著者
坂野 靖行 豊 遙秋
雑誌
一般社団法人日本鉱物科学会2019年年会・総会
巻号頁・発行日
2019-08-13

福島県多田野に分布する安山岩に含まれるスカルンゼノリス中の加藤石のEPMA分析を行った.BSE像観察では加藤石は単一粒子において組成不均質を示す.平均化学組成から得られた実験式(Ca = 3として計算)は{Ca3}[Al1.59Fe3+0.20Mg0.07Ti0.02]Σ1.88(Si1.15S0.11□1.74)Σ3[(OH)6.99O4.81F0.16Cl0.04]Σ12である.S及びAl + Fe3+の組成範囲はそれぞれ0.00-0.20 apfu及び1.61-2.00 apfuである.
著者
鈴木 俊 小林 健太
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

南部フォッサマグナは,フィリピン海・ユーラシア・北アメリカプレートの会合部にあたり,日本でも屈指の変動帯である.また,フィリピン海プレート上の伊豆-小笠原弧の本州弧への多重衝突・付加の場としても注目を集めている.本研究地域に広く分布する富士川層群浜石岳層(上部中新統~鮮新統)は,衝突現象に伴って形成されたトラフを充填した堆積物で,礫岩や火山砕屑物を主体とした地層である.これらの分布東限には活断層である富士川河口断層帯入山断層・芝川断層(総延長26km以上)がほぼNSトレンドで延び,さらに東側の庵原層群(更新統)とを境する.これらの断層群の南方延長はそのまま駿河トラフに接続するとされる(杉山・下川,1982など).よって,直近のトラフ充填堆積物中には,プレート境界部における複雑な構造運動の痕跡が記録されていることが期待される.さらに近年,浜石岳層中の礫岩層において外形が流動を伴いつつ脆性変形を受けた面状カタクレーサイトの露頭が報告された(丸山,2008).これまで浜石岳層からの面状カタクレーサイトの産出は知られていないことから,連続性や成因に関しても不明なままである.そこで本研究では,衝突帯におけるテクトニクスの解明を目的として,先述した面状カタクレーサイト露頭の基本的な記載およびそれらを軸とした各種解析を行った.面状カタクレーサイト(富士川剪断帯)は,静岡県富士宮市南西部の富士川にかかる新内房橋付近の河床に,東西30m・南北300mにわたって広く露出する.変形は一様ではなく何条かの変形集中帯が観察される.地層の走向と剪断帯のトレンドはほぼ平行である.それらの基本トレンドはN45°~60°Wであるが,一部EWトレンドも認められる.礫の変形様式は,非変形の礫から剪断変形が卓越する礫・外形が流動するような礫(Cataclastic flow)まで多種多様であり,これらが共存して産する.礫のファブリックから求められる剪断センスは左横ずれを示すものが多い.剪断帯の連続性については今回の調査では認められず.周辺地質ではNS系の褶曲構造や断層ガウジを伴うような脆性変形が卓越的であることが明らかになった.また,各所にて断層面の構造測定を行い,多重逆解法(山路,2000)を用いて古応力の復元を試みた.その結果,剪断帯においてはNNE-SSWσ1の横ずれ応力場,周辺の断層ガウジからはEWσ1の逆断層応力場,入山断層直近の破砕帯からはWNW-ESEσ1の左横ずれ応力場が卓越的に検出された.以上のような記載・解析の結果,剪断帯は周辺地質のNS系の基本構造とは明らかに斜交するNW-SE方向の基本構造を持って,局所的な分布で産出することが明らかになった.また,断層岩の形成レジューム深度の観点から考えると,剪断帯とその周辺地質の変形様式には明らかなギャップが存在する.仮に剪断帯が断層ガウジ形成レジューム深度よりもより深部で形成されたものと考えるならば,剪断帯のNW-SE方向の構造は周辺のNS系の褶曲構造を切断しているため,褶曲形成後に局所的な地質体の上昇イベントがあったことが考えられる.応力解析結果より,本研究地域にはまず剪断帯を形成するようなNNE-SSW圧縮の横ずれ応力場が働いていた.地質体の上昇と共にそれらはNS系の褶曲構造形成に寄与したEW圧縮に転化し, NS系の断層群は逆断層として活動した.その後,WNW-ESE圧縮の横ずれ応力場で入山断層は左横ずれ運動を開始し,トレース付近において幅広い破砕帯を形成したと考えられる.本発表では,このような記載・解析結果からプレート境界部における地質構造発達史について議論する.
