著者
本多 正純
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度は、M2ブレーンの低エネルギー理論の候補であるABJM理論と呼ばれる3次元の超対称性理論を数値的に解析することにより、M2ブレーンの場合のAdS/CFT対応を直接検証する研究を行った。この超対称性理論の数値的な解析は今まで大変難しいと考えられてきた。そこで我々はまず、最近発展してきた局所化と呼ばれる解析的手法とモンテカルロ法を組み合わせることにより、ABJM理論の物理量を数値的な解析を行った。このシミュレーションによりM2ブレーンの場合のAdS/CFT対応を直接検証すると共に、対応する重力理論に関して幅広いパラメータ領域での予言を行った。また、ABJM理論と並んでM2ブレーンを記述していると考えられているBLG理論と呼ばれる理論があるが、両理論の超共形指数を計算することによりあるパラメータ領域ではこの理論がABJM理論と等価であるという強い証拠を提示した。さらに、様々な次元のDブレーンの低エネルギー理論である極大超対称ヤン・ミルズゲージ理論に対して、この理論が様々な曲がった時空上で定式化された際に超対称性の性質がどのように変化するかを詳細に解析した。
著者
山田 奨治
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
総研大ジャーナル
巻号頁・発行日
vol.1, pp.24-29, 2002-03-29
出版者
総合研究大学院大学
巻号頁・発行日
2015

元資料の権利情報 : CC BY-NC-ND
著者
原 佑介
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究はアフリカツメガエルの原腸胚における隣接した2種類の組織(先行中胚葉(LEM)、中軸中胚葉(AM))の関係をモデル系とし、胚発生における力の発生と、それが隣接する組織と後の発生現象に及ぼす影響を統合的に理解しようとしている。これまでの研究でLEMがAMより早く移動する事から、原腸陥入時にはLEMがAMを牽引している可能性が示されていた。また、AMにおいて見られる脊索形成はLEMの移動能が無いと失敗することが報告されていた。本研究はLEMの移動とAMの形態形成を結ぶ因子が「力」であると予想し、その二者の関係を研究していた。本年度は(1)(2)(3)の解析を行い、LEMの移動が生み出す伸展刺激がAMの形態形成を制御していることを実験的に示し、さらに既に報告されている分子メカニズムと本研究の間に密接な関係にある可能性を示した。(1)先行中胚葉が生み出す伸展刺激の存在を明らかにするマイクロガラスニードルによる力の計測系に加え、レーザーアブレーション法を用いてLEMおよびAM領域における力分布のマッピングを行った。その結果、LEMが移動できる条件のAMの方がLEMの移動がないAMに比べて切断の反動が大きい傾向にあることがわかった。さらに、中期原腸胚から側領域を切り出して、直後に見られる胚内の張力依存的な組織収縮の速度を定量的に解析した。その結果、胚がLEMが進めない状況に置かれている場合はAM領域の収縮が緩やかになることが分かった。この結果は、外植体・生体内両方においてAMがLEMの移動によって実際に伸展力を加えられていることを示している。(2)正常な原腸陥入における先行中胚葉の必要性の検証前年度に引き続きLEMの外科的除去やLEMの移動に必要な基質のノックダウンを通してLEMの移動阻害を行ったときの影響を全胚レベルで観察した。その結果、移動能をもつLEMがAMに対して伸展刺激を生み、その刺激を利用して正常な脊索形成に必要な細胞の整列や相互入り込みの制御をしている可能性が示された。(3)中軸中胚葉におけるWnt/PCPシグナル経路の働きとの関連を明らかにする過去の知見より、AMの形態形成にはWnt/PCPシグナル経路による細胞骨格やその関連因子の制御が重要であることが知られている。このシグナル経路による制御と本研究によって明らかになったLEMによる制御の関連を二重ノックダウン実験によって調べたところ、それぞれ単独でノックダウンしたときよりも、二重ノックダウンの影響が重篤であることが分かった。これより先行中胚葉の移動による脊索形成の制御機構はWnt/PCPシグナル経路と協調して働いていることが分かった。以上の結果は、生物の発生における力の発生と伝達およびその役割を示めす重要な結果である。現在、国際誌に論文を投稿中である。
