著者
浜渦 辰二
出版者
静岡大学
雑誌
人文論集 (ISSN:02872013)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.A1-A24, 2005-01-31

シュッツはウィーンに生まれ、ウェーバーの理解社会学をフッサール現象学で基礎づけようとした処女作『社会的世界の意味構成』でフッサールの知遇を得たのち、ナチスの迫害により米国へ亡命し、現象学的社会学の創始者となった。シュッツがフッサール現象学のなかで最も重要と考えたのは、間主観性の問題圈であった。シュッツは、フッサール現象学の枠組みを継承しながらも、初めからレ超越論的現象学の問題は意図的に放棄し、「自然的態度の構成的現象学」である「現象学的心理学」にとどまることを宣言していた。そのことを知りながら、フッサールはシュッツの処女作を絶賛した。それは、晩年のフッサール自身が繰り返し主張していた「現象学的心理学と超越論的現象学」という枠組みが、シュッツの現象学的心理学(ひいては、現象学的社会学)の構想を受け入れるものだったからである。処女作脱稿直後にフッサールの『デカルト的省察』(仏語版)を読み終えた前期シュッツは、「問題の解決のための本質的な手がかりを与えている」と評価していたが、亡命後の後期シュッツは、「その解決を一歩一歩吟味」していき、「フッサールの議論にある明らかな失敗」を主張するに至った。シュッツが失敗の原因と考えたのは、「〈構成〉という概念の意味がずれていったこと」であった。しかし、フッサールの〈構成〉概念の用語法を見ると、能動態、受動態ともに再帰動詞の形が次第に多くなる傾向が見られ、この再帰動詞形に着目していく時、後期シュッツの読みとは異なる読み方が可能になるように思われる。私見によれば、フッサールが未刊草稿で求めていたのは、まさにこの異なる読み方の方向であったが、シュッツは生前にこれら未刊草稿を読むことはできなかった。間主観性の問題を、フッサールは超越論的現象学において解明しようとしたのに対して、シュッツは自然的態度にとどまり、生活世界の存在論において解明しようとしたと、とりあえず言うことができる。その時われわれは、生活世界の存在論と超越論的現象学を対立構図のなかで考えている。しかし、フッサール自身そのような対立構図で考えてはいなかった。それゆえにこそ、フッサールはシュッツの現象学的社会学を受け入れる余地があったのである。現象学的心理学と超越論的現象学の間にはさまざまな対話可能性がある。シュッツの功績は、哲学的な関心をもつ社会学者と社会学的な関心をもつ哲学者の間に対話の可能性を準備しておいてくれたことにあろう。
著者
高橋 雅樹
出版者
静岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度は、これまでに疑似結晶分子構造を有するアントラセン-ペリレンデンドリマーの光捕集分子機能を応用した「多チャンネル分子センサー」の基礎概念の確立を試みた。具体的には、ペリレンをコアに配し、その両末端に2残基のアントラセンを配したアントラセン-ペリレン連結体を「多チャンネル分子センサー」として構築し、その内部に発現するエネルギー捕集を伴った分子センサー機能の開発について検討を行った。まず、「アントラセン-ペリレン連結体」の基本部分であるアントラセン及びペリレン単体化合物のセンサー機能について検討を行った。各化合物の構造末端にセンサーのスイッチ機能の役割を果たすアミノ基を導入し、pH変化による蛍光発光強度の変化について検討した。その結果、各分子への塩酸を始めとした酸の添加により、アントラセン単体分子では約10倍、ペリレン単体分子では約2倍の発光強度の増加が認められ、アミノ基によるスイッチ機能が利用可能であることを確認した。つぎに、これらの発色団がアミノ基を介し結合した構造を有する「アントラセン-ペリレン連結体」について、pH変化による蛍光発光強度変化について検討を行った。励起波長をアントラセンの吸収領域に合わせ蛍光発光測定を行った場合、pH変化に関わりなく一定強度のペリレン発光を与える一方、励起波長をペリレンの吸収領域に合わせ観測を行った場合、pH変化に応じペリレンの蛍光発光強度が増減しセンサー機能の発現が認められた。以上のことから、「アントラセン-ペリレン連結体」は、測定に用いる励起波長に応じ、センサー機能と非センサー機能の使い分けが可能な「多チャンネル分子センサー」として有用なナノフォトニクス分子素子であることを明らかにした。
著者
大村 三男 張 嵐翠
出版者
静岡大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

