著者
山口 真一
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー (ISSN:24356921)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.E1-E23, 2013-10-29 (Released:2020-09-05)

本研究では、モバイルコンテンツの中でも特に、市場規模が急速に拡大しているソーシャルゲームについて、指摘されることの多い以下の4つの仮説を問題意識とし、実証分析によって定量的・定性的な検証を行う。第一に、射幸心を過度に煽り、リスク選好者を集めてそこから収益をあげている可能性。第二に、過度の依存性が課金額を高めており、そこから収益をあげている可能性。第三に、他の娯楽に比べ依存性が高く、ユーザの生活に支障をきたしている可能性。第四に、低年齢層の依存度が高く、課金額も高まっている可能性。これらを確かめるため、まず、課金額、依存度、リスク選好度、年齢を明示的に組み込んだ同時決定モデルを構築して推定を行った後、依存度とリスク選好度についてはさらに、他の娯楽との違いを記述統計によって比較調査した。実証分析の結果、ソーシャルゲームへの依存度と月次課金額の間に双方向因果関係は確認されなかった。また、年齢についても、年齢は依存度には影響を与えておらず、課金額においては可処分小遣いの要素を排除してもなお、年齢の高いユーザの方が高かった。また、リスク選好度は月次課金額と依存度に有意に正の影響を与えていたものの、比較調査においては、ソーシャルゲーム・ユーザの依存度とリスク選好度が他の娯楽と比べて特別高いということはなく、リスク選好度はむしろ低いという結果になった。以上の事から、ソーシャルゲームについて過度の政策的規制は必要がなく、むしろ社会的厚生を下げる懸念がある。また、社会通念的に問題ない産業であるならば、日本発の一大デジタルコンテンツ・情報通信産業としてビジネスモデルを考察・確立し、より一層の発展を促すと同時に、他産業にも生かしていくのが望ましいと考えられる。その一方で、少なからず存在するトラブルを減少させるためにも、モバイルコンテンツに対する教育を、幅広い年齢層に充実させる必要があると思われる。
著者
中村 彰宏
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー (ISSN:24356921)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.13-24, 2015-11-30 (Released:2020-09-05)

わが国では、1985 年に電気通信事業法が施行され、電電公社による独占の廃止と市場原理の導入がはかられた。本稿では、わが国の電気通信市場に競争が導入されて以降、その時々に行われた実証分析を概観しながら、電気通信分野の自由化 30 年の振り返りを行っている。本稿は網羅的な先行研究のサーベイではないが、制度変更とその際の市場を捉えた実証分析を振り返ることで、わが国の電気通信市場の評価に実証分析が取り入れられ、より客観的な制度構築につながってきた歴史が明らかとなる。実証分析の系譜から見ても、わが国の電気通信市場が自由化 30 年を経て、NTT と他の競争事業者が一部を除いてある程度対等に競争する環境が整ってきていることが示される。
著者
浜田 純一
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.1-13, 2023-03-27 (Released:2023-03-29)

新しい法学分野である情報法について、その厳密な内包外延を「情報」の概念からただちに導き出すことは難しい。むしろ、今日、情報法の教科書等で扱われるテーマとして共通了解され、定着してきている内容を通覧することから、情報法のイメージを浮かび上がらせることができる。情報法の基礎となる理念は、情報の自由ないし情報流通の自由であり、また論争的ではあるが、「情報に対する権利」である。「情報に対する権利」は戦略的な概念であり、ユニバーサル・サービスの充実や情報環境の形成における個人の主体的・能動的な関与を促す役割を果たしうる。 情報法で扱われている内容を通覧して見えてくるのは、第一に、情報の「タフ&ナイーブ」という特性であり、この性質は、倫理や自主規制あるいはアーキテクチャ論などの規律手法に親和的である。第二は、「自律」という理念であり、それは、個人情報の利活用等の場面で留意すべき視点を浮き彫りにするとともに、情報秩序が自律を前提として機能すること、また情報法が自律を支える基盤となるべきことを意識化させる。第三は、急速な情報化に対応する「スピード」であり、それが、情報をめぐる法と政策の近接性や学際的研究への要請を高めている。情報法はなお発展途上の「フロンティア」であり、新しい情報技術や情報環境がもたらす課題への法的応答を絶えず迫られる中で、自由と規制という枠組みだけでなく統治構造論的な視点も含めて、柔軟さと想像力を備えた研究の発展が期待される。情報法の定義や基本理念、規律の手法などをめぐる議論はなお将来に開かれている。
著者
井部 千夫美
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.91-106, 2019-11-29 (Released:2019-12-23)
参考文献数
37

