著者
下方 浩史 葛谷 文男 吉峯 徳 浅井 幹一 坂本 信夫
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.391-397, 1983

老化と深いかかわりを持つ高脂血症・動脈硬化の予防と治療に関する研究の一環として, 食事と血清脂質の関係について明らかにするための検討を行なった. 121名の健康な成人を対象に3日間の食事内容を調査し, 同時に測定した肥満度, 血圧, 血清脂質との関係について多変量解析の手法を用いて検討した.<br>まず血清脂質と食事内容とに対して正準相関分析を行ない, 弱いが有意な相関があることを確認した. 食事内容に血圧, 肥満度を加えて血清脂質との間に正準相関分析を行なったところ, より強い相関関係が示された. 次に血清脂質の各々について食事内容との間に重回帰分析を行なった. 総コレステロール, 高比重リボ蛋白コレステロール (以下HDL-コレステロールと略す), トリグリセライド, Atherogenic Index は食事内容に肥満度, 血圧を加えることによってはじめて有意な相関を示したが, リン脂質は食事内容のみでも有意な相関を示した.<br>食事のどのようなかたよりが血清脂質に大きな影響を及ぼすかについて次に検討した. 摂取食品に対して因子分析を行ない, 各食品の摂取状態の分布を求めたところ, 食品を大きく4つの群に分けることができた. しかし得られた各因子と血清脂質との間には, はっきりした関係は見い出されなかった. そこで食事のかたよりの具体的な指標として, 食品を植物性のものとそうでないものに分け, 植物性食品の摂取量と血清脂質との関係について検討した. その結果, 植物性食品は多少総コレステロールを低下させる傾向があるが, それ以上にHDL-コレステロールを大きく下げることがわかった.
著者
葛谷 雅文 遠藤 英俊 梅垣 宏行 中尾 誠 丹羽 隆 熊谷 隆浩 牛田 洋一 鍋島 俊隆 下方 浩史 井口 昭久
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.363-370, 2000-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
18
被引用文献数
8 14

名古屋大学医学部附属病院老年科病棟と, 国立療養所中部病院高齢者包括医療病棟入院中の65歳以上の患者を対象に老年医学的総合評価 (ADL, Instrumental ADL, 認知機能, 情緒傾向, 社会的状態などを含む) と服薬コンプライアンス評価調査表を用い, 高齢者の服薬コンプライアンスに関与する因子を検討した. 2施設間の調査対象集団を比較すると, 中部病院で女性の割合が多く有意に高齢であった. さらに中部病院では Instrumental ADLが有意に低スコアーであった. 老年医学的総合評価項目と服薬コンプライアンス評価項目との検討では, 服薬管理者 (自己管理か非自己管理か) を規定している因子は主にADL, Instrumental ADL, 認知機能障害, うつ状態, コミュニケーション障害の有無であった. 服薬状況 (薬の飲みわすれ) は老年医学的総合評価項目のいずれにも有意な関係がなかったが, 用法の理解度, 薬効の理解度との関係は施設間で差を認めた. すなわち大学病院では服薬状況と用法, 薬効理解度との間に有意な関係を認めたが, 中部病院ではいずれも有意差を認めなかった. 服薬用法理解, 薬効理解度は Instrumental ADL, 認知機能, コミュニケーション能力, 集団行動能力と有意な関係にあった. 薬効理解度は教育歴とも有意な関係にあった. 2施設を比較すると多くの総合評価項目とコンプライアンスの関係は一致していた. 以上より, 高齢者の服薬コンプライアンスは患者の身体機能, 認知機能とは関係なく, 服薬用法, 薬効理解との関係が示唆された. このことは服薬指導の重要性が高齢者の服薬コンプライアンス向上に重要であることを再認識させる.
著者
下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.462-464, 2006-07-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
16

健康長寿を目指すためには生活習慣の改善が最も重要である. 喫煙や飲酒のコントロール, 肥満防止, 栄養改善, 運動習慣などの生活習慣の改善は, 寝たきりを防止して健康寿命を延ばしていくためには不可欠である. 生活習慣の是正は小児期から必要であり, 青年期, 中年期から老年期まで, 生涯にわたって必要であるが, ライフステージごとに方法や目標は異なる. 75歳以上の後期高齢者では肥満よりも痩せの危険が高いことを認識し栄養指導を行うことが必要である. 喫煙による循環器疾患や呼吸器疾患への影響としては急性の不整脈の誘発や, 末梢血管の収縮, 気道への刺激などもあり, 禁煙は高齢者でも有用と考えられる. また代謝予備力が落ちているために飲酒量も減らすことが望ましい. 運動習慣は高齢者の身体活動能力を維持するだけでなく, 代謝機能を高め, 鬱を予防するなど心身の健康維持に重要であり, 運動教室などを利用して積極的な介入を行っていくべきであろう.
著者
下方 浩史
雑誌
Audiology Japan (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.177-184, 2008-06-30
被引用文献数
6
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.76-86, 2014

