著者
早野 慎吾
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大学研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
no.93, pp.1-10, 2021-03-01

Abstract The term shakoshin , literally the desire for happiness resulting from chance circumstances, is used in relation to the regulation of gambling, in reference to a psychological state in which an individual desires property benefits by chance. In this paper,gambling is divided into three types for the analysis of shakoshin . (1) Touji type: The parties have no involvement in the result at all; (2) Hakugi type: The parties cannot participate in the result, but they can participate in selecting the target for a winning bet;(3) Yuugi t ype: T he parties may be involved in t he result t o some extent or other. The factors contributing to the stimulation of shakoshin are classified as “reward expectation effects” based on the magnitude of property profits, “probability expectation effects” based on the probability of property being gained, and “internal control effects” related to the parties’ involvement. These three effects allowed us to identify differences in the nature of each form of gambling activity.【抄録】ギャンブル等の規制に使われる「射幸心」であるが、これは語義的には「偶然の幸せを頼む心」であるが、規制においては「偶然の財産的利益を欲する心理状況」の意味で使われる。本研究では、ギャンブルの性質を( 1 )賭事型:当事者が結果に全く関与できないもの( 2 )博戯型:当事者は結果には関与できが、当選対象を選択することに当事者が関与できるもの( 3 )遊技型:当事者が多少に関わらず結果に関与できるものに分類した。 また射幸性を誘発する要素を、財産的利益の大小を基準とする「報酬期待効果」と、得られる確率を基準とする「確率期待効果」、行為者の関与に関わる「内部統制効果」に分類して分析した。この3 つの効果により各ギャンブルの性質の違いを明らかにした。
著者
佐藤 佑 SATO Yu
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.39-57, 2014

国語科のいわゆる「学校文法」は、日本語研究の分野ではことごとく否定され、大学の教師教育においてすら批判的に扱われることが多い。その結果、国語教師は教えるべき文法のあり方を十分に知らされないまま教壇に立つことになっている。本稿はこうした現状に一石を投じるべく、学校文法の枠組みの中でも特に難解な「連文節」の理論を整理し直すことで、国語教育に携わる人々の一助となることを期するものである。これに加え、学校文法の枠組みから外れる連文節以上・文未満の単位を処理するためのツールとして、橋本進吉が最晩年に整備しようとしていた「文節の群化」のシステム(橋本1944)を再評価し、その重層的で複雑な文構造の捉え方を教育現場に持ち込むための方法論を検討する。具体的には、述語・述部を核とした学校文法の「文の成分」観を肯定的に捉えつつ、その理解を助けるものとして橋本(1944)の理論を応用し、個々の文節間の関係を順序立てて確認する方法、またそれに基づいて、教育現場では構文を階層的・段階的に図解しながら教える手法を提案する。
著者
堤 英俊 TSUTSUMI Hidetoshi
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.33-54, 2015

本稿では、小・中学校段階の生徒たちが、通常学級からの転出後、本人たちに「異質」として認識される知的障害特別支援学級に転入し、そこに「居場所」を見出していく一連の過程を、彼(女)ら自身の「置かれた状況の中で状況をのりこえようとして働かされる様々な創意工夫や知恵」すなわち彼(女)らなりの<生活戦略>に着目しながら記述して考察した。 知的障害特別支援学級に転入した生徒たちの共通経緯としてあった通常学級における学力問題は、個人問題に矮小化されて基礎レベル以上の学力向上が不問に付されるとともに、二次的な「内面のつまずき」へと問題の焦点がずらされていた。そして、彼(女)らは、その学級で安全で安心できるアジール空間や友だち・教師・介助員といった信頼できる他者を獲得する一方で、ある意味で代償的に、「特別支援学級生徒」カテゴリーや「障害児」カテゴリーに依拠した、学級内での教師からの独特のまなざし、学級外での通常学級生徒からの独特のまなざしという、二重の「健常者」のまなざしが意識される状況に置かれることになった。こうした状況の中で、彼(女)らは、<ポジティブ解釈への転換><グレーゾーン・コミュニティへの参加><「運動」への没頭><「つるみ」相手の確保><まなざしの無視>といった戦略を働かせ、<グレーゾーン・アイデンティティ>を選択することを通して主体性を維持しながら、その学級の内部に「居場所」を見出していっていた。
著者
古川 裕佳
出版者
都留文科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

