著者
澁澤 栄
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.259-273, 2003 (Released:2013-03-31)
参考文献数
48
被引用文献数
3 2

本稿は,精密農業研究の枠組みと課題について総括したものである.ほ場ばらつきの記述と解析およびその農学的解釈に関わる科学の論理,ほ場ばらつきのセンシングや可変作業機械の開発に関わる技術の論理,そして農産物の販売戦略や利益に関わるビジネスの論理にわたる俯瞰的な研究アプローチ群をもつことが精密農業研究の特徴である.このような研究の枠組みは,欧米諸国をはじめとした世界各国の多様な農業立地条件を基礎にして,多年にわたる研究・開発・普及の蓄積により形成された.精密農業研究モードは過去に5回の大きな変化を遂げ,最後に登場した米国モデルと日本モデルは,農業イノベーションを展望したビジネスモデルであり,その発展には社会実験が求められる.情報技術を軸にした横断的な研究分野の創出が,精密農業ビジネスモデルの発展にとって切実な課題となりつつある.
著者
竹崎 あかね 大浦 裕二 河野 恵伸 木浦 卓治 林 武司
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.47-58, 2016
被引用文献数
1

農産物関連の代表的なテキストデータであり,今後テキストマイニングの必要性が高まるであろうインターネット通販の野菜商品レビューを対象に,付属辞書を参照した形態素解析結果からレビュー内容を把握する際の問題点を明らかにした.付属辞書を参照した形態素解析では語の分割精度が低いこと,出現頻度が高い同義語が別語と扱われること,否定概念が欠落すること,形容詞の対象が不明確であることでテキストからの概念抽出精度が低くなると判断した.これらの問題解決のために,自然言語処理済みテキストから抽出すべき構文解析情報等を提案し,以下の概念抽出工程を提示した.1)解析対象に合致した参照辞書を構築して形態素解析を行う.2)構文解析後,動詞"する"は,その直前に出現する名詞と一語に集約し,具体的動作を示す動詞に変換する.3)否定概念を付与するために,助動詞"ぬ",接頭辞"無"・"不"・"低"・"未"・"非",接尾辞"ない"について語の変換,集約処理をする.4)同義語を正規化する.5)解析対象に合わせて係り受け関係の語を抽出する.
著者
矢尾板 日出臣
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.145-156, 1995 (Released:2013-03-31)

集約度は,経営面積当たりに投入さる労働と資本の程度を意味し,労働集約度と資本集約度に分けられる.それはは労働と資本の組合せを介して,生産技術を特徴的に表し,労働と資本の純生産分配率,コストと利潤の形成を規定する関係にある.作物固有の技術的な性格から,集約的方法による増収と増益の効果は異なる.稲作は野菜作等と較べて,労働と資本の受容力が小さいことから,集約的管理の効果は表れ難く,集約度の合理的な統制・管理が課題になる.
著者
寺元 郁博 吉田 智一 高橋 英博
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.33-43, 2007 (Released:2007-04-10)
参考文献数
12

本稿では,WWWベースのアプリケーション開発の分野で注目されている,Ajaxと呼ばれる技術を利用したコンテンツ開発で開発効率を向上させるためのライブラリとして開発したROCOCOライブラリと,Google Maps APIの利用に特化した上位ライブラリのROCOCO Google Mapsについて報告する.ROCOCOライブラリは,XML HTTP通信,JSONP通信,グラフ表示およびマトリクス表示の各機能を持つ.またROCOCO Google Mapsは,生成時に基本的な操作を行うためのメニューを自動生成する機能と,メッシュ塗り潰し画像と地図とを重ね合せて表示する機能を持つ.また,ROCOCO Google Mapsを用いることによる開発効率向上を確認するため,このライブラリを用いて,Webサービスが提供されている水稲生育予測システムおよび露地野菜適作判定支援システムを利用したAjaxコンテンツを開発し,これらのコンテンツ開発ではコード行数が大幅に減少し,コンテンツ開発の効率が向上したのを確認した.
著者
中野 和弘 荒木 肇 福山 利範 濱田 智和
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.105-112, 2003 (Released:2013-03-31)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1 4

