著者
窪田 暁
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、ドミニカ共和国(以下、ドミニカ)からアメリカに渡る野球選手を対象とし、彼らの移動経験とスポーツを介した国際移動の実態を民族誌的に記述することを通して、「野球移民」の背景にある近代スポーツ文化の「土着化」の過程を明らかにし、国際移民研究のなかに「野球移民」を位置づけることである。そこで、昨年度から継続中の(1)ドミニカ国内の野球システムについての実態調査(2)野球がどのように土着化しているのかを解明する(3)アメリカのドミニカ移民コミュニティにおける野球への関わりについての調査を実施した。(1)の調査では、昨年度に調査したベースボールアカデミーを退団した選手にインタビュー調査をおこない、アカデミー経験がどのような意味をもつのかについて聞き取りをおこなった。(2)に関しては、ひとつのコミュニティにおける参与観察から、野球が人々の日常生活や価値観を規制していることがあきらかとなった。また、(3)のアメリカでの移民コミュニティでおこなったインタビューならびに参与観察からは、移民社会において野球が祖国と移民をつなぐ役割をはたしている様相を観察することができた。これらの調査結果は、研究代表者が「野球移民」と呼ぶカテゴリーの実在性を、完成された選手送出システムとドミニカに根ざした野球の文化性の事例から実証可能であることを示している。先行研究が野球の伝播やスポーツ帝国主義の視点で論じてきたことで野球選手の移動とその背後にあるスポーツの文化性については見過ごされてきた。本研究がおこなった現地調査でのデータから、「野球移民」の背景にある野球文化があきらかになりつつある。これらの調査結果は、学会や研究フォーラムで随時発表をおこなっている。
著者
相馬 雅代
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

卵生の動物のメスにとって産卵量の調節は,限られた繁殖資源を配分投資し,自身とさらに子の適応度を最適化するという面で,重要な繁殖パラメータである.一般的に,卵1個に対する栄養投資量が多いほど子の生存率は高まる一方,メスには総投資量として大きな負担を強いることになる.また,一度の繁殖で産む卵は多いほうが,効率的に子の数を増やすことができ,適応度に寄与する可能性もあるが,他方で,育児・育雛のコストが大きくなり兄弟間競争が激化するぶん,メス自身や子の各個体にとって必ずしも利益となるとは限らない.そのため,産卵量の調節は,繁殖コンディションの影響を鋭敏に反映するのではないかと予測されている。このような産卵量の調節に関わるのが,繁殖コンディションやつがい相手オスの質である.ジュウシマツのような鳴禽類は,性淘汰形質として発声行動(歌)を求愛ディスプレイに用いる.そこでメスは,どのような歌をうたうオスとつがうと産卵投資を増加させるのか検討を行った.その結果,それぞれのメスがつがった相手の歌の音響特性が,初期発達期にさらされた歌とどれだけ似ているかどうかという指標が,卵重・一腹卵数・性比の増減に関連していた.メスの配偶投資に反映される選好性には,父親よりも,発達初期に社会交渉のあった非父親オスの歌の方が影響を与えていることが示唆された.このことは,初期聴覚記憶にもとづく性的刷り込み学習が繁殖投資に影響している一方で,近親交配を促進するような,すなわち父親の歌を選好するような傾向は無いことを示唆している.この結果については,学会において発表を行い,論文を準備中である.
