- 著者
-
竹家 一美
- 出版者
- 科学技術社会論学会
- 雑誌
- 科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, pp.109-121, 2018-11-20 (Released:2019-12-02)
- 参考文献数
- 16
本稿の目的は,無精子症と診断された当事者の「男性不妊」をめぐる身体経験を明らかにすることである.なかでも,顕微鏡下精巣内精子採取術といった侵襲的な手術をめぐる身体経験に焦点をあてていく.そのため本稿では,患者だけでなく彼らに影響を与える泌尿器科医にもインタビューを行い,診療の場での相互作用も分析の対象とした.5名の医師と6組(その内の2組は夫婦同席)の患者の語りを分析した結果,①手術の対象は夫の身体だが,医師は患者を夫婦単位でみていた,②無精子症をめぐる心理社会的な衝撃は,夫のみならず妻にも影響を及ぼしていた,③結果の如何にかかわらず,手術を否定的に語る人は皆無であったということが明らかになった.さらに,たとえわずかでも精子回収の可能性さえあれば,最先端の侵襲的技術でも希望する患者は少なくなく,無精子症事例では男性身体に対する侵襲性よりもその可能性の方が,より重要であることが示唆された.