ムギ類のリビングマルチによる雑草抑制の可能性を調査した.コムギとオオムギの茎葉による地表面での遮光率と被覆率を測定した.リビングマルチとして販売されている緑肥用コムギ(マルチムギ)の7月播種では,播種密度3.2kg/10a以上で播種当初から分げつ数と草丈が大きくなり,遮光率も50%以上の高い値を示した.播種密度3.2kg/10aで5月に播種されたオオムギの分げつ数と草丈は品種間で大きく異なった.マルチムギの遮光率が播種後28日で37.5%であったのに対し,オオムギではそれより大きい品種が多数存在し,特にK027は遮光率74.2%を示した.供試したムギ類をビデオ撮影し,それを画像処理することで地表面被覆率を算出した.マルチムギの地表面被覆率が34.5%であったのに対し,オオムギのそれは25~60%と品種により大きく異なった.地表面被覆率は,分げつ数,草丈,地上部乾物重の地上部生長量を示す形質との間で相関が認められた.遮光率は地表面被覆率との間に高い相関関係(r=0.833)があるものの,地上部乾物重との相関は認められなかった.本研究によりK001, K069およびK027がリビングマルチの資材として有望であると考えられた.
著者
佐々木 豊 井上 貴之 小薗井 茜 渡邊 瑞生
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.123-131, 2014 (Released:2014-07-01)
参考文献数
10

日本農業は高齢化が進み,次世代を担う人材の確保・育成が重要な課題となっている.農学系学校はその入り口となる重要なものであり,より多くの若者に農学・農業の面白さや魅力を伝える必要がある.また現在日本農業はTPP交渉も含めて大きな転換期を迎えている.一方,近年国内外でアニメ,コミック,キャラクターを中心とする日本型サブカルチャーが注目されている.現在の国内における日本型サブカルチャー利用・効果をまとめると,1.実在の場所の聖地化,2.キャラクターを用いた商品パッケージによる新購買層の獲得,3.ご当地キャラクターによる広報効果,4.農業・農学校を舞台としたコミックなどによる農学・農業学校の人気・関心度の向上が挙げられる.但し,失敗例も多く,また成功が一過性のものでは長期的に活用できない.我々は調査結果を踏まえ,日本型サブカルチャー戦略の長期的成功要素の分析・考察を行って,これを踏まえて独自のアイデアとして“やおわらし”を考案・設計し,農学と農業の両面からその活用と活性化を検討した.“やおわらし”とは,「八百万の神の童子(わらし)」から作ったオリジナルの造語・概念である.具体的にこの“やおわらし”の提案,“やおわらし”活動・成果の現状の報告を本論文で行った.農学・農業両面における活用について実施しており,特にアンケート結果から現状でも評価が高く,今後の期待の声も大きかったので報告する.
著者
南石 晃明 竹内 重吉 篠崎 悠里
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.159-173, 2013 (Released:2013-10-01)
参考文献数
9
被引用文献数
11

本稿では,全国アンケート調査に基づいて,農業法人経営における事業展開,人材育成およびICT活用の最新動向とその関連を明らかにした.まず第1に,経営規模拡大(売上高や従事者数の増加)の実態を明らかにした.第2に,売上高が増加すると経常利益が黒字の経営が増加することを明らかにした.第3に,経営規模拡大の重要戦略である事業多角化の主要共通課題が,「人員・人材確保」,「技術・ノウハウ」,「従業員育成」などの人材確保・育成と,「販路の開拓」や「情報の発信方法」などのマーケティングであることを明らかにした.第4に,経営規模拡大(従事者数)により,「作業マニュアルの作成」などの人材育成項目に取組む経営が増加することを明らかにした.第5に,ICTの活用動向および人材育成との関連について明らかにした.具体的には農業法人経営のほとんどはパソコンや携帯電話などを業務で利用しており,1~2割は各種センサー類を利用している.経営規模の大小を問わず経営のほとんどは,「財務管理」にICTを活用しているが,経営規模によってセンサー類による「情報の計測」や「自動制御」の活用割合は異なる.経営規模(従事者数)が増加するとほとんどの項目で活用割合が増加する.さらに,ICTを活用した人材育成・能力向上の取組では,「情報の整理・共有化」の取組割合は,経営規模(従業員数)に比例的に増加するが,「作業支援・判断支援」は,経営規模(従業員数)が一定の規模を超えると急増する.
著者
庄野 浩資 関 朝美 山口 香子 松嶋 卯月 小出 章二 武田 純一
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.122-129, 2009 (Released:2009-10-01)
参考文献数
8
被引用文献数
2

岩手県における重要な花卉作物の一つである切り花リンドウの収穫後の商品価値を長く保つためには,鮮度を長く維持し得る生育ステージの個体を選別・収穫することが有効と考えられるが,現状では,生育ステージの非破壊・非接触的な判定手法は開発されていない.ここで,庄野・関ら(2007)は,花冠の波長域700~900 nmにおける分光情報の生育ステージ判定における有効性を指摘したが,波長域400 nm以下のいわゆる紫外線領域に関しては未検討である.そこで本研究では,リンドウ花を紫外線領域(UVA)で撮影した画像の画素値に基づく生育ステージの判定手法の可能性を検討した.その結果,特定の一品種において同画像の花の画素値は,花粉が成熟して飛散を始めるとほぼ同時期に顕著に上昇した.ここで,花粉はミツバチなどの花を痛める昆虫を内部に誘引する要因の一つである.このため,同画素値は,これらの有害な昆虫の飛来時期を推定し,最適な収穫時期を決定する上でも有用な情報と期待される.以上の結果から,リンドウの生育ステージの非破壊・非接触的判定システムの実現において紫外線画像が果たす役割は大きいと期待できる.
著者
大石 亘
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.319-330, 2006 (Released:2007-05-11)
参考文献数
17
被引用文献数
3 4