著者
三浦 翔
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

2007年3月から邦銀に対してバーゼルII(新BIS規制)の適用が始まった.これに伴い,信用リスク管理において,各行独自のリスク評価手法の開発が認められるようになり,基礎的内部格付手法(FIRB, Foundation Internal Ratings-Based approach)から先進的内部格付手法(AIRB, Advanced Internal Ratings-Based approach)への移行に際して推計値が必要とされる債権回収率(RR, Recovery Rate),またはデフォルト時損失率(LGD, Loss Given Default)の推計精度の向上が求められている.しかし,債権回収のデータベースの構築が充実していないことや,債権回収途中のデータの取り扱いなどに対する一般的な手法が確立されておらず,いまだ回収率推計モデルの研究は進んでいなかった.そこで,内部格付の低下(要注意から要管理への変更)によりデフォルトを定義した場合の,担保や保証協会による保証などを勘案した回収率推計モデルの構築を行った.モデルのパラメータ推計には銀行の格付および回収実績データを用いている.また,実際の回収が長期間にわたることや,正常格付への復帰の影響を考慮することによって,より実際の回収を反映したモデリングを提案した.その結果,担保カバー率,保証カバー率が回収率の有力な要因であることがわかり,それらの関数としてEL(Expected Loss)が推計可能であることを示すことにより,実データによる内部格付手法に応じた信用リスクの計量化を実現した.これによって、邦銀固有の特徴である、担保と保証と回収率の関係を表現し、バーゼルIIに対応した信用リスク評価方法を提案したといえる.
著者
水多 陽子
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

両候補遺伝子の相補性検定が終了し、日本晴とカサラス間で雑種花粉の不発芽を引き起こしている遺伝子は第1染色体上のDOPPELGANGER(DPL)1,第6染色体上のDPL2と名付けた機能未知の新規遺伝子であることが証明された。DPL1とDPL2は被子植物で高度に保存された重複遺伝子であり、遺伝子構造とRNA・タンパク質の発現解析からはカサラスアリルのDPL1遺伝子と日本晴アリルのDPL2遺伝子は機能欠損型であることが分かった。また、相補性検定の結果からはカサラスアリルのDPL2遺伝子と日本晴アリルのDPL1遺伝子は機能型であることが明らかとなった。リアルタイムRT-PCRとin situ hybridizationの結果から、機能的なDPLのmRNAは二核期の花粉内に蓄積されており、花粉発芽に対し何らかの重要な役割を持っていることを示唆している。また、ゲノム解析が終了した四種の被子植物(ヤマカモジグサ、ソルガム、トウモロコシ)とのシンテニーを元にDPLと名付けた原因遺伝子周辺のゲノム配列を比較することで、DPL遺伝子の重複はイネとヤマカモジグサが分岐した後に起きたことが分かった。本研究は種分化を隔離遺伝子の進化と隔離機構の成立という観点から種や属を超えて検証できた数少ない例である。発現解析からもこの遺伝子は花粉伝達に重要な新規遺伝子であることが示されており、今後DPLの機能を解明することはイネだけでなく、被子植物の生殖過程について有用な知見をもたらすことが予想される。現在、これまでの結果をまとめ、論文を投稿中である。
著者
永井 崇寛
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