ウンシュウミカンのフラベド(果皮部分)には多量のカロテノイドが蓄積する。その中でも、'宮川早生'の枝変り品種である'山下紅早生'のフラベドには、赤色のアポカロテノイドであるβ-シトラウリンが含まれており、鮮やかな紅色を呈する。しかし、これまでβ-シトラウリンの生合成経路は不明であり、その蓄積メカニズムは解明されていない。そこで、本研究では'山下紅早生'に含まれるβ-シトラウリンの生成に関与する酵素遺伝子を単離し、その集積メカニズムを明らかにすることを目的とした。前年度まで、'山下紅早生'におけるβ-シトラウリン含量の季節変動を調査し、さらに、'宮川早生'とカロテノイド含量・組成およびカロテノイド関連遺伝子の発現の季節変化を比較した。その結果、'山下紅早生'では成熟に伴いβ-シトラウリンが急速に増大した。また、リアルタイムPCRによる遺伝子発現解析を行ったところ、このβ-シトラウリンの増大に伴い、カロテノイド代謝分解に関わる遺伝子の発現が上昇した。この遺伝子の発現上昇は、果実の成熟期間中、'宮川早生'で低いままで推移するのに対して、'山下紅早生'では増大していた。また、本年度は、このカロテノイド代謝分解のプロモーター領域の塩基配列を'山下紅早生'と'宮川早生'で比較したところ、両品種で異なる領域が認められた。また、機能解析として、ゼアキサンチンを生成する大腸菌にこのカロテノイド代謝分解に関わる遺伝子のcDNAを導入したところ、β-シトラウリンを生成した。以上の結果から、'山下紅早生'のβ-シトラウリン生成は、本研究にて単離された新規のカロテノイド代謝分解に関わる酵素遺伝子の発現上昇によることが明らかとなった。
著者
石原 進
出版者
静岡大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

車車間の衝突防止および歩車間の事故防止のために、車車間・歩車間の距離、相対的位置関係、密度に応じて各車両・歩行者が発する位置通知無線信号(ビーコン)の送信頻度、送信出力を動的に制御し、無線資源の効率的利用と安全性の確保を両立するアルゴリズムを開発した。開発したアルゴリズムでは、短い周期でビーコンの送信出力を段階的に変更することを繰り返す。これにより単純な制御で、様々な車両密度、車両間距離において良好なビーコン受信率、ビーコン到着間隔を達成できる。
著者
高濱 謙太朗
出版者
静岡大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究の目的は、テロメアが形成するグアニン四重鎖に対するTLSの結合性とテロメアにおける機能との関係を明らかにすることである。そこで研究計画では、平成24年度に試験管におけるTLSのテロメアDNAとテロメアRNAに対する認識機構を詳細に解析して、平成25年度に細胞内でのTLSによるテロメアDNAとテロメアRANAの結合性と、TLSがガン化の機構に関与しているかを解析することであった。実験計画が当初の予定以上に進展し、平成24年度中にTLSのRGG3領域がテロメアDNAとテロメアRNAに対してグアニン四重鎖特異的に同時に結合することを明らかにして、テロメア構造のヘテロクロマチン化とテロメア短縮に関与していることがわかった。この結果はChemistry & Biology誌に掲載された(Chemistry & Biology (2013) 20, 341-350.)。そこで本年は、TLSのRGG領域によるテロメアDNAとテロメアRNAに同時に結合する分子機構をさらに詳細に解析することで、テロメアRNAが形成するグアニン四重鎖に結合する分子の開発を行なった。RGG領域中の芳香族アミノ酸がグアニン四重鎖DNAとRNAの識別に重要であることを見出したので、このタンパク質中の芳香族アミノ酸をすべてチロシンにしたところグアニン四重鎖DNAに結合せず、RNAに結合することがわかった。さらに、この開発されたタンパク質はグアニン四重鎖RAAのループ構造の2'-OHを認識することがわかった。これらの結果はJournal of American Chemical Society誌に掲載された(J. Am. Chem. Soc. (2013) 135, 18016-8019.)。この成果は、グアニン四重鎖構造の機能解明に大きく貢献すると考えられる。
著者
橋本 岳 土屋 智 竹林 洋一
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

