著者
佐藤広英 宮脇奈々美#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

問題と目的 SNS(social networking services)上では,さまざまなストレッサーが存在することが報告されている(総務省, 2013; 佐藤・矢島,2017)。それと同時に,SNS上で愚痴や文句を投稿してストレス発散を行うという報告もみられ(アメリカンホーム保険,2011),ストレス・コーピングが行われている。従来,SNS上におけるストレッサーに焦点をあてた研究は行われているが,SNSにおけるコーピングに焦点をあてた研究は少ない。本研究では,SNS上におけるコーピングの程度を測定する尺度を作成することを通して,SNS上におけるコーピングが精神的健康に及ぼす影響を検討した。方 法 予備調査 面接調査によりSNS上におけるコーピングに関する項目を収集した後,大学生278名(女性116名,年齢:M = 19.18,SD = 1.05)を対象に質問紙調査を実施した。SNS上におけるコーピングに関する33項目についてカテゴリカル因子分析(重みつき最小二乗法,プロマックス回転)を行った結果,5因子31項目が抽出された。具体的な項目はTable 1に示した。 本調査 クロス・マーケティング社に委託し,ウェブ上でSNS利用者(LINE,Twitter)を対象とする2波のパネル調査を実施した。1回目(2017年10月)は大学生478名(女性245名,年齢:M = 20.30,SD = 1.33),2回目(2017年11月)は大学生200名(女性105名,年齢:M = 20.54,SD = 1.27)を有効回答とした。両調査において,(a)SNS上におけるコーピング尺度(予備調査で作成),(b)心理的ストレス反応尺度(鈴木他,1997),(c)SNS利用状況などに回答を求めた。結果と考察 SNS上におけるコーピングと精神的健康との因果関係を検討するために,交差遅れ効果モデル(Finkel, 1995)を用いて分析を行った(Table 2)。モデルの適合度は,CFI=1.00,RMSEA=.00~.04であり,十分に高い値であった。得られた結果は次の三点に整理された。第一に,LINE上で問題解決を多く行うほど,ストレス反応が高まることが示された。第二に,Twitter上で各種コーピングを多く行うほどストレス反応が高まり,特に問題解決の効果が大きいことが示された。第三に,ストレス反応の高い者ほどTwitter上で対決を多く行うことが示された。以上の結果,SNS上におけるコーピングは,ツール間の差異はあるものの,総じて精神的健康を損ねることが明らかとなった。
著者
飯田昭人 水野君平 加藤弘通
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

問題と目的 本研究では,「子どもの貧困対策に関する大綱」に謳われている「教育の支援」に焦点を当て,保育現場や学校で働いている保育士や教職員等を対象に,子どもの貧困への意識について,(1)子どもの貧困状況の捉え方,(2)貧困状況にある子どもの困難の捉え方の2点について明らかにするために,支援者に向けての質問紙調査を実施した。方 法調査協力者と調査時期 A市内の小学校全18校,中学校全8校(私立中を除く),保育施設(保育園,幼稚園,認定こども園,小規模保育施設,事業所内保育施設,家庭的保育施設)27施設の合計53施設の保育関係者,教職員を対象にした。有効回答数は,小学校15校283件(72.0%),中学校8校188件(82.8%),保育施設18施設213件(56.8%),合計41施設684件(68.7%)であった。調査時期は2017年12月から2018年1月であった。調査内容 「滋賀県『子どもの貧困』対策のための支援者調査」(滋賀県・龍谷大学, 2016)を参考に調査票を作成した。まず「子どもの貧困状況の捉え方」に関する9項目を尋ねた(回答は「まったく深刻ではない;1点」―「非常に深刻である;5点」の5件法)。