本研究では,地域在住高齢者の知能と抑うつの経時的な相互関係について,交差遅延効果モデルを用いて検討することを目的とした。分析対象者は「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次調査に参加した,65~79歳の地域在住高齢者725名(平均年齢71.19歳;男性390名,女性335名)であった。第1次調査及び,その後,約2年間隔で4年間にわたって行われた,第2次調査,第3次調査において,知能をウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(WAIS-R-SF),抑うつをCenter for Epidemiologic Studies Depression(CES-D)尺度を用いて評価した。知能と抑うつの双方向の因果関係を同時に組み込んだ交差遅延効果モデルを用いた共分散構造分析の結果,知能は2年後の抑うつに負の有意な影響を及ぼすことが示された。一方,抑うつから2年後の知能への影響は認められなかった。以上の結果から,地域在住高齢者における知能の水準は,約2年後の抑うつ状態に影響する可能性が示された。
著者
福川 康之 下方 浩史 高尾 公矢 川口 一美
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

「祖母仮説」は,繁殖期を過ぎた個体が子の繁殖に貢献するために長寿化したと仮定する理論である.しかしながら本研究では,娘の繁殖成功度の向上(第一子の早期誕生や第一子と第二子の出産間隔の短期化)に最も貢献していたのは義理の母親(夫の母親)であった.日本のような母方居住の傾向が強い地域では,実娘と実母よりも嫁と姑の関係が繁殖に影響している可能性がある.祖母仮説を現代社会で検討するうえでは文化的な背景に配慮する必要があるといえるだろう.
著者
下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.174-176, 2001-03-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

長寿者となるための生理的条件としては遺伝素因が重要である. しかし, 長寿を修飾する因子として栄養, 運動, 休養, 喫煙, 飲酒などの生活・環境要因も重要である. 肥満は健康や寿命と大きな関係を持つ. ラットなどでは食餌制限で寿命が延びることが知られているが, ヒトでは肥満とともに痩せすぎも寿命短縮のリスクとなる. 特に予備力の低下している高齢者では痩せには要注意である. 喫煙や糖尿病, 高血圧などは老化を促進する. 一方, スポーツの習慣や適量の飲酒は老化を遅らせる. 予防対策・健康支援も健康な長寿を目指すためには欠かせない. 遺伝素因やリスク評価に基づいたオーダーメイド・サポートなど長寿のための健康支援の新しい戦略の成果も, 今後は期待できる. しかし, こうした予防医療・健康支援を実践していくためには, 基盤となる研究データの蓄積が欠かせない. そのためには老化に関する長期の大規模な縦断的研究が必要である.
著者
住居 広士 高山 忠雄 橋本 祥恵 下方 浩史
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.11-20, 1997-10-30

我々は介護度を、要介護者への直接処遇の介護業務における関わり度・困難度・必要度により数量化し、保健福祉機関職種別の介護専門性を比較検討した。1995年12月に配票調査を行い、保健福祉職種別の要介護者事例1208名から介護度を数量化し分析した。介護支援業務総計80項目を基に、6種類(生命、生活、情報、医療、末期、在宅)の主業務にまとめた。関わり度と必要度は、相関係数0.77(偏相関0.49)と非常に高く、困難度は関わり度とは0.57(-0.27)、必要度とは0.67(-0.02)とその偏相関係数は低かった。今回、その関係から、介護度=困難度×(関わり度+必要度)/2として数量化した。介護度は、職種別には、特養寮母が生命、特養看護が医療、特養指導員は情報、老健介護は生命、老健看護が医療、ホームヘルパーと訪問看護とデイケアはともに情報が一番高値であった。特養寮母と老健介護職員の相関係数(0.845)と老健介護職員と老健看護が相関係数(0.883)と非常に高値となった。介護度により保健福祉分野での介護専門性の比較検討ができることが示唆された。
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.276-286, 2012

本研究では,中高年者の開放性がその後 6 年間の知能の経時変化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。分析対象者は,「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第2次調査及び6年後の第5次調査に参加した,地域在住の中年者及び高齢者1591名であり,開放性はNEO Five Factor Inventory,知能はウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(知識,類似,絵画完成,符号)を用いて評価した。反復測定分散分析の結果,開放性が知能の経時変化に及ぼす影響は,知能の側面や年代によって異なることが示された。まず,「知識」得点の経時変化には,高齢者においてのみ開放性の高低が影響しており,開放性が高い高齢者はその後6年間「知識」得点を維持していたが,開放性が低い高齢者ではその得点が低下することが示された。一方,「類似」,「絵画完成」,「符号」では,開放性が高い中高年者は低い中高年者よりも得点が高いことが示されたが,開放性の高低による経時変化への影響は認められなかった。以上より,中高年者の開放性は知能やその経時変化の個人差の要因となること,特に高齢者にとって,開放性の高さは一般的な事実に関する知識量を高く維持するために役立つ可能性が示唆された。