著者
橋口健太 田島怜一郎
出版者
サイエンスキャッスル
雑誌
サイエンスキャッスル2014
巻号頁・発行日
2014-12-19

2012年の金環日食では、太陽の周辺減光の研究を行った。周辺減光とは、中心部に比べ周縁が暗い現象である。しかし、月の輝きは周縁まで明るく、お盆に例えられる。これに疑問を持ち、月の輝きについて研究を始めた。色々な月齢の月の写真を撮り、陸地の数箇所を測光した。その地点の太陽光の入射高度、地球への反射高度、方位角を、グノモンを使い実験的に求めた。また、月の地表に例えた紙などの複数の素材を用い、自作の実験装置で、様々な角度で反射実験を行った。これらの測定から月の表土は、紙やすりに似て反射は散乱が多いことが判明した。月の表土であるレゴリスと紙やすりの特徴を比べ、お盆のような月の輝きについて考察を行った。
著者
青山 雅史
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

1.はじめに 鬼怒川・小貝川低地の茨城県常総市若宮戸地区における2015年関東・東北豪雨による溢水発生地点周辺では,1960年代以降に砂の採掘や太陽光発電ソーラーパネル設置のため河畔砂丘が大規模に削剥され,無堤区間において堤防の役割を果たしていた河畔砂丘の縮小が進行したことに伴い洪水に対する脆弱性が高まっていったことが確認された.本発表では,本地域における高度経済成長期の砂採取や最近(2014年以降)のソーラーパネル設置のための造成などによる河畔砂丘の人為的地形改変過程とこの地区の溢水発生地点との関係を示す.2.調査方法 2015年関東・東北豪雨による溢水発生地点の一つである鬼怒川・小貝川低地の茨城県常総市若宮戸地区鬼怒川左岸の河畔砂丘における1947年以降の人為的地形変化(特に河畔砂丘の平面分布と面積の変化)と土地利用変化について,多時期の米軍・国土地理院撮影空中写真の判読,それらの空中写真や旧版地形図等を用いたGIS解析,集落内の石碑に関する調査,住民への聞き取り調査などから検討した.3.調査結果 1947年時点における若宮戸地区の河畔砂丘は,南北方向の長さが2,000m弱,東西方向の最大幅は400m弱,面積42haであり,3~4列の明瞭なリッジを有していた.その後,この河畔砂丘は人為的土地改変によって次第に縮小していった.1960年代中期から1970年代前半にかけて砂の採取のために削剥され,この時期に面積が大きく減少し,明瞭なリッジ(高まり)が1列のみとなり幅が著しく減少した(細くなった)箇所が生じた.若宮戸集落内には,元来河畔砂丘上にあった石碑や石塔が砂採取工事のため1968年に移築されたことを記した碑が存在する.2014年以降は,ソーラーパネル設置のため,河畔砂丘の人為的削剥が行われた.これらの結果,洪水発生直後の2015年9月末時点の河畔砂丘の面積は,1947年時点の河畔砂丘面積の約31%と大幅に縮小していた.2014年頃からソーラーパネル設置のため河畔砂丘北半部の一部が削られて河畔砂丘が消失した区間が生じた.この区間には,応急対策として大型土のうが設置されていた.2015年関東・東北豪雨におけるこの地区での溢水は,河畔砂丘が人為的に削られて洪水に対して著しく脆弱化していた2箇所において発生した.2015年段階の河畔砂丘の面積は13haであり,1947年から2015年にかけて1/3弱に減少していた.
著者
犬塚美輪 島田英昭 深谷達史 小野田亮介 中谷素之
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