原子核バートン分布関数の最適化研究を行った。原子核構造関数F_2とDrell-Yan断面積比のデータを使用し、LoとNLOの解析と行うことにより最適な分布関数とを決定し、それぞれの分布関数の不定性を示した。この解析で、各々の分布関数に対して以下の結果を得た。・価クォークの原子核補正は、大きいXで構造関数はほぼ価クォーク分布で表せるため、大きいX領域のF_2のデータより精度良く決定できた。さらに、小さいXにおいても価クォーク分布は精度良く決定できていることがわかった。・反クォークの原子核補正は、逆に、小さいXで構造関数はほぼ反クォークで表せるため、小さいX領域のF_2のデータより精度良く決定できていることがわかった。さらに、大きいXでは大きい不定性を持っていることがわかった。・グルーオンの原子核補正は、全X領域で正確に決まってないことがわかった。グルーオン分布は摂動の高次項として、構造関数や断面積に直接寄与するため、NLOの解析でより正確に求まることが期待される。しかし、現状では原子核構造関数の比に対して、正確なO^2依存性を示データが測定されておらず、グルーオン分布の原子核補正を求めることができなかった。原子核のグルーオン分布を正確に決定するためには、より広範な運動学的領域のデータが必要であり、さらに、原子核・原子核衝突の直接光子生成反応等の正確なデータが必要であることを指摘した。・重陽子の原子核補正についても詳しく検討し、現状では核子の分布自体に重陽子の原子核補正効果が含まれている可能性を指摘した。
著者
西森 早紀子
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2023-04-25

T2K実験でニュートリノ振動を精密に測定することで、物質優性宇宙の謎を解明する鍵となるレプトンにおけるCP対称性の破れの検証を行う。現在2σ以上の信頼度でCP対称性の破れを示唆しているが、今後統計数を確保することで統計誤差が改善される。本研究では、ニュートリノビーム生成過程のニュートリノフラックス不定性の最も大きな要因であるハドロン生成の精密測定を、スイスにあるCERN NA61実験により行い、ニュートリノ振動が最大となるエネルギー領域でのニュートリノフラックス不定性を改善させる。これによりニュートリノ振動解析の系統誤差を削減し、レプトンにおけるCP対称性の破れの発見に繋げる。
著者
本郷 一美 山田 昌久 那須 浩郎 米田 穣 姉崎 智子 茂原 信生
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は高精度の古環境情報を有効に抽出し、人工遺物や遺構などに関する考古学的な情報を統合する研究手法を確立することである。長野県のノンコ岩1岩陰と天狗岩岩陰遺跡において発掘調査を実施した。ノンコ岩1岩陰遺跡では、縄文晩期の遺物が出土した。天狗岩岩陰遺跡では、弥生時代前期から古墳時代前期までの文化層序が確認され、環境考古学的なデータを有効に抽出できた。人工遺物の他、多量の動・植物遺存体を採集し、C14年代測定、動植物遺存体の同定分析作業を実施した。
著者
新海 雄一 シンカイ ユウイチ Yuichi SHINKAI
出版者
総合研究大学院大学
巻号頁・発行日
2004-03-24

地球磁気圏では様々な電磁流体波が存在する。この中で、周期が10秒~150秒(6.6mHz~100mHz)の脈動はPc3-4地磁気脈動に分類され、昼側の磁気圏および地上で頻繁に観測される現象である。頻繁に観測されるこの脈動を本論文では古典的Pc3-4脈動と呼ぶ。古典的Pc3-4脈動は地球磁気圏前面のBowshock上流のイオンサイクロトロン不安定性によって発生し、それが磁気圏シース領域を経て、地球磁気圏内に伝播してきていると考えられている。しかし、磁気圏シース領域内でのPc3-4脈動の特性はあまり明らかになっていない。また、地上の磁力計や電離圏の観測から、Pc3-4脈動の強度が磁気圏シース領域とつながっていると考えられる高緯度カスプ域で最大となることが報告されているが、その伝播機構についてもあまり明らかにされていない。本研究では、磁気圏シース領域と電離圏カスプ域を含む高緯度電離圏でのPc3-4脈動を同時に観測し、その現象の特性を詳しく解析・研究することにより、Pc3-4脈動の発生・伝播機構を明らかにすることを目的としている。<br /> この目的の為に、南北両極域の広域電離圏を観測するSuperDARN HFレーダーと磁気圏シース領域を観測するGEOTAIL衛星との同時特別観測を企画・実施した。この特別観測では、SuperDARN HFレーダーはPc3-4脈動を検出するために特定のビームのみを高時間分解能モードで観測した。特別観測は2002年1月から2003年3月までの間、GEOTAIL衛星がSuperDARN HFレーダーの視野下を通過する軌道に合わせて7回実施した。また、2003年からは、CUTLASSレーダーではステレオモードを用い、グローバルスキャン観測も同時に実施している。