著者
市原 美恵 山河 和也 岩橋 くるみ 西條 祥 菅野 洋
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

酢と重曹の反応による発泡を利用した噴火の模擬実験は,簡単な実験ながら,様々な噴火様式を発生させることができる(竹内, 2006).我々は,この実験を発展させ,噴火前後のマグマ溜りの圧力変化や噴出に伴う空振に相当する信号をモニターしながら実験を進める試みを重ねてきた.また,「マグマの混合から噴火へ」というシナリオを再現するため,酢(クエン酸)と重曹(炭酸水素ナトリウム)をそれぞれ混入した2つの水あめ水溶液をボトル内で混合し,噴火を導く,という方式を採用した.この実験は,研究のアウトリーチ活動だけでなく,火山研究の種となる興味深い現象の発見にも役立っている(Kanno and Ichihara, 2018).今回新たに加えた改良により,より実現象に近い形で噴火の多様性を実現することが可能になった.模擬火山は,マグマだまりに相当するペットボトルと,火道に相当する透明耐圧チューブからなる.ボトルのキャップに,特製のコネクタを取り付け,火道チューブを接続する.チューブ先端はゴム栓で閉じ,発泡によってボトル内の圧力が高まると自然に開栓して噴出が始まる.これまでの方法は,2つの点で実現象との乖離があるという指摘がされてきた.第一に,「マグマを注いでペットボトルの蓋を閉じる」という実験手順が,いかにも人為的であった.第二に,ボトル内部にもチューブを伸ばした構造が不自然な印象を与えるが,これがなければ,ボトル上部のガスだけが噴出し,噴火を継続させることができなかった.火山噴火のメカニズムという点では,それぞれに対応する現象は考えられる.しかし,専門知識,言い換えれば,先入観を持たずに噴火実験を見た場合,実際の火山現象を模擬するプロセスと実験の便宜上の手続きの間の切り分けが難しく,まして,便宜上の手続きの背後にある実現象を想像することは不可能である.従って,できる限り,人工的な部分を排して,マグマ混合から噴火までの一連の現象を模擬する実験が望ましい.以上の必要性から,マグマの注入口と火道への流出口の2系統を,ペットボトルキャップの限られたスペースに配置するコネクタを考案した.これにより,マグマ溜りの底部から新しいマグマが供給され,上部から火道に出て行く場合など,任意に設定することができる.そして,多様な噴火様式を,より制御して,自然に近い(と思われる)形で再現することが可能となった.本システムを,「次世代火山研究者人材育成コンソーシアム」の一環として開催される実験火山学セミナーにおいて使用する予定である.本発表では,その結果や効果についても報告する.
著者
山岸明子
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

