著者
荒木 一覗
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.155-173, 1993-05-31 (Released:2017-05-19)
被引用文献数
5

本研究は,規模の拡大や都市へのアクセス, 労働力の高齢化などで大きな制約のある営農条件不利地域を対象に, そこでの農業存続の新たな可能性を解明することを試みた. その際, 一部に認められる自立的農業経営地域の存立メカニズムを検討することに力点を置いた. また, 農民の組織化, 加工業など農外部門との関わり, 農業の国際化との関わりの検討も重視した. 対象としたのは, 和歌山県日高郡南部川村の梅生産と加工である. 研究の成果は次の通りである. 第1にこの地域の梅栽培の発展過程を考察し, 全国的な梅産地への成長に至るこの地域の特質を検討した. 結果, 梅干需要の伸びが梅加工業の集積した当地の梅産地としての成長に有利に作用したと考えられる. 第2に, 村内の梅栽培農家の経営形態を1年間の労働力配分を重視して分析したところ, 安定した収益を挙げる梅栽培を柱とした複合経営により自立的な農業経営が達成されていることが明らかになった. 第3に, 梅栽培農家の安定した収益を保証するメカニズムを加工業者に着目して検討した. その結果, 2次加工部門を域内に取り込むことや台湾産の梅干を輸入することで成長してきた加工業者の存在が梅の生産者価格の高付加価値化と安定において重要であることが明らかになった. 一方, 生産農家,加工業者の双方において労働者の不足と高齢化が, また流通部門では海外産品の高騰がともに問題点として指摘された.
著者
成瀬 厚
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.3-28, 2020

<p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;本稿は,英語圏におけるオリンピック研究を整理したものである.本稿で取り上げたオリンピック研究の多くは,上位分野であるメガ・イベント研究に位置づけることができ,学際的な観光研究から発したこの分野には都市社会学や地理学の貢献が大きかった.オリンピックという複雑で大規模なイベントの性質上,本稿では多様な研究分野を扱っているが,オリンピック研究における都市研究を含む広義の地理学的な主題を探求するのが本稿の目的である. <BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;IIIでは初期のイベント研究における社会的インパクトの分類―経済,観光,物理的,社会・文化的,心理的,政治的―に従って,多様な分野におけるオリンピック研究を概観した.IVでは地理学的主題をもった研究に焦点を合わせ,オリンピック都市,グローバル都市間競争,都市(再)開発,レガシー・環境・持続可能性,市民権と住民参加という分類で整理した. <BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;地理学者によるオリンピック研究は2000年前後から,過去の開催都市を概観する形で,それ以降盛り上がりをみせる地理的主題を持つオリンピック研究を牽引したといえる.当初から国際的なイベントであった近代オリンピック競技大会は,今日において大会招致がグローバル都市間競争の一端となり,大会関連開発は新自由主義的な都市政策の下で官民連携によって行われている.さまざまな問題を抱え,オリンピックはどこに向かうのだろうか.</p>
著者
大貝 健二
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.309-323, 2012-12-30 (Released:2017-05-19)
被引用文献数
1

経済のグローバル化や,少子高齢化の進行に伴い,国内地域経済の疲弊が進んでいる.そのなかで農商工連携,6次産業化など地域資源を活用した地域経済の活性化を目指す取り組みが展開されてきている.本稿で取り上げる北海道・十勝地域は,国内最大の小麦生産地であるが,その大部分は国内消費地へと移出されていることから,地域内で生産,加工,消費の連関は希薄であった.しかし,近年は,農業生産者,中小企業者などの地域の経済主体により,十勝で生産された小麦を地域内で加工し消費する,地域内経済循環を構築する取り組みが広まりつつある,同時に,十勝地域では,「農」や「食」をキーワードに,地域資源を活用した地域産業振興策が積極的に展開されている.そこで,本稿では,地域の経済主体による経済循環を構築する取り組みを明らかにするとともに,地方自治体による地域産業振興施策の展開にも注目している.
著者
岡部 遊志
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.101-120, 2015