著者
石島恵太郎 高橋知音
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

問題と目的 数唱は臨床現場で頻繁に使われる認知機能検査課題であり,ワーキングメモリを測定するとされている。しかし,数唱を構成する順唱と逆唱のそれぞれの検査がどのような認知機能を測っているのかについて,ワーキングメモリ理論に基づいた見解が,知能検査の理論・解釈マニュアルには示されてはいない。 順唱が音韻ループの機能を反映しているのに対し,逆唱では,視空間スケッチパッドの機能を反映しているという考え方がある(St Clair-Thompson & Allen, 2013)。逆唱において,構音リハーサルだけでは数字を逆の順番で再生するのは難しい。効率的に数字を並び替えるために,数字の視覚イメージが使用されていると考えられている。この仮説を踏まえると,刺激の提示モダリティを変えると,順唱,逆唱において使用される認知機能の差が顕著になると考えられる。たとえば,視覚提示の課題は,視覚処理を促すと考えられる。 本研究では,提示モダリティの影響を個人差の要因も含めて検討することで,順唱で主に音韻処理,逆唱では音韻処理に加えて視覚処理が行われている,という視覚イメージ仮説を検証することを目的とする。実験1 方法 参加者 大学生30名(男性15名,女性15名)が参加した。平均年齢は21.8歳(SD=1.8)であった。 手続き 2(モダリティ)×2(再生方向)の被験者内計画であった。順唱,逆唱の順に実施され,提示モダリティの実施順はカウンターバランスされた。順唱は数字3個,逆唱は2個から開始し,参加者が正答すると数字系列の長さは1増加し,同じ長さの数字系列に2連続で失敗した場合,系列の長さを1減少させた。1つの条件では10試行,全条件で40試行を行った。 採点方法 それぞれの長さの数字リストでの正答率を算出し,順唱では2.5,逆唱では1.5を足して得点とした。結果と考察 課題得点に対して因子分析を行い(主因子法, バリマクス回転),2因子を抽出した(Table 1)。音韻的処理と相性の良い二つの順唱課題と聴覚提示された逆唱課題の得点への負荷量が高いことから因子1は音韻処理を反映していると考えられる。成人を対象にした研究では,逆唱における視覚イメージの使用は効率的な方略であることが示唆されている(St Clair-Thompson & Allen, 2013)。イメージ方略と相性が良い2つの逆唱課題において負荷量が高い因子2は視覚処理を反映していると考えられる。以上から,それぞれの因子を音韻処理因子,視覚処理因子と命名する。実験2 目的 因子負荷の差が顕著な視覚提示順唱と視覚提示逆唱での視覚妨害の影響の程度から,因子2が視覚処理を反映するかどうかを検討する。第1実験で得られたデータから視覚処理因子の因子得点が0以上を高群,0未満を低群とする。視覚処理因子の高い高群では,逆唱において視覚妨害の影響を強く受けるはずである。方法 参加者 第1実験に参加した実験協力者24名(男性13名,女性11名)が再び参加した。 材料 視覚妨害刺激として,Quinn & McConnel (1996)によって開発されたダイナミック・ビジュアル・ノイズ(以下,DVN)を使用した。 手続き 再生段階にDVNが提示される以外は,第1実験の視覚提示条件と同様であった。結果 因子得点高低を被験者間要因,視覚妨害有無と再生方向を被験者内要因とする3要因分散分析を行った。 分析の結果2次の交互作用が有意だった(F (1, 22)=8.31, MSE= 0.54, p=.01, ηp2=.27)。単純交互作用検定を行ったところ,視覚妨害なしにおける因子得点×再生方向の交互作用が有意だった(F(1, 22)=16.53, p=.00)。単純・単純主効果は,因子得点高群の順唱,低群の順唱,因低群の逆唱において,それぞれで有意に視覚妨害ありの方が高かった(F (1, 22)=14.19, p=.00,ηp2=.392;F (1, 22)=6.44, p=.02, ηp2=.23;F (1, 22)=6.93, p=.02, ηp2=.24)(Figure 1)。一方,因子得点高群の逆唱においては有意ではなかった(F (1, 22)=1.02, p=.32, ηp2=.04)。妨害ありにおいてはこの交互作用は有意でなかった(F (1, 22)=0.04, ,p=.84)。考察 課題得点に関して視覚処理低群では順唱,逆唱ともに視覚妨害条件では得点が有意に高くなっていた。一方,視覚処理高群では順唱のみ有意に得点が高くなっており,逆唱では差は認められなかった。視覚妨害ありにおける成績向上は,あり条件が全てなし条件の後に実施されたために,実験参加者が課題の手続きや遂行に慣れたことが考えられる。しかし,視覚処理高群における逆唱課題では向上せず,DVNによって視覚処理が妨害されたことが示唆された。因子2が視空間スケッチパッドの機能を反映していることが示唆された。
著者
佐藤 遼河 杉本 徹
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

本研究の目的はコーパスとシソーラスを用いてユーザが指定した被喩辞と特徴語の組に対応する比喩を生成し、提案するシステムを構築することである。本研究では、2つのプロセスから喩辞を求める。1つめはword2vecを用いて被喩辞と特徴語の単語ベクトルを取得し、コサイン類似度を基に喩辞の選択に用いる。word2vecを用いることで任意のコーパスから単語ベクトルを作成することができ、ユーザの執筆する文章に合わせたことば選びが可能である。2つめは分類語彙表のカテゴリを用いて特徴語とカテゴリの共起行列を作成し、特徴語と共起しやすいカテゴリに属する単語を喩辞とする。共起行列により特徴語に適した多様な喩辞を提案できる。システムが生成した喩辞を適切性と有用性の観点から評価した。結果として、適切な比喩の割合は低いもののユーザが文章を作成するに当たって有用な比喩を生成することができた。次に、青空文庫をコーパスとした単語ベクトルを用いた場合の喩辞と国語研日本語ウェブコーパスの単語ベクトルを用いた場合の喩辞を比較した。その結果コーパスを変えることでユーザの執筆する文章に合わせた喩辞が出力できることが分かった。