企画の趣旨 論理的文章の読み書きは,教授学習の中の中心的活動の一つである。自己調整学習の研究や指導実践が数多く実施され,読解や作文を助ける方略やその指導が提案されてきた。 本シンポジウムの第一の目的は,読むことと書くことの関連性を捉え,その観点から新たな論理的文章の読み書きの指導を考えることである。読むことと書くことの研究は,別の研究領域として扱われることが多かった。しかし,両者は本来テキストによって媒介されるコミュニケーションとしてつながりを持つものと考えられる(犬塚・椿本,2014)。従来明示的でなかった読むことと書くことのつながりを意識することで,読み書きの研究・実践に新たな視点を提示したい。 第二の目的は,感情の側面を視野に入れた読み書きのプロセスを検討することにある。論理的文章の読み書きでは,動機づけ以外の情動的側面に焦点があてられることが少ないが,その一方で,情動要因の影響を示す研究も増えている。特に実践の場では学習者の情動的側面は無視できない。これらの観点を総合的に踏まえ,論理的文章の読み書きの指導について検討したい。感情と論理的文章の読み書き島田英昭 文章の読み手は感情を持つ。論理的文章を書いても,読み手の感情によっては論理的に読まれない。本シンポジウムでは,読み手の感情が文章の読みに影響することを示した,話題提供者自身の実験研究を2点紹介し,論理的文章の読み書きについて二重過程理論の観点から考える。 第1の実験研究は,読解初期の数秒間における読みのプロセスである(島田, 2016, 教育心理学研究)。実験参加者は,タイトル,挿絵,写真の有無等が操作された防災マニュアルの1ページを2秒間一瞥し,そのページをよく読んでみたいか,そのページがわかりやすそうか,の質問に答えた。その結果,タイトル,挿絵,写真の存在が,読み手の動機づけを高めることを示した。また,タイトルのような文章の構造に関わる情報の効果は,挿絵・写真のような付随的な情報の効果に比べ,より高次の認知プロセスによることが示唆された。 第2の研究は,共感と読みの関係である(Shimada, 2015, CogSci発表)。教員養成課程の学生が,「わかりやすい教育実践報告書の書き方」と題されたマニュアルを読み,内容に関するテストへの回答,主観的わかりやすさの評価等を行った。マニュアルは2つの条件で作成し,一つは書き方のマニュアルに特化した統制条件,もう一つは執筆者のエピソードや挿絵等を追加した実験条件であり,実験条件は執筆者への共感喚起を意図したものであった。その結果,実験条件は統制条件に比べ,内容テストの得点は低かったが,執筆者に対する共感,主観的わかりやすさが高かった。 これらの実験研究は,読み手が文章を読むときに,動機づけや共感等の感情が影響していることを示している。ここから,論理的文章の読み書きについて,二重過程理論の観点から考える。二重過程理論とは,人間の思考や意思決定が無意識的,直観的で素早いシステム1と,意識的,熟慮的で遅いシステム2の並列処理により行われるというモデルである。このモデルから,読み手が論理的文章を論理的に読むための条件として,(1)読み手がシステム2を働かせる動機づけを高めること,(2)読み手がシステム1の感情的偏りに気づき,論理的情報を論理的に処理すること,の2点が浮かび上がる。本シンポジウムでは,読み手のこのような特性に基づき,「論理的に読んでもらえる論理的文章」について議論する。自ら方略的に読み書く児童を育てる授業実践―小学校4年生における説明的な文章の指導―深谷達史 文章を的確に読むための知識は,文章を的確に書くためにも有用であることがある。例えば,説明的な文章が主に「問い-説明-答え」の要素からなるという知識は,説明文を読む場合のみならず書く場合にも活用可能だろう。本研究は,説明的な文章の読解と表現に共通して働く知識枠組みを「説明スキーマ」と捉え,小学校4年生1学級を対象に,説明スキーマに基づく方略使用を促す2つの説明的文章の単元の実践を行った。 実践1は1学期の5月に(単元名「動物の秘密について読んだり調べたりしよう」),実践2は2学期の10月に行われた(単元名「植物の不思議について読んだり知らせたりしよう」)。2つの実践では,単元の前半に説明スキーマを明示的に教授し,問いの文を同定するなど,説明スキーマを活用して教科書の教材を読み取らせた。単元の後半では,問い-説明-答えの要素に基づき,授業時間外に読んだ関連図書の内容を説明する文章を作成した。また,こうした単元レベルの主な手だての他,1単位時間の工夫としても,ペアやグループで読んだことや書こうとしていることを説明,質問しあう言語活動を設定し,内容の精緻化を図った。 効果検証として3つの調査を行った。事前調査は4月に,事後調査は11月(表現テストのみ12月)に実施した。第1に,質問紙調査を行った。例えば,読みと書きのコツについて自由記述を求めたところ,読み・書きの両方で,事前から事後にかけて説明スキーマに基づく記述数の向上が認められた。第2に,実際のパフォーマンスを調べるため,授業で用いたのとは別の教科書の教材をもとにテストを作成し,回答を求めた。その結果,問いの文を書きだす設問と適切な接続語を選択する設問の両方で,正答率の向上が確認された。最後に,事後のみだが,他教科(理科)の内容でも,自発的に説明スキーマに基づく表現を行えるかを調査したところ,大半(9名中8名)の児童が,問い-説明-答えの枠組みに基づいて表現できた。自己調整学習の理論では,他文脈での方略活用が目標とされることからも(Schunk & Zimmerman, 1997),論理的に読み書く力を育てる試みとして本研究には一定の意義があると思われる。意見文産出における自己効力感の役割小野田亮介 意見文とは「論題に対する主張と,主張を正当化するための理由から構成された文章」として捉えられる。主張を正当化する理由には,自分の主張を支持する「賛成論」だけでなく,主張に反する理由である「反論」とそれに対する「再反論」が含まれるため,論理的な意見文には,これらの理由が対応し,かつ一貫していることが求められる。それゆえ,意見文産出に関する研究では,学習者が独力で適切な理由選択を行い,一貫性のある文章を産出するための目標や方略の提示が行われてきた(e.g., Nussbaum & Kardash, 2005)。 ただし,理由間の一貫性を考慮した文章産出は認知的負荷の高い活動であるため,上述の介入を行ったとしても全ての学習者が目標を達成できるとは限らない。忍耐強く文章産出に取り組むためには,文章産出に対する動機づけが不可欠であり(e.g., Hidi & Boscolo, 2006),中でも「自分は上手に文章を産出できる」といった自己効力感を有することが重要だと指摘されている(e.g., Schunk & Swartz, 1993)。したがって,目標達成を促す介入を行ったとしても,そもそも学習者の意見文産出に対する自己効力感が高くなければ,介入の効果は十分には得られない可能性がある。 ところが,筆者のこれまでの研究では,意見文産出に対して高い自己効力感を有する学習者ほど,目標達成に消極的であるという逆の結果が確認されてきた(小野田,2015,読書科学)。その原因として考えられるのは,意見文産出に対する自己効力感が「自分なりの書き方への固執」と関連している可能性である。すなわち,「自分は上手に意見文を産出できる」と考えている学習者は,書き方を修正する必要性を感じにくいため,意見文産出の目標や方略を外的に与えられたとしても書き方を修正しようとしなかった可能性がある。 ここから,意見文産出指導では自己効力感がときに介入の効果を阻害することが予想される。その場合には,学習者の自己効力感を揺らしたり,一時的に低減させるような指導が必要になるのかもしれない。本発表では,これらの研究結果について紹介しつつ,説得的な意見文産出を支援するための工夫について考えていきたい。
著者
大対香奈子 田中善大 庭山和貴 月本彈# 小泉令三
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