土砂災害は身近かつ大変危険な災害であり,土砂災害の予兆検知に関する技術の確立は緊急かつ不可欠である。しかし現状では計測精度・計測範囲・計測装置の複雑さ等から妥当な方法が存在しない。本研究期間中には,橋本が有する高精度計測技術を活用して,屋外遠距離にて,広範囲かつ高精度な計測方法を実現した。具体的には,カメラ基線長約1m,計測距離約90mで最大誤差10mm以下という画期的な計測システムの試作に成功し,それを高速道路の法面計測へ適用した。また,本計測方法の様々な応用へも積極的に取り組み,一例として建物や橋梁の振動計測実験を行った。これらは,建物の耐震判定やインフラ構造物の点検にも有効と考えられる。
著者
中 正樹 小玉 美意子 日吉 昭彦 小林 直美
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は2つある。第1に、日本のテレビニュース番組がロンドン五輪開催期間にどのようにニュースを報道したのかを内容分析することである。第2に、その分析結果と北京五輪開催期間における同様の内容分析の結果を比較することである。ロンドン五輪開催期間のニュース報道の内容分析結果は、2014年度武蔵社会学会で報告した。また、『ソシオロジスト』No.17に論文として発表した。2つの五輪開催期間のニュース報道の内容分析結果の比較に関する考察は、EASM2015で報告した。これら2つの研究目的の達成を通じて、日本のテレビニュース番組における国際報道のニュース・フレームについての知見を得た。
著者
武 恒子
出版者
静岡大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1.「卯の花納豆」の品質改良試験豆腐かす(オカラ、卯の花)に納豆菌YA株を作用させ、卯の花納豆を製造する際、酵素剤併用の効果について検討した。酵素は、(1)セルラ-ゼ3S(繊維素分解酵素)及びマセロチ-ムA(植物組織崩壊酵素)と(2)コクラ-ゼ(澱粉分解酵素)及びコクラ-ゼSS(蛋白分解酵素)を用いた。それぞれの単一使用と併用の場合の至適作用条件を確認の上、i)酵素で前処理を行った後、納豆菌を成育させる。ii)納豆菌を成育させた後、酵素を作用させる。の二法で納豆を試作した。納豆菌の培養条件は果37℃,16時間に統一した。品質の評価は、遊離の還元糖(Bertrand法)、アミノ酸類(日立アミノ酸分析計Lー8500)、水溶性全窒素(Kjeldahl法)、ビタミンB群(Microbioassay法)及び官能評価(五段階評点法・順位法)によった。その結果、酵素剤はi)ii)群ともに基質の0.5%ずつを併用することにより、旨味、栄養効果を高める可溶成分が顕著に増加することを確かめた。なお、酵素で前処理を行った後、納豆菌を作用させて「卯の花納豆」をつくる方法、逆の方法を用いた場合の約1.5〜2倍の糖化力を示した。また、総アミノ酸量は豆腐かすの約10倍、総必須アミノ酸量は21倍、呈味力の強いGlu.,Asp.はそれぞれ17倍と7倍に増加し、ビタミンはRibofravin,PaA,Folic.aの増加が顕著であった。2.「卯の花納豆」の利用法卯の花納豆の生製品をはんぺん、さつま揚げ、Rouxへ混合する場合の添加量を官能評価とTexture(クリ-プメ-タRE3305)を測定して求めた。はんぺんは20%、さつま揚げは5%、Rouxは50%まで可能で独特の風味をもつ食品として評価された。乾燥卯の花納豆は、鰹節、ゴマ、のり、梅干しの他、各種香辛料と良く調和する。
著者
馬居 政幸 夫 伯 李 昌洙 ちょう 永達 POE Baek CHO Youngdal LEE Chang-soo
出版者
静岡大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

韓国では今なお過去の歴史に起因する反日意識は根強い。加えて、青少年の間に広がりつつある日本の漫画・アニメ等の大衆文化に対して、日本の新たな文化侵略であり、その内容が青少年教育にとって有害であるとの批判が青少年教育関係者から提起されている。他方、日本の大衆文化の良質のものを受容すべきである、との意見もある。本調査の目的は、(1)このような韓国青少年への日本の大衆文化浸透状況とそのことへの評価の実態を明らかにするための資料やデータを収集し、(2)その分析を通じて日韓両国の青少年における相互理解促進のための課題と方法を明らかにするとともに、(3)韓国だけでなく、アジア全体に広く浸透しつつある日本の大衆文化の影響や問題を解明するための調査研究の方法を検討するための基礎データを得ることである。そのため、日本の大衆文化浸透状況把握を目的に、(1)小・中・高校生とその父母、(2)大学生、(3)企業で働く青年に対して、また、評価の実態把握のため、(4)小・中・高等学校の教師、(5)青少年教育関係者、(6)教育研究者、(5)マスコミ関係者、(6)日本の大衆文化の翻訳、出版、販売事業の従事者・関係者に対して聞き取り調査を実施。