著者
伊尾木 圭衣 山下 裕亮 加瀬 善洋
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

Hyuga-nada region is located at the south-western part of Nankai Trough, in the Pacific Ocean. M7-class interplate earthquakes are repeatedly occurred by the subducting Philippine Sea plate beneath the Eurasian plate. The largest earthquake in this area was the 1662 Hyuga-nada earthquake (M=7.6) which occurred off Miyazaki Prefecture, south-eastern area of Kyushu region, Japan, and generated tsunami (after called the 1662 tsunami). The tsunami heights were estimated at least 4-5 m along the coast of Miyazaki city by historical records. The 1662 tsunami was much larger than tsunamis generated by usual M7-class interplate earthquakes. This region is also active area of the shallow slow earthquakes. It is known by the 2011 Tohoku earthquake that focal area of shallow slow earthquakes also become a tsunami source area. So, we hypothesized that the 1662 unusual large tsunami was caused by the coseismically slipping of focal area of shallow slow earthquakes. We firstly constructed the fault model of the 1662 earthquake based on the recent result of geophysical observation. To examine the tsunami source of the 1662 earthquake, we surveyed the 1662 tsunami deposits in the lowland along the coast of south-eastern Kyushu region. As a result, sandy event deposits interbedded with clay (organic clay) were recognized at several surveyed points. Based on facies features, these event deposits were possibly formed by the 1662 tsunami. Numerical simulation of the tsunami was carried out using the constructed fault model. Calculated tsunami inundation area can explain distribution of the likely tsunami event deposits at Komei, Miyazaki Prefecture. Furthermore, this study compares calculated tsunami inundation areas, distribution of other surveyed tsunami deposits and tsunami heights of historical records. Tsunami source of the 1662 earthquake proposed by our study could better explain geophysical, geological and historical records.
著者
本田 秀幸
雑誌
第95回日本医療機器学会大会
巻号頁・発行日
2020-09-04