本稿は、米国における、クローズド・キャプション方式の字幕(closed caption)及び画面解説(video description)を主体とする、視聴覚障害者等向け放送の現状と課題について、視聴者層、字幕・画面解説の制作方法、関連制度、最近の字幕・画面解説の付与状況の順に説明し、字幕・画面解説を制作する際に生成されたテキストの活用事例として、盲ろう者への対応とメディア・モニタリング・サービスを取り上げて論じる。そして、わが国への示唆として、字幕付与と画面解説付与の格差による、視覚障害者と聴覚障害者との間における情報アクセシビリティの格差を是正するための対策及び盲ろう者への対応について検討を進める必要があり、わが国でメディア・モニタリング・サービスと同様の新しいビジネスを導入する場合に直面する著作権法上の問題については、米国のような訴訟ではなく、業界団体等による検討などを通じて形成するソフトローのアプローチの方が適切であると結論する。
著者
大橋 弘 中村 豪
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.33-46, 2020-12-01 (Released:2021-01-07)
参考文献数
16

近年、欧米では企業のマークアップ、すなわち限界費用に対する価格の水準が上昇し続けている。これに対して日本企業のマークアップには、目立った上昇が見られない。欧米におけるマークアップの特徴として、特にマークアップの高い企業がさらにマークアップを高め、かつ市場シェアを拡大していることがある。そしてこのような傾向の源泉としては、データ資産を有効に活用する企業の存在が指摘できる。データ資産の活用は、他社との差別化を可能にし、より顧客の嗜好に合う製品・サービスを提供しながら、マークアップを高めるとともに市場シェアの拡大にも寄与する姿が見て取れる。顧客との取引データなどのデータ資産がこれによってさらに蓄積され、更なる活用を通じて一段とマークアップの上昇がもたらされていることになる。わが国における企業のマークアップが欧米企業と大きく異なる傾向をもつのは、このようなデータ資産の活用が有効になされていないためではないか、という問題意識のもとに、日本企業におけるデータ資産とマークアップの関係を定量的に分析する。データ資産の保有状況や活用状況については、総務省情報通信政策研究所が実施した「データの活用に関する調査」によって得られた2018年度の状況に関するデータを用い、マークアップについては財務データを用いて推計した値を用いた。分析対象となる企業には、製造業企業、非製造業企業の双方が含まれる。分析の結果、データ資産の保有量はマークアップと相関を持たず、日本企業においてはデータ資産がマークアップの上昇につなげられていないことが明らかになった。データの利用頻度が高い企業の場合は、相対的にはデータ資産とマークアップの相関が強まるものの、有意とは言い難い。また、データの処理方法としてAIなど高度なものを用いているか否かにかかわらず、同様にデータ資産とマークアップの相関は見られないという結果となっている。その一方で、マークアップの代わりにTFPについて分析したところ、データ資産を多く保有する企業では、TFP水準が有意に高い傾向が見られた。以上の分析より、日本企業は、保有するデータ資産を事業の効率化やコストダウンなど、生産性の向上のためには活用できているが、他社と差別化された製品・サービスを提供し、収益性を高めることにはつなげられていないのが現状であるといえる。
著者
佐藤 一郎
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.21-44, 2022-12-22 (Released:2022-12-28)

メタバースが話題になっているが、その関心は仮想世界やアバターに集中している。本稿ではメタバースがどのように実装されているかという技術、それもシステム構成の観点から、メタバースの仕組み、課題、可能性を探っていく。実際、メタバースでは、サーバの性能的制約や通信遅延により、現実世界に起きえない問題が起きる。また、メタバースはプラットフォーム化が進んでいることから、メタバースのプラットフォーム、仮想世界などを提供するサードパーティー、そしてユーザの3者の関係についても言及していく。
著者
堀部 政男
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-24, 2019-11-29 (Released:2019-12-23)