フランスにおいては地方分権が進むとともに,地域政策の担い手として「地域圏」の役割が重要になってきている.その重点政策の1つがフランス版のクラスター政策である「競争力の極」政策である.クラスター政策に関しては,その空間的なスケールとガバナンスのありようが問われているが,これらの点を踏まえて本稿では,フランスのミディ・ピレネー地域圏を対象地域にして,「競争力の極」政策が地域の産業集積と政府間関係に果たした役割を明らかにする.フランス南西部のミディ・ピレネー地域圏は,航空宇宙産業が集積するトゥールーズを中心都市としつつも,全体としては農村的で,周辺的な低成長地域として位置づけられてきた.2005年からの「競争力の極」政策により,当地域圏では,西隣のアキテーヌ地域圏と連携しつつ,「アエロスパース・ヴァレー」の名の下で,航空宇宙産業の国際競争力強化が目指されてきた。こうした政策の結果,既存の航空宇宙産業集積とIT産業との融合が図られるなど,研究開発機能の強化が促進された.資金面での中央政府の役割は低下しているものの,産業特性やガバナンスの観点からは,依然として影響力は強い.また,R&Dを促進するために「戦略分野」が設定されているが,これを空間的な観点から分析すると,広域的な連携がなされている一方で,中心都市トゥールーズの中心性が強化される傾向がみられた.
著者
安倉 良二
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.173-197, 2007-06-30 (Released:2017-05-19)
被引用文献数
5

本研究は,地方中小都市における中心商店街の再生について,愛媛県今治市の仲間型組織である「今治商店街おかみさん会」(以下,今治おかみさん会)を事例に選び,その設立背景となる商業環境の変化と活動実態の分析から考察を進めた.高度経済成長期に工業の好況を背景に隆盛を極めた今治市の中心商店街は,1990年代後半以降,大店法の運用緩和に伴う郊外地域での大規模な商業集積の形成としまなみ海道開通の影響を受け,その衰退が決定的となった.今治商工会議所,今治市役所,今治商店街協同組合は大規模な再開発構想や空店舗対策など,様々な再生策を打ち立てたが,その多くは不調に終わり,中心商店街の再生は行き詰まりをみせていた.このような状況からの打開策として,松山市で女性による商店街のまちづくりに関する実践を知った今治市役所商工労政課の提案を受けて2000年11月に設立されたのが今治おかみさん会である.今治おかみさん会は,既存の商店街組織である今治商店街協同組合とは独立しており,話題性の高い共同事業を独自で継続的に展開することで中心商店街の再生に寄与する組織のひとつとなっている.しかし,行政からの補助金削減と会員店舗の減少により,今治おかみさん会の運営は厳しい状況にある.今治市の事例からは,商業活動の衰退が進む地方中小都市の中心商店街では,規模の縮小を前提に,既存の枠にとらわれない仲間型組織が再生の一翼を担う可能性をもつことが明らかになった.
著者
巖 勝雄
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.62-75, 1973-01-25 (Released:2017-05-19)
著者
外川 健一
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.207-220, 1993-09-30 (Released:2017-05-19)

本論文ではまず, 環境経済学の確立に向けた代表的アプローチの1つである, 物質代謝論アプワーチについての考察を行なった. 人間の経済活動をも含む, 広い意味での生命活動が, 「人間と自然のあいだの物質代謝」を媒介として行なわれているという事実を重視・認識し, 環境経済学の理論を構築しようというのが, このアプワーチの本質である. そのうえで筆者は, 基本的に「人間と自然のあいだの物質代謝」を, 人間の経済活動を主とした生命活動が大きく作用している, エコーシステム内の物質及びエネルギーの代謝と捉えることとした, 次に, 経済学における環境問題・資源問題の文献としてマルサス, ジェヴォンズ, ジョージェスク=レーゲンの業績を, 特に「規制原理」と「増殖原理」という観点から考察した. そのうえで, 現在環境問題解決のため, 大きな期待がかけられている「リサイクル」について, その本来の意味と限界とを指摘した. さらに, コルビーによる地球環境管理をめぐる5つのパラダイムを紹介し, 現在発展途上にあるエコロジー経済学の形成と展望に関して, 若干のコメントを述べた. そのうえで, とくにマルサスに起源を持つ, 「規制原理」と「増殖原理」との相互作用を通じてみられる社会・経済の発展をみる視角に, 新古典派やマルクス経済学の業績を組みいれて考察するというパラダイムの模索も, 有益なものであると指摘した. 最後に, 人間と自然のあいだの物質代謝の攪乱は, 具体的には地域において展開されていることを考えれば, 物質代謝論アプローチには, 産業立地や地域構造の把握が不可欠であることを強調した.
著者
[ソウ] 賢美
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.57-71, 1995

