著者
町田 玲子 三橋 俊雄 奥村 萬亀子 大谷 貴美子 森 理恵 南出 隆久
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は「しまつ」などの京都らしい暮らし方について、衣食住の各側面から考察し、その伝承のされ方、次世代への生かし方について明らかにすることを目的とする。衣分野:京の暮らしぶりの特性に「しまつ」がある。衣生活については一方で「京の着だおれ」と評される特性がある。京の女たちはこの両側面をうまく成り立たせる工夫や心がけを持っている。また、この両側面にかかわる商人としての悉皆屋がある。彼らはきものの管理・再生から流行のきもの作りまでを手がける。そして、京の人々の暮らしと深くかかわり、「しまつ」な暮らし方と流行のゆくへを伝授する。京の「しまつ」な暮らしは生活者の行動意志と同時にそれを支える産業組織から成り立っていたのである。食分野:都として栄えた京の郷土料理とも言える京料理と町衆のおかずであるおばんざいに光をあて、「しまつ」に関する知恵を探った。京料理には、材料を生かす精進の精神(無駄をしない、持ち味を生かす)が、薄味や旬の素材の利用に生かされ、おばんざいには、粗末なおかずをも、様々な意味づけをして生活を楽しむ知恵や、また乾物等の調理方法に栄養素を無駄なく利用する知恵などが認められた。住分野:京都市上京区・中京区・下京区の居住者に、住生活を維持するための昔の知恵について調査をした。その結果、昔は大掃除や日々の掃除を家族で行なっていたので、子どもへも自然に掃除の知恵が伝承されていたこと、住に関するしまつ意識は高齢者同居世帯において高いこと、近隣づきあいは相手の領域に安易に踏み込まない暗黙の了解があり、高齢者層ほどその認識度が高い傾向がみられること、などが明らかになった。
著者
三橋 俊雄
出版者
日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.46-46, 2006

1200年を超える悠久の歴史に育まれてきた京都は、今もなお、日本の伝統文化が生き続ける歴史都市である。とりわけ世界文化遺産に登録された社寺をはじめとする優れた文化財、伝統的な町並み、そして、それらを取り巻く山紫水明の自然が織り成す京都の景観は、われわれが後世に伝えていくべき日本の文化的資産である。 しかし、1980年代のバブル経済期における、投機目的の地上げや無秩序なマンション建設など、市街地の景観や自然景観の破壊が拡大した。 こうした状況下で、京都市市街地景観整備条例等により、景観の保全・保存に努力してきたが、一方、その保全・保存のあり方が、伝統的建造物に対して問われ始めている。 外壁だけを残して内部を新築する「ファサード保存」、建物のごく一部を残しただけの「カサブタ保存」、そして、現在の建物を撤去し、新たに異なる材料によってそっくりな建物を新築する「レプリカ保存」的な改築計画が実行され、建築として、景観としての真正性(authenticity)が問われることとなった。 2004年の景観法の制定を契機に、一人でも多くの市民が、真のアメニティーを標榜し、すぐれた眺望・背景景観がもつ精神的文化的価値を再認識、再評価していく必要がある。
著者
林 依蓉 三橋 俊雄
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.3_23-3_32, 2019-01-31 (Released:2019-03-25)
参考文献数
29

本研究では,台湾原住民タロマク族が現在も暮らしの中で実践している狩猟について,自然を利用するだけの活動にとどまらず,精神的・文化的な意味で自然と深く関わってきた「遊び仕事」の観点から考察する。 調査では,タロマク族の30〜70代の猟師経験者から,狩りの技術やプロセス,禁忌・儀礼,自然観など,狩猟活動の諸側面について聞き取りを実施し,伝統的狩猟文化の実相について探求した。その結果,彼らの狩猟文化には,身体的活動を通して得られる生きがいや誇りはもとより,彼らが目指す真正な猟師像,'agamocoやSangaなどに見られる象徴性,共同体的規範としての分享の精神など,部族内における誇りや喜びの源泉となり得る「遊び仕事」の社会的・精神的な価値が内包されており,彼らが守り次世代に伝えようとしている狩猟という「遊び仕事」の特質を示すことができた。また,そこには,民族の誇りや民族自立に繋がる彼らの強い想いを見て取ることができた。
著者
三橋 俊雄
出版者
横断型基幹科学技術研究団体連合(横幹連合)
雑誌
横幹連合コンファレンス予稿集 第4回横幹連合コンファレンス
巻号頁・発行日
pp.12, 2011 (Released:2012-03-14)

本当の豊かさや人間らしい生き方とは何か。本来、自然との共生の中で行われてきた人間生活の諸活動はサブシステンス(自立自存)な行為であった。しかし、体制・市場・産業的サービスの受け手に甘んじ、その結果、自らの内発的な思考・行動によるヴァナキュラーな活動が消失しつつある現在、「遊び仕事」をサブシステンスの行為・活動ととらえ、その価値について再考・再評価する。
著者
黄 世輝 田中 みなみ 三橋 俊雄 加藤 純一郎 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.51-60, 1997-03-31 (Released:2017-07-25)
参考文献数
18