AIやIoTは、グローバルな規模でこれまで経験しなかったような影響を与えている。それは、プライバシー・個人情報保護に新たな問題を投げかけている。これまでにまとめられているAI原則の中にプライバシー保護を揚げるのが通例となっている。それでは実際にどのように保護するのか。プライバシー・個人情報保護の問題は、情報通信技術(Information and Communication Technology : ICT)などの進展との関係でかなり論じてきた。その必要性は、日本の法律(2015年改正個人情報保護法附則第12条第3項)でも認められるようになった。これまでもそうであったが、グローバルな規模でプライバシー・個人情報保護問題を検討する必要性を痛感している。そこで、プライバシー・個人情報保護に日常的に取り組んでいる主要国のデータ保護機関(Data Protection Authority : DPA)で構成されている「データ保護プライバシー・コミッショナー国際会議」(International Conference of Data Protection and Privacy Commissioners : ICDPPC)における議論が実践的であり、それを参照する意義は極めて大きいと考えるに至った。日本の個人情報保護委員会は2017年にメンバーとして認められた。この会議においては2017年にIoTの具体的な事例である自動化・コネクト(接続)された車両のデータ保護に関する決議(Resolution on data protection in automated and connected vehicles)が採択された。また、2018年には、同会議においてAIにおける倫理及びデータ保護についての宣言(Declaration on Ethics and Data Protection in Artificial Intelligence)が採択された。従来からの研究に加え、個人情報保護委員会の委員長として、これらの国際的文書にコミットしてきた。特に後者については、常設のAI作業部会が設けられ、日本としてもインプットしなければならない。そのためには、英知が結集されるべきである。
著者
三友 仁志
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.15-31, 2021

<p>2020年6月19日に提供が開始されたわが国の新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)は、陽性者との接触を利用者に通知することにより、利用者の行動変容を促し、感染症対策の一端を担うことが期待された。プライバシーに配慮するため、GoogleとAppleが開発したAPI(アプリ相互のやりとりに必要な接続仕様)を採用し、スマートフォンのBluetooth機能を利用して個人情報を収集しない形で接触確認する仕組みが採用された。多くのスマートフォン利用者がアプリをダウンロードすることにより、感染拡大の防止に貢献するという社会的メリットを政府は強調した。しかし、実際には2021年9月半ば時点で、延べ3千万ダウンロードにとどまっており、陽性登録率に関しては全陽性者の2.3%に過ぎない。</p><p>本稿では、新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAに関して、①厚生労働省が発表するデータに基づき、普及の状況とその要因解明の可能性について分析し、②中国の接触確認アプリ「健康コード」および韓国の感染者移動経路管理と比較するとともに、③2021年3月に独自に研究室で実施したCOCOAに関するアンケート調査に基づき、COCOAのダウンロードが感染の拡大状況に感応的でないこと、および信用の欠如がアプリの導入や陽性登録に大きな影響を与えている実態を把握する。社会的便益を強調しても、導入のインセンティブとはならず、個人がアプリから知覚する便益は低く、期待される社会的便益の形成とは大きく乖離していることが効果の発現を妨げていると言える。デジタル技術の活用の恩恵を社会が受けるためには、技術だけでなく、社会にどのように浸透させるかに関する戦略が不可欠であることをCOCOAは示唆している。</p>
著者
斉藤 邦史
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.73-90, 2019-11-29 (Released:2019-12-23)
被引用文献数
1

