著者
古賀 崇
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.62, pp.57-72, 2012-05-18
被引用文献数
1

政府情報、とりわけ電子的なものについての管理・保存・公開(アクセス提供)に関する独自の取り組みを行っている、米国アリゾナ州立図書館・文書館・公的記録局(ASLAPR)の活動につき、訪問調査にもとづき考察を行った。ASLAPRの独自性、特に「図書館・文書館・記録管理機能の融合」が顕著に現れているのは次の2つと言える。(1)「出版物」としてのウェブサイトについて「主題」ではなく「出所」をベースに管理・保存を行う「アリゾナモデル」の実践。(2)電子的な記録を「1点もの」ではなく「多数の複製をもつもの」として管理・保存を図るPeDALSプロジェクト。本稿ではまた、米国内の州立文書館・図書館の位置づけも参照しつつ、ASLAPRの取り組みの意義と課題を論じた。
著者
村岡 正司
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.62, pp.39-56, 2012-05-18

公文書等は、まさに"行政ノウハウの情報ストック(=無形資産)"であり、技術力のみならずその無形資産の活用による国際競争力強化のための社会的共通資本ともいえる。本稿では、公文書等の管理は、"無形資産"をいかに活用できるようにするかの視点で、今後の自治体の文書管理改善の課題とその方策について、自治体の実情に合わせた対応方法を検討した。
著者
城下 直之
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.62, pp.23-38, 2012-05-18

1990年代に資料・情報を活用する(情報リテラシー)教育が注目された。人は知識があれば、知識を借りて物事を処理・解決する。その為に自由思考が不足し、新しい創造に結びつかない。そこでインフォメーションよりインテリジェントという観点に立って考えると文書管理設計という言葉に行きついた。実社会で役立つ教育として、情報を収集するための方法、その情報を評価する能力、その情報を使って行動につなげる創造、行動結果を記録し次の世代に継承するニーズに付いて記述した。特に、枯れた技術記録の再生は今後の日本における新しい方向へ導くと考えている。また、教育は仕事・労働の為のものであり、余暇のためではない。そこで情報収集と活用方法を学ぶためには「勉強の仕方を学ぶ」、「友達を作る」、「酒の飲み方を学ぶ」については教育の場で必須である。
著者
坂口 貴弘
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.62, pp.3-22, 2012-05-18

1934年の米国国立公文書館設立から1950年代までの米国連邦政府における記録管理領域の拡張と変容の過程について、中心人物の一人エメット・リーヒーの活動を手がかりに分析する。国立公文書館は当初、急増する公文書の処分を促進すべく、将来生み出される文書をも対象とした処分計画の開発を支援した。大量の文書を低コストで保管・処分するための文書センターの設置もその動きと連動していた。その成果をもとに、1948年の第一次フーバー委員会の勧告は行政コスト削減の手段としての記録管理の有用性を主張する。さらに第二次委員会は文書の作成量自体の制御を強調した。この時期の記録管理における重点は、アーカイブズの保存から文書の作成へとライフサイクルを遡上するように推移し、今日の記録管理領域が成立するに至る。それは、保存すべき公文書の計画的な評価選別・移管と、各機関の文書保管コスト軽減の両立を目指したリーヒーらの提言の具現化でもあった。
著者
山崎 沙織 逢坂 裕紀子 岡本 詩子
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.45-63, 2012

2009年に制定された「公文書等の管理に関する法律」の要点のひとつは、国の非現用公文書等についての利用請求権を 認め、それに基づく異議申し立てを可能にしたことにある。同法の努力義務規定により、上述の権利とそれに基づく異義申し立ては地方自治体の公文書政策にも反映される見込みだ。そこで、本研究は同法制定後の地方自治体の公文書館についての条例・規則の改訂状況を次の2点から調査した。(1)利用請求権や異議申し立てを認める改訂はあったか。(2)公文書館への意味づけを変えるような改訂はあったか。調査の結果、(1)'新規に条例・規則を制定した自治体を除き、利用請求権や異議申し立てを認める改訂は見られないこと、(2)'公文書館への意味づけは「地域の歴史・教育・文化を振興させる場」と「開かれた行政を実現させる場」に二分されるが、前者が保持される傾向にあり、この傾向が利用請求権成立の困難さに一定の影響を与えていることが判明した。
著者
李 東真
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.29-44, 2012

動的映像は、歴史や過去の事象を生々しく伝えることのできる資料として高い価値を有する。動的映像を研究資料としてまたは、創作活動の素材として利用するためには、動的映像を収集して、利用できる形に整理する、つまり組織化する必要がある。ニュースや映画などの完成作品としての動的映像は、提供元などが提示した情報を基に目録規則に従い記述することで組織化できる。一方で、素材もしくは半製品として存在する動的映像を記録として組織化する場合、動的映像そのものから目録、メタデータに対応する情報を生成することが求められる。動的映像資料の利用者研究を考察することにより、「制作者」、「タイトル」、「主題」がアクセスポイントして有効であること、さらに「制作者」、「タイトル」が与えられない素材、未完成・未公開作品などの動的映像から生成可能な情報は「主題」であることが示された。しかし、動的映像そのものからの主題を生成する場合、イメージを語で表現する作業を伴うことから、本稿ではさらに、その際に生じる問題点を考察、分析した。その結果に基づき、問題点を1)抽出する動的映像の階層レベル、2)抽出する素性の抽象度、3)抽出された主題の表現法の3つに分類した。
著者
添野 貴史
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.71-78, 2012

