著者
鹿糠 広治
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.1689-1697, 2006-11-01
被引用文献数
1

近年,地球温暖化や化石燃料の価格上昇に伴い,製紙業界においても化石燃料からバイオマスへの燃料転換による省エネルギー対策およびCO<SUB>2</SUB>排出量削減対策が盛んに実施されてきている。<BR>三菱製紙(株)八戸工場でも重油からバイオマスへの燃料転換が課題であった。また,既設のペーパースラッジ焼却設備も老朽化が進んでいることから,今回,廃タイヤ・廃木材・工場内で発生するペーパースラッジ・その他の可燃性廃棄物を燃料とするリサイクルボイラーを建設し,2004年7月より操業を開始した。<BR>運転性能を確認した結果,計画値を全て満足しており,現在も順調に稼働を続けている。また,この設備の稼働により,重油・石炭消費量の削減,購入電力量の削減,余剰電力売電量の増加といったエネルギーコストの削減,及びCO<SUB>2</SUB>排出量の削減に大きく寄与することとなった。<BR>本稿では,このリサイクルボイラーの設備概要及び操業経験について紹介する。
著者
轟 英伸 畑野 昭夫 阿部 裕司 竹内 伸夫
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1641-1650, 1996

紙の寸法安定性をオンラインで予測する計測システム (ウェッブ収縮率計) を開発した。今回開発したシステムは, エッジセンサーとして非接触型のレーザー外径測定器を移動ステージ上に配置した, 紙幅計測ユニット2組より構成されている。この2組のユニットを抄紙機の乾燥工程前後に取付けることにより, 収縮前後の紙幅から製紙工程におけるウェッブ収縮率を計測できる。さらにウェッブ収縮率と製品の浸水伸度や操業条件との関係を調査して以下の知見を得た。<BR>抄紙条件 (原料処方, 濾水度, J/W 比等) が種々異なる製品の浸水伸度 (寸法安定性) とプレドライヤー前からアフタードライヤー後までのウェッブ収縮率に高い相関関係が認められた。したがって, この相関関係を用いたウェッブ収縮率のオンライン計測により, 製品の寸法安定性を抄造段階で予測できる。<BR>抄紙機上において, ドローにより歪み率を1%増加させると, ウェッブ収縮率はポアソン比的な効果により約0.3%増加した。このドローによる収縮は, ワイヤー~ウェットプレス間の紙中水分80%付近では製品の寸法安定性にほとんど影響しないが, サイズプレス~アフタードライヤー間の紙中水分40%付近では寸法安定性を悪化させた。<BR>ドローを増加して, 歪み率を大きくすると, CDの剛度は低下した。また, ワイヤー~ウェットプレス間よりサイズプレス~アフタードライヤー間の方がドローの増加に対する剛度低下の割合が大きかった。<BR>J/W 比の変更により, 繊維をより縦配向にすることでウェッブ収縮率が増加し, 浸水伸度の悪化とCD剛度の低下が認められた。<BR>また操業中のオンライン計測事例として, J/W 比やサイズプレス液付着量の変化に伴う紙幅やウェッブ収縮率の変化挙動を紹介する。
著者
出口 勇次郎
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.37-39, 2016

発電機用燃料の高騰や温暖化ガス対策等により,それまでは他の機器に比べ使用電力に寛容であったパルパーに於いても,省エネルギー対策が必要との要望が出てきた。加えてパルパーで離解を促進させれば,原質工程後の工程であるスクリーン機器等の使用電力が下げられる事が判明した。この事により,それまでのローターベーンより強力な離解をするローターベーンが求められた。SEローターベーンが登場するまでは,省エネルギーは達成出来るが同時に処理量も比例して減ってしまうローターベーンしか存在していなかった。我々はこの相反する条件を同時に具現化するべく,SEローターベーンを開発した。<br>まず,市販化に先立ち20尺パルパー用SEローターベーンのプロトタイプを製作し,約一年間実際の工場ラインの現場で使用していただいた。その結果,換装前と処理量は全く同じ条件下で20%程度の省エネルギーが確認出来た。また換装前と電力量を同じにすると処理量が約1.2倍となった。この実証を得て市販を開始した。<br>市販後は,お客様の好みで省エネルギーと処理量の割合を調整することが出来ると好評を頂いている。20尺パルパー用タイプだけでも発売開始以来,累計18台を販売している。<br>今後もお客様の現場の声を大切に,ローターベーンの一層の高効率・利便性を追求していく。
著者
宮西 孝則
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.414-420, 2016

