著者
塩見 岳博 斎藤 岳士 石原 光則 和田 光博 林 茂彦 府中 総一郎 神成 淳司
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.35-44, 2021-07-01 (Released:2021-07-01)
参考文献数
20

本研究では,筆ポリゴン,農地ピンおよび土壌図のデータを組み合わせた全国版統合農地データAPIを提案する.農業に関連する各種データや連携基盤の現状と課題を整理した上で,農業生産において基盤となる農地データの利便性向上を図るため,全国の農地データの統合を行った.対象は筆ポリゴン,農地ピンおよび土壌図の3つのデータで,筆ポリゴンをベースとし,他の2つのデータの統合を試みた.結果として,ベースとした筆ポリゴン31,591,036件のうち5,999,291件について,3つのデータが統合でき,成功率は19.0%であった.残りのデータが統合ができなかった原因は,統合対象となるデータの欠落や,統合対象が複数存在するなどのフォーマットの違いによるものであり,その解決には対象とした農地データを整備するルールの統一が求められる.統合した農地データは,農業データ連携基盤WAGRIを通じて,全国版統合農地データAPIとして提供した.その出力形式には,地理情報システム(GIS)における標準フォーマットであるGeoJSONとWebMapTileService(WMTS)を採用し,一度の要求で3つのデータが同時にに取得できたことから,利便性の向上が確認された.今後,統合した農地データが幅広く利用されるための課題としては,データ統合の速度向上や多くのデータを一括でダウンロードする仕組みへの対応などが考えられる.
著者
宮﨑 達郎 松下 秀介 氏家 清和
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.42-49, 2012
被引用文献数
1

東海地震は発生が予想される国内有数の震災であるが,その家庭対策の1つとして食料品備蓄が挙げられている.本研究は家庭による食料品備蓄の普及のために,食料品備蓄の便益と費用に対する家庭の評価の形成要因を明らかにすることを目的とした.分析に用いたデータは2011年5月に静岡県静岡市において実施した調査より収集した.分析結果より,食料品備蓄が実施されない理由として,食料品備蓄の必要性が十分に家庭に認識されていないこと,備蓄の計画を立てる能力が不足していることが考えられた.また,食料品備蓄を実施しても継続を断念してしまう家庭が存在するが,その理由として,食料品の買い出しの手間や備蓄食料品の消費の問題,備蓄スペース等の負担が,食料品備蓄を実施した経験により増幅され,顕在化した可能性が考えられた.他方,食料品備蓄の知識が豊富な家庭ほど,食料品備蓄の必要性を認識し,食料品備蓄実施に伴う様々な負担も感じにくい傾向があることが指摘された.さらに,各家庭が持つ備蓄食料品の食味や消費期限に関するイメージが,食料品備蓄の費用に対する評価に大きく影響することが分かった.以上より,地方公共団体や農林水産省等関係機関による情報提供や,備蓄食料品の食味の改良等,高品質化による食料品備蓄の普及の可能性が指摘された.<br>
著者
黒崎 秀仁 安場 健一郎 岡安 崇史 星 岳彦
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.19-28, 2016 (Released:2016-04-01)
参考文献数
11
被引用文献数
3 1

本研究ではArduinoを利用して構築したUECS(ユビキタス環境制御システム)ノードにおけるUDPパケットの受信処理能力について調査を行った.調査の結果,実験で使用したATmega系16 MHzのCPUで動作する機種間に性能差はなく,搭載するEthernetコントローラーICがパケット処理能力を決定していた.約200 byteのUDPパケットを与え,全てのCPUリソースをパケット受信に費やす場合,W5100,W5500搭載機でそれぞれ最大327,576 packets/secの受信が可能だった.HTTPサーバーの応答,SHT75温湿度センサとの通信などを同時に行うと,パケット処理能力は低下したが,即応性の要求されるノードにCPUの拘束時間が長い処理を実装しなければ,中小規模温室で使用するには十分な処理能力があり,パケットの到達範囲を限定すれば大規模温室でも利用できると考えられた.また,未利用ポートにパケットを送信してもパケット処理能力は影響を受けず,利用ポートの棲み分けにより,さらに多くのノードが1つのLANを共有できる可能性が示された.
著者
亀岡 慎一 礒田 修平 橋本 篤 伊藤 良栄 宮本 哲 和田 弦己 渡辺 直樹 亀岡 孝治
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.11-25, 2017