記録資料は、東日本大震災のような天災、戦争や紛争などの人災、火災等のいつ起こるか分からない災害や、記録資料自体の劣化など、さまざまな危険に晒されている。しかし仮にそのような場面に直面したとしても、「記録の媒体変換」を行い、さらに「分散管理」をしておくことで、記録情報損失のリスクを軽減出来る。当社は50年にわたり記録資料の「保存と活用」に携わってきた。本稿では、記録を損なうことなく将来に伝えるために、専門技術者として蓄積してきた技術力・アイディアを駆使した記録管理方法について、現状・今後の可能性を報告する。
著者
小川 智瑞恵
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.64-70, 2012

東京大学史史料室は、東京大学百年史編集室時代から大学に関する史資料を保管してきた。昨年度、史料室にておこなった所蔵資料に関する概要調査について報告する。このような調査が記録管理の礎となり、これまで史料室に寄せられた期待に応えうるようになることを願うものである。
著者
佐々木 和子 水本 有香 小川 千代子
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.101-109, 2012

東日本大震災被災地では、現在もNPO法人宮城歴史資料保全ネットワーク(以下宮城資料ネット)などボランティアグループ等が中心となり、被災史(資)料の救出をおこなわれている。災害時の史(資)料救出活動は、1995年(平成7)におこった阪神・淡路大震災時の歴史資料ネットワーク(史料ネット)に始まる。その後大きな災害後には、被災地に史料を救出保全するネットワークが作られ、全国に広がっていった。2004年からは水害後の史料救出活動が始まり、そのノウハウが蓄積され、現在東日本大震災被災地で生かされている。本稿では、これらの活動の概観とともにその課題についても考察する。
著者
原田 隆史
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.44, pp.23-34, 2002-03-31

「デジタル・アーカイブ」という用語は種々の意味で使用されている。たとえば、Webアーカイブや電子美術館、データ・アーカイブなどはその例である。これらに共通するのは、デジタル形式のデータを収集し取り扱うことのみであるといっても過言ではない。本論文は、これらのデジタル・アーカイブを分類し、その具体的な例を述べるとともにデジタル・アーカイブの効果と問題点について明らかにする。
著者
児玉 優子
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.52, pp.3-11, 2006-12-18

動態画像アーカイブは、映画やテレビ番組、ビデオ作品などを収集保存し、アクセスを提供する。日本よりも早くから動態画像資料の保存に取り組んできた米国の二つのアーカイブの事例を紹介し、動態画像アーカイブとアーカイブズ学、記録管理との接点を模索する。CBSニュースアーカイブは企業内に設置された非公開のアーカイブであり、放送後48時間が経過した番組をアーカイブに移管する手法が特徴的である。また、放送した番組が訴えられるリスクを配慮して、番組製作業務の記録の保存にも注意が払われている。一方,UCLA映画・テレビアーカイブは大学に設置された非営利のアーカイブであり、学外者にも広く公開されている。動態画像資料とその関連資料が学内の複数の図書館やアーカイブに分散されてしまう「メディアの分断」の問題があるが、積極的にアクセスを提供し、次世代の動態画像アーキビストの養成にも関与している。
著者
増田 節雄
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.41, pp.38-42, 2000-11-15

アメリカのユタ州に本部を置くユタ系図協会(Genealogical Society of Utah、略称GSU)の106年にわたる歴史及びその活動について言及しつつ、その家系図調査において収集した膨大な史料の有功活用の道を探る。さらに、ユタ系図協会でのインターネットによる新しい家系情報の共有化の事例を、ビジネスの世界で用いられているのKM(Knowledge Management)の概念枠組を援用しながら紹介する。インターネットを媒体として個人や団体が永年蓄積してきた家族歴史情報を互いに共有することの可能性について考察する。
著者
田窪 直規
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.51, pp.48-57, 2006-03-30
被引用文献数
1

韓国では、歴史資料の収集・編纂や歴史研究などを行なう機関として、国史編纂委員会が置かれている。この委員会は、韓国の歴史資料・歴史研究関連の13機関が参加する、韓国歴史情報統合システムを、実質上運営している。このシステムは、念入りな組織化によるデータ蓄積と、検索機能の充実という特長を有しており、図書館情報学の専門家が、その開発に関与している。日本では、ある専門分野の情報(検索)システムは、その分野の専門家とコンピュータの専門家で開発される傾向にあるが、韓国歴史情報統合システムのような、充実したシステムは少ない。今後は、図書館情報学やこれに類する分野の専門家が、このようなシステムの開発に関与することが望まれる。
著者
高山 正也 神村 昌代
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.43, pp.15-27, 2001-11-30

日本におけるナレッジ・マネジメント (Knowledge Management, KM) 論は組織内に帰属させるべき知識を顕在化させ、新たな知識を創造するという抽象的定義を具体化する段階で、情報処理のハードやソフトの各メーカーの営業戦略により、知識の管理ではなく、MIS以来続くデータ処理システムに変質・変容をさせられた側面がある。このことは雑誌記事に現れたナレッジ・マネジメント論にも影響し、アメリカの後追いで現れたナレッジ・マネジメント論がアメリカの状況を素直に受け入れず、情報技術や既製のシステム導入にこだわり、組織における知識創造という本来の目的を喪失し、国際的な標準にも必ずしも合致していない実態を明らかにしている。