2015年10月29日~11月1日の4日間にかけてTokyo Paper 2015が東京大学にて開催された。本学会は,第9回国際製紙及び塗工化学シンポジウム(IPCCS)と国際紙物性会議(IPPC)との共同開催である。<br>IPCCSは,スウェーデンとカナダのコロイド化学,界面化学の研究者が中心となって約3年毎にスウェーデンとカナダで交互開催されてきた。IPPCは紙物性に関する国際会議であり,IPCCSとIPPCの共同開催は,2012年に次いで2回目である。参加総数は148名で,そのうち海外からの参加者が60%であった。研究発表の割合は海外の研究者が75%に達し,近年国内で開催された紙パルプ研究に関する国際会議では最大規模であった。主な参加国はスウェーデン,カナダ,フィンランド,中国,フランス,韓国,オーストリア,タイ,ノルウェー,ドイツで,米国,英国,オーストラリア,スイス,ルーマニア,ブラジルからの参加もあり,日本を含めて17か国の国際会議となった。<br>日本からは,東京大学,京都大学,九州大学,筑波大学,東京農工大学,高知大学,東京家政大学,慶應義塾大学,王子ホールディングス,日本製紙,北越紀州製紙,大王製紙,荒川化学工業,栗田工業,星光化学が貴重な研究成果を発表し,活発に質疑応答を行った。開会式では,実行委員長である東京大学大学院磯貝明教授が開会挨拶を述べ,続いて紙パルプ技術協会が日本の紙パルプ産業の現状について特別講演を行った。開会式終了後,参加者は2会場に分かれ,IPCCSは東大キャンパス弥生講堂一条ホールにて,IPPCは中島ホールにて口頭発表を行った。全部で78件の口頭発表と28件のポスター発表があった。IPCCSの発表はナノセルロースが多く,大きな関心を集めた。
著者
伊達 宣浩
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.594-598, 2018

<p>秋田工場の省エネルギー活動において,2015年には目標値を大きく下回る結果となった。その状況を打破するために,2016年度は日本ビジネス革新コンサルティング㈱(JBIC)より指導を頂き,ネイガー活動と称する省エネルギー活動を展開した。目標は「工場の前年総エネルギー使用量の3%分の省エネ案件発掘」,月4回の活動で約1年間,工場各部門から選抜されたメンバーが一丸と取り組んだ。</p><p>活動の前半は現状の工程あるいは機器の状況把握,つまりフローシート,マテバラを作成し,その後燃料,電力,水,蒸気,エアの使用量を調査しエネルギー使用量を把握した。後半はその工程や機器の機能状態の分析,設備仕様を振り返り温度や流量,品質等に乖離はないか,エネルギー収支を検討し熱源は有効利用されているか,出入口温度は仕様通りか等を検討し,改善されるべきテーマ素材に気付いたら即座に記録することであった。そして是正のために損失の大きさやエネルギー源,改善の方法により充分な利益をもたらすことを確認して優先順位を決定した。</p><p>検討する際は,集まったメンバーが理解しやすいように手書きの図や写真等を用いて議論したことにより,自部門で気付かない点が発見されるなどお互いに知見が得られたのではと思う。</p><p>活動を通して,ネイガー目標に対しては3.23%となり,秋田工場としての省エネ目標も達成された。</p>
著者
石岡 直洋
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.1006-1014,013, 1997

北米における古紙回収量や利用率の推移は上昇傾向にあり, 特に1980年代後半からはその伸びが著しい。これは廃棄物処理場スペース問題に端を発した行政指導に起因するところが大きい。<BR>北米の古紙処理設備は, 排水規制が緩やかで水の制約がなかった1960-70年代はウオッシャー法が主流であったが, 1980年代後半からは排水規制が一段と厳しくなったことから, 節水型のフローテーション法が主流となった。<BR>弊社関連会社である大昭和アメリカ社ポートアンジェルス工場は, 古電話帳リサイクルのパイオニアとして, 電話帳の生産から再生までのクローズド化を完成させた。1992年のスタートアップ以来, 予想通りの良好な品質が得られ, 各抄紙マシンにおいては40%以上の古紙配合率で, 問題なく操業を行っている。
著者
大草 優子
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.508-514, 2005

