著者
土肥 豊
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1068-1069, 1976-08-10

脳卒中後の片麻痺患者に対して,失われた四肢の機能回復をはかるために各種の運動訓練を行わせることは,麻痺に陥った四肢に対してはもちろん,患者の全身的なコンディションをととのえるためにも極めて必要なことである.しかしながらその反面,本症患者は極めて多種のリスク要因をかかえていることもまた忘れてはならない重要な事柄である.動脈硬化症,高血圧,あるいはそれに由来する虚血性心疾患,顕性あるいは潜在性心不全,腎機能障害,老人性肺気腫による慢性呼吸機能不全など,いわゆる老年病とよばれるもののさまざまな病態が併有されていたり,あるいは若年者においては,心臓弁膜症その他の基礎疾患を有していることが,むしろ通例だからである.しかも,このような疾患を有する患者に対して,相当程度の身体的負荷を与えることを余儀なくされるところに,本症のリハビリテーションのむずかしさがあり,十分なリスク管理が必要とされる理由もここにある. さて,本症のリハ訓練に際して,リスク管理上注意をはらわねばならぬ病態生理学的な異常は,上述のように極めて多彩であり,そのすべてについて述べることは限られた誌面の中ではとても不可能であるので,本項では主として心臓に関連した問題のみをとりあげて述べることとする.
著者
今井 昇
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.347-355, 2021-04-01

抗カルシトニン遺伝子関連ペプチドモノクローナル抗体薬であるガルカネズマブは,プラセボ対照無作為化二重盲検比較試験(RCT)で有効性と安全性が認められ,米国食品医薬品局で反復性群発頭痛の予防薬として承認されている。また,翼口蓋神経節刺激療法は,慢性群発頭痛の急性期治療としてRCTで有効性と安全性が確認されている。本論では,これらの治療法の作用機序,臨床試験での結果,臨床での使用方法,本邦における見通しについて概説する。
著者
加茂 実武 野崎 太希 堀内 沙矢 村石 懐 秋田 恵一
出版者
メジカルビュー社
巻号頁・発行日
pp.506-511, 2021-04-26

多くの教科書の記載とは異なり,上部尿路における生理的狭窄部位は,上部尿管と尿管膀胱移行部の2カ所のみである。また,画像検査で上部尿管にはしばしば高度の屈曲が認識されることがあるが,これもまた教科書の図説には見つけることができない。実はこれらの事項には共通する解剖学的背景が存在し,その成因を正しく知ることは新たな後腹膜の概念を理解するための1つの大切な手がかりとなる。本稿は第105回北米放射線学会(RSNA2019)に投稿した教育展示(UR154–ED–X)および『Japanese Journal of Radiology』掲載のreview1)に基づいた内容である。
著者
中野 創
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.103, 2007-04-10

読者の皆様は「どんずあな,け」の意味がわかりますか? ここ青森県津軽地方で医師として仕事をするためには,いわゆる津軽弁を理解する必要があります.日本の津々浦々にユニークな方言がありますが,津軽弁もそれらに負けない独特の語彙を有しています.体の各所を現す言葉には,じゃんぼ,なずぎ,ぼんのご,おどげ,よろた,あぐど,どんず,はど,などがあります.それぞれ,髪,額,項,頤,太腿,踵,尻,陰茎の意味です.濁点が多いのが特徴でもありますが,それを上手くフィルターにかけると語源が推測できる語もあります.「なずぎ」は「脳(なずき)」,「ぼんのご」はうなじの窪みを表す「盆の窪(ぼんのくぼ)」,「おどげ」は「頤(おとがい)」,「あぐど」は『東海道中膝栗毛』にも用例が見いだされる,かかとを示す「踵(あくと)」がそれぞれ転訛したものと考えられます.
著者
八尾 隆史 上山 浩也 大城 由美 黒澤 太郎 池田 厚 阿部 大樹 岡野 荘
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1299-1308, 2021-09-25

要旨●H. pylori感染者の減少に伴い,活動性炎症や萎縮,腸上皮化生のない胃底腺粘膜領域に,胃型形質を示す上皮性腫瘍(胃底腺型腺癌,胃底腺粘膜型腺癌,腺窩上皮型腺癌,幽門腺腺腫など)が多くみられるようになってきた.これらの臨床病理学的特徴は広く知られているが,複雑な病理組織像あるいは細胞分化を示す腫瘍もみられるようになり,分類や鑑別診断に苦慮することがしばしばである.本稿では,これらの腫瘍の病理組織学的特徴や鑑別診断のポイントを解説し,組織分類の問題点について考察した.
著者
上山 浩也 八尾 隆史 岩野 知世 内田 涼太 宇都宮 尚典 阿部 大樹 沖 翔太朗 鈴木 信之 池田 厚 谷田貝 昴 赤澤 陽一 竹田 努 松本 紘平 上田 久美子 北條 麻理子 永原 章仁
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1310-1322, 2021-09-25

要旨●胃底腺粘膜に発生する胃腫瘍の中で,H. pylori未感染胃に発生する胃腫瘍の臨床病理学的・内視鏡学的特徴について概説した.今回,H. pylori未感染胃底腺粘膜に発生する胃腫瘍の中で,特に胃底腺型腺癌,胃底腺粘膜型腺癌,胃型分化型腺癌,胃型腺腫を抽出し解析した.細胞分化では,胃底腺型腺癌は胃底腺のみ,胃底腺粘膜型腺癌は腺窩上皮+胃底腺(+幽門腺),胃型分化型腺癌・胃型腺腫は腺窩上皮+幽門腺(+胃底腺)への分化を示し,通常型の胃癌に比較して異型度や悪性度は低く,内視鏡治療を選択された症例が多かった.内視鏡診断は,各タイプの特徴を理解したうえで,NBI併用拡大内視鏡診断と内視鏡所見から表層の腫瘍成分の有無,表層と上皮下の成分の関係性を推測することが,H. pylori未感染胃底腺粘膜に発生する胃腫瘍の内視鏡診断と各鑑別につながると考えられた.
著者
小野 尚子 田中 一光 木脇 佐代子 井上 雅貴 霜田 佳彦 大野 正芳 坂本 直哉 石川 麻倫 山本 桂子 清水 勇一 清水 亜衣 松野 吉宏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.593-601, 2020-05-24

●「考える内視鏡診断」のポイント通常観察では・多彩な内視鏡像が同時に観察される.・非上皮性腫瘍としての性質(粘膜下腫瘍様)が観察され,蚕食像はなく,硬さが目立たない.拡大内視鏡観察では・腫瘍浸潤により腺管構造が破壊された無構造領域や異常血管が観察される.・間質の細胞浸潤により窩間が引き延ばされ,腺管の膨化所見がみられることがある.・前述の特徴を捉え,狙撃生検を行うことで,診断能は向上する.・治療後に腺管構造や上皮下毛細血管の回復が観察され,治療後評価にも有用である.