本研究の目的は, 在日韓国・朝鮮人高齢者の居住の背景や生活の現状を, その就業形態を中心に把握することである. 調査地域には, 在日韓国・朝鮮人の集住地域の一つであり, 中小零細企業の集積地でもある東京都大田区を選んだ. 本稿では在日韓国・朝鮮人の居住の背景や就業の変遷を考察した上で, 55歳以上の者に対して聞き取り調査を行なった. 調査にあたっては, 民団資料にもとづき, 在日韓国人高齢者の就業の状況を明らかにした. また, 面接による聞き取り調査を行なって, その居住の背景と就業の変遷を考察した. 調査の結果, 大田区における在日韓国人高齢者のなかには, 零細工場の経営者や販売従事者が多かった. 特に販売従事者の場合, ほとんどが焼肉屋を中心とする飲食店経営者であった. また, 聞き取り調査の結果, 年金制度の不備により, かなりの高齢になるまで働いている者が多いことが明らかになった.
著者
阿部 和俊
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.139-161, 2004
被引用文献数
2

本論は民間大企業の本社と支所を用いて日本の主要都市を検討し,都市システムを提示したものである.研究対象期間は1950〜2000年である.最初に分析対象企業の内容と本社機能からみた主要都市の状況について検討した.1950〜2000年を通して本社の最多都市は東京であり,第2位は大阪である.東京の本社数(登記上)比率は最近になるほどやや低下傾向にある.しかし,複数本社制を考慮すると,東京と大阪との差は依然として大きなものがある.続いて支所機能から主要都市の,とくに支所数,支所の上下関係,従業者数による本社と支所の規模,テリトリーについて検討した.主要な結果として,支所数からみると,近年の大阪と札幌の地位低下,福岡と仙台の上昇などが明らかになったことなどがあげられる.大阪は支所数からみると,1960〜1975年の間第1位の都市であったが,1980年に東京に抜かれる.以後,2000年まで東京との差は開く一方である.それどころか,最近では名古屋との差が縮小傾向にある.福岡と仙台の上昇,札幌の低下も重要である.この3市に広島を加えて広域中心都市と呼ぶが,この4市が最も横並びの状態にあったのは1970年である.しかし,それ以後2000年まで,上記のような変化が生じ,広域中心都市としての横並び状態は消滅した.同時に,都市間の階層という点では1970年が最も明確であったが,それ以後2000年まで,都市間の階層は崩れる傾向にある(表2,図2).この変化を業種面からみると,「鉄鋼諸機械」(こういう業種名は主資料として使用した『会社年鑑』(日本経済新聞社刊)や『会社職員録』(ダイヤモンド社刊)には無い.この分野の企業は,これら資料の中では「鉄鋼」「金属」「諸機械」「非鉄金属]「電機・電線」などさまざまな呼称が使用されていて時系列的にみても統一されていない.そのために,筆者が統一的な呼称として,この表記を使用したものである)の支所数の多寡が重要である.たとえば,大阪と東京を比べると1980年まで大阪の方が多いが,1985では逆転している.大阪と名古屋を比べると1985年まで大阪の方が多いが,1990年では逆転している.支所数からみた大阪の地位が低下傾向にある要因は,この業種において東京と名古屋を下回るようになったことが大きい(表5).札幌と仙台の地位の逆転も同様のことが指摘できる.1970年までは札幌の方がこの業種の支所数が多かったが,1980年に逆転し,2000年までその差は開く一方である(表5).各都市の支所のレベルは一様ではない.ある都市の支所の管轄下の支所という事例がある.それを2000年について調査したものが表6である.東京・大阪・名古屋・福岡・仙台・広島・札幌の支所のレベルは高いが,静岡や北九州の支所の多くは名古屋支所,福岡支所の管轄下にある.このように表6は企業の支所の格付けから各都市の格付けをみることを可能にする.東京・大阪・名古屋・福岡・仙台・広島・札幌の支所のレベルが高いということは,これら7都市が広いテリトリーをもっているということでもある.その状況は図4に示されている.これら7都市の現在(2000年)のテリトリーは1970年に明確になったことも指摘できた.これらをふまえて東京・大阪・名古屋に本社をおく企業の主要都市への支所配置率を用いて,都市間の結合状況を検討し,都市システムとして提示した(図6, 7, 8).その結果,日本の主要都市は東京を頂点に相互に強い結合関係を示していることが明らかにされた.
著者
小林 茂
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.33-44, 1977-09-30 (Released:2017-05-19)
著者
長谷川 達也
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.238-252, 2002