<p>高品質ワイン生産を目的とした最適ブドウ栽培管理のためには,ワイン用ブドウ栽培における科学的な理解に基づいた栽培環境の長期的なモニタリングが必要と考えられる.本研究ではワイン用ブドウ圃場の既設無線センサネットワーク(WSN)のシステム更新を行い,WSNによる圃場の生育環境情報取得と,生産者がその栽培環境情報を栽培に活かせるようなWebアプリケーション開発を行った.システムに関しては,無線規格の2.4 GHz帯からWi-SUN規格に準ずる920 MHz帯への変更とウェザーステーション・土壌水分センサの変更を伴う無線ネットワークシステムの抜本的な更新を行い,WSNからのデータ取得では,共通基盤クラウドを経由した圃場生育環境情報取得による観測項目名と単位名の標準化を行った.また,隣接して設置した気象庁の検定付きウェザーステーションのデータと比較することで,ウェザーステーションデータの精度検定を行った.開発したWebアプリケーションでは,栽培管理に有効な生育環境情報の二次栽培指標である有効積算温度(AGDD),Growing Season Temperature(GST),Coolnight Index(CI),Heliothermal Index(HI),Biologically Effective Degree-Days(BEDD),Dryness Index(DI)を求めることにより,科学的根拠に基づいた栽培管理に寄与する定量的指標の提供を可能とした.</p>
著者
澁澤 栄
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.259-273, 2003
被引用文献数
3 2

本稿は,精密農業研究の枠組みと課題について総括したものである.ほ場ばらつきの記述と解析およびその農学的解釈に関わる科学の論理,ほ場ばらつきのセンシングや可変作業機械の開発に関わる技術の論理,そして農産物の販売戦略や利益に関わるビジネスの論理にわたる俯瞰的な研究アプローチ群をもつことが精密農業研究の特徴である.このような研究の枠組みは,欧米諸国をはじめとした世界各国の多様な農業立地条件を基礎にして,多年にわたる研究・開発・普及の蓄積により形成された.<br>精密農業研究モードは過去に5回の大きな変化を遂げ,最後に登場した米国モデルと日本モデルは,農業イノベーションを展望したビジネスモデルであり,その発展には社会実験が求められる.情報技術を軸にした横断的な研究分野の創出が,精密農業ビジネスモデルの発展にとって切実な課題となりつつある.
著者
伊藤 次郎 岡安 崇史 野村 浩一 安武 大輔 岩尾 忠重 尾崎 行生 井上 英二 平井 康丸 光岡 宗司
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.13-23, 2021
被引用文献数
2

<p>植物の育種や栽培管理技術の高度化には,植物の成長や環境応答性を定量的に計測し,評価するための技術が求められる.最近では,ICTの目覚ましい発展を背景に,植物の生育特性の計測を高速に行えるフェノタイピング技術の開発研究が盛んに行われている.本研究では,廉価なIoTデバイスに加えて,オープンソースとして提供されている画像処理・解析ライブラリなどを用いることにより,植物の生育情報を自動計測可能な植物フェノタイピングロボットを開発した.本ロボットは,水耕栽培ベッド両側に配置したレール上を走行する構造で,ARマーカを用いてロボットの走行制御と位置認識を行うことにより,植物の生育画像をスケジュールに合わせて自動計測する機能を有している.ホウレンソウを対象に,幼苗定植直後から収穫までの生育画像を毎日4時間毎にロボットに搭載されたRGB-Dカメラで撮影する試験を行い,植物フェノタイピングロボットとしての性能を評価した.その結果,開発したロボットの位置制御性能は3 mm程度であることがわかった.本ロボットを用いて,栽培ベッド全体の画像および深度情報の自動計測を行い,成長予測や生育不良検知などへの応用に対する可能性を示した.</p>
著者
北村 豊 杉山 純一 佐竹 隆顕
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.91-98, 2007 (Released:2007-10-19)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