日本近代文学において、志賀直哉をはじめとする若い男性作家の作品に、家の女中と性的関係をもったことに苦悩する主人公像が描かれていることに注目し、罪意識と逸脱者意識の混交の果てに超越的な自己を見出そうとするような、共通した機構があることについて考察した。女中と関係してしまう「不良」のような、<家庭>イデオロギーからの逸脱者を描くことが、当時の文学にとって重要な課題であったことを明らかにし、家庭において家族と他人の中間的な存在であった「女中」の表象がどのように変容するのかを、当時の女中をめぐる言説および具体的な小説の表象に即して検討した。家庭にとっての異物であり、悪役とされる「妾」がお家騒動においてどのように機能したかを検討した。
著者
福田 誠治 遠藤 忠 岩崎 正吾 袴田 邦子 関 啓子 松永 裕二
出版者
都留文科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、これまでの経験の蓄積をもちながらすでに変化を始めているロシアをフィールドとして、教育の多様化・個別化を総合的に検討しながら、英才教育の歴史的展開の研究、今日の学校多様化の実地研究、学校多様化の制度モデルの構築を行うことである。初年度はモスクワ、ヤロスラブリ、カザン、また次年度はモスクワ、サマーラ、ノボシビルスクの現地調査を行った。これによって政策、実施状況、実施上の問題点などを明らかにしてきた。これと関連して、2003年3月には「ロシアにおける英才教育と学校の多様化・個性化に関する総合的調査研究-中間報告」を、および2004年9月には「ロシアにおける英才教育と学校の多様化・個性化に関する総合的調査研究-中間報告2」を編集し、刊行した。また、ロシアにおけるエリート教育の国内研究として月1回の研究会と年1回の合宿を継続した。これは、研究分担者がそれぞれの専門性を発揮して研究を進め、毎月、国立教育政策研究所を会場にして研究会を開催するものである。とりわけ、今年度は、ロシアからの行政関係者ならびに研究者を招聘した国際会議を開催し、会議資料を編集・刊行した。国際会議は、2004年11月22日に、国立教育政策研究所(東京都目黒区)にて開催された。川野辺敏「あいさつ」に引き続いて、モスクワ市教育政庁普通教育局長オリガ・ジェルジツカヤ氏が「モスクワ市における英才教育の実践と課題」を報告し、質疑応答に入った。続いて、ロシア連邦教育科学アカデミー心理学研究所ナタリヤ・シュマコーワ氏が「英才を育てる、『星座』の実践から」を報告し、質疑応答を行った。さらに、ジェルジツカヤ、シュマコーワ、福田誠治でパネルディスカッション「ロシアの英才教育」を行った。参加者は、国立教育研究所などの研究員と、関東近県のスーパーハイスクールの教員、国内ロシア教育研究者、および本研究の研究参加者など30名余である。以上の成果をもとに、成果報告書を作成した。さらに、この成果は、2005年6月の比較教育学会にて共同発表される。
著者
田中 里美
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.129-150, 2020

福祉供給における公的責任の大きさによって特徴づけられてきた北欧型福祉国家におい ても、その成立を支えた条件の変化に伴い、市場化を含む制度改変が行われ、財政の健全 化と福祉供給の維持、効率化と平等の両立、さらには選択の自由の拡大が目指されている。 北欧型福祉国家に分類されるフィンランドでも、社会福祉、医療保健サービスの分野では、 民間、非営利組織の利用が進んでいる。一方、学校教育に関しては、私立学校は例外的な 扱いに留まり、自治体が財政、供給を担う公教育中心の体制が続いている。この体制の下、 1990年代の不況期以降、自治体による学校(とくに日本の小・中学校に相当する総合基 礎学校)統廃合の決定が相次いでいる。多くの地域で、私立学校化による学校の維持存続 の試みがとん挫する中、総理府の実験プログラムを利用し、公教育の枠組みの下で、地域 住民が社会的企業を立ち上げ、コミュニティ組織、地域の企業をつなぎつつ、自治体のパー トナーとして学校を維持する試みが、中央ポホヤンマーマークンタ、カンヌス市エスコラ 地区で行われている。この事例は、フィンランドの総合基礎学校が、1970年代の発足以来、 堅持してきた教育機会の平等の理念とともに、学校に対する地域ごとに多様なニーズに対 応する制度に変化するかを見る上で、重要な意味を持っている。