憲法学説における人格的自律権説を背景として提唱された自己情報コントロール権説では、本来、プライバシーの対象となる情報について、道徳的自律の存在としての個人の実存にかかわる情報(プライバシー固有情報)と、それに直接かかわらない外的事項に関する個別的情報(プライバシー外延情報)が区別されていた。公法における自己情報のコントロールについて、プライバシー外延情報に対するコントロールの正当化を試みる近時の有力説には、人格的自律権の本体とは質的に異なる、公権力の統制に固有の根拠を挙げる傾向がある。そこでは、私人間を含む全方位に主張し得る人格権としての構成からの離陸が生じている。私法における自己情報のコントロールでも、コントロールの自己決定は終局的な目的ではなく、不利益を予防するための手段であることが指摘されている。「信頼としてのプライバシー」という理念は、人格的自律権説では自己情報コントロール権の枠外とされてきたプライバシー外延情報について、私人間における手段的・予防的な保護法益を補完的に提供する指針として有益と考えられる。本稿は、プライバシーの中核にあたる私生活の平穏や、親密な人間関係の構築に対する侵害について、「自律としてのプライバシー」を根拠とする構成を否定するものではない。むしろ、核心としての「自律」の侵害を予防するため、その外延において「信頼」の保護を充実することが望ましい。
著者
山口 真一
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー
巻号頁・発行日
vol.11, pp.52-74, 2015

<p>本稿では、近年多く発生しているネット炎上の特徴と実態を、先行研究や実証分析を基に整理したうえで、名誉毀損罪の非親告罪化、制限的本人確認制度、インターネットリテラシー教育、捜査機関における炎上への理解向上といった観点から、あるべき政策的対応を考察する。</p><p>実証分析の結果、以下の5点が確認された。第一に、炎上は、2011 年以降、毎年 200 件程度発生し続けている。また、それは特に Twitter で多い。第二に、「炎上に加担したことがある」人はわずか1.5%しかいない一方で、「炎上を知っている」人 は90%以上存在する。第三に、インターネット上で「非難しあってよい」と考えている人は10%程度しかいない。さらに、「非難しあってよい」と感じている確率に有意に正なのは、「炎上に加担したことがある」人のみである。第四に、インターネットを「怖いところだ」「攻撃的な人が多い」と感じている人はそれぞれ70%以上存在する。特に、炎上を知っている人は「攻撃的な人が多い」と感じている確率が有意に正となっている。第五に、若い人ほどインターネットに対して「言いたいことが言えるのがよい」「非難しあってよい」と感じている。</p><p>また、以上を踏まえた政策的対応の考察では、プロバイダ責任制限法の炎上負担軽減効果と限界に触れたうえで、「①名誉棄損罪の非親告罪化」「②制限的本人確認制度の導入」「③誹謗中傷(炎上)に関するインターネットリテラシー教育の充実」「④捜査機関における炎上への理解向上」の4つを挙げた。そして、①には slippery slope の問題が、②には違憲である可能性とそもそも効果が薄いという問題があることを述べ、③と④に積極的に取り組むことを提案した。</p>
著者
林 秀弥
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.9-34, 2017

<p>近年、諸外国の移動通信事業を中心に、「ゼロレーティング」(zero-rating)と呼ばれる手法によるサービスが提供されている。わが国においても一部の格安スマホ事業者(MVNO)により、当該サービスの提供が開始されている。「ゼロレーティング」とは、「特定のコンテンツあるいはアプリケーションの利用に対して、使用データ通信量をカウントしない、したがって、その使用量によって生じる料金を発生させず、あるいはデータキャップがある場合にはデータキャップのための使用量計算から除外するサービス」のことであり、データ料金の一部をエンドユーザーに課金しないビジネスモデルのことである。これは、一種の顧客獲得のためのサービス提供であり、個々の企業の事業戦略に応じて様々な形態をもって行われる。「対象となる音楽・動画ストリーミング・サービスを利用する際、パケット量を月間のデータ通信量にカウントしない」というのがその典型である。本稿は、ゼロレーティングが今後本格化した場合、公正競争と利用者利便を確保する上で、競争政策上、留意すべき点は何かついて、欧米の議論の紹介を通して検討を行うものである。</p>
著者
宍戸 常寿 工藤 郁子 クロサカ タツヤ 庄司 昌彦 山本 龍彦
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.201-224, 2020-12-01 (Released:2021-01-07)