企画趣旨大対香奈子 この20年間で教育に関わる行政や法制度はめまぐるしく変化し,特に最近の動向としてはインクルーシブ教育,合理的配慮,予防的支援,チーム学校というキーワードが特徴的である(石隈, 2017)。これまでの,発達障がいや不登校といった支援を必要とする児童生徒に個別に支援を行うという考え方から,全ての児童生徒を対象とした予防的観点からのアプローチ,そして教員と専門家がチームとして取り組むという支援体制が強く求められるようになってきている。 このような社会的要請に応じるための一つの学校支援のあり方として,スクールワイドのポジティブな行動支援(School-wide Positive Behavior Support; SW-PBSまたはSchool-wide Positive Behavioral Interventions and Supports; SW-PBIS)がある。SW-PBSはアメリカではすでに25,000校以上で導入されており,問題行動の減少,学力や授業参加行動の向上,学校風土の改善等の効果があることが実証されている。近年,日本においてもSW-PBSが注目され,少しずつではあるがその導入が進められている。本シンポジウムでは,日本におけるSW-PBSの実践例を話題提供者から紹介していただき,日本において導入する上での課題について議論をしたい。また,その普及における導入の忠実性をどのように保ち,効果のエビデンスをどう示していくかということについても検討していきたい。指定討論者には社会性と情動の学習(Social and Emotional Learning; SEL)の導入実践の日本における第一人者である小泉令三先生にお越しいただき,SELの導入を進めてこられた経験から指定討論をしていただく。小学校のSW-PBSにおける第1層支援の効果検討月本 彈 近年SW-PBSは,日本において導入が進められつつあるが,依然効果検討がほとんどなされていない。また,日本に導入する際に必要となる人材やコストや課題なども明らかでない。 話題提供では,徳島県の公立小学校へ導入したSW-PBSの全学級・全児童を対象とした第1層支援の実践について紹介する。本実践では,応用行動分析学の専門家が,研修や助言を行った。対象校の教職員は,コーディネーターを中心とし,学校目標マトリックス図を作成し,その中の優先度が高い行動目標について,行動指導計画を作成し,それに従って児童に対して行動目標の指導が行われた。具体的には,きまりを守るための行動(授業に必要なものを準備するなど), 自分と友達を大事にするための行動(あったか言葉を使うなど),すてきな言葉をつかう(あいさつをするなど)の3つに関わる行動が指導された。 行動の指導の方法は,主に教職員による教示,モデリングとロールプレイ,賞賛やグラフフィードバックによる強化であった。本実践の効果について,行動指標(指導された行動に関する行動変容の記録)と評価尺度のデータ(日本語版School Liking and Avoidance Questionnaire(SLAQ)と日本語版Strengths and Difficulties Questionnaire(SDQ)を修正したもの)から検討した。さらに,教職員への今回の取り組みについての重要性や負担感,成果などを尋ねるアンケートから,社会的妥当性を検討するとともに,管理職へ今回の取り組みに関する付加的な予算の使い道などをアンケートで尋ねることでSW-PBSを導入する際に必要な人材やコストと課題についても検討する。中学校の学年ワイドのPBISが生徒指導件数に及ぼす効果―日本の学校教育現場におけるデータに基づく意思決定システムの可能性―庭山和貴 SW-PBISの要素として,子どもの行動に対するポジティブな行動支援の“実践”,それを実施する教職員の行動を支援するための“システム”,そしてこれらが上手く機能しているかどうかを確認・改善するための“データ”に基づく意思決定,が挙げられる (Horner & Sugai, 2015)。これらの要素のうち,日本の学校教育現場への普及を考えた際に最も導入困難なのは“データ”である。米国では,Office Discipline Referral (ODR) と呼ばれる問題行動の記録が,SW-PBISの効果指標として広く使われており,どの子どもにより集中的な支援が必要なのか,どの場面・時間帯の問題行動を重点的に予防すべきか,などの意思決定のために活用されている。 日本の教育現場においても,特に中学校・高校では生徒指導の記録(生徒指導担当教諭に報告するレベルの問題行動の記録)を記述的に残している場合がある。米国のODRを参考にして,このような生徒指導の記録を,教育現場におけるより良い意思決定や,支援の効果検証に活用可能な形にすることは可能である。 本話題提供では,関西圏の公立中学校において,学年規模のPBISを実施し,その効果検証に生徒指導の記録を用いた実践研究について紹介する。介入の効果指標として,記述的に残されていた生徒指導の記録を,ODRの記録フォーマットを参考に,件数として把握できる形に整えた。そして,この生徒指導件数を各月の授業日数で割り,一日当たりの生徒指導件数の月毎の推移をグラフ化した。介入として,庭山・松見(2016)をもとに,生徒の望ましい行動を担任教師らが積極的に言語賞賛する取り組みを実施した。さらに生徒指導担当教諭が,担任教師らの取り組みが持続しやすいように教師支援を行った。その結果,担任教師らの授業中の言語賞賛回数が増え,子ども達の望ましい行動が増加した。そして,問題行動は相対的に減少したことが,生徒指導件数の減少により確かめられた。本話題提供では,この実践研究の過程において,生徒指導件数の記録がどのように支援の継続や改善の意思決定のために活用されたのかについて述べ,日本の教育現場におけるデータに基づく意思決定システムの可能性について検討する。小学校における学級を基礎としたSW-PBSの展開田中善大 学級は,日本の学校における基礎的な単位であり,児童生徒への支援を考える上で重要なものである。SW-PBSでは,学校全体(第1層)から小集団(第2層),個人(第3層)へと階層的で連続的な支援を実施する。学級という単位はどの層の支援にも関連するため,SW-PBSの実践において重要なものとなる。 SW-PBSにおいておける学校規模での1層支援は,日本においても学級単位(Class-wide: CW)であれば多くの実践が効果的に実施されている。学級において効果が確認されたポジティブな行動支援の方法を学校全体で共有し,実施すればSW-PBSにおける1層支援となる。また,必要な児童に対しては,学級集団に対する介入と合わせて,より個別的な支援を実施している場合も多い。これは学級単位での多層支援であり,1層支援と同様に効果的なものを学校全体で共有することで効果的にSW-PBSを進めることができる。 話題提供では,SW-PBSの導入校(話題提供1と同様の学校)の4年生2学級において実施した学級単位の介入及びその後実施された学校規模の取り組みについて紹介する。学級単位での介入では,多層支援として,学級全体に対する介入とより個別的な介入を実施し,その効果を確認した。学級全体の介入で対象とした行動は,学校全体で作成した学校目標マトリックス図をもとに決定した(「おへそを向けて話を聞く」「うなずきながら話を聞く」など)。介入では,学級単位のSSTの実施,適切行動を引き出す声掛け及び適切行動に対する言語称賛,集団随伴性に基づく介入などを実施した。また,学級全体に対する介入に加えて一部の児童に対してはより個別的な支援を実施した。教員による行動観察の結果から,学級介入の効果(適切行動の増加)が確認された。効果が確認された学級(CW)に対する介入は,より簡易な形に変更して学校全体(SW)でも実施された。話題提供では,これらの実践の報告から,学級を基礎としたSW-PBSの展開について検討する。小学校のSW-PBSの導入による教師の行動変化大対香奈子 実践の忠実性とは,その実践が理論的モデルやマニュアルに沿って意図されたように実践された程度と定義され(Schulte, Easton, & Parker, 2009),忠実性の高いSW-PBSほど効果的であることは様々な成果のデータから示されている(Horner et al., 2009; Kelm & McIntosh, 2012)。つまり,しかるべき手続きがどの程度忠実に実践されているかということが,高い効果を生むかどうかを左右するのである。SW-PBSは学校規模での実践であるため,その実践者は全教師である。 SW-PBSでは,問題行動に注目するのではなく,より適応的な行動を児童生徒に明確に呈示し,教え,その行動が見られた時には承認するという手続きが重要な要素として含まれる。したがって,教師が児童生徒の望ましい行動を効果的に賞賛したり承認したりすることが大きなポイントとなる。教師の賞賛は,適切な行動や学業従事行動を増加させるという実証研究は数多くあるが(Chalk & Bizo, 2004; 庭山・松見, 2016),SW-PBSの導入により実際に教師の賞賛行動が増えるのかについて検討したものはほとんど見当たらない。 そこで,本話題提供では,大阪府の公立小学校へのSW-PBSの導入により,教師の児童に対する賞賛および叱責の回数がどのように変化したのかという実践例のデータを示しながら,SW-PBSの導入が教師のどのような行動変化を生むのかについて,検討したい。また,SW-PBSの効果につながるような教師の行動変化を生むためには,どのような導入の手続きが必要と考えられるかについても議論し,今後の日本におけるSW-PBSの普及と効果的な導入のために,教師や校内のリーダー的役割を果たす教師への研修に含めるべき内容や必要な導入の手続きについて検討する。また,SW-PBSのゴールとしては関係するすべての人のQOLを高めることであるため,SW-PBSの導入により起こった教師の行動変化が,児童生徒や教師自身のQOLの向上にどのようにつながり得るのかについても今後の展望として検討したい。
著者
郡司菜津美
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

