著者
徳田 和宏 竹林 崇 海瀬 一也 小山 隆 藤田 敏晃
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11643, (Released:2020-01-16)
参考文献数
34
被引用文献数
1

【目的】BAD の運動機能予後の予測について検討した。【方法】BAD101 例を退院時良好群と不良群に分類し年齢,性別,麻痺側,入院時National Institute of Health Stroke Scale(以下,NIHSS),病変部位,梗塞面積,リハ開始日,Fugl-Meyer Assessment(以下,FMA),Mini-mental State Examination(以下,MMSE),在院日数,OT・PT 単位を調査し,単変量解析(χ2 検定,対応のないt検定)と退院時FMA を目的変数としたロジスティック回帰分析を行い有意差のあった因子からカットオフ値を算出した。【結果】良好群は不良群と比較し年齢,NIHSS,梗塞面積,在院日数は低くFMA とMMSE は高かった(p<0.05)。また,リハ開始時FMA のカットオフ値は上肢18 点,下肢19 点であった。【結論】BAD の運動機能予後の予測にはリハ開始時FMA が関連していた。
著者
小笠原 正 笠原 浩 小山 隆男 穂坂 一夫 渡辺 達夫
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.899-906, 1990-12-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
10
被引用文献数
2

健常な幼児の寝かせ磨きに対する適応性と発達年齢,暦年齢との関連性を明らかにするために,保護者に寝かせ磨きをさせ,その状態を観察するとともにVTRにて記録し,AICに基づき解析を行った.調査対象者は,健常な幼児98名である.発達検査は遠城寺式乳幼児分析的発達検査を実施した.結果は以下の通りである.1.歯磨き介助(仕上げ磨きを含む)を1日1回以上行っていた保護者は,89.8%であった.2.寝かせ磨きの際に,観察された幼児の不適応行動のうち,最も多かったのは「手を出して邪魔をする(20.4%)」であった.以下,「頭を動かす(17.3%)」,「体位を変える(17.3%)」,「口を閉じる(15.3%)」,「歯ブラシを〓む(13.3%)」,「泣く(13.3%)」の順であった.3.寝かせ磨きに適応した者は78.6%で,不適応であった者は21.4%であった.4.寝かせ磨きの際に,子供を抑制した保護者は,12.2%認められ,他の87.8%は抑制しなかった.子供が拒否行動を示したにもかかわらず,抑制しなかった保護者は9.2%いた.5.寝かせ磨きの適応性と発達年齢,暦年齢とは,強い関連性が認められた.6.寝かせ磨きの適応・不適応を判別できる最適なカテゴリーは,遠城寺式乳幼児分析的発達検査項目のいずれも2歳6カ月前後であった.7.暦年齢2歳6カ月以上であれば,寝かせ磨きに適応できるレディネスが備わっていることが明らかとなった.
著者
小山 隆秀
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.205, pp.211-243, 2017-03