日本が目指すべき未来社会の形としてSociety5.0が提唱されてから数年が経ち、デジタル経済社会においてはサイバー空間とフィジカル空間の融合は深化している。そこでは、Society5.0の名の下にイメージされていた創造性の発揮や利便性の向上が見られる一方で、従来の個人情報保護政策や競争政策の枠では捉えきれないデジタル経済社会における「新たな課題」も出現してきている。このような「新たな課題」を適切に捉えるためには、現在起きている地殻変動を、単にサイバー空間の領域が拡張し、フィジカル空間を侵食しているものとイメージするのではなく、むしろ、サイバー空間における活動とフィジカル空間における活動が、データの流通を介して相互に深く影響を与え合うという関係性・循環性を適切に認識することが重要である。そのようなサイバー空間とフィジカル空間の活動がデータの流通を介して相互に深く影響を与え合う相互の関係性・循環性を含む総体としての「ネットワーク空間」における状況と課題について、大きく4つの議題(「ネットワーク空間の環境変化とその背景」、「環境変化に伴う社会経済的な課題」、「課題解決に向けて採るべき政策、目指すべき姿」、「新型コロナウイルス感染症拡大に係る問題意識」)に分け、それぞれについて話題を提起しつつ、有識者による議論を行った。
著者
井部 ちふみ
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー
巻号頁・発行日
vol.9, pp.76-90, 2014

元交際相手の裸の写真や性的な画像等を本人の同意なしにインターネット上に公開する「リベンジポルノ(revenge porn: 復讐ポルノ)」が米国をはじめ各国で社会問題になっている。被害者救済にあたっては、リベンジポルノの犯罪化による加害者の処罰に加え、インターネット上に流出した性的画像の削除及び当該画像に関わる検索結果の削除による被害者のプライバシー保護が重要である。<br>米国カリフォルニア州は、2013年10月、リベンジポルノを犯罪化するための州刑法改正を行い、2014年9月30日にSB1255改正法(「自撮り」を規制対象に追加するための州刑法改正) を成立させ、同日、被害者のプライバシー保護に関するAB2643改正法(民事救済制度を整備するための州民法改正)を成立させた。<br>他方、わが国では、2014年10月9日、自民党がリベンジポルノ処罰法案(仮称)の骨子をまとめ、同日、東京地方裁判所が、検索最大手「グーグル」に対し、検索結果の一部の削除を命じる仮処分決定を下した。この仮処分決定はリベンジポルノ事案ではないものの、今年5月に欧州連合(EU)司法裁判所が「忘れられる権利」を認めて検索結果の削除を命じた判決の流れに続くものである。<br>本稿では、上記カリフォルニア州法を紹介し、わが国への示唆を探る。
著者
石井 夏生利
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.47-72, 2019-11-29 (Released:2019-12-23)
参考文献数
46

本稿では、プライバシー・個人情報保護法と周辺法領域との関わりについて、主に競争法との関係に着目した考察を行った。プライバシー・個人情報保護法が競争法に影響を与える場面では、①プライバシー・個人情報保護の価値を競争法の中で考慮すべきか否か、②規範的尺度としてプライバシーの価値を競争法に取り込む場合の理論的根拠、③ドイツFacebook競争法違反事件の評価(EU一般データ保護規則(GDPR)違反に基づく競争制限禁止法違反の認定、データ保護法の目的としての情報自己決定)、競争法が個人情報保護法に影響を与える場面では、④データ・ポータビリティ、⑤制裁金(課徴金)導入の是非を論点に掲げた。競争法の中で考慮すべきプライバシー・個人情報保護の主たる価値は、本人の同意、選択ないしは情報自己決定と見ることができる。他方、GDPRにおける「同意」と日本の個人情報保護法の「同意」は有効性の要件が異なる。また、企業結合事案では、個人情報保護法に基づく個人データの第三者提供は同意がなくとも適法である一方で、GDPRに同旨の規定は存在しない。GDPRは同意の要件が厳格であるため、同意の有効性が問題とされる競争法違反事件では、GDPR違反の認定がなされやすいと考えられる。GDPRと個人情報保護法の法制度及び解釈上の違いに留意すべきである。企業結合事案及びデータ・ポータビリティ権の文脈では、事業者間でのデータ移転の是非に関して、競争法と個人情報保護法の役割分担が問題となる。EUの議論を概観する限りでは、両法は相互に関連性を有する場合もあるが、原則として独立に評価される。そして、問題となるデータに個人情報が含まれる場合は、個人情報保護に関する適法性を担保した上で、それでもなお競争法上の違法を構成する場合があるか否かを検討すべきといえる。競争法と個人情報保護法は、協調できる場面と対立する場面があり得るため、両者の役割分担には分析的な検討を要する。日本の個人情報保護法改正論議の1つとして課徴金導入の是非が検討されている。課徴金の制裁的色彩を強調するならば、個人情報保護法に課徴金を導入することも不可能ではなく、その際には先行する国内外の競争法の趣旨及び内容から多くの示唆を受けることが予想される。競争法及びプライバシー・個人情報保護法の交錯に関する考察を深めるためには、消費者保護法からの検討も必要である。
著者
数永 信徳
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー
巻号頁・発行日
vol.7, pp.E45-E64, 2013