その結果をふまえ、小・中・高校生300名への質問紙調査を実施。収集した資料やデータを「公的-私的」、「日常的-非日常的」の二の軸で分類・分析した結果、韓国青少年が小・中・高と成長する過程で次の(1)〜(6)のような社会過程が総合され、戦後(解放後)50年を経てもなお“反日意識"がより強く育成され続けていることが確認された。(1)日常的に学校教育を通じて教えられる公的な事実としての歴史認識 (2)日常的なテレビ・新聞等の情報環境における公的な反日情報と歴史認識の再確認 (3)日常の身近な人間関係や生活習慣に刻まれた私的な植民地時代の被害事実 (4)慶祝日や名所・旧跡の碑文などによる非日常的で聖的な価値に基づく公的な歴史認識の正当化 (5)家族や一族の忌日(命日)などで確認される非日常的で聖的な価値に基づく私的な反日意識の正当化 (6)このような韓国の現状を無視するとしか韓国の人達にとらえられない日本の側の対応とその事実を増幅する報道。このように韓国では今なお過去の歴史に基づく反日意識が根強く、公式には日本の現代文化は輸入禁止だが、小・中・高校生への調査結果から日本文化の浸透度について次のことが明らかになった。まず、ハングル訳の日本の漫画単行本を全体で61%、特に高校男子が90%、高校女子も79%が読んでいる。ハングル訳の日本のアニメを見た者はより多く全体の82%、特に小学男子は92%、小学女子も77%。ハングル訳でない日本のアニメを見ている高校男子も59%いる。日本のテレビゲーム経験者は全体の74%、高校男子は92%。日本の歌謡を高校女子の51%、高校男子の39%が聞き、日本の歌手を高校男子の39%、高校女子の30%が衛星放送で見ている。この実態から日本の大衆文化は韓国青少年の私的な日常生活に極めて広く浸透し、しかも、小・中・高と成長するにしたがい接触頻度や関心・意欲が高まることが聞き取り調査から確認できた。さらに本年度の調査結果から、日韓両国青少年の相互理解推進の課題を解明するためには、次の理由により新たな調査研究が必要との結論に至った。第一に、韓国独立50周年を契機に、改めて日本大衆文化容認を巡る賛否が激しく議論されたが、世論調査では容認派増の傾向がみられ、日本文化への評価はここ数年で大きく変化することが予測され、この変化過程の継続調査が必要である。第二に、韓国ではソウル市都市圏とそれ以外の地域との文化の差が極めて大きく、韓国全体の傾向ならびに今後の変化を分析する上で、ソウル市と韓国中・南部地域との比較調査が必要である。第三に、日本文化を受容する韓国青少年の意識と行動の構造を解明する上で、近年の急激な民主化と経済成長に伴う学校教育ならびに家庭や地域社会での生活様式の変化の多面的な調査が必要である。他方、このような急激な民主化と経済成長による青少年の生活様式の変化や都市部と非都市部の比較調査は、同様の社会変化の中にあるアジア各国における日本文化浸透の影響や問題を解明するための課題と方法を検討する上で貴重なデータとなりうることも確認できた。
著者
吉村 仁 曽田 貞滋
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本課題では、理論研究と実証研究を同時に進めたが、とくに周期ゼミ全7種のほぼ全ブルード(発生年の異なる集団)の系統解析を実施、アレキサンダーらが提唱していたdecim, cassini, deculaの3系統で17年と13年が独立に進化したという仮説が正しいことを明らかにした。さらに、理論研究では、decim系統で13年が2種確認された問題で、新種記載されたM. neotredecimが17年の個体群に13年のM. tredecimが少数飛来して混入することにより13年周期にシフトする可能性をシミュレーションで示した。さらに人間の経済活動を含む様々な事例で環境変化・変動への適応研究を展開した。
著者
阪東 一毅
出版者
静岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー結晶(TPCO結晶)におけるダビドフ励起子の基礎光学遷移について調べた。下枝ダビドフ励起子はTPCO分子のチオフェン環の数に依存して光学遷移が許容になる場合と禁止になる場合がある。一方、より高エネルギー側に存在する上枝ダビドフ励起子はac面内方向に極めて大きな振動子強度を持つ。TPCO分子は結晶内でH会合体のようにほぼ平行に配向するため、上枝ダビドフ励起子は下枝ダビドフ励起子に比較し、大きな吸収強度を持つ原因となる。これらの光学遷移選択則はそれぞれの結晶における分子の遷移双極子モーメントの配列様式によって決まってくる。
著者
金子 晴勇
出版者
静岡大学
雑誌
文化と哲学
巻号頁・発行日
vol.4, pp.19-57, 1985