問題と目的 現在,大学の教員養成の段階で,どの教員にとっても必須である性教育指導に関する必修カリキュラムは組まれておらず,教員志望の学生らが性教育に関する指導スキルを十分に身につけていないまま現場に出て行くことが課題となっている(天野ら,2001:西田ら,2005:児島,2015:長田ら,2016)。つまり,性教育の「指導方法がわからない(佐光ら,2014)」まま教壇に立つ教員を養成し続けていることになる。そこで,本研究では,教員志望の学生が,性教育の適切な指導スキルを身につけられるプログラムを開発することを目指し,学生が模擬授業を行うラーニングバイティーティング形式による性教育指導に関する主体的対話的学びの講義を実施し,その学習効果を検討することを目的とした。方 法 2017年7月,首都圏A私立大学の教員免許取得必修科目「生徒指導論」において,受講者84名(男子67名,女子17名)を対象に,「性に関する正しい知識を指導できるようになろう」という課題を与え,ラーニングバイティーチング形式の講義を実施した。具体的には,筆者が高等学校での性教育講演で用いるPPT資料を配布し(内容は①第2次性徴&デートDV,②妊娠と中絶,③性感染症,④性的マイノリティ),4つのグループで構成された1チーム内で内容を分担し,それぞれの資料を元に指導略案を作成,その場で互いに模擬授業を実施させた。授業の学習効果を明らかにするため,授業の前後に性に関する知識(上記①~④に関するもの)を問う質問紙調査(回答は記述式13問と選択式6問の全19問)を実施し,質問内容の回答がわからない場合には「わからない」と記述すること,あるいはその項目を選択するように教示した。それぞれの質問内容に対して①適切に理解していると判断できる回答をした人数,②わからないと回答をした人数,③①における性差について,それぞれ授業前後及び性差に有意な差があるかどうかを,①と②についてはt検定(対応のある),③についてはχ2検定を用いて検討した。結 果1. 適切に理解していると判断された回答数 全19問の性に関する知識を問う項目について,84名の回答を集計した結果,適切に理解していると判断される回答をした人数の平均値は,授業前が1問あたり38.95人,授業後は59.47人であり,授業の前後で適切に理解している回答を記入した人数に有意な差があることが示された(t=6.109, df=18, p<.001)。各質問項目について,最も理解度に変化があったのは,「避妊の確率が高い順序の並び替え」「同性愛者の方が異性愛者よりも性感染症(HIV)に罹患しやすいこと」の2項目であり,授業前の正答率がそれぞれ1.19%,27.38%であったのに対して,授業後は44.05%,63.10%と増加した。2.わからないと表記された回答数 1.と同様に集計した結果,授業前は1問あたり24.74人であったのに対して,授業後は5.95人であり,授業の前後でわからないと表記した人数に有意な差があることが示された(t=6.909, df=18, p<.001)。3.理解度における性差について 全19問について,適切に理解していると判断された回答を記入した人数について,性差があるかどうかを授業前後で比較した結果,全ての問題において有意な差がみられなかった。考 察 本研究では,性に関する内容を検討・模擬授業させるラーニングバイティーチング形式による講義を実施した。その結果,授業前後で性に関する問いに適切に回答できる学生数が増加し,「わからない」と回答する学生数が減少した。これらは,⑴仲間に教授すること (Teaching),⑵仲間の教授を受けること(Learning through Peer Teaching)の効果であることが推測される。指導案を検討し,模擬授業を実施するという授業デザインによって,学生らが主体的・対話的に学んだと考えられる。また,全ての項目について,回答数に性差が見られなかったことから,互いの性別に関係なく,対話的に学習する機会であったことが推測できる。 本研究での実践は,講義内での学習を目的としたものではなく,教育実習や,教員になった際に現場で活かされるために行ったものである。従って,本実践で得られたことが,学生らの未来の教育実践にどのように活かされて行くのか,そのことを引き続き検討していくことが重要である。付 記本研究はJSPS科研費 17K18104の助成を受けたものです。
著者
立花 亮介 松原 崇 上原 邦昭
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

工業製品の製造現場において最も重要であることの一つは,製造された工業製品が期待される仕様を満たしていないときに,その製品を不良品であるとみなして取り除くことである.現状では異常な製品の発見や除去は人手で行うことが一般的であり,企業は異常製品の除去に対して高い人的コストを支払っている.そこで,異常検知の自動化によって製品の点検にかかるコストを削減することが求められている.最近では,画像から直接尤度を求めることが出来る深層生成モデルと呼ばれる確率モデルが提案されており,異常検知において一定の成果を達成している.しかし,工業製品はその構造が複雑かつ多様なため画像内における各部分の出現頻度が異なり,尤度が必ずしも異常度に対応せず,正しく評価できないという問題がある.そこで本論文では,深層生成モデルにおいて非正則化異常度を用いた異常検知を提案する.非正則化異常度はデータが潜在的に含有する複雑さに堅牢であり,画像内における各部分の出現頻度に依存せず評価を行える.提案手法の有効性を検証するために,工業製品の画像データに対して本手法を適用させ,異常検知性能においてその有効性を既存の手法と比較する.
著者
児玉 涼次 中村 剛士 加納 政芳 山田 晃嗣
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