Webベースで登録された農産物・加工食品の生産情報およびレシピ情報をインターネット接続したパソコン(ICタグ端末)に転送・閲覧できる情報開示システムを構築した.ICタグ端末は,ICタグを封入した農産物や加工食品,レシピカードを付設のリーダーにかざすことにより,ICタグの固有番号にリンクされる情報を画面上に表示する.ICタグ端末をつくばみらい市のモデル住宅の台所に設置して,500名弱の男女からその試用体験に関するアンケート調査を実施した.回答結果の解析により,情報開示システムの利用可能性や情報の有用性,ICタグ端末の設置場所およびその利用形態の考え方など,今後の改良および用途開発のための基礎資料が得られた.
著者
緒方 裕大 南石 晃明 長命 洋佑
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1-12, 2019 (Released:2019-04-01)
参考文献数
34
被引用文献数
1 2

農業経営における情報通信技術ICTの活用が進んでおり,今後もその重要性は増していくと考えられる.ICT機器の開発や試用は行われているが,ICTを活用している経営による費用対効果の評価を分析した研究は少ない.本稿では全国の農業法人経営を対象にしたアンケート調査をもとに,農業法人経営のICT費用対効果に対する評価の「背後に潜む構造」を明らかにした.まずICT費用対効果の潜在因子を抽出するために因子分析を行った結果,「生産の見える化」,「経営の見える化」,「利益確保」の3因子が抽出された.人材育成に対するICT活用の評価は「生産の見える化」,「経営の見える化」という2つの因子に高い因子負荷量を示しており,求める人材によって異なる因子の影響を受けることが示唆された.次いで,経営属性と因子との関係を分析した結果,ICT活用の評価が高いのは,経営類型別では「利益確保」における畜産経営であった.売上高別では「生産の見える化」と「経営の見える化」において売上高が高いほどICT活用の評価が高くなる傾向があり,「利益確保」においては「1–3億円」の経営が費用対効果が最も高かった.従事者数別では「生産の見える化」において従事者数が多いほどICT活用の費用対効果が高くなる傾向があった.
著者
吉田 智一 高橋 英博 寺元 郁博
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.187-198, 2009 (Released:2009-12-26)
参考文献数
23
被引用文献数
8 4

多数の圃場を管理する地域農業の担い手が直面している栽培管理事務作業を効率化し負担を軽減する目的で,GIS互換の圃場地図を使用した作業計画管理ソフトを開発している.このソフトは作物生産に関係する圃場や作付から一連の栽培作業,収穫後の調製・出荷に至るまでの様々な生産過程で発生する情報をデータベース化して管理することを基本とし,そのユーザインタフェイスにGIS互換の圃場地図を使用して直感的に分かりやすい視覚的なデータ入力および表示を実現しているところに一つの特長がある.同様の機能は市販のGISソフトを用いても構築可能であるが,本ソフトではデータベースエンジンやマップ表示にランタイムライセンスフリーのコンポーネントを使用し,その上に圃場管理や農作業管理に必要なユーザインタフェイスを実装していることから,無償配布可能となっていることにもう一つの特長がある.本ソフトはWeb公開による利用者からのフィードバックに基づき機能を改良・拡充しながら,現場農業者への普及を進めている.
著者
建本 聡 原田 陽子 今井 健司
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.108-114, 2019-10-01 (Released:2019-10-01)
参考文献数
22
被引用文献数
2

本研究では,深層学習による物体検出(SSD)と熟度判定用の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を組み合わせ,画像からウメの果実の熟期を判断する方法を検討した.2018年6〜7月に,ウメ「露茜」の樹上の果実についてデジタルカメラにより静止画及び動画を取得した.果実領域を切り出すためのSSDの学習は,撮影した画像443枚を用いた.学習したネットワークの性能は,しきい値0.47で,F値0.88であった.次に熟度判定用のCNNの学習のため,SSDにより切り出した5,823枚の画像を熟度別に肉眼で5クラスに分類し教師とした.学習したネットワークの識別の精度は94%であった.これらを組み合わせた精度を判定するために,学習に用いていない画像から,SSDによりしきい値0.47で366枚の果実画像を切り出し,続けて画像を熟度判定用のCNNで分類したところ,識別の精度は96%であった.よって,撮影画像から本手法により果実領域を切り出し,熟度判定が良好に行えることが示唆された.
著者
戸板 裕康 小林 一晴
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-11, 2016 (Released:2016-04-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