青森県津軽地方のネブタ(「ねぷた」および「ねぶた」を総称する)とは、毎年8月初旬に、木竹や紙で山車を新造して、毎夜、囃子を付けて集団で練り歩く習俗である。現在では海外でも有名な観光行事となった。そのルーツには七夕や眠り流し、盆行事があるとされてきたが、その一方で近世から近現代まで喧嘩や口論、騒動が発生する行事でもあった。本論ではこれをケンカネプタ(喧嘩ねぷた)として分析する。ケンカネプタは、各町の青少壮年達によるネブタ運行が、他町と遭遇して乱闘へ発展するものであるが、無軌道にみえる行為のなかには、一定の様式や儀礼的要素が伝承されてきたことが判明した。しかし近代以降、都市部ではネブタの統制が強化され、ケンカネプタの習俗は消滅したが、村落ではその一部が、投石や喧嘩囃子等で近年まで伝承されていた。さらに都市部では、近世以来行われてきた子供たちの自主的なネブタ運行が禁止されるとともに、喧嘩防止のため、目抜き通りでの合同運行方式を導入することによって、各ネブタ組は、隊列を整えて大型化した山車を運行し、合同審査での受賞を競うことへ価値観を転換していった。近年は、山車の構造や参加者の習俗形態が急速に多様化しており、それにともなう事故が発生したため、市民からは、ネブタが「伝統」または「本来の姿」へ回帰することを訴える動きがある。しかし本論の分析によれば、現在推奨されている審査基準や「伝統」とされる山車の形態や習俗は、近世以降の違反や騒乱から形成され、後世に定着したものであることがわかる。よって、現在の諸問題を解決するための拠り所、または行事全体の紐帯として現代の人々が希求している「本来の姿」に定型はなく、各時代ごとに変容し続けてきた存在であるといえよう。Nebuta (including both "Neputa" and "Nebuta") is festivals held at the beginning of August every year in different parts of the Tsugaru Region in Aomori Prefecture. In these festivals, bands of participants parade newly constructed floats made of wood, bamboo, and paper at night.Nebuta has become famous even outside of Japan, attracting many tourists. Although it originated in the Tanabata, Nemuri Nagashi, or Bon Festival, Nebuta always entailed quarrels, fights, and brawls from the early modern to the modern times. This folk custom is called "Kenka Neputa" and is analyzed in this paper.Kenka Neputa is a brawl resulted from an encounter between floats paraded by young and adult men from different towns. Although it seemed to have been uncontrolled, it has been revealed that there were some traditional codes and ritual elements in such fights. In modern times, Kenka Neputa died out in urban areas because of stronger control of Nebuta, but some elements, such as stone throwing and fighting music, had survived up to recent years in rural areas.In urban areas, children floats, whose origin dates back to the early modern period, were prohibited, and floats paraded down main streets were brought under joint control in order to prevent fights. As a result, Nebuta teams shifted their focus to how to win a festival-wide float competition, creating larger floats and marching in columns. In recent years, Nebuta has become increasingly diversified in the form of floats and the style of participants. As these changes have caused some accidents, a movement is growing among local people to bring Nebuta back to its "traditional" or "authentic" form.This analysis, however, reveals that the form and style of floats valued in competitions or considered as "traditional" were created from brawls and violations and established as standards after the early modern period. Therefore, the grounds for solving current problems, or the "authentic forms" contemporary people are longing for as common standards, are not definite but subject to changes over time.
著者
徳田 和宏 竹林 崇 海瀬 一也 小山 隆 藤田 敏晃
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.113-121, 2020 (Released:2020-04-20)
参考文献数
34

【目的】BAD の運動機能予後の予測について検討した。【方法】BAD101 例を退院時良好群と不良群に分類し年齢,性別,麻痺側,入院時National Institute of Health Stroke Scale(以下,NIHSS),病変部位,梗塞面積,リハ開始日,Fugl-Meyer Assessment(以下,FMA),Mini-mental State Examination(以下,MMSE),在院日数,OT・PT 単位を調査し,単変量解析(χ2 検定,対応のないt検定)と退院時FMA を目的変数としたロジスティック回帰分析を行い有意差のあった因子からカットオフ値を算出した。【結果】良好群は不良群と比較し年齢,NIHSS,梗塞面積,在院日数は低くFMA とMMSE は高かった(p<0.05)。また,リハ開始時FMA のカットオフ値は上肢18 点,下肢19 点であった。【結論】BAD の運動機能予後の予測にはリハ開始時FMA が関連していた。
著者
釜田 茂幸 清家 和裕 亀高 尚 牧野 裕庸 小山 隆史 安野 憲一 宮崎 勝
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.691-695, 2009-06-01 (Released:2011-12-23)
参考文献数
17

Stage I大腸癌根治切除4年後に孤立性仙骨転移を来したまれな症例を経験した.症例は75歳の男性で,平成13年7月に近医でS状結腸癌のためS状結腸切除術を施行され,病理組織学的検査では高分化型管状腺癌,mp,n0,ly0,v0,Stage Iと診断された.平成18年5月,肛門痛の増強のため当科外来を受診した.仙骨に孤立性腫瘍を認め,他に明らかな原発巣はなかった.生検の結果,大腸癌孤立性仙骨転移と診断した.化学放射線療法では無効であったため,腫瘍のfeeding arteryから動注化学療法(以下,TAIC)を13クール施行した.臨床的に明らかな腫瘍径の変化や腫瘍マーカーの降下はなかった.多発肺転移が出現したため全身化学療法へと変更したが,術後6年8か月目に死亡した.大腸癌骨転移に対しては手術だけでなく,化学放射線療法,TAICなども含めた集学的治療が必要となる場合がある.まれな転移を示した本症例に対し,文献的考察を加えて報告する.
著者
周 至文 羅 聡 小山 隆太
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.5, pp.263-267, 2015 (Released:2015-11-11)
参考文献数
49