古紙配合率の増加, 用水原単位の低下により, 水質が低下し, 内添薬品の定着, 歩留も悪化している。この対策として, 内添薬品の1つであるサイズ剤 (ロジンエマルションサイズ剤) の定着促進に着目し, ポリマーによるサイズ剤の定着とサイズ発現性について調べた。その結果, ポリマーの物性によって, 定着効果やサイズ発現効果が異なることが明らかとなった。これらの知見を基に, サイズ定着剤「フィクサージュR100」を開発し, 実機で適用した結果, サイズ剤の低減や, 抄紙用具の汚れが軽減できることが実証された。
著者
戸塚 慎吾
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.253-259, 2016

日本製紙株式会社富士工場では操業効率向上の取組を様々な角度で検討・推進しているが,ダート検出装置の追加設置による,ダート異常の早期発見によるマシンへの流出防止案が提出され,実行の検討を行うべくオムロンへ新設の見積引合いを行ったところ「平成27年5月に販売停止」の返事を受ける状況となった。別メーカーの採用も検討したが,価格面や保守面から採用できる製品は見つけられなかった。そこで当社のグループ会社である日本製紙ユニテック株式会社(以降NUTと称す)はオムロンの代理店であり,画像処理システムも手掛けていたので,原料ラインにおけるチリ検出装置の開発を依頼した。NUTはオムロンと企業間協議を行うことで,NUT単独の「後継機種開発」という環境を整えたことの回答を得たので,当工場は能力評価のフィールド提供と必要機能仕様について共に考えることを約束し,平成26年8月より,開発を本格スタートさせた。約一年後の平成27年8月に製品版のチリ検出装置となるOpen―K―DO(ダート観測)を当工場で稼働することができたので,開発の過程から現在に至るまでの状況を紹介する。
著者
稲葉 進
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.973-976,017, 2001

株式会社丸石製作所はフルシンクロカッターで世界的に有名なドイツ, ビロマティック社と技術提携をしており, 既に国内外へ23台を納入している。ビロマティック社ではこの程, スタック交換の中断がないノンストッブシーターを開発して特許申請を完了した。今までシングルオーバーラップのマシンにおいて, スタックチェンジをするためにはシングルもしくはダブルパイラーであれ, シート間のすき間を開けるために数カットのシートをリジェクトする必要があった。<BR>このリジェクトを回避するために様々な方式が用いられたが, ダブルオーバーラップにする以外どの方式においてもシートへのキズの発生, 摘み取り荷姿の歪み, 低生産性等の問題があり最良とは言い難い現状にある。そこで, ビロマティック社では研究開発の結果, 全く新しいシステムを構築し, これを商品化した。<BR>それはシングルオーパーラップ機構において, コンベヤーラインをNo.1とNo.2コンベヤーとに分け, No.2コンベヤー部にもサクションボックスを設けてシートを分離する方法である。
著者
田上 量一
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.1371-1383, 1996