ユビキタス環境制御システム(UECS)の通信実用規約1.00-E10(実用規約)に対応し,シングルボードコンピュータRaspberry Piで動作するオープンプラットホーム「UECS-Pi(ウエックスパイ)」を開発した.栽培施設等で利用される汎用的な計測・制御機能があらかじめ実装された基本パッケージを利用すれば,短期間でノードを製作可能である.さらに,オープンソースのソフトウェア開発キット(SDK)を用意し,ユーザ独自の機能を追加可能にした.UECS-Piを用いて外気象計測ノードと複合制御ノードを製作し,トマト温室にて3ヶ月間の実証試験を行った.本試験ではノードの製作期間,コスト,可用性,ソフトウェアの有用性を評価した.評価の結果,低コストで実用可能なUECSノードを製作可能であることが示された.本プラットホームによって,特定メーカに依存しない低コストUECS対応トータルシステムを構築可能となった.
著者
磯島 昭代
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.49-60, 2006 (Released:2007-05-11)
参考文献数
16
被引用文献数
5 5

米に関する消費者意識を解明する研究として, これまで主に選択肢式のアンケート調査やグループインタビューなど少人数を対象とした面接調査が行われてきた. アンケート調査で得られる自由記述回答文は, 大量の定性的データであり, 新たな知見を得る重要な情報源と考えることができる. これまでこうしたデータを分析する有効な手法がなかったが, テキストマイニング手法の開発により, 大量の文章データを計量的に分析することが可能となった. そこで, アンケート調査で得た自由記述回答文にテキストマイニングを適用し, 米に関する消費者意識の解明を試みた. その結果, 消費者の米に対する関心は「米購入」, 「日本の米と農業」, 「安全性」に大きく分けられることがわかった. さらに, 「米購入」に関しては専業主婦層が, 「日本の米と農業」に関しては60歳以上の男性が, 「安全性」に関しては農薬の使用に敏感な人がよく記述する傾向にあることが明らかとなった.
著者
稲葉 繁樹 広間 達夫 伊藤 菊一 原 道宏 鳥巣 諒
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.81-89, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
7

ザゼンソウの発熱器官である肉穂花序の温度制御機構について,周囲と肉穂花序の温度測定結果を元に,PID(Proportional Integral Differential)動作によるフィードバック制御の適用について検討した.まず容器をかぶせ,周囲を雪で覆ってザゼンソウの周囲を冷却した.翌日,それらを取り除いて急激な温度変化を発生させ,その後通常の外気温下に数日間置いた.その全ての過程で,肉穂花序温度と周囲温度を計測した.その結果,発熱最盛期の雄期の肉穂花序温度の目標温度は一定ではなく,直線的に変化する可変目標値で表せることが判明した.発熱の状態は活性化係数で表すことができ,同じ発熱植物であるハスより高いことが確認された.また,制御系において,肉穂花序温度をフィードバック要素として可変目標値との偏差を制御器に導く制御機構について検討したところ,外気温や発熱部から肉穂花序中心に至る伝達関数は一次遅れ系で,制御器は積分動作で表すことができた.肉穂花序温度における本制御系は,急激な温度変化に対してやや遅れて追従しつつ目標温度に戻るのに対し,穏やかな変化に対してはともに少しずつ変化する応答を示し,肉穂花序温度が自身の可変目標値に従って変化していると考えられた.
著者
小田 恭平 新部 昭夫 朴 壽永
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.86-96, 2019-07-01 (Released:2019-07-01)
参考文献数
16