胎生期および小児期は神経回路形成における重要な時期である.この時期における各種のストレスは,ストレスホルモンや炎症因子,そして神経細胞活動の異常などを介して,神経細胞の遺伝子発現や神経回路の形成に異常をもたらし,さまざまな脳疾患に罹患するリスクを上昇させると推察される.本総説では,胎生期および小児期におけるストレスと将来の精神神経疾患発症との関係性について,我々の研究成果を交えながら紹介する.特に,各疾患のモデル動物を用いた研究によって発見された神経生物学的メカニズムに着目しながら議論する.
著者
山田 嚴子 小山 隆秀 渡辺 麻里子 小池 淳一 原 克昭 羽渕 一代
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は東北の巫者が近代以降の新たな制度に対応してゆく過程で、在来の「知識」をどのように再配置し、地域住民とともに新たな宗教的実践を再構築してきたのか、そのプロセスを問うものである。一関市大乗寺については、映像資料を作成し、祭文、経典については、録音、翻字を行う。また恐山円通寺については、もと小川原湖民俗博物館旧蔵資料で、現在は青森県立郷土館に寄贈されている文書類の翻刻と、文書の収集の背景の聞き取りを行う。量的調査は青森県、岩手県と比較のために東京都で質問紙調査を行う。研究成果は報告書を作成し、弘前大学地域未来創生センターや青森県立郷土館のwebページなどでも発信してゆく。
著者
加藤 大輔 小山 隆夫 中野 雅子 新井 高 前田 伸子
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.58-65, 2010-02-28 (Released:2018-03-29)
参考文献数
49
被引用文献数
1

根管治療は根管の複雑性や治療の困難さから,しばしば失敗することがある.治療成績向上のためには,根管消毒剤の使用が不可欠とされている.しかしながら,根管内に残存する微生物に対するこれらの消毒剤の抗菌性の有効性は確認されていない.そこで,本研究ではin vitro根管モデルを使用して,難治性根尖性歯周炎の歯に残存することが知られている微生物に対する根管消毒剤の抗菌性の有効性を調べた.被験微生物は,Enterococcus faecalis,Candida albicans,Pseudomonas aeruginosa,Staphylococcus aureusを用いた.また,根管消毒剤にはホルムクレゾール(FC),カンフル・カルボール(CC),水酸化カルシウム(Ca(OH)2),ヨードチンキ(J),メトロニダゾール,ミノサイクリンおよびシプロキサシンの3種混合薬剤(3Mix)を使用した.根尖病巣実験モデルは,根管を90号サイズに形成し,病巣部に相当する部位を半球状に形成した.微生物を含んだ病巣部は根尖から離し,生理食塩水寒天で挟み,サンドイッチ様の3層構造とした.それぞれ37℃で1時間,1,3,7日間薬剤を作用させた後,根尖部より無菌的に寒天を採取した.寒天はトリプティックソイ(TS)液体培地にホモジナイズし,適宜希釈してTS寒天培地上で37℃にて好気培養を行い,出現したコロニー数(log cfu/ml)を計測した.その結果,FCが4種の微生物すべてに十分な抗菌性を有し,それ以外の薬剤は,FCに次いで,J,Ca(OH)2の順で抗菌性をもつこと,また,CCはP.aeruginosa以外の3菌種には抗菌性をもっていないこと,3Mixは4種の微生物すべてに十分な抗菌性をもっていないことが示された.この研究から,FCが最も有効であることが示唆された.
著者
景山 秀二 三重野 孝太郎 小山 隆之 小林 茂俊
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.579-583, 2020-12-20 (Released:2020-12-20)
参考文献数
9

