著者
牧 雅之
出版者
福岡教育大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

1.雌性両性花異株であるカワラナデシコの関東・中部地方の7集団について、両性個体の自家交配率を複数の酵素多型遺伝子座を用いた多重遺伝視座推定法で推定した。調査対象とした集団の雌性個体の頻度は約5%から約50%までの大きな変異を示していた。2.カワラナデシコの両性個体は雄性先熟であるため、自家交配は起きにくいと予測されたが、ある程度の割合で自家交配が起きているこが確認された。この理由としては、同花受粉が起きている可能性と隣花受粉が起きている可能性の両方が考えられる。カワラナデシコは、最盛期には同一個体内で複数の花が同時に咲き、訪花昆虫は位置的に近い花を順々に訪れる傾向があるため隣家受粉が起こりうる。また、雄性先熟ではあるが、袋かけをして、訪花昆虫を排除してやっても、種子を生産しうるので、同花受粉も可能である。どちらの受粉様式が自家交配の主な要因となっているかは今後の課題である。3.集団における雌性個体の頻度と両性個体の自家交配率との間には、強いとはいえないものの、相関関係が見られた。これは近交弱勢や両性型間での種子生産量には集団間で大きい違いがないものと仮定すれば、理論的に予測される結果と一致する。今後、近交弱勢や種子生産量の相対比の集団間の違いがどの程度であるかを推定する必要がある。
著者
秋永 優子 中村 修 下村 久美子 阿曽沼 樹 キ須海 圭子
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

高齢者訪問給食サービスの献立の改善を目的とし、まず、13自治体の担当者に聞取り調査を実施した。栄養基準については、設定している自治体の場合、エネルギーのみ、さらに数種の栄養素についてなど様々で、数値を示していない自治体の場合、高齢者福祉施設の食事を利用するなど3通りがみられた。福岡県内全自治体を対象に基礎調査を実施したところ、サービス実施上のねらいとして、ほとんどが栄養バランスのとれた食事提供をあげたが、献立や実物のチェックはほぼされていなかった。そこで、献立評価方法を検討し、「栄養・食品構成」「食材・生産」「料理の味」の観点からなる、日常的に手軽に実施可能なチェックシートを提案した。
著者
杉村 孝夫
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

南琉球、宮古諸島方言に属する来間島方言の話者は60代以上の数十名のみであり、中年層以下の者はすでに標準語との中間方言に移行している。2001・2002年度の2年度にわたり70・80代の伝統方言を話す話者から音声・文法と語彙の一部を聞き取り、記述した。全戸のヤーヌナ(屋号)についても、各戸の配置図とともに記録した。音声面の特徴は、母音では5母音の他、摩擦的操音を伴う狭口中舌母音が存在すること、狭口母音の[i,u]のみならず、広口母音の[a]においても無声化が起こることである。子音に関しては唇歯無声摩擦音[f]、唇歯有声摩擦音[v]が存在する。また、[v,m]は成節子音となる。これらの特徴は、例えば、宮古島本島の平良市内ではほとんど失われてしまった宮古諸島方言の古い姿をよく残しているものである。文法面では用言の活用形、助詞・助動詞、可能表現を文例とともに記述した。2年目には、音声、文法の特徴を反映する項目について高年層の男女7名の話者の発音をデジタル録音及びデジタルビデオ録画を行った。併せて、来間島のわらべ歌及び来間島の島民の由来談も収録した。これらの録音、ビデオ記録はこれまで行われたことはなく、来間島方言の重要な資料となる。既に収録済みの他の宮古諸島方言、すなわち、大神島、池間島、伊良部島、宮古島狩俣の猪方言の録音・録画と比較考察することにより、宮古諸島方言の姿を総体的にとらえることができる。
著者
西村 美保
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究ではヴィクトリア朝における女性の召使について、衣服、生活、文学表象という3つの観点から考察を深め、彼らのヴェールに包まれた生活に少しでも光を当てようと努めた。ヴィクトリア時代に、召使の数が急増した背景には幾つかの理由が考えられるが、最も重要なのは召使がステイタス・シンボルであったことである。中産階級として見られたい人々は少なくとも一人は召使を雇った。召使の世界にも階級があり、女性の召使の場合、ハウスキーパーを頂点に、レディーズ・メイド、ガヴァネス、乳母と続き、底辺に雑役女中がいた。雇われる家の規模や雇い主の所得によって、その数や賃金は異なったが、賃金表には謎の部分も多い。仕事着は女性の場合、自身で用意する事が期待されることも多かった。当時の写真はあたかも彼らの衣服が白か黒といった印象を与えがちであるが、イギリスの博物館が所蔵するメイドの衣服や、アーサー・マンビーの日記におけるハンナ・カルウィックの衣服への言及はメイドの衣服としてライラック色のコットン・プリントのドレスも当時一般的であった可能性を示唆している。文学表象としての召使いを吟味するにあたって、ヴィクトリア朝小説4作品を取り上げた。女性の召使は欲望の対象として見なされがちであるが、主人の話し相手から結婚の対象となったり、情報提供者としての役割を与えられ、プロットにひねりを加える場合もある。文学テクストに描かれる召使が現実社会における召使とそう違わないことから、それだけ召使が作家にとって身近なものであったと言う事ができる。召使いの登場は小説にリアリティとファンタジーの両方をもたらしている。召使いが主人と結婚することは現実世界においては滅多に起こらないことであり、階級差のある男女の交際や結婚がいかに困難を極めたかはハンナ・カルウィックとアーサー・マンビーの事例が鮮明に物語っている。
著者
安藤 秀俊 伊藤 和貴 伊藤 和貴
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