また,「貧困状況にある子どもの困難についての捉え方」に関する13項目を尋ねた(回答は「まったく当てはまらない;1点」―「とても当てはまる;5点」の5件法に,「子どもの年齢が低くてわからない」も設定した)。その他の質問項目も尋ねたが,本報告では省略する。結 果 「子どもの貧困状況の捉え方」および,「貧困状況にある子どもの困難についての捉え方」(因子負荷量の低さやダブルローディングで5項目を除外)について,因子分析(最尤法・プロマックス回転)の結果と各因子におけるα係数,負荷量,因子間相関はTable 1,Table 2のとおりである。考 察 子どもの貧困の捉え方を,「基本となる生活基盤の不安定さ」と,各種支援費を受給しなければ生活が安定しない,「家庭の経済的困窮」の2点に集約された。貧困状況にある子どもの困難についての捉え方において,主に「子どもの生活面から生じる心身の健康的側面」と,「子どもの学力面」に大別された。 公益財団法人子どもの貧困対策センターあすのば(2016)が,貧困問題を「貧」(低所得などの経済的問題」と「困」(一人ひとりの困りごと)に分け,家庭の「貧」を改善するだけではなく,子どもたちの「困」も支援していくことの必要性を述べている。今回,Table 1では「貧」について,Table 2では「困」についての捉え方を明らかにした。特に,「困」については,保育施設や小中学校というフィールド(現場)で,関係機関と連携しながら対処していくことが求められると考える。
著者
高橋 佑典
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

住宅価格の分析を行った従来の研究では,モデルの推計価格に対して明確な説明が可能なことから,多くが線形モデルとして推計している.しかし,専有面積や築年数などでは,住宅価格に与える影響が区間で異なり,非線形性を持つことが知られている.また,線形モデルの課題として,築年数と建築年代といった多重共線性を持つ説明変数を同時に投入すると,モデルの推計値が不安定になることが挙げられる.一方,線形モデルの課題に対処するため,非線形性を考慮した推計が行われている.しかし,非線形モデルを扱う課題として,モデルが複雑になり説明性や再現性が低下することが考えられる.本研究では,これらの線形モデルと非線形モデルの課題に対処し,住宅価格推計時の説明性と推計精度の向上を目的として,モデルを2段階に分けた場合の戸建住宅における取引価格の推計を行った.結果として以下のことがわかった.1つ目は非線形性をうまく表現できる手法として,決定木と勾配ブースティングを組み合わせた手法が有効であること.2つ目は戸建住宅の価格を決める主要な要因の非線形性を考慮し,推計精度の向上が見込めることである.
著者
菅井篤
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

問題と目的 近年,学習者が対話的に議論し,学習を深めていく教育実践が増加している。この教育実践は,従来学校教育で行われてきた教師が子供へ知識を伝達していく伝統的な授業とは異なり,協働して問題解決していく学習(文部科学省,2012)に学習者が主体的・対話的に参加し,学習活動を展開していく教育実践を指す。文部科学省(2012)は「予測困難な時代において,我が国にとって最も必要なこと」として「将来の我が国が目指すべき社会像を描く知的な構想力」の育成を明示しており,文部科学省(2017)は「主体的・対話的で深い学び」の実現のために授業改善をすることで学習者が新たな学びをつくり出すことを推し進める。我が国の教育の領域では,主体的・対話的で深い学びの新たな創造のために,これまで行われてきた伝統的な学びの問い直しが始まっている。 そこで本研究では,これまで多く注目されてこなかった異学年交流に焦点を当て,具体的な事例を検討することを目的とする。方 法 2018年9月,関東圏内の私立小学校の異学年(1 年生7名,2年生6名,3年生6名,4年生5名,計24名)の集団交流における教師と児童の発話を対象とした。同年12月に異学年集団で行われる劇発表会へ向けた劇づくりの導入の授業であり,哲学対話形式で対話が展開された。そこでの教師と児童の対話をスクリプト化し,藤江(2000)に従って対話を発話として最小単位で区切った。