目 的 Montgomery, L. M. 著「赤毛のアン」(1908)は,孤児として不遇な子ども時代を過ごし,発達心理学的に不利な状況にあったにもかかわらず,賢く愛情豊かな女性に成長する様子を描いた児童文学である。幼少期の愛着形成において問題がある者の回復の過程が描かれていると考えられるが,その成長の過程は,発達心理学の知見と一致しているか,発達心理学の観点から無理はないかを検討することが本研究の目的である。幼少期に孤児となり,誰からも愛されたことがなかったアンは11才の時にクスバート家に来るが,「赤毛のアン」に書かれている記述から,1.それまでのアンの育ち,2.クスバート家に来た当初のアンの様子,3.その後のアンの変化に関して愛着の観点から検討を行う。そしてフィクションの小説ではあるが,幼少期の愛着形成において問題がある者の回復の過程やそこに寄与する要因についても考察する。結果と考察1.アンの育ち アンの語りによれば,生後3ヶ月で母親,次いで父親も熱病で死去(父母は共に高校教師)。親戚もなく引き取り手がいなかったため,近所に住む一家に引き取られる。貧しく酒飲み亭主のいる家庭で,子守り兼小間使いとしてこき使われ,つらい思いをしながら,二軒の家で過ごし(大勢の子の面倒をみるため,学校へもほとんど行けなかった),その後4ヶ月孤児院で暮してから,独身の老兄妹マシューとマリラの家にくる。「誰も私をほしがる人はいなかったのよ。それが私の運命らしいわ」とアンは言っているが,愛着対象をもつことなく,誰からも愛されたことがない少女である(唯一何でも話せる相手は想像上の友人であった)。2.クスバート家に来た当初のアンの様子 愛着対象をもたず,誰からも愛されなかったため,愛着に関する障害があることが予想される。著者は必ずしも否定的なものとして書いていない場合もあるが,グリーン・ゲーブルスに来た頃のアンには行動的・心理的に様々な問題がある。1)感情のコントロールができず 特に怒りのコントロールができない。2)よく知らない人に対するなれなれしい態度がみられる。これはDSM-Ⅳの愛着障害の診断基準の「拡散された愛着」に該当すると思われる。3)大げさな表現-アンのおしゃべりは想像も加わっていて大げさだし,喜び方や謝り方も演技的と言える位大げさである。4)自己評価が極めて低い。強い劣等感をもち 誰にも愛されない,誰からも望まれない,自分は哀れな孤児だと何度も言っている。5)嘘をつく。 そのような問題が見られる一方,他者と関係を持とうとしない,あるいはそれがむずかしいというDSM-Ⅳの愛着障害の診断基準の「回避性」の傾向はもっておらず,他者との関係性は基本的にうまくいっている。対人的な自信がないにもかかわらず,よい関係を作る力をもっていることと,はじめから学業優秀な点は,育ちから導くことはむずかしいと思われる。3.その後のアンの成長 アンは11才まで愛情を受けずしつけも満足に受けていなかったが,優しいマシュウと厳しいが愛情をもって育ててくれるマリラのもとで,安全基地と安全感を得て,また荒れた気持ちを宥め慰めてくれる他者を得て徐々にかんしゃくをおこすこともなく穏やかな少女になっていく。 近隣の人も友人も,孤児であり,かんしゃくもちで変わったところのあるアンを受入れてくれ,学校でもアンはのびのびと個性を発揮して友人との生活を楽しむ。 そして「私は自分のほか,誰にもなりたくないわ」と今の自分を肯定するようになる。強い劣等感をもち,誰にも愛されない,哀れな孤児という自己概念は大きく変わっている。4.アンの変化に寄与したもの アンの変化に寄与した要因として,1)暖かくしっかりとした養育 2)学習の機会と動機づけの提供 3)よい友人関係 4)地域の大人とのかかわりがあげられる。これらは,山岸(2008)の被虐待児の立ち直りについての検討や,レジリエンスの促進要因としてあげられていることと共通しているといえる。 アンが当初からもっていた対人的能力や学業上の能力に関しては,語られた育ち方では少々無理があるが,クスバート家そしてアボンリーで生活する中でのアンの変化に関しては,発達心理学の見解と一致するものであることが示された。
著者
堤 彩紀 石橋 純一郎 今野 祐多 横瀬 久芳
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

【はじめに】 カルデラ地形は,熱源・帯水層・不透水層等がそろっており,熱水循環系が発達しやすい地質環境である.横瀬ほか(2010)は,九州の火山フロントの南方延長線上のトカラ列島近傍の海底に,第四紀の火山活動で形成された巨大カルデラが存在することを提唱している.そのうちの一つである宝島カルデラでは,その外輪山に位置する小宝島で,90℃以上の高温の温泉が海岸沿いに噴出していることが知られている.この小宝島の温泉水を採取・分析した結果を報告し,その熱水形成機構を考察する.【試料の採取と分析方法】 温泉水試料の採取は、2013年5月に行われた。温泉水の温度・pH・電気伝導度・酸化還元電位を現地で測定した.温泉水試料は,0.45μmフィルターでろ過してポリびんに入れて持ち帰り,実験室にて主要溶存成分の分析を行った.主要陽イオン濃度はICP‐AES法,陰イオン濃度はイオンクロマトグラフィーを用いて分析した.アルカリ度はグラン法に基づく滴定法,ケイ素濃度は比色分析によって定量した.【結果と考察】 温泉水の化学組成の特徴として,Cl-濃度が高いこと,Na/Cl比が0.75と海水とほぼ一致すること,酸素・水素同位体比が海水の値に近いこと,があげられ,熱水が海水を起源としていると考えられる.また,海水に比べてMg2+,SO42-濃度が低く,K+,Ca2+濃度が高かった.これは海水と岩石の熱水反応において見られる特徴と一致している.地化学温度計を適用すると,熱水貯留層内の温度は250℃~300℃とかなりの高い温度であると推定できる.また,これまでに宝島カルデラ周辺で行われた海底ドレッジでは,玄武岩質安山岩,安山岩,デイサイト,流紋岩からなる溶岩片などが多量に採取されており,最近のマグマ活動が示唆される. これらの結果から,宝島カルデラに規制された熱水循環系があり,その一端が小宝島の海岸で高温の温泉水としてあらわれている可能性が高い.
著者
児玉 涼次 中村 剛士 加納 政芳 山田 晃嗣
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

