著者
浜田 忠久 小川 千代子 小野田 美都江
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.3-23, 2016 (Released:2017-01-30)

我が国では2001年に情報公開法が、2011年に公文書管理法が施行され、「知る権利」を保証するために必要な法体系の整備が徐々に進みつつあった。しかし2014年に特定秘密保護法が施行され、「知る権利」の確保は大きく後退する状況となった。 本研究では、その歴史的、文化的な背景を探るために記録と公開、秘密保護の歴史を江戸時代から振り返り、諸外国、主にアジア諸国と社会的状況を比較することによって日本の現状を浮き彫りにすることを試みた。国際組織による民主化度、表現の自由に関する国際比較では、日本は2011年以降、報道の自由、中でも法的環境が悪化しており、またアジア諸国の市民意識の比較調査では、日本人は同調圧力が著しく強いことが示され、人権を制約する法改正が進んでもそれに対して強い抵抗を示さない可能性が示唆された。
著者
山﨑 久道 小川 千代子 飯尾 淳 李 東真
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 = Records management : journal of the Records Management Society of Japan (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.70, pp.57-74, 2016-03

わが国の研究開発においては、STAP問題に見られるように、研究倫理のあり方と研究におけるデータや記録の適正な管理、利用が大きな問題になっている。これまで、研究ノートの「不備」や「正しい書き方」などを指摘する文献は数多くあるものの、研究における記録管理のあり方やプロセスを示し考察した文献は少ない。今回は、最新の情報技術の動向もにらみ、実際に研究を進める研究機関の立場からもこの問題をとらえ、記録管理についての知見がこの問題にどのように貢献できるのかを検討した。その結果として、以下の諸点を提言した。(1)科学の手法の変遷や研究分野の特徴に見合った情報の管理の必要性を追究する。(2)情報通信技術の進化を見据えて、データ取扱いの技術的側面と倫理的側面の検討と研究における情報取扱いのガイドラインの作成を行う。(3)研究現場での「アーカイブ」概念の意義と必要性を啓蒙する。(4)実務面での実験ノート作成・管理などの実践的手法の提唱と普及に着手する。(5)研究開発を効果的に支援できる「理系分野に強い」データ管理、記録管理の専門家の育成を目指す。(6)記録管理を実行することが研究の不正防止のみならず、効率や品質の向上に資することを証明して、そのことを社会に広く周知する。
著者
小川 千代子 日野 祥智 益田 宏明 秋山 淳子 石橋 映里 小形 美樹 菅 真城 北村 麻紀 君塚 仁彦 西川 康男 船越 幸夫
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.54-65, 2020

<p> 記録管理学体系化に関する研究は、2016年度から3年計画でスタートし、2018年度は3年目の最終年度にあたる。2016年度、2017年度の研究成果を踏まえ、2018年度には記録管理学の体系を導き出すことを目指して研究を行った。2018年度は、4回の研究会を開催するとともに、各メンバーによる個別担当の研究を行い、それを取りまとめるための記録管理学体系化の方向性を模索した。各メンバーは各自が記録管理における関心のあるテーマの考察レポートを作成し、これらを研究代表者である小川千代子が、2017年度の記録管理学体系化プロジェクト研究報告(学会誌「レコード・マネジメント」)で描いたところの体系化予想項目の中に関係づけ、その時の成果である記録管理学体系の3層構造に肉付けを行った。</p>
著者
小川 千代子 秋山 淳子 石井 幸雄 石橋 映里 菅 真城 北村 麻紀 君塚 仁彦 西川 康男 廣川 佐千男 船越 幸夫 益田 宏明 山﨑 久道
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.44-59, 2017

<p> 本研究は3か年計画で記録管理学という学問分野の体系化を目的とする第1年目の成果である。ここでいう記録管理学体系化とは、実務者が、自身が経験した個別事例を一般化された記録管理体系の中に位置づける手がかりを求め、そこから文書管理実務の観察、検討、改善への道筋を探れるようになることを意図している。たとえば記録連続体論は、記録の存在を研究観察対象として論じる。だが、現実的実務につながるという面で見ると、記録管理学は長くその体系化の必要が叫ばれながら、事例紹介の蓄積にとどまり、体系の大枠すら明確ではない。そこで、初年度は文書管理の実務者が業務遂行上依拠する現状の文書制度に基づき、記録管理学の体系化の糸口を探ることとした。研究では、諸文書管理例規を収集し、用語と定義の比較分析を行った。</p>
著者
小川 千代子
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.70, pp.3-14, 2016-03-25

2015年3月15-16日、当時の記録管理学会理事会メンバーによるブレーンストーミングを行った。記録管理学の体系化をめざし、記録管理学会の将来像を描きたいというのが、その企画の根底にあった。以下はその成果報告書である。主な報告内容は、記録管理学とは(1.)、記録管理法制度(2.)、記録管理の実務と実業(3.、4.)、記録管理の道程(5,)、記録管理と社会(6.)、多用な記録管理(7.)にまとめ、執筆者は末尾に掲げた。
著者
佐々木 和子 水本 有香 小川 千代子
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.65, pp.134-143, 2013-11-30

2011年3月11日におこった東日本大震災では、文化庁は文化財レスキュー事業を立ち上げた。歴史資料ネットワーク(神戸)は、宮城資料ネットとともにその事業に加わり、地域の「記録」の救出をおこなった。救出対象となった「文化財」の範囲は、非常に幅広く、いわゆる「文化財」「美術工芸品」だけでなく、通常「文化財」と認識されていないものも救出した。そこには被災行政文書も含まれた。宮城資料ネットは、津波被災地をまわり、90件の緊急資料救出活動を実施した。そのうち、67件を仙台市に搬送し、ボランティアの手で応急処置を施している。神戸大学は、阪神・淡路大震災での救出された資料がその後どうなっているかの調査をおこなった。その結果、すべての資料の保存先と、約80%の資料の目録作成がおこなわれていることが判明した。中越地震の後では、資料ボランティアの仕事の細分化をおこなったことにより、東日本大震災では、多くのボランティアの参加が可能となった。
著者
佐々木 和子 水本 有香 小川 千代子
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.101-109, 2012

東日本大震災被災地では、現在もNPO法人宮城歴史資料保全ネットワーク(以下宮城資料ネット)などボランティアグループ等が中心となり、被災史(資)料の救出をおこなわれている。災害時の史(資)料救出活動は、1995年(平成7)におこった阪神・淡路大震災時の歴史資料ネットワーク(史料ネット)に始まる。その後大きな災害後には、被災地に史料を救出保全するネットワークが作られ、全国に広がっていった。2004年からは水害後の史料救出活動が始まり、そのノウハウが蓄積され、現在東日本大震災被災地で生かされている。本稿では、これらの活動の概観とともにその課題についても考察する。