そのほかに,対話場面を「話段(ザトラウスキー,1993)」を1単位として区分し場面の抽出を行った。なお,本研究は,管理職の指導のもと個人情報に留意して実施した。結果と考察 哲学対話形式の対話は24分48秒行われた。まず,藤江(2000)に従い,対話をそれぞれの発話として区切った。その結果,対話は276の発話に区切られた。これらの中から,児童の発話を抽出し,学年別に集計した結果をTable 1に示す。そのほかに,ザトラウスキー(1993)に従い,対話から48の話段を抽出した。話段は,話者が意図したと考えられる会話の「目的(goal)」の達成を1つの対話の終結と捉える対話場面のことである。例えば,Table 2に示した場面では,「なんで劇するの」の教師の問いかけから生じた対話の「劇をする目的の回答」という目的が達成されたことが読み取れる「伝えるため」という教師の発話までを1つの話段として定義し,対話場面を抽出した。抽出された話段のうち,児童の問いかけによって発生した話段は17であった。これらを学年別に集計した結果を,Table 3に示した。その結果,17の話段のうち,5の話段が3年生,12の話段が4年生の問いかけによって発生していることが明らかになり,1年生と2年生の問いかけは確認されなかった。 本研究は,主体的・対話的で深い学びを目指して行われた小学校での異学年交流の具体的な事例を検討することが目的であった。Table 1とTable 3に示したように異学年集団の交流において,児童は学年が上がるほど発話数が増え,目的の達成のために集団への問いかけが多くなることが明らかになった。対象校では,劇づくりの異学年交流は毎年導入されていた。これは,異学年交流型の授業を多く受けてきた上学年の児童ほど課題解決のために対話をパフォーマンスし,学習集団へ積極的に問いを発していたと捉えることができよう。このように,児童らが学習者として自ら問いをつくりながら,学習集団を他者と共に弁証法的に共創していくことができる学習環境は,主体的・対話的で深い学びの成立のための一助となると考えられる。
著者
藤澤啓子 赤林英夫# 中室牧子# 菅原ますみ
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

企画趣旨 教育心理学は,「教育」という現象を,教育学的関心に基づく心理学,あるいは心理学的方法による教育学の視点から理解し,実践へと結びつける実証科学である(安藤, 2013)。一方,近年社会的な耳目を集めている教育経済学では,学力など広く「教育」に関わる現象を,経済学的理論から導かれる仮説を元に実証し,その成果を,教育政策の選択や制度設計に生かしつつある。 「教育」を同じく見つめ,同じ事象を検証するのであれば,そこから生み出される知見に大きな差異はないはずである。それにもかかわらず,異なる理論的背景や方法論が用いられるために,両学問分野の生産的な対話が阻まれてしまうことがある。 本シンポジウムでは,子育て方法や子どもの適応的な発達といった,教育心理学が従来十八番としてきたことにまで広がってきた,教育経済学の最新理論や研究動向を紹介する。それらに応える形で教育心理学の伝統的な方法論に基づく縦断研究の知見を提示する。両学問分野からの話題提供を踏まえ,教育心理学と教育経済学が同じ土俵に上がり,学問的対話を進め協働する可能性やそのための課題について議論する場としたい。話題提供経済学は子育てをどう見ているか:人間の発達の経済学赤林英夫 伝統的経済学では,教育は親や学校が行う投資行動と見なされる。そこでは,こどもは「時間」や「お金」などを投下され,「人的資本」という抽象的概念でくくられる学力・知識・非認知能力などが生産される工場のラインのような無生物的存在である。数学的には「教育生産関数」として,教育のアウトカムには,こどもの生来の資質に加え,学校や親の資源の投下量との安定的な関係が想定される。家庭教育や学校の選択が,親や子どもの資源量に依存すると考えると,親世代と子世代の経済社会状態の間には正の相関が生じることが理論的に導かれる。 このようなモデルは,経済学において理論・実証の両面で一定の成功を収めてきた。