で部分的に変化があったことが明らかとなった。中国(人)イメージが変化した人は直接的な経験(渡航経験や友人・知人)が無い、オリンピック前に中国に対しネガティブな印象を持っていた人がオリンピックを契機に良い印象を持ったようである。このような傾向を持つ人は若い世代が多く、今後テレビの報道内容によって、若者は中国(人)イメージが変化する余地が示唆された。中国(人)の印象が変化しにくい人は、メディア接触によって先有傾向の強化・補強が行われていることが推察された。取り上げられた出来事がインタビュー対象者自身の中国経験やイメージと結びつけられていたからである。テレビニュースは中国を発生地とする報道が全体の38.1%を占め、中国報道の議題設定や放送局別の傾向が明らかになった。視聴者はオリンピックの競技ニュースというよりは、オリンピック開催前、期間中の関連報道から中国(人)に関する情報を得ていたようである。またテレビをよく視聴した人は、新聞、インターネットなどに多く接した人よりも肯定的イメージへの変化がみられた。
著者
杉田 弘子 重藤 実 踊 共二 新田 春夫 川中子 義勝 GRAEB?KONNEKER Sebastian
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究は社会史的視点からドイツ語の歴史的発展を近世から現代にいたるドイツ社会の変遷との関わりにおいて捉え直そうとするものである。15〜16世紀ドイツの言語と社会に関して踊は、宗教改革運動における大衆向け活版印刷物を分析し、宣伝ビラや「新聞」が大衆メディアとして一般信徒の日常生活に浸透し、相互のコミュニケーションに重要な役割を果たしていたことを明らかにした。16、17世紀について新田は、この時代、遠隔地とのコミュニケーションが増えたことから文書の社会的重要性が高まった結果、書き言葉が言語的規範となり、ドイツ語も書き言葉的性格を強めたことをルターのドイツ語の分析によって示した。また、重藤は、近世ドイツ語を中心に現代語に至るまでの分詞によるさまざまな構文を分析し、ドイツ語における分詞用法の歴史的衰退を代替表現との関連において考察し、他の言語との比較によってその類型的位置付けを試みた。18世紀ドイツの言語思想の流れの中で川中子は、ハーマンの言語論を中心的な分析対象とし、彼の言語思想における詩学・文芸学、とくに、比喩形象・修辞の役割を明らかにした。また、ハーマンの生涯について調査し、その全体像を描いて、著書にまとめた。19世紀について杉田は、ニーチェの言語思想を同時代の社会的思想状況の背景において分析し、彼の言語不信はその優れた言語芸術上の才能と知見のゆえのアンヴィアヴァレントな現れであることをを明らかにした。20世紀のドイツの言語と社会に関してSebastian Graeb-Konnekerは、ナチズム運動における文学と言語の問題を分析し、そのさまざまな言語的な現象の具体例をDokumentationという形で公刊した。
著者
小川 栄一
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、日本語コミュニケーションの史的変遷を究極の課題として、夏目漱石の小説作品を主たる対象にして、コミュニケーション類型の分類と、ストラテジーを中心にした談話分析を行った。その成果を小川栄一『漱石作品を資料とする談話分析 漱石の文学理論に裏付けられたコミュニケーション類型の考察』(平成29年4月 A4版163ページ)に著した。その結論を述べると、漱石作品における談話の特徴は「不完全なコミュニケーション」であり、これは漱石が『文学論』(1907)で述べる「F+f」理論を具体化したものであり、これによって、ユーモアのみならず、人間の心理的な葛藤など、多彩なf(情緒)を生み出している。
著者
新井 景子
出版者
武蔵大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-03-01

