著者
岡本 雅史 阪田 真己子 細馬 宏通
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-07-18

まず、代表者岡本は、一人の話者の語りが中心となる演芸である落語と漫談に着目し、前者においてマクラから本題へと語りのモードが転換する場面において言語的な境界を示しつつも、非言語的・パラ言語的モダリティの層においてはその境界と時間的に一致しないことを明らかにし、語りの受け手に対する二重の境界設定がプロの噺家の語りの特徴であることを示唆した。一方、後者については、一人語りの中にも仮想的な対話場面の再現が万段において頻出することを示し、仮想的な語り手を導入する際の引用標識の戦略的な脱落が受け手の物語認知にとって有効な手段であることを明らかにした。いずれも社会言語科学会第41回大会で報告された。次に、分担者阪田は、観客も漫才対話を支えるコミュニケーションの参与者であると仮定し、観客の存在が、漫才師のパフォーマンスにいかなる影響を与えているかを検討した。プロの漫才師による実証実験を実施し、ボケ、ツッコミという役割によって観客による影響の受け方が異なること、オープンコミュニケーションの参与者として、漫才師と観客が相互参照的な関係にあることを明らかにした。研究成果は、電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーション基礎研究会、および国際会議International Conference on Culture and Computingにて報告された。一方、分担者細馬は、漫才におけるボケとツッコミの身体動作と発話との時間関係に注目し、ボケによる笑いの認知点以外に、ツッコミとボケのマルチモーダルな行為関係が笑いに寄与している可能性について調査している。特に、センターマイクによって身体動作が制約を受けていた時代の漫才と、コンタクトマイクなどを用いて身体動作の自由度が増した時代の漫才を比較することで、近年の漫才が必ずしもマイクという資源の取り合いを前提としない動作を取り入れていることを分析している。
著者
安藤 哲生 川島 光弘
出版者
立命館大学
雑誌
社会システム研究 (ISSN:13451901)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-22, 1999-03-31

本稿は立命館大学BKC社系研究機構が,福岡県国際技術取引推進協議会からの研究委託に基づき,日中間技術取引促進の前提となる諸条件を解明しようとしたものである.中国の科学技術,技術移転を取り巻く動向を見ると,自主開発については公的R&D機構中心のR&D体制から企業中心へと改革中であり,一定の変化が認められる.技術導入については年々拡大する傾向にあるものの,プラント・設備偏重導入,重複導入,弱い自主開発との結合などの問題点を抱えている.技術導入に関わる法令は,いくつかの論争点が含まれており,技術導入の認可プロセスは複雑で注意が必要である.技術導入の意思決定,交渉,技術使用の各局面で主体が異なるという従来の問題はほぼ解消され,企業が各局面で主体性を有していると言える.技術取引市場一般について見ると,技術取引は一般商取引とは異なる特徴を有し,技術情報が取引対象になるには,導入側は対象技術の技術的・経済的有用性などを,供与側は対価獲得の有利性などを認識し,双方によって取引の必要性が認識されなければならない.このような技術取引を規定する諸条件のもと,96年より新たな技術取引形態として日中テクノマート(技術商談会)が試みられている.'98日中テクノマートで双方の参加企業にアンケート・ヒヤリング調査が行われた.その分析の結果からは,事前情報交換の促進,商談・説明に対する考え方の相互理解,多数の「合作」希望への対応など幾つかの課題が見いだされた.とりわけ中国の場合,資本不足から技術取引に限定した形態が難しいという点は,今後の日中技術移転促進にとって最大の課題であると言えよう.