しかし,教育心理学・発達心理学からはどう見えるであろうか?人間の発達過程を極端に単純化し,表面的にしか見ていないと思われるのではないだろうか。そもそもこどもの発育は自律的な過程であるはずだ。馬を水辺に連れて行くことはできても,水を飲ませることはできない。親や園・学校が子どもに「強制的」「一方的」に「投資」することなど不可能であることは,子育ての経験があれば誰にでも分かる。それがあたかも可能であるかのような数学的記述が人的資本理論であり,教育生産関数であるから,心理学の世界では違和感が払拭できないのは当然であろう。 発達心理学においては,親とこどもの関わりあいや,こどもの行動に対する親の接し方(子育て方法)が,こどもの発育に強い影響を与えるとされているはずである。子育て方法とはそもそも何か,そのための資源とは何を指すのか,子育て方法はなぜこどもの発育に影響があるのか,親によって子育ての方法がなぜ異なるのか,それらの相互作用は,世代間の社会経済格差や教育格差の連鎖にどのような含意をもたらすのか。それを解く鍵は,子どもが自ら「水を飲む」主体であることを認識することにあるのは明かだ。しかしこれは非常に面倒なことである。親の一方的な投資であれば親の最適化問題の解を求めればよいが,子どもが自発的なプレーヤーであると,親子の相互作用を同時もしくは逐次的に考慮するゲーム理論的なモデルを必要とする。そして,通常観測される生産関数は,ゲームの解を反映した誘導型に該当するはずである。ゲームに複数の解があれば,安定的な生産関数の存在は否定されかねない。 こどもの発育過程を親子間の心理的関わりの結果と見なし,子育て方法の選択原理を理論的に解明し,観測される親子関係やこどもの発育への影響の解釈を試みるのが「こどもの発達の経済学」である。本稿では,理論的な立場からBeenstock (2012), Heckman and Mosso (2014)などを出発点としてサーベイを行う。最初に,伝統的理論としてBecker-Tomes (1979), Solon (2004)を紹介し,その後の展開として,Cunha and Heckman (2007), Akabayashi (2006), Lizzeri and Siniscalchi (2008), Doepke and Zilibotti (2017) などを紹介する。その上で,この分野の今後の発展の方向性について議論する。競争意欲やリスク態度は子どもの学力に影響を与えるか中室牧子 近年,多くの国で,数学の学力テストに男女差があることが報告されている。男子は女子よりも数学の学力テストの点数が高い傾向があり,過去の研究では,この男女差は,競争環境への選好の差によってもたらされているのではないかという指摘がある。ラボ実験を行った様々な研究が明らかにしたところでは,男性は女性に比べて競争を好み,競争的な環境のほうが高いパフォーマンスを発揮することが知られている。つまり,数学などの理数系の科目でよい点数を取ることや理数系の学科や学部への進学は競争が厳しいと考えられるので,競争的な環境を好まないとする女性が数学の点数が低くなったり,理数系への進学を望まないという可能性である。本論文では,NiederleとVesterlund (2007) に倣って,日本の首都圏にある自治体の全公立中学校 (6校,約800名)で,競争意欲,リスク態度,自信などの心理的特性を計測するラボ実験を実施した。また,それらを自治体から得られた学力テストの結果や進学の実績と突合することで,競争意欲,リスク態度,自信が数学の学力テストスコアに与える影響を分析した。ラボ実験によって測定された心理的な特性が,現実の世界における教育成果を予測するかどうかについては,経済学ではまだ十分な研究蓄積があるとはいえないが,進学については理系学部への進学実績の男女格差が競争意欲によって説明されることを明らかにした実証分析は出始めている。ただし,学力に与える影響はまだ十分に分析されていない。そこで,本研究では,競争意欲やリスク態度,自信に明確な男女差が存在し,それらが数学の学力テストに影響していることを明らかにした(ただし,数学のみで英語や国語への影響は観察されていない)。