1. 生産と消費地をつなぐもの<BR>紙は遠隔地で, 板紙は関東, 近畿, 中部で生産されているのに対して, 消費地は首都圏が対全国比65%, 近畿圏が18%, 中部圏が9%と三大都市圏に集中している。とくに首都圏は出版印刷同関連産業が集中しており, 圧倒的に大きい市場を形成している。<BR>この大消費地への輸送は板紙においてトラック便にて大部分が配送されているのに対し, 紙の方は内航海運, トラック便および鉄道輸送にてほぼ均等に分担されている。これらの輸送機関の夫々の受け皿施設は消費地の好立地点に配置されている。<BR>2. 紙類物流の役割と活発な共同行為<BR>出版印刷産業は極めて東京都心密着型産業であるが, ここに主要媒体である紙類を納入する紙業界の物流も都市密着型にならざるをえなかった。<BR>出版物が要求する多品種小ロット, 断裁加工を伴いながら短い納期に間に合わすために, 流通商社は自社車輌にて, これら受け皿倉庫間を集荷して廻っているが, 倉庫規模が大きく取り揃えが豊富にあること, その地区に倉庫が多く集合している事で, 必要品種を一度に集荷でき車輌を満杯にして出発できて, 配送効率, 輸送時間を改善できている。<BR>当業界は過去より業界あげて大規模共同倉庫の建設をおこなってきた。その結果としての在庫の集約化はいきおい配送の共同化を生み出し, 業界の配送効率を向上させている。また当時, 「紙パルプコードセンター」を設立, 業界コードの統一化をおこなってきた事が, 現在稼動している製紙会社, 流通商社, 運送会社ぐるみの受発注, 配送手配処理システムを可能ならしめているし, 使用後パレット板を回収還流させている「パレット回収機構」もその当時の成果である。このような業界に共通する基盤整備事業は今後も新しい意向を盛り込み, 継続していく必要があろう。<BR>3. 予想される問題<BR>(1) 東京都下の出版印刷産業は近年伸び悩み傾向にある。埼玉県は伸張しているが, 首都圏全体ではシェアは低下しつつある。とくに印刷業は平成3年以来出荷額は毎年減りつつあり, この中で構造改善投資を迫られている。紙二次製品および印刷物の輸入量が近年著しく伸びている事の影響も大きい。<BR>(2) 東京都心の半径10kmの円圏内に東京の出版印刷産業の85% (全国の40%弱) が集中している。また東京港湾地区に散在している紙類在庫量は都下総在庫の過半に当り, これも集中している.災害発生時には港湾地区は流砂現象と橋梁の損傷を被る危険が大きいし, 倉庫内に積載中のパレット積み配の倒壊で被る被害も大きい。災害発生時における対応の研究は今おこなっておく必要があろう。<BR>(3) 物流技術と情報処理方式が日進月歩の只中にある現在では変化に柔軟に対応できるようにしておく事が大事。あまりがんじがらめのシステムをつくっておく事は危険であろう。
著者
高橋 智昭
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.1160-1164, 2011-11-01

多くの抄紙機が旧式のドライヤー部ドライブの問題により生産性の限界に到達しつつある。抄速を上げる為の弊害として,騒音,オイル飛散,マシン振動,ギアの損傷,フラッタリングなどのシート走行性における問題などが挙げられ,その解決にはドライブの見直しが必要とされる。本稿では,AS Drives & Services GmbH社(ドイツ,レケン)による効率の良いサイレントギアボックス,フレキソギア&reg;,周辺設備として効率的に潤滑油の脱気を行う潤滑油ユニット,ルーブリフレックス&reg;,潤滑油の流量を自動制御するインテリジェントフローメーター,フレキソフロー&reg;の紹介を行う。<BR>フレキソギア&reg;はオイル切れ,オイル飛散,マシン振動,ギアトラブルなどオープンギアや密閉ギアでの諸問題を解決し,既設マシンで1,000m/分に対応する増速も可能とする。特殊設計の密閉型スリップオンギアボックスの構造により,消音設計で騒音の抑制も行える。また,駆動側を塞いでいたギアが小さくなり,断紙の際,損紙の取り除きが容易になり,操業性の向上にも貢献する。又,オイル飛散がなくなり,製品オイル汚れや駆動周りのオイル汚れが無くなる。<BR>ルーブリフレックス&reg;は省スペース,メンテナンス性に優れており,オイル流量を自動制御する機能を持つフレキソフロー&reg;との併設により操業コストを抑制することが可能である。<BR>日本市場においても,これらASの製品群を導入することにより,中・小型マシンの操業性の向上に大きく貢献するものと考える。
著者
後藤 隆徳
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.108-113, 2015