画像生成手法としてニューラルネットワークの生成モデルが注目されている.本研究ではイラスト画像に着目し,GANの課題の一つであるcollapseの発生を抑える手法を提案する.一般的な画像生成のように,イラストの自動生成が可能になれば,創作支援やエンターテイメント等様々な産業応用が期待できる.我々は,GANによって生成した出力イラストについて,collapse抑制に関する定量的評価を行い,その有用性を確認した.
著者
岡田有司 大久保智生 半澤礼之 中井大介 水野君平 林田美咲 齊藤誠一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

企画趣旨 学校適応に関する研究は近年ますます活発になり,小学校・中学校・高校・大学と各学校段階における学校適応研究が蓄積されてきている。学校段階によって学校環境や児童・青年の発達の様相は異なるといえ,学校適応研究においても学校段階を意識することが重要だといえる。こうした問題意識から,企画者らは2017年度は小学校段階に焦点をあてて学校適応について検討を行った(大久保・半澤・岡田,2017)。本シンポジウムでは,中学校段階に注目し,主に友人関係の観点から学校適応にアプローチする。 先行研究では中学生の学校適応に影響を与える様々な要因について検討されてきたが,その中でも友人やクラスメイトとの関係は学校への適応に大きなインパクトがあることが示されてきた(岡田,2008;大久保,2005など)。 中学校段階は心理的離乳を背景に友人関係の重要度が増すとともに,同性で比較的少人数の親密な友人関係である,チャムグループを形成する時期であるとされる(保坂・岡村,1986)。そして,この時期の友人関係では,内面的な類似性が重視され,排他性や同調圧力が強くなるといった特徴のあることが指摘されている。このような友人関係を形成することは発達的に重要な意味がある一方で,中学校段階において顕在化しやすい学校適応上の諸問題と密接に関連していると考えられる。 以上の問題意識から,本シンポジウムでは友人という観点を含めながら中学生の学校適応について研究をされてきた登壇者の話題提供をもとに,この問題について理解を深めてゆきたい。中学生の「親密な友人関係」から捉える青年期の学校適応中井大介 近年,青年期の友人関係に関する研究では青年が親密な関係を求めつつも表面的で希薄な関係をとることや状況に応じた切替を行うといった複雑な様相が指摘されている(藤井,2001;大谷,2007)。その中で,依然として「親友」と呼ばれるような「親密な友人関係」が青年期の学校適応や精神的健康に影響することも指摘されている(岡田,2008;Wentzel, Barry, & Caldwell, 2004)。 一方で,このように重要とされている青年期の親密な友人関係であるが,そもそも青年にとって,このような親密な友人関係がどのようなものであるかを検討した研究は少ない(池田・葉山・高坂・佐藤,2013;水野,2004)。その中でこのような青年期の親密な友人関係をとらえる枠組みの一つとして,近年,青年期の友人に対する「信頼感」の重要性が指摘されている。 しかし,この青年期の友人に対する「信頼感」については,質的研究は行われているものの量的研究が少ないため未だ抽象的な概念である。この点を踏まえれば青年期の親密な友人関係について主体としての青年自身が信頼できる友人との関係をどのように捉えているのかを量的研究によって検討する必要があると考えられる。 加えて上記のように中学生にとって親密な友人関係が学校適応や精神的健康に影響を及ぼすことを踏まえれば,友人に対する信頼感と学校適応の関連を詳細に検討する必要性があると考えられる。しかし,これまで友人に対する信頼感が学校適応とどのような関連を示すかその詳細は検討されていない。そのため生徒の学年差や性差などによる相違についても検討する必要がある。 そこで本発表では中井(2016)の結果をもとに,第一に,「生徒の友人に対する信頼感尺度」の因子構造と学年別,性別の特徴を検討し,第二に,友人に対する信頼感と学校適応との関連を学年別,性別に検討する。これにより中学生の学校適応にとって「親密な友人関係」がどのような意味を持つかについて今後の研究課題も含め検討したい。スクールカーストと学校適応感の心理的メカニズムと学級間差水野君平 思春期の友人関係では,「グループ」と呼ばれるような同性で,凝集性の高いインフォーマルな小集団が形成されるだけでなく(e.g., 石田・小島, 2009),グループ間にはしばしば「スクールカースト」という階層関係が形成されることが指摘されている(鈴木, 2012)。スクールカーストは,生徒の学校適応やいじめに関係することが指摘されている(森口, 2007;鈴木, 2012)。中学生を対象にした水野・太田(2017)では学級内での自身の所属グループの地位が高いと質問紙で回答した生徒ほど,集団支配志向性という集団間の格差関係を肯定する価値観(Ho et al., 2012;杉浦他, 2015)を通して学校適応感に関連することを明らかにした。このように,スクールカーストに関する心理学的・実証的な知見は未だに少ないことが指摘されているが(高坂, 2017),スクールカーストと学校適応の心理的プロセスが少しずつ示されてきている。 また,個人内の心理的プロセスだけでなく,学級レベルの視点を取り入れた研究も必要であると考えられる。なぜなら,学校適応とは「個人と環境のマッチング」(近藤, 1994;大久保・加藤, 2005)と言われるように,個人(児童や生徒)と環境(学級や学校)の相性や相互作用によって捉える議論も存在するからである。さらに,近年のマルチレベル分析を取り入れた研究から,学級レベルの要因が個人レベルの適応感を予測することや(利根川,2016),学級レベルの要因が学習方略に対する個人レベルの効果を調整すること(e.g., 大谷他,2012)のように,日本においても学級の役割が実証的に示されてきているからである。 本発表では中学生のスクールカーストと学校適応の関連について,スクールカーストと学校適応の関連にはどのような心理的メカニズムが働いているのか,またどのような学級ではスクールカーストと学校適応の関係が強まってしまう(反対に弱まってしまう)のかを質問紙調査に基づいた研究を紹介して議論をすすめたい。友人・教師関係および親子関係と学校適応感林田美咲 従来の学校適応感に関する多くの研究では,友人や教師との関係が良好であり,学業に積極的に取り組む生徒が最も学校に適応していると考えられてきた。しかし,学業が出来ていない生徒や教師との関係がうまくいっていない生徒が必ずしも不適応に陥っているとは限らない。そこで,今回は学校適応感を「学校環境の中でうまく生活しているという生徒の個人的かつ主観的な感覚(中井・庄司,2008)」として捉え,検討していく。 友人関係や教師との関係が学校適応感に及ぼす影響については,これまでも検討されてきている (例えば,大久保,2005;小林・仲田,1997)。さらに,家族関係も学校適応感と関連することが示されており,学校適応について検討する際には家族関係やクラス内にとどまらない友人関係も考慮するという視点が必要であると指摘されている (石本,2010)。人生の初期に形成される親子関係は,後の対人関係を形成する上での基盤となることが考えられる。そこで,親への愛着を家族関係の指標とし,友人関係,教師との関係と合わせて,学校適応感にどのような影響を及ぼすのかについて検討した(林田,2018)。 その結果,愛着と学校内の対人関係はそれぞれに学校適応感に影響を及ぼすだけでなく,組み合わせの効果があることが示唆された。親子関係が不安定なまま育ってきた生徒であっても,友人関係や教師との関係に満足していることが補償的に働き,学校適応感が高められることや,友人関係や教師との関係に満足できていない場合,親への愛着の良好さに関わらず,高い学校適応感が得られにくいことが示唆された。つまり,学校適応感を高めるためには,友人関係や教師との関係が満足できるものであることが特に重要であると考えられる。 本発表では,親への愛着や友人関係,教師との関係といった中学生を取り巻くさまざまな対人関係が学校適応感にどのような影響を及ぼしているのかについて,研究結果を紹介しながら考えていきたい。
著者
高橋佳代
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

