著者
柴田 修子
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.17-29, 2023 (Released:2023-01-31)
参考文献数
2

2022年に行われたコロンビア大統領選挙で、グスタボ・ペトロ候補が当選した。コロンビア初の左派政権誕生であることや副大統領候補がアフロ系女性であること、従来の伝統的政党の潮流を汲んでいないことなどから、今回の選挙は歴史的転換ととらえられている。そこで本稿では、歴史的転換がなぜ起こったのかを分析する。まず選挙制度改革によって左派勢力が参加する余地が生まれたことを概観し、選挙プロセスをたどりながらペトロの勝因を分析する。勝因として既成勢力への批判、左派勢力の一本化、社会運動の影響があったことを明らかにし、おわりに今後の展望を述べる。
著者
寳劔 久俊 山口 真美 佐藤 宏
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.2-31, 2022-06-15 (Released:2022-06-29)
参考文献数
51

中国の「農民工」(農村出身の非農業就業者)は,安価な労働力の源泉として,中国経済の急速かつ持続的な発展を支えてきた。しかしながら,労働年齢人口の減少や農村労働力の高齢化とともに,農民工の供給の頭打ち傾向が強まり,賃金の引き上げや企業間の獲得競争も広まっている。そのため,農民工の熟練形成や職場への定着を促進し,コミットメントの向上を図ることが,企業経営者や政策担当者に求められてきている。このような問題意識のもと,中国における製造業の一大集積地域である江蘇省蘇州市において従業員へのアンケート調査を行い,農民工の職務意識を規定する要因を共分散構造分析によって考察した。分析の結果,「職務満足」と「仕事への埋め込み」は「組織コミットメント」を有意に高めること,「組織コミットメント」は農民工の「離職意向」を有意に引き下げること,若年層の農民工(「新世代農民工」)では「仕事への埋め込み」が「組織コミットメント」の高さを支える主要な要因であることが明らかとなった。以上の結果から,新世代農民工の組織コミットメントを向上させるため,新規就業者や若年従業員向けのきめ細かな研修・指導の重要性が示唆される。
著者
唐 成 張 誠
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.3-24, 2021-12-15 (Released:2022-01-07)
参考文献数
36

本論文は,家計負債が急速に拡大している中国において,家計の金融行動を決定する重要な要素の1つである金融リテラシーと家計の借入行動の関係を明らかにするものである。具体的には,CHFSデータを用いて金融リテラシーが実際の家計負債にどのような影響を及ぼしているかについて,負債目的(経営負債・消費負債・住宅負債)に注目して実証分析を行った。本論文の主なファインディングは以下のとおりである。(1)世帯主の金融リテラシーが高いほど,家計は負債を持つ傾向にある。他方,金融リテラシーが低いほど,過剰負債を負う可能性がある。(2)住宅負債に対しては,金融リテラシーは有意な影響を与えないことが示唆されるが,それは中国の住宅ローン市場が非競争的であるためである。(3)消費負債に対しては,金融リテラシーが強い正の影響を及ぼしているが,これは消費者金融市場が競争的であるためであり,家計の金融リテラシーが大きな影響を与えていると思われる。
著者
Arshin Adib-Moghaddam
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.51-64, 2020 (Released:2020-03-27)

「サイコ・ナショナリズム」は、現在の中東地域において不安定要因を形成する主要な要因であり、それは排他的な国民意識の核となる集団的自己意識の半ば意図的に捏造された発明品である。本論は中東イスラーム世界における哲学的議論の豊かな蓄積―イブン・ハルドゥーンの政治学的・社会学的考察を含む―の上に、近年盛んに行われているアイデンティティー政治学の宗派主義・部族主義的な分析枠組みの脱構築を意図している。本論ではまずアラブ世界およびイラン世界における「想像的共同体」の具体的な構成要素に検討を加えたうえ、とりわけ中東地域においては人間集団間の長期的な混交と相互依存構築という歴史的な経験を踏まえた理性的な対話・交渉による関係の構築が地域的平和の実現のための不可欠の要件であることを確認する。
著者
土屋 一樹
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.80-97, 2020 (Released:2020-03-27)
参考文献数
26

Although Egypt’s social security system became obsolete in the 1990s, it was the Sisi administration that launched the major reform. The social security system was restructured along with the implementation of the bold macro-economic reform. As a result, the new social security plan can cover a much bigger population than what the old system could, despite a chronic fiscal deficit. The purpose of this paper is to examine the state of the social security reform in Egypt since 2014 and discuss its sustainability. The paper reviews the developments of the new cash transfer programs as well as the rebuilding of the social insurance system. While the new social security scheme is well-designed and is highly reputed, administrative capabilities will be a major challenge.
著者
福田 安志
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.98-114, 2020 (Released:2020-03-27)