植物のバイオマス生産に関する教材開発とその指導プログラムの検討を目的として, (1)教員養成課程の大学生における植物栽培とその生産に関する意識調査, (2)小学校教科書に掲載されている種子発芽の実験の検討, (3)全国第2位の生産量を誇る福岡県におけるイグサの教材化, (4)植物の遺伝教材としてのファストプランツの有効性の検証, (5)バイオマス教材としてサトウキビの利用方法の開発と指導プログラム, の5点について調査, 実験などを行い, 更に授業実践を行ったところ, いくつかの新たな知見と指導プログラムの有効性が確認できた。
著者
相田 洋
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

『点石斎画報』は、上海で『申報』を発行していた申報館から刊行された絵入りの旬刊誌である。当時の中国は、上海を中心として文明開化の波に覆われ始めていたが、まだ地方では旧文化・旧社会が色濃く残存していた。そのため、この画報は、それら文明開化の過程や旧社会の様々な諸相を活写していて、中国社会史・民俗史研究にとって、格好の史料といえる。このように『点石斎画報』の史料的価値は高いが、日本の学界(中国でも同様)ではこれまでほとんど利用されてこなかった。それは、この画報の揃いは、日本に存在しなかったからである。1983年6月に、広東人民出版社から、全5帙・34冊が刊行され、ようやく渇望を充たす事ができるようになった。しかし、この広東人民出版社本は、「丁酉9秋重印」つまり、光緒23年(1897)秋の重刊本を定本にしており、原本ではない。原本との大きな違いは、刊行年月旬や号数が欠けていることである。この点は、時事問題も多数掲載されている画報としては、相当のマイナスである。そこで本研究では、東京大学東洋文化研究所や東洋文庫、東京都立図書館実藤文庫等に飛び飛びに所蔵されている原本を調査して、刊行時期を確かめ、広東人民出版社本を定本に、データーを盛り込んだ目録(稿)を作成して今後の研究の基礎固めをすることをめざした。これらの原本の調査の結果、意外にスムーズに10日おきに刊行さたことや、数々の広人本の閉じ誤りや目次の疎漏等を発見した。ただ、本目録はまだ不十分な点が多いので、より充実させて、公刊して幅広い利用に供したいと思う。
著者
小川 亜弥子
出版者
福岡教育大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

研究実施計画にもとづき調査をすすめ、史料をフィルムに撮り、焼き付け(A5・CH版)を行い、整理・解読・検討を遂行した。最大の成果は、幕末期洋学の軍事科学化を飛躍的にすすめた存在として不可欠である長崎海軍伝習所について、その教育の具体的内容を明らかにできたことである。同所におけるオランダ人教師による実地教育については、主に、勝安房『海軍歴史』巻之三・四・五(海軍伝習之上・中・下)、カッテンディーケ『長崎海軍伝習所の日々』、赤松範一『赤松則良半生談』、秀島成忠編『佐賀藩海軍史』、島津家編纂所編『薩藩海軍史』上巻、藤井哲博『長崎海軍伝習所』などに収められた資史料に依拠して、教師及び直伝習生の氏名・構成、伝習期間・方法、教授科目・時間割・規則・心得などを明らにすることができよう。しかし、教育実態の究明には、根本的に史料上の制約が大きく、研究の遅滞が生じていたというのが現状である。こうしたなかで、調査実施の一環として、佐賀県立博物館において、同所での軍艦運用術の伝習内容と思われる史料「操練所伝習」を発見し収集できたは意義は大きい。本史料は、保存状態は良好で、「ブラムステング之揚方」「パルヅーン之成立」「ワント之成立」「ブレガット之ワント掛様ノ図」「セール之区別」「帆木綿之用法」などについて、それぞれ図入りの詳細な説明がみられ、軍艦運用術の直伝習の模様をつぶさに知ることができる貴重なものである。これまで、同所に関する新史料の出現は皆無に近かっただけに、幕末期洋学の軍事科学的展開を究明する上で、その基盤拡大に大きく資することができるものと考えられる。技術的な内容が高度に専門化しているため、現在、科学史家と連携した研究体制を継続中であるが、近く成果を打ち出す予定である。
著者
杉村 孝夫 日高 貢一郎 二階堂 整 松田 美香
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

50年前20年前の大分県方言談話資料(1次2次とも実施したのは24地点)に加え、本研究では大分県内13地点の談話を収録した。それらは、少年層・青年層・高年層の3世代の男女1組の最大8つの場面設定の会話と自由会話からなる。50年間を通して同じ年代設定、同じ場面設定の談話を3回収録したことになる。これらの談話資料を比較し、文末助詞の抑揚と機能、辞去の場面の分析など50年間にわたる言語生活の変容を解明した。
著者
久保田 裕子 メータセート ナムティップ 平松 秀樹
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

日本とタイ国の関係が緊密化した明治期から現代に至るまでの日本近代文学に関して、タイ国を描いた文学テクストの調査・収集を行った。収集した文学テクストを基盤として、両国の歴史的関係性を示すタイ国内で刊行された日本語雑誌などの同時代資料と照合し、タイ国をめぐる文化表象が構築される過程を明らかにした。三島由紀夫、村上春樹などの日本近代文学のテクストを分析し、そこに描かれたタイ国の表象分析を行った。