【目的】 本研究の目的は,学校期における体罰経験が自己肯定意識に及ぼす影響を明らかにすることである。体罰は明確に禁止されているにも関わらず継続されてきた。学校現場で体罰が容認され続ける要因の一つに,体罰が子どもに与える影響について明確に示されていないことがあると考えられる。体罰に関しては種々意見があるが,体罰否定論の根拠とされる心理学実験は限られた被験者を対象に行われたものを根拠にしており,学校現場での体罰が子どもの心身の成長に与える影響を検討した研究は少ない。よって,本研究では子どもの健全な人格の形成への影響を理解するため,自己肯定意識(平石,1990)に注目し,体罰経験が自己肯定意識に与える影響を検討する。特に,体罰経験を被害者がどのように捉えたかという体罰に対する個人の認知に注目し検討を行う。【方法】1.調査方法:2013年10~11月,A県の大学生(1年生~4年生)726名に対し,心理学およびキャリア関連の授業後に質問紙の協力依頼をし,その場で配布,回収した。倫理的配慮として回答は任意で無記名であり,希望者に結果をフィードバックする旨を記載した。得られたデータのうち欠損のあるものを除いた655名(男子,458名,女子172名,不明25名)を分析対象とした。2.調査内容:1)体罰経験・体罰目撃経験・体罰加害経験:これまでの学校期における上記経験の有無,態様,被害内容について。2)体罰経験の捉え方:体罰経験後の生活の変化に対する認知2項目。3)体罰容認意識:体罰は学校生活に必要かどうかについて2項目。4)自己肯定意識:平石(1990)の自己肯定意識尺度のうち対自己領域の 「自己受容」,対他者領域の「自己閉鎖性・人間不信」「自己表明・対人的積極性」「被評価意識・対人緊張」の計26項目を使用し,5件法で回答を求めた。 【結果】1.体罰被害体験と加害経験との関連 体罰被害経験×体罰加害状況のχ2検定が有意(χ2(3,N=655)=39.23,p2.体罰被害状況と体罰容認意識の関連 体罰被害状況×体罰容認意識のχ2検定が有意(χ2(2,N=655)=7.02,p3.体罰経験,その捉え方と自己肯定意識との関連 自己肯定意識の各下位尺度を構成する項目の評定値の平均点を尺度得点(「自己受容得点」「自己閉鎖得点」「対人積極性得点」「対人緊張得点」)として算出した。 体罰経験の有無および被害の重症度を独立変数,自己肯定意識の下位尺度得点を従属変数として分散分析を行ったところ,有意差は認められなかった。 体罰経験の捉え方と自己肯定意識との関連を検討するため,体罰経験後に「学校が嫌になった」等ネガティブな変化を認知している群をネガティブ群,「技術・技能が上達した」等ポジティブな変化を認知している群をポジティブ群,双方とも認知している群を葛藤群とし,各群を独立変数,自己肯定意識の各下位尺度得点を従属変数について分散分析を行ったところ「対人緊張得点」において群の効果が有意であった(F(3,327)=3,98,p【考察】 体罰被害経験が体罰加害経験および体罰容認意識と関連することが明らかになった。一方で、自己肯定意識との関連を検討すると,体罰被害経験の有無や被害の重症度と自己肯定意識との関連は示されず、体罰経験の認知が自己肯定意識に影響する事が示された。体罰経験を両価的に捉えている者は対人緊張を高めている可能性が示唆された。
著者
深尾 良夫 三反畑 修 杉岡 裕子 伊藤 亜紀 塩原 肇 綿田 辰吾 佐竹 健治
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

