著者
桐越 仁美
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.22-35, 2018-02-26 (Released:2019-03-22)
参考文献数
16

18~19世紀の西アフリカにおいて、アサンテ王国とハウサ諸王国間のコーラ交易が発展した。現在でもコーラの交易は盛んにおこなわれ、そのなかでは多くの若者が活躍している。本稿では、コーラ交易に携わる若者に着目することで、現在のコーラ交易における信用取引の実態と、若者がコーラ交易を通じて自らの商売を発展させていく過程を明らかにすることを目的とする。コーラは西アフリカのイスラーム社会において儀礼的・社会的に高い価値をもち、高値で取引されている。コーラは西アフリカの森林地帯から内陸乾燥地域のあいだに張りめぐらされた巨大な商業ネットワークを介し、民族の枠を越えて輸送される。人びとは傷みやすいコーラを迅速に輸送するために、前払いや委託販売といった手法を採用しており、そのなかでは信用や連携が重視される。コーラの交易に参入する若者は、そこで得た信用を、巨大な商業ネットワークに乗せて拡散させることを目的としていることが明らかとなった。
著者
上谷 直克
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.1-25, 2019

<p>今年V-Dem(Varieties of Democracy)研究所から発行された年報<i>Democracy Report 2018: Democracy for All?</i>によると、ここ約10年の世界の民主政の様態は、概して「独裁化(autocratization)」傾向を示しているという。もちろん、普通選挙の実施に限れば、常態化している国もみられるため、この場合の「独裁化」は、普通選挙以外の側面、つまり、表現および結社の自由や法の下の平等に関してのものである。現代社会で最も正当とみなしうる政治体制は自由民主主義体制であり、それは慣例的に「自由」を省略して単に「民主主義体制」と呼ばれるが、皮肉にも現在、世界の多様な民主制が概してダメージを被っているのは、まさにこの省略されがちな「自由」の部分なのである。同時期のラテンアメリカ諸国での民主政をみてみると、ここでも選挙民主主義の点では安定した様相をみせているが、自由民主主義指標の変化でみると、ブラジル、ドミニカ共和国、エクアドル、ニカラグア、ベネズエラの国々でその数値の低下がみられた。しかし,世界的な傾向とは若干異なり,これらの国では「自由」の中でも,執政権に対する司法や立法権からの制約の低下が著しかった。本稿では、上記の世界的傾向や近年のラテンアメリカ地域での傾向をV-Demデータを使ってみたところ低下がみられた、ベネズエラを除いた上記4カ国の最近の政治状況について端的に報告する。</p>
著者
藤井 広重
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.61-72, 2019-09-28 (Released:2019-09-28)
参考文献数
33

本稿の考察は、司法および人権アフリカ裁判所(ACJHR)の設置が進捗しない要因を解き明かすことを目的としている。ACJHRは、国際刑事裁判所(ICC)によるアフリカでの司法介入に対する反発の結果、オルタナティブなメカニズムとして生み出されようとしていた。だが、多くのアフリカ諸国がACJHRの構想に賛成した一方で、設置のためのマラボ議定書を批准した国はない。本議論を紐解けば、マラボ議定書が有する現職の国家元首と政府高官の訴追免除規定によってヨーロッパ諸国からの支援を得ることができず、また、マラボ議定書成立当初はNGOなどからの批判も見受けられたが、近年は現実に即した規定でありACJHRは機能するのではないかと肯定的な評価に変わってきた。ここに、ICCに対するアフリカ諸国のスタンスに関わらずACJHR設置議論が進捗しない要因を見つけることができる。さらにこのような考察を通して、ICCに対し影響力を行使しようと試みるアフリカの姿も垣間見えてきた。本稿での考察は、アフリカをICCとの関係性において客体としてではなく主体として捉えることが重要であることを示すことにつながった。
著者
高橋 亮太
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.34-43, 2019 (Released:2019-07-31)
参考文献数
21

ブラジルのボルソナロ新大統領は、2018年の大統領選挙キャンペーン期間中、中国への警戒、在イスラエル大使館の移転、パリ協定からの脱退など、過激ともいえる発言や公約で国際社会の注目を浴びた。しかしながら、同大統領は就任以後、外交政策に関する過激な発言を控えるようになり、穏健化をみせている。本稿では、大統領就任前の外交政策に関する公約と就任後の対外行動を比較することで、ボルソナロ政権の外交政策に対する理解を深めることを試み、外交政策の成果について若干の評価を与える。さらに、日伯関係を含む今後のボルソナロ外交の見通しについて述べたい。
著者
久末 亮一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.37-67, 2019-03-15 (Released:2019-03-27)
参考文献数
53

本稿は1920年に台北で創設され,おもに東南アジアで展開した日系倉庫会社「南洋倉庫」の経営を考察する。同社は,経済や国際関係の趨勢変化に翻弄されつつも,現地で一貫して倉庫業を営む一方,大正から昭和の南進の潮流と変容を投影した多様な主体が経営に介在し,その影響を受けた。本稿は,こうした背景をもつ南洋倉庫の経営を分析し,時代環境の変化のなかで考察しながら,当時の南洋にかかわった経済・企業活動の態様を明らかにする。