線形計画法は営農計画の作成や農業技術の経営的評価などに活用されているが, Windowsで動作し手軽に線形計画法を活用することができる計算プログラムXLPを開発した. XLPはExcel用のアドインで, 起動時にExcelのメニューバーにメニュー [XLP] を作成する. 利用方法は, まずメニュー [XLP] - [新規ブック] でモデル記述シートを表示させ, 所定の形式で営農計画モデルを記述する. メニュー [XLP] - [LP計算] 等の計算メニューを選択すると, 最適解が整理されて計算結果シートに表示される. 計画モデルの記述は, 単体表による形式のほかに, 線形計画モデルの本来の記述形式である数式を利用できる. また, 単体表による形式では, 任意の列で折り返すことができるので, プロセス数がExcelの最大列数を超える計画モデルや, 営農部門ごとに折り返すなどの読みやすい計画モデルの記述が可能である. 基本的な営農計画モデルのサンプルデータが用意されており, メニュー [XLP] - [XLP_try] では線形計画法や営農計画モデルの作成方法の学習機能を提供している. このように, XLPは営農計画モデルを活用する際に手軽に線形計画法を利用できるツールに仕上がっている.
著者
大澤 剛士 神山 和則 桑形 恒男 須藤 重人
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-10, 2012 (Released:2012-03-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本稿は,複数の独立したデータベースの横断的な利用を促進する方法として,データベースそれぞれに格納データを配信するWeb API(Web Application Program Interface)を設置し,由来の異なるデータをWeb上で統合する『マッシュアップ』によって仮想的にデータベースを統合することを提案する.すなわち,実際に全てのデータを格納する巨大データベースを新規に構築するのではなく,基本的に既存データベースは独立させたままデータのみをインターネット上に配信させ,それらをインターネット上で集約することで,仮想的な統合を実現する.このアーキテクチャによって,ユーザはあたかも巨大な1つのデータベースが存在するかのように,複数のデータベース由来のデータを利用することが可能になる.筆者らはケーススタディとして,気象,土壌,農地利用,温室効果ガスに関する情報をまとめて取得できるWebシステムを構築した.しかし,システム構築の過程で課題や問題点も明らかになった.本稿は,システム開発における上述アーキテクチャの実現方法,データベースに実装するWeb APIの内容,実装内容および設計における留意点,明らかになった課題を記し,さらにはWeb APIを利用したデータシステムの可能性を論じた.
著者
合崎 英男 中嶋 康博 氏家 清和 竹下 広宣 田原 健吾
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.32-40, 2009 (Released:2009-04-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1

携帯電話を通じてアクセスする食品リスク・コミュニケーション・システムを開発し,質問紙調査によってその有効性と改善方向を検討した.回答者は当該システムを通じて農薬に関する情報を得て,その評価結果を質問紙に回答するよう求められた.提供情報に対する閲覧者の理解度はおおむね高く,本システムの有効性を支持する結果が得られた.しかし,調査結果からはWeb情報の閲覧には金銭的なコスト意識も含めた心理的障壁の存在が明らかにされた.心理的障壁を乗り越えるためのインセンティブの程度についてはさらなる検討が必要である.
著者
野口 良造 小山 瑞樹
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.142-151, 2009 (Released:2009-10-01)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

地域社会を対象にした,バイオマスエネルギーによる自動車用エネルギー代替の可能性を明らかにするために,複数のバイオマスやエネルギーを取り扱い,システムダイナミックスのプログラムへ応用可能な,エネルギーフローモデルを提案した.つぎに,栃木県を対象として,耕作放棄地を利用したバイオマス生産とEV(電気自動車)の普及を前提に,6つのシナリオを設定し,システムダイナミックスを用いたシミュレーションを行った.その結果,EVの普及率:5% / 年,EVとGV (ガソリン自動車)の燃費性能の向上:2.9% / 年,耕作放棄地の拡大:4.2% / 年,飼料米ふくひびきの生産によって,27年後に自動車用エネルギーを自給できる可能性を明らかにした.また,EVの燃費性能の向上,および新車販売台数のなかでEVの占める割合の増加が,栃木県での自動車用エネルギー自給の可能性に大きく影響を与えることが明らかとなった.