平成29年度の主な成果として次の3点がある。①_The Scarlet Letter_におけるPearl像を考察し、母と子の関係というテーマからナサニエル・ホーソーンの女性観あるいはフェミニズムに対する態度を考察した。本研究は前年度より継続して行っているものであり、論文投稿後に得られた査読者からのコメントをもとにさらなる考察を加えた(現在、再投稿中である)。②ウィラ・キャザーの_My Antonia_について、世紀転換期に雑誌を中心に流布したアメリカンガール像を参照しながら、登場人物Lena像を分析し、キャザーの「新しい女性」観を考察した。成果をまとめた論文は、"A Portrait of a Self-Made Woman: Lena Lingard in My Antonia"というタイトルで、論文集_Something Complete and Great: The Centennial Study of My Antonia_に収められた(第12章、pp. 247-69)。③イーディス・ウォートンの_The House of Mirth_について、アメリカンガールとして登場するLilyと、もう一人の“girl”であるGertyとの関わりを検討した。それにより、Lilyが異性愛ではなくシスターフッドの中で生きるという選択肢が物語の中に埋め込まれているということを論証し、作品の表に見える異性愛プロットがいかに不安定になっているかという点を明らかにした。成果をまとめた論文は『武蔵大学人文学会雑誌』に掲載された。なお、平成29年11月以降平成30年3月31日までの期間は、産前産後休暇および育児休業により研究を中断した。
著者
大野 早苗 伊藤 成康 神楽岡 優昌 茶野 努 東郷 賢
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究プロジェクトの第一の目的「国際商品価格の決定要因及び変動特性の分析」では、世界的な流動性増大を背景に商品市場への投機資金の流入が急増した2000年代以降、商品価格に対する流動性要因の影響が拡大し、また商品価格と株価との相関が上昇などの結果が確認された。また、本研究プロジェクトの第二の目的「資源保有国に対する海外資本流入の形態とその決定要因」に関して、資源価格の上昇はFDIよりもむしろ短期資金流入を促進させたり、為替変動が投機的資金流入を促し「資源の呪い」問題を悪化させる可能性が示唆された。
著者
東郷 賢 加藤 篤史 蟻川 靖浩 和田 義郎 加藤 篤史 蟻川 靖浩
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

アフリカ(ケニア、ボツワナ、ガーナ、アフリカ開発銀行)を訪問し、それぞれの国の経済成長における援助の果たした役割についてヒアリングを行った。また、援助供与国の中で最も優れていると言われるデンマークの援助庁も訪問し援助方針についてヒアリングを行った。OECD も訪問し、援助データの詳細について議論をおこなった。これらの内容を踏まえて分析を行っている。その結果、経済成長に関し援助の果たす役割は決定的ではないものの、効果的に利用することは可能であることが判明した。
著者
中西 祐子
出版者
武蔵大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では「doing gender(ジェンダーをする)」という概念に着目し、学校・職場内において、人々が自らのジェンダー/セクシュアリティを、自ら意図的に、あるいは他者から意思に反して構築する/されることがどのようなメカニズムで起きているのかを検討した。本研究では、人々のジェンダー/セクシュアリティというものが、アプリオリに存在しているのではなく、ある場面で行為者間の間で持ち出されることによって作り出されているのではないか、という理論的立場をとっている。たとえば、セクシュアル・ハラスメントに代表されるような学校・職場のトラブルは、文脈を無視して突然「ジェンダーをする」ことが持ち出される現象の典型例である、と考える。本年度行ったのは次の4点である。(1)国内外の先行研究の収集、(2)アメリカ社会学会参加と「ジェンダーの構築」に関連する最先端の研究動向の把握、(3)大学生を対象にアルバイト先でのハラスメント経験についての質問紙調査、(4)大学生を対象にアルバイト先でのハラスメント経験についてのインタビュー調査(継続実施中)。なお、平成20年度中に、これまでの研究をまとめた成果を論文として発表する予定である。ここまでの知見を簡単にまとめると、(1)アルバイト先でのハラスメント経験者は量的にはごく少数であるが、お客や上司からのハラスメントを経験しているものは存在している。(2)経験者の中で、その場で表立って文句をいったものは皆無であり、(3)「相手がお客さんだからはっきりと拒否するわけにはいかない」「相手が上司だからあまり強くいえない」という理由から、何とかその場をうまく「やり過ごす」/「取り繕う」ことにむしろ力点が置かれていることがわかった。これは、突然構築された「ジェンダー/セクシュアリティ」が、「客と販売員」「上司と部下」という別な文脈で消去されようとするプロセスといえるのではないだろうか。