著者
本郷 一美 GUNDEM CanYumni GUNDEM Can Yumni
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究は、日本国内におけるプロジェクトとトルコにおけるプロジェクトの2つの部分からなる。日本国内のプロジェクトでは、日本の古代-中世の遺跡から出土したウマのサイズと形態に関するデータを収集し、日本への家畜馬の導入経緯や日本固有の品種の成立過程について明らかにすることを目的とした。関東地方と長野県の古代~近世の遺跡および関西地方(奈良、大阪)の古代~中世の遺跡出土のウマの歯および四肢骨の計測データを収集した。日本の家畜馬の体格の時代的な変遷を考察するための資料が蓄積されるとともに、ウマの生産地である長野県佐久地方出土のウマの形態やサイズと、古代、鎌倉時代、江戸時代にそれぞれ政治や経済の中心でウマが供給され仕様された地域との比較が可能になりつつある。また、多数のウマが出土している長野県、神奈川県、茨城県の4遺跡から出土したウマ遺体の歯にみられる異常な摩耗や、後頭部、脊椎骨、中手骨、中足骨にみられる骨増殖などの病変の有無を観察し記録し、ウマの用途について考察した。トルコの遺跡出土動物骨の資料収集プロジェクトに関しては、総研大に保管されているトルコ南東部の新石器時代遺跡から出土した動物骨の分析を行うとともに、トルコの中央部、南東部の遺跡出土動物骨の資料を収集する目的で海外調査をおこなった。特にトルコ中央部のテペジク遺跡では、野生のウマが出土しており、ユーラシア大陸に生息した野生馬の重要な資料を得ることができた。
著者
颯田 葉子 西岡 輔 安河内 彦輝
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

チトクロームP450(CYP)は生体内外に由来する物質の代謝に関わる酵素である。この酵素の種類は生物によって異なることが知られており、生息環境や食性の違いを反映していると考えられる。本研究では、特に、薬物の代謝に関わるCYPサブファミリーの分子進化や肝臓での発現解析を行い、CYPの多様化の生物学的機構を明らかにすることを目的とした。その結果、サブファミリーの起源は、羊膜類と両生類との共通祖先にまで遡ること、またその酵素の基質特異性を決める領域での特異的な進化の様相を明らかにした。
著者
岩崎 博行 Hiroyuki IWASAKI イワサキ ヒロユキ
出版者
総合研究大学院大学
巻号頁・発行日
(Released:2013-07-10)

基本的な力(相互作用)には重力、電磁力、弱い力、強い力の4種類あることが分かっています。このうち重力は他の3つの力と比べて非常に弱いため、素粒子の標準模型では電磁力、弱い力、強い力を扱います。標準模型は非常に強力な理論で、あらゆる精密実験において標準模型とは明らかに矛盾するという事象は見つかっていません。 この標準模型に導入されている素粒子の中で唯一未発見だったのが、素粒子に質量を与えることになるヒッグス粒子です。約半世紀前に提唱されたヒッグス粒子は標準理論の根幹をなす粒子であるにもかかわらず、今までの加速器では性能が十分ではなくずっと未発見のままでした。 LHC計画ではヒッグス粒子が考えられるどの質量であっても必ず発見できるだけの性能を持った加速器と検出器を製作することにしました。こうして国際協力体制でLHC計画が開始されてから約15年の歳月を経て、2012年についにヒッグス粒子発見につながりました。 今回はヒッグス粒子とはどういう粒子なのかということと、LHC加速器や実験装置も含めその発見に至るまでの物語を語りたいと思います。 サイエンス・カフェ「ヒッグス粒子の発見―質量をつかさどるヒッグス粒子とは?― 」平成25年7月6日(土) 於湘南国際村センター1階展示室 (葉山町);後援 葉山町*この資料は著者の希望により閲覧のみ、印刷不可です 岩崎博行[総合研究大学院大学教授 / 高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所教授]
著者
望月 俊男
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本研究では,高等教育におけるe-Learningの導入において一般的な,対面コミュニケーションとCMC (Computer-mediated Communication)が併用される教育場面を対象に,(1)対面協調学習における協調学習環境のあり方を検討し,学習者が参加しやすい学習環境をデザインする,(2)協調学習の学習活動の状態を示す学習環境を構築する,(3)協調学習の評価法を開発する,(4)これらの成果を実践的に評価する,ことを通じて,対面コミュニケーションとCMCの統合的な学習環境のあり方を実践的かつ理論的に提示することを目指している.平成15年度の研究では,これらの研究課題について以下の成果が得られた.(1)e-Learningにおける協調学習には,対面学習機会が強く影響しており,対面コミュニケーションの機会に学習者が学習内容を十分に理解できるような学習環境が必要であることが示された.それに際し,学習者全員が議論の内容・過程を理解し,誰でも編集可能な,オープンな学習環境を提供することが有効である可能性を示した.(2)e-Learningにおける協調学習では,学習者がコミュニケーションや分業等の学習の状態について振り返りを行えるような自己評価の支援環境を提供する必要性があることを,理論的に整理した.(3)(2)の結論をもとに,テキストマイニングの技術を用いて学習者コミュニケーションの内容を可視化する協調学習の評価方法を提案し,その有効性を予備的に検証した.(4)この協調学習の評価方法をもとに,学習者間のコミュニケーションを自己評価しリフレクションをするためのCSCL環境を開発した.そして,授業実践において,そのCSCL環境を用いて,学習者がコミュニケーションを振り返りながら,多様かつ活発に議論に参加できることを確認した.これらの研究成果は,学会論文誌主著3本,書籍分担執筆2冊に集約し,公刊した.