その結果、2002年2月12日と2003年2月17日に明瞭なPc3-4脈動を観測することができ、その詳細な解析・研究を行った。<br /> 2002年2月12日の観測では、これまでのHFレーダー観測では報告されていないPc3-4脈動現象がCUTLASS Iceland Eastレーダーで観測された。この脈動の周波数は16.4mHz~19.7mHz(約50秒~60秒)であり、波数は5~9と小さかった。波数が小さい脈動は地上でも同様な地磁気脈動が観測されることが知られている。しかし、地上に存在する地磁気観測点では同じ周期の磁場変動は観測されなかった。また、エコーパワーがドップラー速度と同様に周期的に変動し、相互の位相差が90゜であった。この脈動現象に、過去の研究でPc3-4脈動の発生・伝播機構であると考えられている磁力線共鳴を適用した場合には、本観測で得られている脈動の特徴を十分に説明することはできなかった。そのため、エコーパワーが周期的な変動をしていることと、1keV以下の電子のフラックスがエコー領域内で増加したことから、本観測で得られた電離圏電場脈動は、Pc3-4脈動によってmodulateされた電子フラックスの振込みによって励起された電離圏電場の変動であると考えた。その結果、地上磁場との相関や、エコーパワーとドップラー速度の位相差、および脈動の伝播方向について説明することができた。このため、観測された電離圏電場脈動は、古典的なPc3-4脈動ではなく、電子の振込みによって発生した電場変動であると結論した。<br /> 2003年2月17日に行われた観測では、より明瞭なエコーを得るために、CUTLASS HFレーダーの視野内にあるEISCATヒーターによる電離圏加熱実験も合わせて行った。その結果、地磁気の南北方向を視野とするCUTLASS Finlandレーダーにおいては周波数が13.1mHz~16.4mHz(約60秒~75秒)の明瞭なPc3-4脈動が観測された。一方、地磁気の東西方向を視野とするCUTLASS Iceland Eastレーダーでは、同じ加熱領域から周波数が~4.7mHz(約212秒)のPc5脈動が同時に観測された。この特性は、Pc3-4脈動は南北方向に偏った振動を、Pc5脈動は東西方向に偏った振動をしていることを示唆している。このPc3-4脈動は波数が50~100と大きく、この電離圏脈動に対応する地磁気脈動は地上の地磁気観測点で観測されていなかった。一方、Pc5脈動は波数が~10であり、多くの地磁気観測点で観測されていた。また、この二つの脈動の開始時刻にはずれがあり、異なる発生機構による脈動が同一磁力線上に存在していたことを示唆している。このPc3-4脈動の発生機構は、脈動の特性がGiant Pulsation(Pg)とよく似ていることから、pgと同じドリフト共鳴が候補にあげられる。この脈動は、位相の空間的変動が、ある時間を境に、位相遅れが低緯度側方向から高緯度側方向へと変化が逆転する特徴を持っていた。この位相変化の特性に関しては、同時に観測されたPc5脈動の位相変化から、プラズマ圏境界付近における急激なプラズマ密度の増加によるAlfven速度の減少によって説明できる。<br /> 以上のことから、本研究によって観測された2例の高緯度電離圏電場Pc3-4脈動は、これまでに地上や衛星で多くの観測・研究が行われてきている発生頻度の高い古典的なPc3-4脈動とは異なった特徴を持つ別なタイプの脈動であることが、電離圏でのHFレーダーの観測によって初めて明らかになった。<br /> 以下、本論文の構成について述べる。論文は5章から構成されている。第1章では、地球磁気圏における脈動現象、および、これまでのPc3-4脈動に関する研究結果について概説し、本論文の目的と意義を述べた。第2章では、本研究に使用した観測機器について述べた。本論文で使用している極域電離圏の電場データは、CUTLASSレーダー、SENSU Syowa Eastレーダー、Kerguelenレーダーによって観測されたものである。さらに、宇宙空間でのデータとしてGEOTAIL衛星を使用し、地上磁場データとしてIMAGE磁場観測チェーン、SAMNET磁場観測チェーン、Iceland Tjornes観測点、Jan Mayen観測点、南極Davis基地観測点を使用した。第3章では、観測の詳細と得られたデータの解析結果、および、観測された脈動現象の特徴について述べた。第4章では、本観測で得られたPc3-4脈動の考察を行った。第5章は、本研究のまとめである。