近年,クラウドファンディングが注目されているが,農業分野におけるクラウドファンディングの活用についてはほとんど研究が行われていない.そこで本研究では,農業分野におけるクラウドファンディングの活用現状と成功要因を分析し,その活用可能性を検討した.成功要因としては,「目標額」が低いほど,また「支援者数」「最高支援額」「活動報告回数」が高いほど成功率が上がることが示されたが,先行研究で成功要因とされていた「リターン種類数」の多さは農業分野では成功要因となりえないことが確認された.活用現状としては,リターンの種類では製品系のリターンが100%採用されている一方,比較的導入しやすい承認系のリターンの採用率が45.8%と半分を下回っている.また,プロジェクトの拡散ツールとしてEメールは適していないこと,比較的拡散力の高いTwitterやInstagramなどのSNSが活用されていないことが示唆された.66.7%のプロジェクト実行者が広告効果やファンを増やすなど従来の資金調達にはないメリットをクラウドファンディングの使用目的としていた.なお,プロジェクト成功者が失敗者よりも農業分野におけるクラウドファンディングの活用を高く評価している一方で,成功者も含め今後再度クラウドファンディングを利用しようと考えている実行者が多くないことも示された.
著者
田中 慶 木浦 卓治 杉村 昌彦 二宮 正士 溝口 勝
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.1-12, 2011
被引用文献数
4

水稲生育予測モデルSIMRIWを利用した水稲栽培可能性予測ツールを開発した.このツールは,SIMRIWを全球に適用して,栽培可能地域,最適移植日,最大収量を地図上に表示するWebアプリケーションである.研究者向けのモデルであったSIMRIWを,政策決定者や農家向けの意思決定支援ツールとして利用できるようにした.すでにSIMRIWは作物モデル開発フレームワークを利用して,Webアプリケーションとして実装されていた.全球を対象としたシミュレーションにおいて,条件を変えて大量にモデルの繰り返し実行を行うための,モデル実行エンジンの改良が行われた.また,モデルの気象データ取得元であるMetBrokerが全球の1度グリッドの気象データを新たに扱えるようにした.栽培可能性は水稲生育モデルの移植日を365日間すべてで計算し,収量を得られるかで判定される.同時に8品種(ジャポニカ米5品種,インディカ米3品種),気候変動に対応したCO<sub>2</sub>濃度2パターンと気温加算値3パターンで計算を行った.モデルの計算結果はXML形式のファイルで記録され,Flash版やGoogle Earth版のデータビューワで閲覧できる.<br>
著者
寺元 郁博 二宮 正士
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.76-84, 2012 (Released:2012-12-27)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

近年GISの利用が広まっており,農業分野においても各種システムが普及しはじめている.GISを使用するためには地図データが必須であるが,これまでは購入しなければならないことが多かった.2008年より国土地理院が基盤地図情報の刊行を開始し,インターネットを介して無償で提供している.しかし,必要な領域のみを取り出し,かつ使用するGISが対応する形式にデータを変換しなければならないので,簡便には使用できない.そこで,基盤地図情報(縮尺レベル25,000)を用いた地図画像配信サービスを開発した.本サービスは,Web Map Serviceと呼ばれるプロトコルに基づき,インターネットを介してGISからの要求を受け付け,地図画像を作成する.GISの多くは,Web Map Serviceクライアントとして動作する機能を持っているので,使用者は,データ変換等を行うことなく,全国の地図を使用することができるようになる.また,一定の条件を満たせば,国土地理院長の承認を経ずにWWWアプリケーションで使用し,これを公開できる.開発したサービスをGISおよびWWWアプリケーションで使用することができることが確認できた.本サービスは,より詳細な基盤地図情報(縮尺レベル2,500)を使用していないため,簡易的な背景図としての使用に適していることが分かった.
著者
南石 晃明
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.141-159, 2002 (Released:2013-03-31)
参考文献数
13
被引用文献数
15 9

多様な営農リスクや経営目標を明示的に考慮できる営農計画手法を簡易に利用できるように,目標分析やリスク分析が行えるシステムを開発した.このシステムでは,試算分析と数理計画法の統合的利用が可能である.システムは,表計算ソフトをベースにVBAを用いて開発されており,手法面では多様な経営目標,収益リスクおよび作業リスク,労働や土地の制約に加えて機械作業時間や施設処理能力の制約が考慮できる点が特徴である.また,システム面では,機械作業可能時間等の算出機能,演算に用いるモデル構造の選択機能が特徴である.1996年7月の試作システムの配布開始から2001年12月末までの累積利用申込者数は575件であり,このうち66%を都道府県の農業改良普及センターや試験研究機関が占めている.システムの適用事例は少なくとも80以上があり,技術評価と営農計画に大別できる.本研究により,システムが持つべき機能および基本構造は明らかになった。今後の課題としては,システムが取り扱うデータを3種類に区分し,農業技術体系データベースを構築することが求められている。
著者
合崎 英男 澤田 学 佐藤 和夫 吉川 肇子
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.293-306, 2006
被引用文献数
6 6