先行研究と同様に,競争意欲と自信は,過去の学力や保護者の社会経済的地位を制御した後でも数学の学力テストに正の相関があることが示されたが,リスク態度はその逆で,よりリスク回避的であれば数学の学力テストの点数が高くなることが示された。この結果は,これは競争意欲の男女差は数学の学力テストの男女差を広げるが,リスク態度の男女差は数学の男女差を狭めることに寄与していることを意味する。今回の発表では,経済学がどのようにラボ実験の中で競争意欲,リスク態度,自信などの心理的特性を計測しているか,そしてそれらの心理的特性と学力や学歴などの現実の教育成果との相関関係を分析しているかということを紹介することを通じて,教育経済学と教育心理学の接点を見出すことを試みる。家庭の経済的不利と学齢期の子どもの諸問題―0歳からの家庭追跡調査より―菅原ますみ 貧困を含む家庭の経済的不利が子どもの認知発達や社会・情動的発達にどのような影響を及ぼすのか,またそれがどのようなメカニズムを経て次世代の経済的不利に持ち越されうるのかは,ノーベル賞経済学者ジェームズ・J・ヘックマン (Heckman, 2013; 『幼児教育の経済学』2015, 東洋経済新報社) の “幼少期の貧困に起因する養育環境の劣化がのちの個人の人生に深く影響し,社会にとってその克服は大きな課題である”という指摘を受けて,心理学と経済学双方の領域から大きく注目される研究テーマとなった。英米の発達心理学においては貧困の影響研究は比較的長い歴史を有しているが,Annual Review of Psychology に関連研究を概観したHuston とBentley (2010)は,アメリカの家庭の低所得は生活財・教育財などの物質的な剥奪やひとり親家庭であること,親の学歴の低さ,少数民族や移民のグループに所属していることなど複数の逆境的な社会的状況と併存するリスクが高いことを指摘している。わが国においても,家庭の低収入は,こうした逆境的な社会的状況と相互作用しながら,親のストレスに由来する養育の質の低下や,家庭内外の教育財の調達困難,居住・近隣環境の劣化,子ども集団の中での社会的排除など,様々な側面での子どもの生活の良質さ (クオリティ・オブ・ライフ:QOL)の低下に関連し,時間の進行とともに子どもの低学力や問題行動の発現,進学・就業困難といったネガティブな結果につながりうると予想される。発達精神病理学・児童精神医学の領域では,家庭の貧困・低所得は,両親の精神障害,両親間の不和,不適切な養育,劣悪な学校・地域環境などの他の慢性的な逆境要因 (Chronic Adversities: CA, Friedman & Chase-Landsdale, 2005) の起点となりうる要因として重視してきており,海外では既に多くの実証的な縦断研究の知見に基づく影響メカニズムの理論化が模索されてきている。なかでもCongerらの家族研究グループでは,家庭の社会経済的変数の子どもの発達に及ぼす影響について,社会原因論(社会経済的要因の発達への影響を重視)における家族ストレスモデル (Family Stress Model) および家族投資モデル (Family Investment Model) と,社会的選択論 (パーソナリティや認知能力等の個人的特徴が社会経済的要因に与える影響を重視)を組み合わせ,多世代相互作用モデル (The Interactionist Model of Socioeconomic Influence on Child Development: IMSI, Martin et al。, 2010; Schofield et al, 2011) を提唱している。本報告では,こうした心理学における研究の流れを紹介するとともに,報告者が実施してきている首都圏1都市を対象とした0歳から中学生期までの経年の縦断データについて,教育経済学が近年注目してきている乳児期からの家庭の経済状況とそれに影響される親の養育や子どもの体験,そしてそれらが小学校期から中学校期の子どもの発達的結果 (outcome) にどう関連するか,そこにはどのような複数経路性 (trajectories) があるのか検討した結果について報告する。