1: 津波地震は地震の規模と比較して異常に津波の規模が大きな地震(Kanamori, PEPI, 1972)で、典型的には海溝すぐ内側に起こる低角逆断層地震が津波地震になりやすい。一方、ほぼ10年に一度繰り返して起こる鳥島近海地震(Mw=5.6-5.7)は、海底カルデラ下で発生する全く別種の津波地震である。最新のイベント(2015年5月2日)であるが、その地震波と津波を震央距離約100km(北北東)の海底に展開した10点の水圧計アレーが記録した。本発表では、津波地震の観測からメカニズム提唱までの概要を報告する。津波解析の詳細は、三反畑らによる別途発表に譲る。2: 10点の絶対圧力計(7000mの水深に相当する圧力を9桁の分解能で測定可能)を最小辺長10km、最大辺長30kmの正三角形を構成するよう配置する。今回は、このアレーを青ヶ島東方沖水深1470-2240mの海底に2014年5月に設置し翌年5月に回収した。このアレーは、周期半日の内部潮汐波(Fukao et al., JpGU, 2017)、周期50-200秒の長周期海洋重力波(Tonegawa et al., JGR, 2018)、周期100-300秒の津波(Sandanbata et al., PAGEOPH, 2018; Fukao et al., Sci. Adv., 2018)など、多様な海洋現象の観測に有効である。3: アレーの観測点配置は、卓越周期200秒の津波がアレーを伝播する間に位相がほぼ1周期ずれ、そのズレを10点で測定することに相当し、高精度な位相解析が可能である。得られた位相速度は周期に依存し理論的な分散曲線と良く一致する。点波源をスミスカルデラ内に仮定し、周期に依存する局所位相速度分布図を用いて破線追跡を行うと、観測された走時と入射方向の周波数依存性をよく説明できる。仮に波源がリムにあるとすると、測定された到達時刻あるいは入射方向との一致は有意に悪くなる。一方、津波の初動は、波形の立ち上がり寸前のゼロ線を切る瞬間として読み取ることができるが、そのアレー通過速度は理論的な長波速度に一致する。この立ち上がりを地震発震時刻まで逆伝播させると、波源域の縁がカルデラリムにあることがわかる。津波波源はカルデラ全体にわたり、それを超えることなかったと推測される。一方、USGS、JMA、GCMTの求めた地震の震央はカルデラサイズを超えて散らばり、津波波源のほうが高精度で求められていることがわかる。4: 津波波源をモデリングするためにt=0の瞬間に海面擾乱を与え、その擾乱の伝播をブジネスク方程式の解として求めた。初期擾乱を軸対称とし、観測波形を最も良く説明する波源域の半径Rと中心隆起の振幅Aをグリッドサーチにより求めた。最適半径A=4kmはスミスカルデラのサイズとよく一致する。最適波高はA=1.5mと求められた。最適モデルに基づいて計算された波形と観測波形との一致は驚くほど良い。アレーで観測された最大振幅は約2cmであるが、八丈島(八重根港)の験潮儀には約60cmの最大振幅が観測されている。八重根港における津波波形を、湾の複雑な地形と津波の非線形効果を考慮して計算すると、計算波形は観測波形と驚くほどの良い一致を示した。5: この地震のメカニズムはT軸がほぼ鉛直のCLVD(Compensated Linear Vector Dipole)であり、Mwは5.7相当である(JMA, GCMT)。しかしこのメカニズムでは、直径8kmの波源域、1.5mの津波波高に相当する海底変位を生ずることはできない。震源を如何に浅くしようとも海底変位は津波の初期波高のたかだか1/20程度しかならない。両者のこの大きな差異は、実際のメカニズムがCLVDではなくHorizontal Tensile Fault(HTF)が鉛直に開口したためであったことを示唆する。このメカニズムが海底下の極浅部に働く場合、(1)遠方長周期地震波の励起効率はゼロに近く、一方で津波の励起効率は最大、(2)励起された地震波は殆ど上側(海側)に放出されるので、断層面上の変位は上側に集中し、水中音波の励起効率も大きく増幅される、(3)震源で体積変化なしと仮定して遠方変位場からメカニズムを求めるとモーメントの不当に小さなVertical-T CLVDが得られる。これら3つの極浅部HTFの特徴は鳥島近海津波地震の特徴と整合する。
著者
姫松 裕志 Freysteinn Sigmundsson 古屋 正人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

陸域におけるプレート発散境界を観測できる地域のひとつとしてアイスランドが挙げられる.プレート境界に沿って活動的な火山がみられ,いくつかの火山は氷河や氷帽などの雪氷に覆われている.これらの火山が噴火した際には火砕流や火山灰の降灰などの他に,山麓のインフラに被害をもたらすラハールなどの融雪型洪水を引き起こす可能性がある.近年のアイスランドでhあ1996年Gjalp火山や2010年Eyjafjallajokull火山の噴火に伴う洪水被害が報告されている.Bardarbunga火山もアイスランドの中で雪氷に覆われている火山のひとつであり,ヨーロッパ最大の氷帽であるVatnajokull氷帽の北西に位置している.2014年8月に始まったBardarbunga火山におけるダイク貫入イベントでは,氷帽から10km離れた地点で震源の移動は終息し,この地点で始まった割れ目噴火は2015年2月まで続いた.このイベントに伴う非雪氷域における地殻変動は衛星SARデータを利用した干渉SAR(InSAR)やピクセルオフセット法によって報告されている (Sigmundsson et al., 2014, Nature; Ruch et al., 2015, Nat. Comm.).これらの結果はリフト帯におけるダイクの貫入時に観測されるグラーベン構造を形成する地殻変動の描像(最大6mの沈降と最大2mの西北西-東南東方向の水平変位)を明らかにした. 航空機高度計による観測から氷帽のダイク経路上に直径500m,深さ20mを超える氷帽の円状の沈降(Ice cauldron)や最大60mのBardarbungaカルデラの沈降が報告されている.ダイク貫入イベント前後の数値標高モデルの差分(DEM difference)は氷帽下における地殻変動の影響を受けた鉛直変位を示した.本研究では衛星SARデータにピクセルオフセット法を適用することにより,氷帽上の変位からダイク見入イベントに伴う氷帽下の地殻変動の抽出を試みた.ダイク貫入イベントの前後に撮像された画像ペアにピクセルオフセット法を適用した結果,氷帽の定常的な表面変動を示すシグナルに加えて,地殻変動に伴う氷帽上の表面変動を示すシグナルを検出した.そこでダイク貫入イベント時のシグナルから任意の重みをつけたイベント前のシグナルを差し引くことにより,氷帽下における地殻変動を推定した.推定された氷帽下における地殻変動データを使用して,従来のダイク開口モデルから改良した新しいモデルについて議論する.
著者
飯村周平
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第59回総会
巻号頁・発行日
2017-09-27