本稿の目的は, 輸入が停止されている米国産を含めた複数の産地・種類の牛肉を設定し, 国産牛については生産情報公表JAS, 外国産牛についてはBSE検査と生産情報公表JASの消費者評価を選択実験により明らかにすることである. 北海道札幌市清田区の335名から得た選択実験データをランダム・パラメータ・ロジット・モデルで分析した結果, 次の点が明らかになった. 1) 給餌・投薬情報の付加価値については, 国産黒毛和牛の方が国産牛よりも低かった. 国産黒毛和牛は国産牛よりも安全性に配慮して肥育されているという評価枠組みが消費者の間に存在することを示唆する. 2) BSE検査に対する付加価値については, 米国産牛の方が豪州産牛よりも高かった.
著者
鹿内 健志 大城 梨実 官 森林 赤地 徹
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.142-154, 2017

<p>機械による効率的な農作業を進めるためには,圃場毎の作業実態に応じて作業機を最適な方法で利用する計画を策定する必要がある.最適な作業計画のためには,作業機の作業面積,作業内容および作業時間などの作業履歴を記録し,データを詳細に分析し,その結果から最適な作業方法を明らかにする必要がある.サトウキビ機械収穫作業において収穫機と搬出機の両方に市販の安価なGPSを取り付け,両者の軌跡を分析することで,数パーセントの誤差で,収穫機と搬出機の作業実態を分析することができた.有効作業効率は小型収穫機は0.29(一方向刈)および0.37(往復刈),中型収穫機では0.27(一方向刈)および0.38(往復刈)であった.圃場作業量および有効作業量は中型収穫機は小型収穫機のほぼ二倍であった.収穫機と搬出機の相互の挙動を解析することで,作業の非効率な部分を明らかにし,効率の改善の可能性を示すことができた.そのことにより,小型収穫機については搬出機との連携作業を最適化することで,現在より能率向上できる可能性があることがわかった.また,降雨量と機械稼働の関係から小型収穫機は中型収穫機より稼働率が6%程度高い可能性があることがわかった.</p>
著者
安場 健一郎 藤尾 拓也 渡邊 勝吉 多根 知周 山田 竜也 内村 優希 吉田 裕一 後藤 丹十郎 田中 義行
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.155-163, 2017 (Released:2017-12-28)
参考文献数
22
被引用文献数
2

施設内外の夜間のCO2濃度の計測値を利用して,隙間換気回数と施設内でのCO2発生速度を推定するソフトウェアを開発した.開発したソフトウェアはパーソナルコンピュータ上で動作し,ユビキタス環境制御システム(UECS)に準拠したCO2計測ノードが導入された施設で利用可能である.冬期間締め切った施設では夜間,土壌や植物から発生するCO2によってCO2濃度が上昇する.隙間換気回数と施設内からのCO2発生によってCO2の上昇曲線が決まる.開発したソフトウェアで,隙間換気回数推定のためのデータ収集期間を設定すると,自動的にその期間のCO2濃度を記録する.その期間の終了時に,非線形回帰分析を利用して,隙間換気回数と施設のCO2発生速度を自動的に推定する.また,計算したこれらの推定値を利用して,日中,換気開始前までの施設内での光合成速度を推定する機能を実装した.また,電子メールによってこれらの計算結果をリアルタイムにユーザーに伝達する機能を実装し,推定値の把握を容易にした.本ソフトウェアを利用することでCO2測定ノードが導入されていれば,簡単に隙間換気回数,施設内でのCO2発生速度を推定可能で,施設内でのCO2環境や省エネルギなどの施設内環境の改善に活用できると考えられた.