小児の食物アレルギー患者は現在も増加しつつあり,治療として食物除去を行っている場合は患者のquality of life(QOL)が低下するため,社会問題ともなっている.中でも牛乳は食物アレルギーの主なアレルゲンで食物アレルギー全体の2割程度を占め,特に乳児期に多く発生する.今回我々は,牛乳タンパクを練りこんだレーヨン繊維を使用した肌着の着用後に接触蕁麻疹を呈した4か月の牛乳アレルギーの男児例を経験した.本症例では数日前よりミルク摂取にて皮膚の即時型症状が出現していたが,当該肌着の着用直後に肌着の接触する体幹部を中心とした発赤,紅斑,膨疹が出現した.牛乳,カゼイン特異IgE抗体は陽性で,当該肌着のパッチテストにて発赤,膨疹が観察されたため,診断が確定した.最近,アレルゲンとなりうる食物タンパク由来の物質が食品だけでなく,衣類,化粧品などに添加されることが増えているが,安易な添加はアレルギー症状の発症を誘発する可能性もあり注意を要する.
著者
石根 幹久花田 恵介小山 隆藤田 敏晃
雑誌
第56回日本作業療法学会
巻号頁・発行日
2022-08-29

【序論】脳卒中によって運動麻痺が上肢に生じると,日常生活で麻痺手を使用できなくなる.客観的な上肢機能評価と日常生活での麻痺手の使用頻度には正の相関があるが,この傾向がすべての患者に当てはまるわけではない.脳卒中亜急性期の対象者のなかには,上肢機能評価の結果が良いにも関わらず,それに見合った麻痺手使用が日常生活に汎化されない患者が存在する.このような“mismatch”(Esser,2019)のある患者は,半側空間無視(Buxbaum,2020)や体性感覚障害(Esser,2021)や,自己効力感の低下を有すると指摘されている.しかし,これらは多数例における相関を調べた研究であり,“mismatch”の原因を詳細に検討した症例報告はほとんど見当たらない. 今回,麻痺が改善したにも関わらず,病棟生活での麻痺手使用が少なく,主観的な変化にも乏しかった脳卒中亜急性期の症例を経験した.そこで,本例の麻痺手使用と主観的変化が乏しい要因を検討したので報告する. なお,本報告は症例本人に発表の意図を十分説明し書面にて同意を得た.【症例】70歳代の右利き男性である.病前のADL,IADLは自立していた.夜間に左半身麻痺を自覚し,翌朝も改善しなかったため当院に救急搬送された.頭部MRI拡散強調画像にて右放線冠~内包後脚に高信号域を認めた.また,FLAIR画像では右内包前脚~尾状核に陳旧性出血と思われる低信号域を認めた.その後は保存的に治療された. 【作業療法経過】第2病日のBRSは上肢Ⅳ,手指Ⅳ,FMA-UEは26点であった.体性感覚は正常であった.FIMは運動項目30点,認知項目29点.MMSE-Jは23点,MOCA-J19点であった.第14病日にFMA-UEは56点まで改善したがMALのAOU,QOM共に1点,3軸加速度計 (花田,2020)ではUse Ratioが0.70であり,非麻痺側上肢を多く使用していた. 作業療法ではADL練習と,修正CI療法やReoGo-J®︎を用いた上肢機能練習を,1回あたり40-60分を週6回行った. 第37病日のBRSは上肢Ⅴ,手指Ⅴ,FMA-UEは60点まで改善した.FIMも運動項目57点,認知項目34点に改善した.一方,MALのAOUは2.44点,QOMは2.33点で,Use Ratioも0.61と改善に乏しかった.そのため,この”mismatch”を検討する目的で,神経心理学的検討を行った.【mismatchに対する検討】MMSE-J29点,MOCA-Jは24点,RCPMは26点であった.TMTはA73秒,B138秒と低下していた.BVRTは正答数4で年齢相応であった.Kohs でIQは71.4で構成障害はなかった.BIT通常検査成績は143/146 点,Fluff Testは9/9で,半側空間無視や半身無視もなかった. また,観念性失行や観念運動性失行もなかった.しかし両手で”かいぐり”動作をしようとすると左手を動かせなくなった.Garbalini(2012)の検査でも両手を協調的に動かす際に左手を動かせなくなった.また,やる気スコアが19/42点であった.【考察】本症例は,両手を動かす際に左手を動かせなくなる運動無視を呈していた.日常生活動作は両手で行うことが殆どなので,これが”mismatch”に関与した可能性が考えられた.また,軽度のアパシーも麻痺手の使用行動に影響したかもしれない. 今後,麻痺手への介入だけでなく生活での使用に関与すると言われている症状に対しどのようなアプローチを行うべきか検討していく必要がある.
著者
與田 夏菜恵花田 恵介小山 隆藤田 敏晃
雑誌
第56回日本作業療法学会
巻号頁・発行日
2022-08-29