著者
田辺 秀之
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、(1)霊長類細胞の収集、細胞培養、(2)染色体標本の調整、(3)2D-FISH法によるメタフェイズ解析、(4)3D-FISH法による染色体3次元核内配置解析、(5)比較解析と全体の統括という流れで進められた。霊長類各種末梢血を京都大学霊長類研究所の共同利用研究により供与していただいた;類人猿2種(チンパンジー、アジルテナガザル)、旧世界ザル6種(ニホンザル、カニクイザル、アカゲザル、タイワンザル、ミドリザル、マントヒヒ)、新世界ザル5種(コモンリスザル、ワタボウシタマリン、フサオマキザル、ケナガクモザル、ヨザル)。これらの霊長類リンパ球細胞核標本に対し、1)放射状核内配置の進化的保存性、2)相対核内配置と転座染色体生成との関係について考察した。1)では、ヒト18番および19番染色体ペイントプローブ、ヒトPeriphery vs InteriorミックスDNAプローブを使用した。その結果、類人猿、旧世界ザル、新世界ザルに至るまで、18番ホモログは核周辺部に、19番ホモログは核中心付近に配置されることが確認できた。また、ヒトP vs IミックスDNAプローブを用いた3D-FISH解析により、P、I両領域のトポロジーは、進化的染色体転座が高頻度に生じているテナガザルにおいても、高度な保存性を持つことが確認できた。2)については、ヒト2p、2qホモログDNAプローブを作成し、チンパンジーと旧世界ザル6種の細胞核に対して核内配置解析を実施した。その結果、ヒト2p、2qホモログの相対核内配置は、旧世界ザル各種では空間的に離れた距離を保っていたが、チンパンジーでは1組の2p、2qホモログが高頻度に隣接して配置されることが示唆された。このことにより、進化的な染色体再編成が生じている近縁種間での染色体ホモログ領域は、互いに相対核内配置が近接している傾向を示す可能性を持つものと考えられた。
著者
稲見 華恵
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究では、宇宙の星形成を支配する高光度赤外線銀河について多角的・統計的・定量的に調査した。特に、日本の「あかり赤外線天文衛星」および米国の「スピッツアー赤外線宇宙望遠鏡」を駆使したことにより、新しいエネルギー源診断法の確立とスターバースト銀河における物理化学状態を明らかにした。特に、本研究のサンプルは、近傍宇宙のLIRGsを網羅したものであり、初めて均質かつ統計的なデータを用いることによりLIRGsの全体像を捉えた。本研究員が筆頭研究者として取得した、あかり衛星の2.5-5μm帯の近赤外線分光データを利用し、新たなエネルギー源診断の手法を確立した(図1)。この波長帯では、スターバーストを示唆するダスト粒子・多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbon,PAH)の輝線が3.3μmに、星形成率の指標となる水素原子の再結合線が4.05μmにあり、さらに、AGNに起因する高温の塵からの熱放射(連続光)を観測することができる。スピッツアー宇宙望遠鏡には、この波長帯を分光観測する装置がないために、この情報を得ることは一切できない。特に3.3μmのPAH輝線は、将来ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられた際に、非常に重要な役割を持つ。次に短い波長にあるPAH輝線は6.2μmであり、赤方偏移が4以上の遠方銀河では、望遠鏡の観測可能波長帯の外側(長波長側)にシフトしてしまい、観測が不可能になるためである。この成果により、遠方銀河にも応用することができる新しいエネルギー源診断法を初めて確立することができた。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の時代には、この業績は非常に重要になることが期待されている。これに加え、4.05μmの水素再結合線の等価幅を調べることにより、銀河を構成する星の年齢を明らかにした。この輝線と3.3μmのPAHダスト放射の放射強度比からは、近傍宇宙にあるLIRGsの電離度も調べることができた。近傍LIRGsの性質をこのように網羅的に調査した研究は初めてであり、これらの成果は高赤方偏移の銀河を調査するための基準点となる。
著者
五島 敏芳 Haruyoshi GOTO
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
共同利用機関の歴史とアーカイブズ2009
巻号頁・発行日
pp.17-36, 2010-03-30

第1章 基盤機関アーカイブズの構築
著者
五條堀 淳
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

コーディング領域トリプレットリピートはタンパク質の構造中、不確定領域を形成する事が知られ、そのような領域は進化速度が速いと言われていた。本研究でトリプレットリピートの進化とタンパク質の構造の関連を調べた結果、霊長類における進化では、これまで言われていた事とは逆の、不確定領域になりにくいトリプレットリピートの進化速度が速い事が示され、霊長類特異的な進化の特徴が明らかにされた。