製紙業界を取り巻く環境はここ数十年の間に劇的に変化し,それに伴い製紙機械に求められるニーズも多様化している。こうした背景のもとシステム全体の更新や機器の増設という考えではなく,最小限の投資によって最大限の生産効果が得られる技術への要望が今まで以上に高まっている。<BR>製紙機械のサプライヤである弊社もそれに合わせた事業形態へ対応していくためVoith Paperが提唱するP&S(Products & Services)ビジネスに注力していく。P&Sビジネスとは改造工事を主体にしながら細かな部品工事にも対応し,同時に設備や操業の診断サービスなどを提供しつつ技術向上のための新たな提案を各お客様の要望にそれぞれ合わせて行っていくビジネスを指している。<BR>本稿では,原質工程におけるP&Sビジネスの基本コンセプト及び各原質機器(パルパ,クリーナ,スクリーン,ディスクフィルタ,リファイナ)の最新部品技術について弊社のラインナップも含めご紹介させていただく。
著者
熊倉 慎
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.257-261, 2013-03-01

北越紀州製紙関東工場勝田工務部では,建築廃材や間伐材,ペーパースラッジなどを燃料とする木質バイオマス発電ボイラーを2006年9月に営業運転を開始した。<BR>このバイオマス発電ボイラーでは,主な燃料である,木質燃料の搬送にベルトコンベアが使われている。他社の事例では,この搬送コンベアでの火災の事例が報告されている。この火災事例に対して,早期発見,延焼防止を目的とする,コンベア温度監視システムを,2012年5月に設置した。<BR>本稿では,「バイオマスボイラー木屑搬送コンベア温度監視システムの導入と課題」と題して,コンベア温度監視システムの機器選定から設置工事,操業状況について報告する。<BR>以下に概略を述べる。<BR>1.機器選定においては,以下4種類のシステムについて比較を行った。<BR>(1)光ファイバー式温度分布システム<BR>(2)熱(火災)感知線システム<BR>(3)熱電対/測温抵抗体システム<BR>(4)赤外線サーモグラフィーシステム<BR>それぞれのシステムより,測定精度,機器に対して広範囲で測定可能,火災位置特定が可能,導入コスト,バイオマスボイラーの定期点検の期間内で工事完了可能,等を考慮して,「光ファイバー式温度分布システム」を採用する事とした。<BR>2.設置工事は,該当する各コンベアの形状により異なる以下4種類の布設方法を計画し実施する事とした。<BR>(1)非密閉式ベルトコンベアタイプ<BR>(2)密閉式ベルトコンベアタイプ<BR>(3)密閉式チェーンコンベアタイプ1(コンベアフライトのバタツキ小)<BR>(4)密閉式チェーンコンベアタイプ2(コンベアフライトのバタツキ大)<BR>この「バイオマスボイラー木屑搬送コンベア温度監視システム」は,5月に稼動して以来,大きなトラブルも無く,正常な監視状態にある。
著者
矢澤 規祥
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.1150-1152, 2017

<p>新東海製紙株式会社島田工場は,NUKPのパルプ工程を2系統(1Kプラント,3Kプラント)保有し稼働していたが,コスト競争力強化等の理由から,1系統(1Kプラント)を徐々に稼働率を低減し運休転を繰返すようになり,2016年度には停機するに至った。パルプ生産量が減少するなかで,苛性化工程は効率悪化が顕著となり,特に効率悪化が際立っていたグリット排出量と重油使用量の削減に取り組んだ。</p><p>グリット排出量削減については,スレーカー能力がオーバースペックとなっていることに着目し,反応液の前戻しをテスト検証し効果に繋がった。</p><p>一方で,重油使用量削減については,ドラフトファン能力過大に着目し,ファンモーターをインバーター化しキルンのバランス調整を図り重油使用量削減に繋がった。</p><p>いずれもパルプ減産に伴うサイズダウン対応という一見後ろ向きな改善だと捉えられる部分もあるかと思うが,現行設備を小さな投資で大きな改善効果を得られた価値ある事例だと捉えている。今後もさらなる競争力強化に向けて,意識を高め操業改善に努めていく。</p>
著者
宮西 孝則
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.305-311, 2017
被引用文献数
1