台湾の寺廟文化は、中国大陸から渡来した漢民族による移民社会の成立とともに、地域生活と密接な関係を保ちながら発達してきた。本研究では、台湾・鹿港の文化的、社会的象徴といえる龍山寺を対象に、地域づくりにかかわる龍山寺の役割とその可能性について検討した。その結果、鹿港の地域づくりにかかわる龍山寺のあり方について、以下に示す五つの方向性について提示した。1)宗教活動の場として清浄な環境を保ちながら仏教教義の広がりに努める。2)教育の場として歴史的資産を保護、伝承しながら郷土教育を推進する。3)文化活動の場として住民参加型の文芸活動を展開する。4)観光活動の場として龍山寺の文化的価値を内外に発信する。5)憩い・交流の場として寺廟文化の情報センターの役割を担う。総じて、龍山寺は地域づくりの拠点として多くの住民が参加できる活動を展開することができる。
著者
佐々井 俊文 三橋 俊雄
出版者
日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
vol.59, 2012

本研究では、自立自存的な生き方とは何かを探求するに当たり、京都府北部の2地区において、民俗学的および道具学的な視点から聞き取り調査および行動の調査を行った。<br>宮津市の丹後由良地区では、調査対象者1名の生活技術や生活哲学が、自然の循環の中にあり、また物々交換に代表される人との関わりの中にあることが明らかとなった。そのことは特に消し炭の利用に明確に表れており、自立自存的な生き方の特徴的な生活技術の事例の1つを示唆していると考えられる。<br>福知山市雲原地区では、兼業で猟を行っている2名の対象者が、猟を通じた道具の加工技術や、害獣と対峙しながら生活していくための、幅広い知識と技術を持っていることが明らかとなった。<br>こうした対象者らの日常の生活や生活技術は、自然の中で自立自存的な生き方を実現するための、重要な知見であると考えられる。<br>
著者
田中 靖子 中村 仁美 河西 立雄 三橋 俊雄
出版者
Japanese Society for the Science of Design
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.2_25-2_30, 2015

京都府京丹後市袖志地区の調査により、採藻業の現状と、シミズ、カワ、イケ、イネの4つの水資源のあり方から、それぞれの特徴、また補完関係を読み取り、暮らしを支えた水と人との関係について、以下の5 つの特性を抽出した。<br>1)海の採藻業における「適期」「平等性」としての「山の口開け」、棚田・イネの掃除や管理、カワの水場での洗い物の規範など、コモンズを支えた水に関わる共同体的意識、2)イケやシミズの水供給システム、農業用水路としてのイネなど、水資源を最大限に利用し自然と共生した水利用の技、3)採藻業で採集される海藻類の処理・製造工程において必要となる大量の水とその利用を支えた智恵と工夫、4)豆腐づくりや酒づくりに欠かせない西川の水、飲料水や果物などを冷やす水として親しまれた「カンダのイケ」など、食文化を支えたカワやシミズ、5)棚田と共に袖志における水場の原風景を醸し出し人々の心をとらえてきた文化的景観としての水。
著者
三橋 俊雄 牧田 和久 宮崎 清 田中 みなみ
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
no.94, pp.67-74, 1992-11-10

本論文は,新潟県山北町における「地域特質を表現する図像」構築過程の観察を通して,内発的地域作り計画と実践の意義を考察したものである。第1段階として,町内外の人びとが地域に対して抱く心象に関するアンケート調査,町内においてすでに使用されている視覚媒体物の採集,図像のモチーフとなりえる各種地域資源の採集,地域住民からの図像アイデアの募集などを通して,地域特質に関する把握とその表現方策に関する検討を行なった。第2段階では,それらの結果に基づき,地域特質を表現する図像の実体化作業を展開し,地域住民による投票ならびに内外の人びとによる図像評価に基づき,「地域特質を表現する図像」として10点を策定した。第3段階としては,イメージカラーやロゴタイプと組み合わせ,策定された図像の具体的活用に関するマニュアルを作成した。最後に,「地域特質を表現する図像」の構築を内発的に展開する計画・実践は,当該地域の人びとが地域の有する種々の価値を再確認し,共同してそれを維持・発展させていくためのツールとして機能する点において今日的意義があることを指摘した。
著者
三橋 俊雄 宮崎 清 坂本 勝比古
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
no.82, pp.49-56, 1990-11-30
被引用文献数
1

本小論は,大正期から昭和戦前期における農村・農家副業としての工芸生産に関する史料を解析し,今日の地域産業おこしに対する基本的視点を見定めようとしたものである。本小論の検討内容ならびに結論は,次のように要約される。(1)疲弊する農村救済策としてなされたこの時期の農商務省による副業奨励施策は,時代の推移につれ,その中心を,地域資源を活用した地域工芸の創生に移していった。(2)初期商工省工芸指導所ならびに高崎におけるブルーノ・タウトは地域工芸のあるべき理念・方法を提示した。両者は,ともに,伝統的・地域固有資源の再認識に基づく工芸デザイン活動が地域社会に根づいていくことこそ,調和ある社会発展にとって不可欠であることを説き,実践した。(3)初期工芸指導所および高崎におけるブルーノ・タウトの活動には地域産業自体の「内発的」活性化に向けての要件が含まれ,今日の地域工芸産業の振興に関しても示唆する点が多い。