英国特有のクロスメディア所有規制である「メディア企業の合併規制」は、「メディア企業の合併に関する公益性審査基準」に基づいて審査が行われる。しかしながら、当該審査基準において、その規制の対象となる「メディア企業」の範囲は必ずしも明確にはなっていない。そのため、当該審査基準の運用次第では、規制の射程範囲が大きく変わってくることになり、規制強化にも規制緩和にもなり得る可能性を秘めている。<br>これまで、メディア企業の合併に当該審査基準が適用された事件は、過去に三件ある。その中でも、2010 年11 月のBSkyB 買収事件では、買収を計画する企業側から「代替案(UIL)」が示され、英国政府との間で緊迫した協議が行われるなど、これまでに例のない議論の応酬があった。そこで、本稿では、BSkyB 買収事件におけるメディア企業の合併審査に当たって、英国政府がどのように判断し、審査を行っていったのか、その経過を把握していくこととする。
著者
数永 信徳
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー
巻号頁・発行日
vol.6, pp.E182-E199, 2013

英国におけるメディアの多様性の確保に関する検討は、2010年11月のBSkyB買収事件以降、これまで多くの議論が重ねられてきた。英国において、今後のメディアにおける意見の多様性の確保をどのように考えていくべきか、また、インターネットと連携・融合する新たなメディアの出現によるメディアの多様化にどのように対応していくべきか、そして、これらの議論の結論として、2012年11月22日に英国通信庁(Ofcom:Office of Communications)から英国文化・メディア・スポーツ省(DCMS:Department for Culture, Media and Sport)へ2012年定期報告「メディア所有規制の運用に関する報告書」が提出されたところである。<br>本稿は、このOfcomの2012年定期報告書について、英国のメディア所有規制に関する法令及び各種報告書を参照しながら、その具体的な内容を紹介するものである。
著者
岩田 一政
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-18, 2020

<p>現代は「データ駆動型経済」の時代である。本論は、データのもつ特性を踏まえ、日本経済が直面する政策上の課題とその解決策を探ろうとするものである。データは通常の財と異なり、「消費の非競合性」や「外部性」といった特性がある。また、個人データの提供とプラットフォーム企業によるデジタル・サービス提供との交換は、ゼロ価格で行われることが多く、両者の間に情報の非対称性が存在していることもあって、個人データの価値の測定を困難にしている。またデータは、社会財、共有財、公共財としての性格を備えており、社会的課題の解決には、データを共有財、公共財として扱い、活用することが求められる。</p><p>データは、企業による最適技術の選択に対して有用な情報を提供するばかりでなく、生産性向上に寄与するアイデアや知識の投入物として用いられている。データを可能な限り広く流通させることは、経済の効率性を改善させるが、その一方で、個人データに関するプライバシー保護や企業の営業秘密を保護することが求められている。</p><p>日本の政策上の課題の第一は、データの自由な流通とプライバシー保護を両立させることである。民主主義社会において個人データの所有権は個人にあることを前提に、プライバシー保護とデジタル・サービス享受に関する選択をプラットフォーム企業ではなく、個人に委ねることが望ましい。個人が自らのデータをコントロールする権利があることを明確にした上で、データの「ポータビリティ」や「インターオペラビリティ」に関するルール作りが求められている。このルール形成によって、情報仲介機関として情報銀行が有効に機能することになろう。また、巨大テック企業によるデータ共有についても政府によるガイダンス作りが求められる。</p><p>第二の課題は、国境を越えた個人データの自由な移動を可能にすることである。欧米間での個人データの自由な流通を可能にする「プライバシー・シールド原則」は、欧州司法裁判所により欧州連合(EU)の「データ保護一般規則(GDPR)」に違反するとの判断がなされた。この問題解決の鍵は、どのようにしてプライバシー保護と国家安全保障維持との両立を図るかにある。欧米間でこの論点に関する合意形成がなされない場合には、世界は、中国(国家中央集権システム)、アメリカ(「告知―合意(選択)」システム)、EU(プライバシー重視システム)の3つの「デジタル経済圏」に分裂するリスクがある。</p>
著者
甚田 桂
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.187-200, 2020 (Released:2021-01-07)

