- 著者
-
桑原 規子
- 出版者
- 聖徳大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2005
本研究では、昭和初期から占領期にかけて行われた日本近代版画の海外紹介の実態を把握するとともに、日本の近代版画が国際的にどのような評価を得たのかを明らかにするという目的のもと、次の二つのテーマに沿って調査研究を行った。以下、得られた成果についてテーマ別に記述する。1.「昭和戦前期の海外日本版画展覧会に関する研究」については、1934年から1937年にかけて欧米各地で開催された日本現代版画農覧会について調査し、出品目録-覧を作成するとともに、展覧会の詳細な内容とその反響についで研究した。その結果、展覧会の全体像が明らかになると同時に、海外へと進出する際に日本の創作版画が、浮世絵版画との歴史的連続性を打ち出すことによって国際的評価を獲得しようとしたことが判明した。実際、1934年のパリ展では大きな注目を集めた。とはいえ、国内的には創作版画がマイナー・アートと見なされていたことに変わりはなく、依然として高い評価を得ることはできなかった。2,「占領期におけるアメリカ人コレクターの研究」については、占領期日本に駐留したアメリカ人コレクターと創作版画家との交流を考察することにより、終戦後、日本の創作版画が急激に国際的評価を得ていった背景に、アメリカ人コレクター(ハートネットやスタットラーなど)の果たした役割が大きいことを明らかにした。彼らが出版や展覧会を通して行った海外における啓蒙普及活動が、日本近代版画の国際的評価向上に寄与すると同時に、国内的評価をも押し上げたと結論付けられる。本研究で得たこれらの成果は今後、日本近代版画史を構築する上で重要な視点となると同時に、日本版画が国際社会の中で果たした文化的役割、日本版画が内包する芸術的、文化的特質を再考する上で稗益するものと考える。