著者
井柳 美紀
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、デモクラシー下の市民的資質との関わりで教養教育の果たす役割について、特に、J.S.ミル、マシュー・アーノルド、ニューマンなどを主な対象としつつ、19世紀イギリスの思想史的文脈において検討することである。同時に、現代における市民的資質の育成の観点から教養教育の役割について考えていくことをも目的とする。一昨年は、マシュー・アーノルドに関する論文や現代の若者の市民的資質に関する論文を書いたが、昨年は、まず、(1)図書において、共著として、熟議民主主義に関する章を執筆したが、これは本研究において市民的資質の一つとしての熟議に関する資質・問題を扱ったものとして位置づけられるものである。ここでは、熟議民主主義の前提として熟議する文化や環境の育成が必要であることなど、熟議民主主義の可能性や今後の課題について検討を行った。(2)そのほか、19世紀イギリスに関する政治的教養についての研究を、マシュー・アーノルド以外に同時代の教養論争に注目しつつ進めたが成果の公表は次年度となる。既にJ.S.ミルやマシュー・アーノルドについて市民的資質との関連から論文を執筆しているが、現在は、特に、19世紀後半におけるイギリスの教養論争において、民主化や産業化が起きる中で、従来の古典中心の教養教育に対する批判がおきる中で、新たな大学の役割や学校教育の役割などに関しておきた議論に着目しながら検討を行っている。(3)また、市民的資質と教養教育との関連で、シティズンシップ教育や教養教育に関する講演会を自治体向けに複数実施したり、一般市民向けの公開講座を実施するなど、本研究の成果を地域にも還元している。
著者
兼崎 友
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

常温性のシアノバクテリアが突然変異の蓄積によりどこまでの高温耐性を獲得できるのかという命題に挑むため、3年に及ぶ長期間の寒天培地上での高温順化培養により、シアノバクテリアS. elongatus PCC 7942の通常の生育限界温度である43℃を大きく超えた株群を得ることに成功した。これらの高温耐性突然変異株群について、ゲノム上の突然変異部位を次世代シーケンサーを用いてゲノムワイドに同定し、さらに遺伝子組換えを用いた実験から高温耐性に寄与した変異遺伝子座を概ね明らかにした。この高温耐性突然変異株では、高温下での転写産物プロファイルや細胞形態、生育速度などに大きな違いが見られた。
著者
柴田 幸一
出版者
静岡大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

3歳以下の乳幼児について、登園時での母子分離による(直後)不安反応や保育園への適応状態などについて定期的に観察を続け、分離不安や保育園への適応状態の程度を測定するための尺度の検討を行なった。同時に、主たる養育者である母親に、養育態度や学歴などについての質問紙調査を行なうことによって、子どもの不安反応や適応状態との相互作用を分析し、以下の知見を得た。1.登園時に母親と別れる際の分離不安反応は、やはり1歳代の子どもで最も強く、その後、年齢の経過とともに減少していく。0歳代にはほとんど起こらない。不安反応は入園後1か月項までに急激に減少していくが、3か月を経ても減少しない子どもの場合には母子関係に問題があり、母と子との愛着関係が成立していないか希薄な場合に見られるようである。母が子どもを非常に溺愛している場合は、分離不安反応が発達的にはより早く現われる。その意味で、分離不安反応がいつ項強く現われるかは、母子関係の絆がどれ程早くしかも強く形成されているかによると言える。2.保育園への適応過程は、分離不安反応の生起程度と負の相関を示すようである。つまり、分離不安反応が薄くなるにつれて、子どもの朝の機嫌もよく、保育園への適応状態も次第によくなってくると言える。3.0歳代の入園児に分離不安反応がほとんど現われないのは、認知能力がまだそこまで発達していないと判断されるが、それと同時に、0歳児の知的能力の柔軟性も予想された。つまり、母子関係と保育園側での対応がしっかりしていれば、0歳児は複数のコミュニケーション能力を別々に発達させていく可能性がある。それ故、特に言語面での能力が促進されるのではないかとの印象を受けた。今後は、この面での可能性も理論的に検討し、また、実証していきたいと思っている。
著者
芥川 一雄
出版者
静岡大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

当科学研究課題の目的は、スカラー曲率が正の山辺計量の収束・退化の解析とその低次元多様体への応用であった。具体的研究成果は下記の通りである。(1)山辺不変量正かつ体積1の山辺計量を持つn次元多様体の族Y(n)を考え、さらにある種の曲率積分有界の条件下で、収束・退化に関する成果を得た。これは、"11.研究発表の3番目の論文"の主結果の一般化である。(2)山辺計量の族Y(n)を考え、(1)とは別のタイプの種々の曲率積分有界の条件下で、それらのコンパクト性定理や正の定曲率計量に対するピンチング定理を得た。特に新しいタイプの定理としては、3次元閉多様体上の平坦な共形構造に対するピンチング定理を得た。以上(1)、(2)の研究成果は、次の論文にまとめており現在投稿中である。"K.Akutagawa,Convergence for Yamabe metrics of positive scalar curvature with integral bounds on curvature."またこれらの研究過程において、スカラー曲率が正の山辺計量は、トポロジーへの応用上、3次元の場合が特に有用でありかつ幾つかの予想問題が自然に提出されることがわかった。4次元の場合においても、反自己双対共形構造に対象を制限すれば、山辺計量の収束・退化の研究はそのモデュライ空間の研究に有用である(この場合には、山辺不変量の符号の条件は不必要となる)。実際"Sobolev半径"と言う概念が導入でき、それを物差しとして、反自己双対的山辺計量の収束・退化の解析はある程度可能であることもわかった。この対象においては具体例が豊富で、今後の研究は反自己双対的山辺計量の収束・退化の研究を中心に進める予定である。上記の研究において、研究費補助金による研究連絡は極めて重要であった。