第201回通常国会において成立した聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律は、聴覚障害者等1による電話の利用の円滑化を図るため、①国等の責務及び総務大臣による基本方針の策定について定めるとともに、②聴覚障害者等の電話による意思疎通を手話等により仲介する電話リレーサービスの提供の業務を行う者の指定に関する制度及び当該指定を受けた者の当該業務に要する費用に充てるための交付金に関する制度を創設する等の措置を講ずるものである。①については、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に当たっては、国等の関係主体が政策的意義を共有し、相互に連携した上で、電話リレ-サービスの提供を含む措置を総合的に講ずる必要があることから、国、地方公共団体、電話提供事業者及び国民について、それぞれの役割に応じた責務を課すとともに、電話リレーサービスの適正かつ確実な提供に加え、音声認識やAI等の技術開発の推進等も含め、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に資する施策全般についての方針を定める観点から、聴覚障害者等による電話の利用を円滑化するための施策に関する基本方針の策定について規定するものである。②については、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を図るためには、電話リレーサービスの適正かつ確実な提供を実現することが重要であることから、電話リレーサービスの提供の業務を適正かつ確実に実施できる者を、その申請により、電話リレーサービス提供機関として指定することができることとし、業務規律及び監督規律に関する規定を整備するとともに、電話リレーサービスの提供の業務に要する費用に充てるための交付金を、電話リレーサービス提供機関に対し交付することとし、当該交付金に係る負担金について、電話提供事業者に納付を義務付ける等の措置を規定するものである。
著者
石井 夏生利
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー
巻号頁・発行日
vol.4, pp.E17-E45, 2012

本稿の目的は、個人情報が商品価値を伴ってネットワークを流通しているという実態を受け、個人情報の「財産権」の可能性を理論的に考察することにある。この問題は、ライフログをめぐる種々の論点の中でも原理的な性質を有する。検討に際しては、アメリカにおける個人情報の財産権論について、歴史的発展過程から、「第1期 伝統的プライバシー権の発展期(1890年~1960年頃)」、「第2期 現代的プライバシー権・法と経済学の提唱期(1960年代後半~1980年頃)」、「第3期 情報プライバシーとサイバースペース論議の発展期(1990年代後半~2000年代半ば頃)」に区分し、各時代の議論状況を検討した。その上で、適宜日本の文献を引用しつつ、筆者なりの視点から財産権論に対する問題提起を行い、自らの見解を明らかにした。
著者
齋藤 長行 吉田 智彦
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー (ISSN:24356921)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.E101-E125, 2013 (Released:2020-09-05)

今日、青少年において携帯通信デバイスの利用が普及しており、それに伴い青少年に対して有害な情報との遭遇の問題、不適切利用・取引の問題、セキュリティや個人情報流出の問題など様々な問題が生じている。特に、近年においては青少年層に対するスマートフォンの普及が急速に進んでおり、青少年におけるスマートフォンの利用環境整備に着手することが急務となっている。本稿では、全国23校の国公私立高等学校等の協力を得て、1,428人のスマートフォンを所有する高校1年生等を対象としたアンケート調査結果を分析し、青少年のスマートフォンの利用環境整備の政策的課題について言及する。分析の視点としては、3GとWi-Fiの利用環境、スマートフォンのフィルタリング、アプリケーション、個人情報漏洩などの問題について言及し、特に業界による自主規制およびそれを支える共同規制に関する政策的な課題について議論を展開する。