<p>最初の高濃度オゾン漂白設備は1992年にUnion Camp社Franklin工場(バージニア州,米国)で稼働し,C-Free<sup>®</sup>という商標で登録された。パルプはpHを調整してから40%濃度まで脱水され,フラッフィングしてからパドル付の大気圧オゾンリアクターに送られる。現在の高濃度オゾン漂白設備は,C-Free<sup>®</sup>よりも遥かに簡素化されたバルメット社のZeTrac<sup>TM</sup>が採用されている。オゾンとパルプとの接触時間は1分と非常に短く,オゾンリアクターを小型化し滞留時間は5-10分で設計されている。プラグスクリューフィーダー,レファイナー型フラッファー,アルカリ抽出段前の洗浄機は全て不要になり,投資金額,エネルギー消費量,設備保守費用,排水量が著しく減少した。高濃度オゾン漂白に続くアルカリ抽出(パルプ濃度11-12%)の反応時間は5-10分で,通常のアルカリ抽出(60-90分)とほぼ同等の効果が得られる。オゾンリアクター出口で濃度38-42%のオゾン漂白パルプをアルカリで直接希釈する。アルカリは拡散時間を長くとらなくても直ぐに繊維の中心部に到達し,オゾン漂白で酸化された物質を直ちに溶解する。続いてプレス洗浄機でパルプを脱水し,溶解した物質を除去する。このように高濃度オゾン漂白では,アルカリがパルプに素早く浸透して酸化物を溶解し,直ちにプレス洗浄機で除去するのが特徴である。アルカリを繊維内部に拡散させるための長い浸透時間が不要で,新設する場合,アルカリ抽出タワーの建設費を節約できる。高濃度オゾンECF漂白パルプ及び紙製品の品質,抄紙機の操業性は,塩素漂白時と比べて目立った変化はなく,ほぼ同レベルである。ヘキセンウロン酸(HexA)はほぼ完全に除去でき完成パルプ中にHexAが殆どないLBKPが得られ,紙製品の退色については全く問題ない。排水中のAOX並びにクロロホルムは,塩素漂白時と比べて大幅に減少し,環境負荷の削減を図ることができる。1990年代は設備費の安価な中濃度法が主体であったが,その後の技術開発により高濃度法の設備が改良されて投資金額が減少した。また中濃度法に比べてオゾンを多く添加できること,オゾンガスの昇圧コンプレッサーが不要で毒性のあるオゾンガスを高圧化する必要がないこと,オゾン漂白設備を負圧で運転できるためオゾンガス漏洩の危険性が少ないことから2000年代は高濃度法と中濃度法が拮抗している。ZeTrac<sup>TM</sup>は王子製紙日南工場,大王製紙三島工場,モンディ社Ruzomberok工場(スロベキア),ITC社Bhadrachalam工場(インド),王子製紙南通工場(中国)等に導入されている。</p>
著者
尾鍋 史彦
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.350-353, 2021

<p>古代ギリシアの時代から現代まで,「存在」という問題は対象が認識できるか否かに関わらず哲学の根本概念であり主題であり続けている。紙という日常的かつ即物的な対象を敢えて「存在」という視点から捉えると何が見えてくるのだろうか。直立二足歩行という動物として優位な特性をもつ人類は道具を生み出し,紙を発明し,機能別に分化させ現代に至っているが,この過程を「存在と生成」という思考の枠組みから捉えてみた。</p><p>現代哲学は多様だが,戦後フランスの実存主義,構造主義,ポスト構造主義という変遷の文脈の中で紙という存在を解釈してみたが,サルトルのアンガジュマン(engagement)は実存である人間が対象である紙に働きかけることにより紙を進化させ,また存在理由をraison d'être(レゾンデートル)と表現している。ポスト構造主義のレジス・ドブレによるメディオロジーでは思考の対象に紙を取り上げ,「紙の力」(Pouvoirs du Papier)として,記号としての文字を支える紙の支持体としての役割を強調し,伝達における歴史性・文化性の維持の重要性を強調し,暗にデジタルを批判しているとも解釈できる。</p><p>デジタルが優勢な世界でも記憶を基盤とする知的形成,初等教育,文化の形成には親和性と感情価の高い紙というメディアは今後も不可欠である。紙と印刷の世界へのコンピュータの登場は近代への決別というポストモダン的な捉え方があるが,21世紀になり現代哲学の地殻変動の中から新たな思考の枠組みで「モノの知」を探ろうという動きがあり,新たな紙の捉え方が生まれる可能性がある。</p>