著者
谷 京
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.2-31, 2021-09-15 (Released:2021-09-28)
参考文献数
34

本稿は従来ほとんど学術的関心の対象とならなかった日朝貿易の展開過程を分析し,日韓国交正常化交渉のさなかの1960年代前半に,むしろ日朝貿易の制限緩和が進んだ要因を明らかにする。先行研究では,日本政府と経済界とのせめぎ合いのなかで,日朝貿易は漸進的・事後承認的に制度化されたといわれる。本稿はこれまで単一アクターとして仮定されてきた日本政府内の省庁間対立に注目し,通産省や大蔵省が日朝貿易の制度化に大きな役割を果たしたと主張する。すなわち,戦後日本の朝鮮半島政策には,同じ資本主義陣営の韓国を優先しようとする外務省の「冷戦の論理」だけでなく,北朝鮮との経済関係の拡大を模索する通産省,大蔵省,経済界の「経済の論理」が存在した。そして,日韓会談の停滞を直接の契機として,日本政府内では「冷戦の論理」よりも「経済の論理」が優勢となった。それゆえ,日朝貿易は東アジア冷戦下においても発展し続けた。
著者
上谷 直克
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.20-35, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
12

2020年4月に、ラテンアメリカでの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による政治・社会的影響について報告書を出したブロフィールド(Merike Blofield)らによれば、COVID-19の厄災は、どの指導者がいかなるリーダーシップを発揮して国民から協力を引き出し、危機を打開しうるかという「政治的リーダーシップの試金石」だという。本稿ではグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルの中米・北部三角地帯諸国(NTCs)におけるCOVID-19の感染状況について概観し、非常事態宣言を軸とした各国の政策対応について確認する。その後、今やCOVID-19拡大の第2波ないし第3波に直面する世界で、改めて求められている為政者による巧妙なリーダーシップという観点から、北部三カ国のCOVID-19下での政治状況について論じる。
著者
林 和宏
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.71-84, 2020 (Released:2020-01-31)
参考文献数
10

2018年12月1日にロペス・オブラドールがメキシコ大統領について約1年が経過した。同大統領の公約の一つである治安対策として国家警備隊が創設され、組織犯罪や既存の警察組織における汚職や不効率の解決が目指された。中央高原バヒオ地区に集中する日系自動車関連企業もこうした治安問題を注視してきた。公的統計において、2019年は、これら企業の生産拠点、駐在地域となっているバヒオ地区グアナフアト州で国内最多の殺人件数が記録されるに至った。北米自由貿易協定再交渉において日系自動車産業のサプライチェーン再編が検討されているが、バヒオで展開するカルテル間の抗争など治安問題も新規投資に影響を与える重要案件であるため、今後の政権の治安政策の行方に注目が集まる。
著者
竹村 和朗
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.32-51, 2020-12-15 (Released:2021-01-07)
参考文献数
11

本稿は,エジプトの最高憲法裁判所が2008年に言い渡した,1952年法律第180号の第3条に関する違憲判決を解題し,その全文翻訳を提示するものである。同法は,一般に「家族ワクフ」と呼ばれていた寄進財制度を廃止し,その財産を関係者に分配することを定めた。これは,相続の取り分に関わるため,広汎な社会層に争いを生み出し,そのうちのひとつが最高憲法裁判所にまで至ったのである。同法が制定されてから半世紀以上の時間が経過した後に,なぜこのような展開が生じたのだろうか。判決の影響力はどこまで及ぶのだろうか。本稿の解題部では,判決の資料的側面(第Ⅰ節),判決文から読み取られる家族ワクフをめぐる争いの実相(第Ⅱ節),そして違憲の判断を下した裁判官の論理(第Ⅲ節)を明らかにする。本稿の資料部では,同判決の内容を原形式のまま全訳し,解題部の議論が実際の判決文でどのように表現されているかを確認できるようにした。
著者
岩﨑 葉子
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.2-26, 2019-12-15 (Released:2019-12-24)
参考文献数
32

イランの同業者組合制度は,行政府の側がばらばらに活動する国内の事業者を積極的に束ね,みずから組織化することを義務付けているという点で,競争法を通じて事業者団体による競争制限的な行為を禁止し,市場の公正性を担保しようとする今日の世界的趨勢においてきわめて例外的な事例である。こうした制度が敷かれている背景には,企業間関係が希薄であるがゆえに,相対的に大きな企業による寡占はおろか,事業者による集団的な競争制限行為も生まれにくいというイラン独自の産業組織のあり方が大きく関連している。この意味では同業者組合制度はむしろ,営業活動上における事業者間の非協調的傾向から生じる市場の非効率や混乱を改善する働きが期待できるものである。