1.はじめに 2020年7月に公衆音声サービスが終了することが発表され,PHSを院内のコミュニケーションツールとして使用している病院では,代替システムの検討が急務となっている.また,近年,スマートフォン(以下スマホ)を院内通信ツールとして活用した取り組みがみられるようになってきたが,Wi-Fiなどの通信方式では電波干渉やセキュリティの課題が指摘されており,これらの課題解決策として,次世代PHS通信方式である「sXGP(shared eXtended Global Platform)」がある.2.sXGPとは何か sXGPとは,従来PHSが利用していた1.9GHzの周波数帯に携帯電話で豊富な実績をもつTD-LTE方式を採用した,自営無線方式の簡便さとLTE方式の汎用性を併せもつ新技術である.1.9GHz帯はわが国や海外で広く使われているLTEの国際バンド「Band39」に包含されるため,この国際規格に準拠してBand39に対応したスマホやデータ通信端末を,手を加えることなくそのまま活用しようというコンセプトで,2017年10月に技術仕様が規格化された.さらに,sXGPで利用する1.9GHz帯はアンライセンスバンド(免許不要の周波数帯)であるため,対応したLTE無線基地局を設置すれば,Wi-Fiのような手軽さで自営LTEの環境を構築できることから,自営内線電話やIoT分野のワイヤレス接続に有効な通信方式とされている.3.医療分野におけるsXGPの有効性 sXGPは,病院の通信環境や電波環境の課題を解決できる特徴をもっている.ここでは,医療現場に導入する主な4つのメリットについて述べる.3-1 医療機器に与える影響が少ない 病院内のスマホ利用で最も懸念されることは,電波が医療機器へ与える影響であり,PHSが広く医療機関に普及したのは,送信出力が低く医療機器への影響が少ないためである.実際の送信出力を比較すると,PHSの基地局が最大80 mW,PHS端末が最大80 mWであるのに対し,一般的なスマホの最大出力は200 mWとなっている. sXGPの最大出力は,基地局が100 mW,スマホが100 mWと,一般のスマホより低出力となっているが,医療機器に与える影響をより客観的に評価するため,弊社では,埼玉医科大学と共同でsXGPによる医療機器への影響調査を実施し,PHSと同等の安全性を確認した(後述).調査概要については,後に詳細にレポートしているので,導入に当たっての参考にしていただきたい.3-2 カスタマイズ可能な自営LTE1)災害に強いシステムの構築が可能 医療機関で要望の多い自社運用(オンプレミス)が可能であるため,停電や災害時に公衆回線を利用できなくなった場合でも,院内の装置自体に故障や停電がない限りは通信に影響を受けない.また,病院内では電波が弱く携帯電話がつながらない場所が存在することがあるが,sXGPでは自ら基地局を設置することで,院内どこでも通話が可能な環境を構築することができる.2)収容効率と通信速度の向上 弊社が採用しているアクセスポイントは,PHSとの比較で,次のように収容効率や通信速度が格段に上がっていることから,通話だけではなく,幅広いデータ利用が可能である. ・アンテナ毎の同時接続数:3台→16台 ・速度(上り)32 kbps→4 Mbps ・速度(下り)32 kbps→12 Mbps3)情報システム連携 TD-LTE(Band39)に対応したスマホを利用できその特徴を活かして,ナースコールなどの既存システムと高度な連携が可能である.3-3 通信の安全性 Wi-Fi通信では,傍受の危険性やセキュリティの脆弱性に常に対策とメンテナンスが必要となるが,sXGPの場合はキャリアグレードの強固な認証方式を採用しているため,高セキュリティなネットワークを構築することが可能である.またPHSと同じ周波数帯のため院内で乱立するWi-Fi干渉対策および代替手段として効果的である.3-4 データ/IoT利用への拡張性 無線ネットワーク方式として世界で標準であるLTE方式を採用しており,PHSの置き換えで構築したsXGPネットワーク上で,医療機関固有の情報システムとの連携に必要なデータ通信やIoT利用,さらには遠隔医療,在宅医療などへの拡張が可能である.4.医療機器との影響概要 本調査では,sXGP規格に対応したスマホで専用アプリケーションを用い,常時,100 mwの電波を放射させ,医療機器の各面に可能な限り近距離で,最低30秒以上電波を放射し続け影響を調査した.調査中はスペクトラムアナライザを用い,上記状態を確認した.結果として対象とした37機種の医療機器のうち4機種(10.8%)で影響が確認された. 医用電気機器の電波による影響状況のカテゴリー分類を表1に,確認された影響状況を表2に示す.本調査では,表2に示した通りカテゴリ2と4に該当する影響が確認された.具体的には,カテゴリ2はスピーカからの異音が出る影響であり,電波発射源を遠ざけることで異音が消失し,カテゴリ4は,動作は停止するがアラームの発生により停止を認知可能であり,電波発射源を遠ざけ輸液開始ボタンを押すことで正常状態に復帰可能であった. また,影響が発生した医療機器2機種における影響発生距離の最大値は7cm(注射筒輸液ポンプ1)であったが,医療機器と通信端末がこのような近距離となる状況は想定されないと考える. 本調査結果に基づき,sXGP端末を利用する際には,「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」2)のPHSの使用に関するルールを適用することで医療機器へ与える影響のリスクを軽減させることが可能で,医療機関内で使用されるPHS端末の代わりとなり得ると考えられる.5.普及にむけて 本稿では,医療機関へのsXGP導入のメリットについて述べた.弊社としては,sXGPの普及促進を通じて,医療の質向上はもちろん,医療現場における働き方改革にも寄与したいと考えている.参考文献 1)総務省:「電波の医療機器等への影響に関する調査」報告書, 平成29年3月 https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/ele/medical/h28.pdf(2019年10月15日現在) 2)電波環境協議会:医療機関における携帯電話等の使用に関する指針─医療機関でのより安心・安全な無線通信機器の活用のために─, 平成26年8月19日