著者
中曽根 美咲 田中 貴大 赤木 淳二
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】“防風通聖散(以下、BTS)”は、18種類の生薬から構成されている漢方薬であり、肥満症やメタボリックシンドロームの改善を目的に広く用いられている。これまでに臨床試験や動物試験においてBTSによる内臓脂肪の減少効果が明らかにされており、その作用メカニズムとして褐色脂肪組織の活性化を介した脂肪燃焼促進作用や、リパーゼ阻害による脂質排泄促進作用などが報告されている。我々はこれまでに、構成生薬のひとつである生姜 (Zingiber officinale) の分量が高いBTS (BTS-Z)で、辛味成分である6-gingerolが増加し、内臓脂肪低減効果や糖代謝改善作用が増強されることを明らかにしている。本研究では、BTS-Zの作用メカニズムの解明研究の一環として、肥満モデル動物にBTS-Zを投与した時の肝臓における脂質代謝への影響について検討することとした。【方法】C57BL/6雄性マウスに高脂肪食飼料を4週間与えることで作成した肥満モデルマウスに、BTS-Zを2%配合した高脂肪食飼料を与え、体重推移を測定した。飼育7日目に採血し、中性脂肪や肝数値について測定した。また、肝臓を摘出し、脂肪酸代謝に関わるPPARαのmRNA発現量にて評価した。【結果・考察】肥満マウスにBTS-Zを投与した結果、体重や血中中性脂肪の増加抑制効果が確認された。肝数値についてはいずれの群も正常域であり、 BTS-Zの投与による影響は認められなかった。肝臓のPPARαの発現量は BTS-Zの投与により有意に増加し、その増加量は同様に試験を行ったフィブラート系製剤と同程度であった。以上の結果から、BTS-Zの肥満症改善に関与する作用メカニズムとして、新たに肝臓での脂肪酸代謝の促進が関与し、肝臓の脂肪代謝を促進する有用な薬剤であることを見出した。
著者
平田 祐太郎 石井 美恵子
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【目的】クリティカルケア領域の看護師が記録した肺音聴診結果を表す用語の実態調査と、記録された用語と看護師の背景との関連を明らかにする。【方法】実態調査では看護師の記録を対象に肺音聴診結果を表す用語について適切用語記録率を算出した。質問紙調査ではA県医療機関ICU所属看護師に対し基本属性と共に不適切用語14カテゴリーを使用する際の意識について4段階評定法で評価を行い、そのうち肺音に直接関連する6カテゴリーの平均点を合計し不適切用語合計点を算出した。また看護記録実施者に影響を与える要因についても調査を行った。適切用語記録率の関連要因を探るため、従属変数を適切用語記録率、独立変数を基本属性としt検定、一元配置分散分析を行った。また適切用語記録率と不適切用語合計点の相関についてPearsonの相関係数を算出した。【結果と考察】研究同意を得た看護師46人のうち質問用紙の回収率は100%、有効回答率は97.8%であった。実態調査では全カテゴリーの適切用語記録率は71.0%であったが、そのうち「呼吸音」カテゴリーでは適切用語記録率が16.4%と低く不適切用語の全てが「エア入り」であった。適切用語記録率との関連を認めたのは認定看護師教育課程でフィジカルセスメント学習経験をもつ群であり、十分な時間をかけたActive Learningによる学習経験が関連していると考えられた。看護記録は先輩看護師の記録や指導など周囲からの影響を受けている傾向が観察され、「エア入り」についても記録を簡素化するために作られた造語であり先輩看護師からの伝承により使用されていると推測された。適切用語記録率と不適切用語合計点は相関を認めたことから不適切用語に関して正しい知識で修正できれば適切用語記録率にも影響されることがわかった。【結論】実態調査では全カテゴリーの適切用語記録率が71.0%であった。「呼吸音」カテゴリーでの適切用語記録率は16.4%であり、そのうち不適切用語の全てが「エア入り」という用語であった。適切用語記録率はフィジカルアセスメントを認定看護師教育課程で学習した群との関連が認められ、さらに不適切用語合計点とは相関を認めた。看護記録に影響を与える要因としては先輩看護師の指導や記録などがあることが考えられた。このことから認定看護師が適切な用語による看護記録を継続し看護師へ指導することで正しい知識が伝承され、適切な用語による記録が可能となると示唆された。
著者
鈴木亜由美
雑誌
日本教育心理学会第59回総会
巻号頁・発行日
2017-09-27

問題と目的 Aron(2002)の提唱した,感覚処理に敏感性を持つ子ども,Highly Sensitive Child(HSC)は,明橋(2015)によって“ひといちばい敏感な子”と和訳され,広く知られるようになった。しかしながら実証的な研究は非常に少ない。本研究では,Aron(2002)のHSCチェックリストを幼児用の尺度として作成する試みを行った。方 法調査対象者 調査会社(株式会社クロス・マーケティング)に登録しているリサーチモニターの中から,3-4歳の子を持つ母親300名を対象とした。年齢は,21歳から48歳であり,平均34.1歳であった。質問項目1.幼児用Highly Sensitive Child Scale 日本語版: Aron(2002)の23項目からなるチェックリストを日本語訳し,バックトランスレーションの手続きにより,原文の英語との等価性を確認した。Aron(2002)は各項目についてT/Fで回答するものであったが,本研究では成人向けに作成された,Highly Sensitive Person Scale 日本語版(髙橋, 2016)を参考に,“7.非常にあてはまる”から“1.まったくあてはまらない”の7件法により評定を求めた。2.Big Five尺度: 和田(1996)の形容詞による性格特性語を用いた尺度の,情緒不安定性と外向性の2つの下位尺度の中から,幼児の特性を測定するのに適切と思われる各9項目を選択した。3.幼児気質質問紙: 武井・寺崎・門田(2007)の尺度から,神経質尺度10項目,外向性尺度8項目をそれぞれ用いた。結 果因子構造の検討 幼児用Highly Sensitive Child Scale 日本語版23項目について,主因子法による探索的因子分析を行った。固有値の減衰状況と解釈可能性から2因子構造を採択してPromax回転を行い,因子負荷量が十分でない2項目を削除した。Prmax回転後の因子パターン,因子間相関係数を,Table 1に示した。髙橋(2016)を参考に,因子1を“感受性”,因子2を“低感覚閾”とした。信頼性の検討 全体の信頼性係数は,α=.91 であった。下位尺度ごとでは,“感受性”がα=.91,“刺激回避”がα=.76であり,十分な信頼性が示された。妥当性の検討 構成概念妥当性を検討するため,Big Five尺度と幼児気質質問紙の2つの下位尺度との相関係数を算出した(Ta考 察 妥当性の検討では,下位尺度ごとに異なる傾向がれた。“低感覚閾”と“幼児気質質問紙”の間には相関が見られなかったため,用いる尺度の再検討が求められる。また,幼児期の他の年齢も対象とし,年齢差についても検討する必要がある。