本稿では,日本勤労者住宅協会(勤住協)と地域住宅生協の設立過程,住宅供給および住宅地開発の展開とその特徴を全国,地域レベルから明らかにした.1961年のILO勧告を受け,労働者住宅自主建設運動は協同組合によるサード・アーム方式による住宅供給主体の確立を目指したが,結局特殊法人である勤住協が公的機関として設立されるにとどまったことで,勤住協と地域住宅生協という異なった組織形態が併存したなか,住宅供給が行われることになった.動注協による住宅供給システムは,住宅金融公庫をはじめとする融資を得て地域住宅生協等に住宅地開発を委託するもので,これまで全国各地に100,000戸を超える住宅を供給した。近年,勤住協による住宅供給は減少傾向にあり,地域住宅生協等でもその経営体力の格差が拡大しつつある.大阪労働者住宅生活協同組合を事例とした,地域住宅生協による住宅地開発の特徴は,生協が独自に資金を調達した事業が少なく,ほとんどが勤住協の委託事業であり,また小規模開発で供給量も少ないことがあげられる.地域住宅生協による住宅供給システムは,一般公募が原則となる勤住協事業が大半をしめることから,協同組合としての機能が発揮できないこと,住宅購入時に加入した組合員の継続性の問題などを抱えている.1990年代以降本格化した特殊法人見直しにおいて,勤住協は住宅供給主体としての在り方について議論されてきたが,2001年12月に民営化が決定したことで,今後新たな方向性が模索されていくことになる.
著者
塚原 啓史
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.220-228, 1994-09-30 (Released:2017-05-19)

1983年にテクノポリス法が成立し, 現在までに26の「テクノポリス」地域が誕生している. このうち, 1990年を第1期開発計画の目標年とした先発地域を中心に, その実績を開発指標から評価すると, 通商産業省が評価するほど「順調」に進展してはおらず, 次のような大きな問題がある. (1)計画目標の達成状況からみると, 計画目標を達成した地域が非常に少なく, しかもその達成率がかなり低かった. (2) 「最低クリアすべきハ一ドル」としての全国平均値との比較からみると, 全国平均値を上回っている地域は各指標とも約6割程度であった. (3)高付加価値化の推進からみると, 高付加価値化を進展させた地域はほとんどなかった. また, 期待した先端技術産業の多くは, 高付加価値化の推進に寄与しなかった. (4)定住化の観点からは, 定住化が進展している地域もあるが, 人口の停滞や減少を起こした地域が多い. 今後は, 第1期開発計画の適切な評価と反省に立って, 不十分な支援施策の改善や真に地域が自主的に活動できる体制の確立などの大きな変革が必要である.
著者
石川 雄一
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.277-292, 1991-09-30 (Released:2017-05-19)
被引用文献数
2

大都市圏内部で生じた中心市からの人口・産業の分散現象については, 「郊外化」ということで近年, 研究が進んでいる. しかし, 大都市圏に隣接する周辺地帯においても, 「郊外化」と同じ現象, もしくはそれに類似する現象が生じてきた. そこで本稿では, 京阪神大都市圏をとりまく周辺地帯における1965〜85年にかけての通勤流動の変化とこの地帯の社会・経済的構造を検討し, 中心市から同一距離帯で設定したこれら地帯において生じている現象を考察した. その結果, 大都市圏内部に隣接する地帯では, 通勤流・動や社会経済構造の点で大都市圏内部と類似した現象が生じ, 外延的な「郊外化」の進展がみられた. つぎに外縁部のうち交通条件のよい地区では, 社会経済構造上, 初期の「郊外化」と類似した動きがみられたが, 通勤流動の点で大都市圏内部との関係が弱く, また外縁部のうち山間地区は, 人口・産業の点において成長を示さなかった.