著者
山本 睦
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、初期国家成立以前のアンデス文明形成期(B.C.2500-50)における権力の生成過程を動態的に捉え、これを理論化したモデルの構築である。本研究では、当該社会の統合の中心とされる祭祀建造物を対象とし、17年度からペルー・ハエン郡にて遺跡分布調査と発掘調査を実施してきた。調査では、長期の建設活動を確認し、コンテクストの確かな土器などの人工遺物と生物依存体(獣骨、貝)などの自然遺物といった充実したデータを獲得した。そして20年度は、前年度までの成果を受けて出土資料の整理・分析作業に重点的に取り組んだ。建築については、作成した図面と測量データを組み合わせ、時期ごとの建設プロセスを明らかにした。また、人工遺物については地点・層位ごとに整理・分析をすすめ、建設活動との対応を明確にした。特に、土器と石器は、先行研究をふまえて分類し、周辺地域との比較分析の基礎を築き、土器編年を打ち立てた。自然遺物は、専門家に種の同定を依頼し、その結果、海岸部より遠隔地にある調査地で、海産種の貝が特に装身具として多く利用されたことがわかった。また、魚類や獣骨の種の同定を通じて当該地域の生業の一端もうかがえた。さらに、土器内壁の依存体の分析ではトウモロコシが検出され、儀礼活動との関連が強く示唆されるなど、物資の流通ルートといった先史アンデス形成期に関する多くの具体的なデータが得られた。これらは、調査地の社会動態と祭祀建造物を中心として展開した地域間交流の実態を実証データから明らかにしつつあるという点において、アンデス先史学のボトムアップに貢献するだけではなく、アンデス文明形成期における権力の生成メカニズムの実証的な解明作業の手がかりとなるものであり、特に重要である。また、日本では主に研究関連文献を収集、渉猟し、今後の研究の基礎を築いた。
著者
根津 朝彦
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、研究実施計画通り学位申請論文「戦後「論壇」における『中央公論』のジャーナリズム史研究-「風流夢譚」事件と編集者の思想を中心に」を完成させた。2009年5月の予備審査に草稿を提出し、それに合格し、同年11月に博士論文を提出し、2010年3月に博士(文学)の学位授与が認められた。本年は、とりわけ博士論文の未完成部分であった一章の論壇時評の分析と、二章の『中央公論』の主要論文の分析を中心に取り組んだ。一章では、1945~1972年の『朝日新聞』『毎日新聞』『読売新聞』の膨大な論壇時評を読み込み、それぞれの時期ごとの特徴を位置づけた。二章では、これまで作成したものに加えて、1950年代後半の『中央公論』の論調を代表するルポルタージュの分析を行った。それにこれまで総計22人延べ30回の聞書き調査の内容を精査し、中央公論社の一次資料である『書店はんじょう』『中公社報』『社内だより』の分析を盛り込み、これまでの投稿論文から構成した三章と四章に加筆して、博士論文を完成した。研究の成果は大きくいって四点に集約される。第一に、戦後「論壇」の全体像を提示したこと。第二に、その「論壇」において『中央公論』を特徴づける主要論調を明らかにしたこと。第三に、「風流夢譚」事件の全貌を戦後ジャーナリズム史の中で位置づけたこと。第四に、総合雑誌編集者の役割の問題提起を行ったことである。2年間を通じて滞りなく研究課題を遂行し、最大の研究目的である博士論文の完成を計画通り達成することができた。
著者
伊藤 憲二
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

日本の初期における産業用ロボットに関して次のことが明らかになった。1.日本におけるロボット、機械、そして科学技術の文化的位置づけに関して(1)産業用ロボットが導入された時期の目本は、文化的にロボットを受け入れやすい状況にあったことを確認した。その原因は、第一に、日本の文化・社会における科学技術の位置づけであり、第二に、日本の社会・文化におけるロボットというものに対する見方である。これは相互に関連しており、ロボットが未来の科学技術を象徴すると同時に、戦後日本の科学技術に対するきわめてポジティブな観点が、ロボットに対する見方をポジティブなものにしていた。それは鉄腕アトムなどの大衆文化におけるやはりロボットおよび科学技術に対するポジティブな表象を生み出し、そしてそのような文化表象が科学技術およびロボットに対するポジティブなイメージを流通・定着させていた。(2)文化的要因だけでなく、そのほかに社会的・組織論的要因が働いていた。このこと自体はすでに指摘されていたことであるが、本研究でむしろ着目するのはこのような要因がしばしば隠蔽されていることである。2.産業用ロボットにおけるユーザーの問題に関して(1)産業用ロボットのユーザーがロボットの製作にかかわり、やがてはマニュファクチャラーになるという課程を明らかにした。(2)これに関連して、科学技術論におけるユーザーの問題に対して、ユーザーの捉え方に新しい視点を提示した。ユーザーは必ずしも大衆・消費者ばかりではない、という事である。それを実例をもって示した点は、ユーザーの概念的位置づけと、それに基づく技術のユーザー論において、一つの成果であると考えられる。