【はじめに】脳卒中後の体性感覚障害は,運動麻痺と同じく,麻痺手での物品操作を難しくするとともに,学習性不使用を助長する.しかし,どのような体性感覚障害が麻痺手の機能や日常生活での麻痺手使用に影響を与えるかについてはあまり検討されていないように思われる.今回,重度の体性感覚障害を呈した亜急性期の脳卒中患者2例を経験した.各症例における運動機能や感覚機能の経過を詳細に評価したので報告する.なお,本報告はご本人に発表の意図を十分説明し書面にて同意を得ている.【事例】事例1 50歳代後半の右利き男性.病前生活は自立していた.早朝に突然左半身の麻痺と呂律困難が生じたため,当院に救急搬送された.頭部MRIでは右視床に出血巣を認めるとともに,左橋に陳旧性梗塞を認めた.既往に糖尿病,高血圧,不整脈があった.初期評価時の上肢機能はFMA-UEが47点で,FMA-Sは0点であった.MMSEは29点,MoCA-Jは27点で認知機能は全般的に保たれていた.第14病日にはFMA-UEが52点に向上した.MALはAOUが0.3点,QOMが0.4点で,3軸加速度計(Bailey,2015)によるUse Ratioは0.59であった.また,第12病日の体性感覚検査では,触覚や温痛覚が強く障害されていた.運動覚も重度に鈍麻しており,拇指探し試験はⅢ度であった.二点識別や立体覚は検査困難であった.一方で,重量覚 (SOT-600, 酒井医療)は20g差が弁別できた,また,紙ヤスリを使った手触り覚は,粗めの番手であれば#20差を弁別できた.事例は「触った感触はないが,力の入れ具合で弁別できる」と語った.事例2 60歳代前半の右利き女性.病前生活は自立していた.知り合いの店に入るなり倒れたため当院に救急搬送された.頭部MRIでは左被殻に出血巣を認めた.既往歴はなかった.初期評価時の上肢機能はFMA-UEが24点で,FMA-Sは0点であった.発話はジャルゴン様で聞き取りにくく,錯語も強かったが,単語レベルでの簡単な動作従命は可能であった.第18病日にはFMA-UEが44点に向上した.MALはAOU,QOMともに0点で,Use Ratioは0.73であった.体性感覚検査では,触覚や温痛覚,運動覚,拇指探し試験は事例1と同じく重度に障害されており,二点識別や立体覚は検査困難であった.重量覚は40g差でなければ弁別できなかった.また,紙ヤスリは#40差でも弁別できない時があった.【方法】 事例1は第4病日より,事例2は第2病日より作業療法を開始した.2症例とも移乗動作やトイレ動作獲得に向けたADL練習や上肢機能練習(ReoGo-J®︎を含む)を1回あたり40-60分,週6回行った.前述のように介入開始時と発症約2週経過時に加え,発症1ヶ月経過時にも同様の評価を行った.【結果】事例1 FMA-UEは62点に改善した.MALはAOU1点,QOM2点で,顔を洗うときに左手も添える,お茶碗に手を添えて食事をするなど使用場面が見られるようになった.Use Ratioは1.05と病棟生活でも左右手が同等の使用量まで改善した. 事例2 FMA-UEは57点に改善した.MALはAOU1点,QOM0点であった.Use Ratioは0.76で,発症2週時と変わらなかった.【考察】重度体性感覚障害であった2事例に対し,亜急性期における麻痺手の上肢機能や体性感覚機能の改善経過を比較した.事例1,2ともにFMA-UEは大幅に改善したが,麻痺手の使用行動には明らかな差が見られた.発症後約2週目に評価した体性感覚検査では,2事例とも基本的な体性感覚が重度に障害されていたにも関わらず,事例1は事例2と異なり,重量覚や手触り覚が比較的保たれていた.2事例の検討より,体性感覚の各様式のなかでも,能動的触知覚(active touch)の残存が,日常生活における麻痺手使用に影響を及ぼす可能性が示唆された.
著者
小山隆 [編]
出版者
弘文堂
巻号頁・発行日
1960

1 0 0 0 家庭と社会

著者
一番ヶ瀬康子 小山隆編
出版者
亜紀書房
巻号頁・発行日
1970