著者
青木(岡部) まき
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.23-43, 2023-06-15 (Released:2023-06-29)
参考文献数
89

本稿は,安全保障をめぐり柔軟に協力相手を組み替える「竹の外交」として描かれてきた戦後タイ外交像に対する疑問から,主な先行研究の検討を通じて戦後タイ外交研究の論点を整理し,課題を提示する。タイの対外関係研究,経済史,現代政治研究といった研究群における外交分析の検討を通じ,先行研究が多元的な対外関係に関心をおくなかで,外交については外務省や国軍を中心とする安全保障外交に偏重して研究が蓄積してきたこと,対外経済政策については経済政策の延長として扱われ,経済を通じた国家間の関係調整という側面については十分議論されてこなかったことを指摘した。そして今後の研究上の課題として,イシューの多様性(安保と経済),主体の多様性(外務省・国軍外交の再検討)をふまえ,「竹の外交」に代わる新たな仮説として,多様な外交主体による「多元的外交」の可能性を示して論を結ぶ。
著者
藤井 広重
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.107-119, 2016-11-04 (Released:2020-03-12)
参考文献数
36

2011年にスーダンから独立した南スーダンは、2013年12月に政府側と反政府側との間で大規模な衝突を経験する。この衝突は、民族紛争の様相を呈し、政府および反政府の両者が、市民を巻き込む大規模な人権侵害に関与したと言われている。国際社会は、国際的な刑事裁判所の必要性を訴えるが、通常、政府の関与が疑われる中、人権侵害を捜査・訴追することを目的とした国際的な刑事司法のメカニズムを設置することは困難である。しかし、南スーダン政府は、2015年8月、南スーダンハイブリッド刑事法廷設置に言及した「南スーダンにおける衝突の解決に関する合意文書」に署名する。本稿ではハイブリッド刑事法廷をめぐる、国際社会と南スーダン政府のそれぞれの論理を紐解くことで、2015年8月合意文書にハイブリッド刑事法廷の設置が含まれ、アフリカ連合が同法廷の設置を主導していることの背景を明らかにする。
著者
飛内 悠子
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.5-17, 2023 (Released:2023-02-17)
参考文献数
15

クク人(Kuku)は南スーダン最南端、ウガンダとの国境地帯を故地とし、植民地化や内戦等、さまざまな要因により移住を繰り返してきた。とくにウガンダへの移住は1930年代から行われ、ウガンダ国籍を持つクク人も多い。本稿は2005年の第2次スーダン内戦終結後のウガンダからのスーダン(現南スーダン)人、とくにクク人の移住の実情を示し、彼らの移住史のなかにそれを位置づける。そして彼らにとって、第2次スーダン内戦終結後、国際機関とウガンダ政府の主導によりなされたウガンダから南スーダンへの「帰還」は、いかなる意味を持ったのかについて検討する。さらにそれをとおし、定住を前提として帰還支援を行うこと、ならびに「持続可能な帰還」を提唱することの問題を指摘する。