From the beginning of the Trump administration, the U.S. military presence in Gulf Cooperation Council (GCC) countries has rapidly evolved. Specifically, the number of U.S. Air Force soldiers stationed in Qatar, United Arab Emirates, and Kuwait has been significantly reduced. This may be a result of President Trump’s preference to minimize the level of U.S. troops deployed in the region. Conversely, the United States has maintained its naval presence in the gulf, including an aircraft carrier strike group and naval troops in Bahrain. In the same period, Iran has remarkably expanded its military capabilities after developing sophisticated new missile systems, drones, and submarines. Combined with recent hostile events in the gulf, this situation has heightened concerns about gulf security, in particular, to ensure the safe passage of crude oil destined for all parts of the world. Current tension may lead to an escalated presence of U.S. forces in the region.
著者
Ichiki Tsuchiya
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.38-55, 2019 (Released:2019-05-30)
参考文献数
15

エジプト政府は2000年代初めに経済開発体制を見直し、市場主義に基づく成長という方向性を明確に打ち出した。規制を緩和し、グローバル経済に適応することで、持続的な経済成長を実現しようとするものだった。ナズィーフ内閣で実践された経済改革によって、エジプト経済は2000年代半ばに成長局面を迎えた。ビジネス環境が改善し、対内直接投資と輸出が拡大したことで、四半世紀ぶりの高成長を記録した。その一方で、貧困率は2000年代に悪化した。なかでも、高成長だった2000年代後半に貧困率は大きく上昇した。2011年の「1月25日革命」では、ナズィーフ内閣の政策運営はクローニー資本主義だったとして非難の的になった。しかし、その政策枠組みだった市場主義経済の下での成長という方向性は、革命後の政権にも引き継がれた。成長重視の方針は、政府が変わっても変更されることはなかった。
著者
Housam Darwisheh
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.56-74, 2019 (Released:2019-05-30)
参考文献数
67

本論稿が主に論じるのはエジプトで30年近く続いたムバーラク政権の転覆後の権威主義体制への移行過程、とりわけ2013年6月のモハンマド・モルスィ政権崩壊とその後のアブデル・ファッターフ・スィースィー大統領の許での権力集中である。スィースィー政権が先行するムバーラク体制・サダト体制・ナセル体制などと著しく性格を異にしている点については多くの先行研究が論じているが、同国の政治システムの移行過程についてはこれまで充分な議論がなされてこなかった。 スィースィー体制は先行する体制と異なり、その政治支配の基盤を政党に置いていないことが特徴として挙げられる。スィースィー大統領は支配の根拠を政党政治ではなく、軍や警察、司法などの強力な国家機関を背景にした個人支配の原理に置いている。本論稿ではこのような支配体制のあり方を可能にしているモルシー政権崩壊後のエジプト内外の政治環境、権力集中を可能にしている構造的背景、政治システムの移行過程について新たな視角から論じようとするものである。(文責・鈴木均)
著者
齋藤 純
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.82-98, 2019 (Released:2019-05-30)
参考文献数
8

Since over a year now, Qatar has been cut off diplomatically and economically by Saudi Arabia, the United Arab Emirates, Bahrain, and Egypt. The blockade was announced after Emir Sheikh Tamim bin Hamad Al-Thani’s remarks on Qatar News Agency (QNA) in May 2017. The prolonged blockade is having a significant impact on Qatar and other GCC economies.This paper argues that the blockade has had a tremendous impact on Qatar’s economy, in particular, the financial markets and banking sector. Using quarterly and monthly financial data of eight commercial banks in Qatar before and after the blockade, the paper examines how the structure of deposits and loans in the Qatar’s banking sector has changed during the ongoing crisis.The results of this study reveal that immediately after the blockade began, due from banks abroad and non-resident deposits at Qatar’s banks declined. Subsequently, the Qatar Central Bank sold holdings of foreign securities and injected funds to shore up the domestic banking sector. In addition, due to the financial support by the Central Bank and Investment Authority, the performance of the commercial banks in Qatar has been on a recovery trend since the second half of 2017, and there have been outstanding differences between banks performance with credit risk exposures to Arab Quartet markets and other banks. Finally, this study finds that financial dependence on the government sector can act as a buffer against external shocks.