画像生成手法としてニューラルネットワークの生成モデルが注目されている.本研究ではイラスト画像に着目し,GANの課題の一つであるcollapseの発生を抑える手法を提案する.一般的な画像生成のように,イラストの自動生成が可能になれば,創作支援やエンターテイメント等様々な産業応用が期待できる.我々は,GANによって生成した出力イラストについて,collapse抑制に関する定量的評価を行い,その有用性を確認した.
著者
阿部 なつ江
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

地球のマントルについてどのようなイメージを持っているかと尋ねると、大抵の一般の方々は、「ドロドロしたマグマ」と回答する。これは、テレビなどで繰り返し放送されるプレート境界地震の説明アニメーションや、「地底探検(ジュール・ヴェルヌ)」や「日本沈没(小松左京)」に代表される小説や数多くの映画(センター・オブ・ジ・アースなど)の影響が強いのであろう。一般的に地下深くには「熱い物質」があるという意識から、地殻の下の“マントル”はドロドロと溶けていて、そのドロドロが何かの拍子で地表まで達すると、赤く熱せられたマグマとして噴火するのだと思われているようだ。そのようなイメージを持っているからか、2011年3月11日の東日本大震災後に数多く発生した余震を経験した関東の方達の中には、「このまま日本列島の地面がバキバキと割れて、ドロドロのマグマ(=誤った認識の“マントル“)の中へ沈んでしまうのではないか?という恐怖感に真剣に駆られている方が複数居たことに、私はその時大きな衝撃を受けた。地球惑星科学の研究を行っている我々は、日本列島が目に見える時間スケールで割れてマントルの中へ完全に沈んでしまい、今すぐ消滅するようなことはない、ということを知っている。この基礎知識を持っているというだけで、誤った恐怖感を持つことはないし、また地震などの自然災害にどう対処したら良いかも、おそらく一般の方々よりは心得ているのではないだろうか。また我々地球科学者は、自然に災害に対して、一般の方々の規範となる行動や準備を心がけている必要があると、私は考えている。本公演では、筆写がこれまでに行ってきた講義や一般への講演・普及活動でのこのような反応などを参考事例としてお話ししたい。 マントル物質の岩石学的研究を行う者として、中学理科や高校の「地学」(「地学基礎」)においては、「自然災害を正しく恐れてそれに備える」ことができる最低限の知識と、またその感覚(イメージ)が持てる教育内容を期待する。それは、現在「地学基礎」を履修する主に文系の生徒のみならず、「地学」関連以外の学科を志望する理系の生徒も含めて、少なくとも日本列島に住む者として身につけておくべき最低限の知識(地学リテラシー)を、できれば高校時代までに必修科目として身につけておいて欲しいという願いがある。現在高校「地学基礎」の範囲で網羅している内容は、必要十分であるが、地学(さらに地理)に限らず、自ら考え行動するための知識としての「科学リテラシー」を身につける教育を切に望んでいる。これは、2016年の日本学術会議提言「これからの高校理科教育のあり方」*1において「理科基礎(仮称)」を必修科目として新設すべきであるという提言を行っている完全に沿うものである。また、防災・減災のみならず、ブラタモリで証明済みの娯楽としての、そしてその先にある歴史を紐解くツールとしての地学・地理学の奥深さを、味わって欲しいと願っている。