著者
小玉 美意子 白水 繁彦 吉田 文彦 小田原 敏 音 好宏 鈴木 弘貴
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1)本研究の研究対象テレビ局の夕方のニュース(午後6時から8時ごろの時間帯に30分程度放送する全国向けの番組)、即ち、ブラジルーGloboのJurnalNacional、イギリスーBBCのSixO'ClockNews、アメリカーCBSのCBSEveningNewswithDanRather、日本一NHKの『NHKニュース7』である。2)研究方法(1)各局の番組担当者、その他関係者とのインタビュー調査(2)各番組を2004年11月〜12月にかけての連続しない3週間にわたって録画し、ニュースの長さ、範域、分野、伝え手、情報源、画像素材などについてコーディングして分析する内容分析調査(3)上記の調査をもとに特定項目に着目して研究し考察する3)各国ニュース番組の特徴CBSは、自国と直接関係のある海外ニュースは多かったが外国ニュースは極めて少ない自国中心主義である一方、局独自のテーマ設定で医療番組に多くの時間が割かれた。NHKは地方ニュースをよく扱っており、社会ニュースが多いのだが、「発表もの」の比率が極めて高く、女性とマイノリティの参画は非常に少なかった。Globoは経済ニュースが多く、取材情報源は多様で、女性の参画比率が高かった。BBCは外国ニュースの比率が他国より高く、議会における政策論議を中心とする政治ニュースが多かった。4)9/11事件以後の国際テレビニュースの内容変化(1)9/11以後、世界のジャーナリズムは感情的になったといわれるが、CBS以外では認められなかった。(2)4番組とも政府情報源に大きく依存し、特に国際および外国ニュースにおいてそれは著しい。(3)同じ事件も番組により、視点や使う言葉で違った枠組みが作られ、それにより出来事の印象が変えられる。(4)"国際"を「外国で発生する自国ニュース」と捉えると、CBSは4つの番組の中で最も「自国志向」である。(5)9/11のような出来事は、ニュース制作過程、中でもニュース情報源に大きな影響を与えた。しかし、どの局も基本的な番組制作の方針は変えていない。
著者
板垣 博 ちょう 斗燮
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、日本多国籍企業の国際的な事業展開とそれを支える統括組織の構造と機能を考察することを目的としている。それには、単なる公式的な組織構造だけではなく、インフォーマルなデータと情報が必要となるため、関連部署及び海外出向経験者とのインタビューを中心とするフィールドスタディを行った。日本の多国籍企業は、従来はグローバルな統合メカニズムというよりは、本社・親工場など日本サイドと海外拠点の1対1の関係の中で経営が行われてきた。しかし、90年代に入って従来の組織構造や情報処理のパターンでは、多国籍企業としての戦略に対応できなくなりつつある。こうした問題意識を背景に、本研究は叙述されている。その内容は以下の通りである。まず第1に、日本の多国籍企業の特色を、「高いオペレーション効率と低収益性のパラドックス」という視点から考察する。この特色は、日本多国籍企業の統括メカニズムの特色、すなわち、日本サイドの権限の強さ、日本人出向社員の比率の高さと権限の強さ、インフォーマルな情報交換の重要性、といった特色と密接な関連がある。第2に、こうした日本の多国籍企業の活動を規定する日本経済の構造変化とそれに対応した直接投資の意義を考察する。第3に、アジア経済危機の中で日本の多国籍企業がどの様な行動をとったかを考察しながら、日本の多国籍企業の特徴ならびに統括メカニズムの具体的な姿を明らかにする。最後に、日本の多国籍企業を代表する松下電器産業の欧州事業展開のケーススタディを通して、グローバル統括メカニズムの実態を検討する。
著者
小笠原 恭子
出版者
武蔵大学
雑誌
武蔵大学人文学会雑誌 (ISSN:02865696)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.131-171, 2005