問題と目的 心的外傷後成長(posttraumatic growth: PTG)は,トラウマあるいはストレスフルな経験との心理的な奮闘により生じるポジティブな変化を指す(Tedeschi & Calhoun, 1996)。その変化には,他者との関係の改善,新たな可能性の発見,人間としての強さの獲得,精神性の成長,人生に対する感謝に関する5つの領域が含まれる。これまでPTGは,レトロスペクティブな横断的調査に大きく依存した方法論に基づいて研究されてきた(Jayawickreme & Blackie, 2014)。そのために自己報告された成長が本当の変化を表しているのか,PTGの構成概念妥当性に疑問を抱く研究者も多い。Frazier et al.(2009)はこの疑問を解決するため,ストレス経験前後でPTG領域の現状の機能レベルを測定し,その差得点を実際のPTGと定義した。その際に作成されたのが,現状測定版のPTG Inventory(PTGI)である。Frazier et al.は,この尺度を用いて実際のPTGを測定し,従来のレトロスペクティブな方法で測定されたPTGとの関連を検討した。 本研究では,Iimura & Taku(2016)によって作成された日本人の子どもを対象とする現状測定版PTGI(Table 1)の再検査信頼性と基準関連妥当性を報告する。方 法手続き 2016年3月に第1調査(T1),2016年5月に第2調査(T2)を実施した。2つの調査間で,対象者は青年期のストレスフルなライフイベントとして高校移行を経験した。インターネット調査を用いて,参加者は日本全国から募集された。対象者 T1は310名(男子155名,女子155名,14―15歳)の中学3年生であり,そのうち262名(男子130名,女子132名,15―16歳)がT2に参加した。測定した変数 T1では,PTGの現状の機能レベル(Iimura & Taku, 2016),レジリエンス(徳吉・森谷,2014),Big Fiveパーソナリティ特性(小塩他,2012)を測定した。T2では,前述したT1に含まれる変数,PTG(Taku et al.,2012),中核信念の揺らぎ(Taku et al., 2015),出来事中心性(Berntsen & Rubin, 2006),侵入的反すう・意図的反すう(Taku et al., 2015),知覚されたサポート(岩瀬・池田,2008)を測定した。分析方法 現状測定版PTGIの再検査信頼性を検討するため,T1とT2における得点の相関係数を算出した。基準関連妥当性を検討するため,現状測定版PTGIのT1とT2の潜在差得点(McAdre & Nesselroade, 1994; i.e.,得点が正であればプラスの変化を示す)を算出し,他の変数との偏相関係数(現状測定版PTGI のT1潜在得点を統制)を計算した。結果と考察再検査信頼性 T1とT2における各合計得点間および各下位尺度得点間の相関はr = .35―.47(ps 基準関連妥当性 尺度全体の差得点は,T1の変数と大きな相関はなく,T2のレジリエンス(r = .14),勤勉性(r = .19),開放性(r = 15),中核信念の揺らぎ(r = .35),出来事中心性(r = .24),侵入的反すう(r = .17),意図的反すう(r = .19),知覚されたサポート(r = .18)と正の相関を示した(ps < .01)。これらの変数は,PTGの生起メカニズムを説明する理論モデルに含まれる(Calhoun & Tedeschi, 2006)ため,現状測定版PTGIで測定した変化は,PTGを反映している可能性が高いと考えられる。
著者
小島 慎也 佐藤 香枝 前田 亮太 呉 宏堯 矢田 拓也 森田 敏明 岩崎 博之
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

明星電気株式会社は、小型気象計POTEKA Sta.(ポテカ:Point Tenki Kansoku、以下POTEKA)を開発した。POTEKAは気温・湿度・気圧・感雨・日照を1分間隔で測定でき、従来気象計と比較して安価で、設置が容易なため稠密な設置及びデータ収集が可能である。そのPOTEKAを用いて、伊勢崎市内小中学校及び同市周辺のコンビニ(SAVE ON)に約1.5~4km間隔で計55ヶ所に設置した。本稿では、顕著な観測事例として8月11日に高崎市・前橋市で発生した突風現象の観測結果について紹介する。8月11日18時頃に高崎市から前橋市にかけて突風が発生し、住家の屋根の飛散などの被害がみられた。POTEKAの気温1分値を見ると、最大12分間で-13.9℃の気温低下がみられた。前橋地方気象台発表の突風経路に近いPOTEKAの海面補正した気圧の1分値時系列を下図に示す。気象台の10分値の気圧は徐々に増加していく傾向しか見られないが、POTEKAの1分値では、1~2hPa程度の一時的な上昇がみられた。これはダウンバースト発生時の下降流による一時的な気圧上昇であると示唆される。さらに詳しく見ると、気圧の上昇は2回発生している地点もあり、1回目はガストフロントによるもの、2回目はダウンバーストによる上昇と考えられる(詳細は「地上稠密観測POTEKAによるダウンバーストとガストフロントの識別」を参照のこと)。今回の稠密観測のようなダウンバースト・ガストフロント発生時の地上における気圧変化を、これほど細かい時間的・空間分解能で観測した事例はほとんど見られない。このような稠密観測をすることによって、突風の種類の判別や突風に対する事前の注意喚起が出来る可能性がある。謝辞:本プロジェクト始動にあたり、サンデン(株)殿、(株)セーブオン殿、伊勢崎市教育員会殿にはPOTEKA設置のご協力を頂きました。ここに御礼申し上げます。
著者
堀田 大地 成冨 志優 丹野 良介 下田 和 柳井 啓司
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

本研究では,深層学習技術を用いて,食事の見た目はそのままに,カテゴリのみを変える食事画像変換を実現する.例えば,牛丼をどんぶりの形状や見た目はそのままに天丼や親子丼,海鮮丼などに自由に変換することを実現した.本研究では,CycleGANの手法を拡張し,1つの変換ネットワークで複数のカテゴリへと変換可能とするconditional CycleGANを用いた食事画像変換手法を提案する.Twitterから長期間にわたって収集した23万枚の食事画像を利用することによって,高画質な食事画像変換が実現できることを示す.
著者
寺島 裕貴 古川 茂人
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

聴神経フィルタ特性を理解するための計算モデルとして、自然音の教師なし学習モデルが提案されてきた。本研究では、より自然な音として自然環境下における音の変調を考慮に入れると、教師なし学習よりも音響課題に最適化された深層ニューラルネットワークがより良いモデルであることを示す。