著者
湯川 慶子 石川 ひろの 山崎 喜比古 津谷 喜一郎 木内 貴弘
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.16-26, 2015 (Released:2015-02-27)
参考文献数
32

目的:慢性疾患患者の代替医療による副作用への対処行動や主治医とのコミュニケーションとへルスリテラシーとの関連を明らかにすることを目的とした.方法:2011年5月から7月に,全国の患者会の慢性疾患患者920名に自記式質問紙を用いた横断研究を行った.603通を回収し欠損が多いものを除いた570通のうち(有効回収率62.0%),代替医療の利用経験を持つ428名を対象とした.副作用経験の有無(副作用の経験あり群・経験なし群),副作用時の対処(利用中止群・利用継続群),主治医への副作用の症状と療法の報告(主治医への報告あり群・報告なし群)別のへルスリテラシーについて対応のないt検定を行った.さらに,属性とヘルスリテラシーを説明変数,利用中止,主治医への報告ありを目的変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った.結果:428名中88名(20.6%)が副作用を経験していた.そのうち45.9%が利用を継続し,61.6%は主治医に副作用の症状と療法を報告していなかった.利用中止群が利用継続群よりも,報告あり群が報告なし群よりもヘルスリテラシーが高かった.多変量解析でも,ヘルスリテラシーと利用中止か継続かとの関連(OR=2.75,95%CI 1.06-7.10),主治医への報告の有無との関連(OR=2.59,95%CI 1.01-6.65)が認められた.結論:へルスリテラシーは,代替医療による副作用への適切な対処,主治医への報告など,代替医療の安全な利用に重要である.
著者
戸ヶ里 泰典 山崎 喜比古 中山 和弘 横山 由香里 米倉 佑貴 竹内 朋子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.232-237, 2015 (Released:2015-06-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1

目的 健康保持・ストレス対処力概念である sense of coherence (SOC)に関する研究は近年増加しており,介入研究のアウトカム指標として用いられる例も多くなってきている。その一方で SOC スケール日本語版は標準化が行われていない現状にある。そこで全国代表サンプルデータを用いて13項目 7 件法版 SOC スケール日本語版の基準値を得ること,すなわち,性・年齢別の得点分布,居住地域および都市規模とスケール得点との関係を明らかにすることを本研究の目的とした。方法 日本国内に居住する日本人で居住地域,都市規模,年齢,性別による層化 2 段抽出により2014年 1 月 1 日現在で25歳から74歳の男女4,000人を対象とした。2014年 2 月から 3 月にかけて自記式質問紙による郵送留置法を実施し,2,067票を回収した(回収率51.7%)。分析対象者は男性956人,女性1,107人,平均年齢(標準偏差(SD))は50.0(14.3)歳であった。結果 SOC スケールの平均(SD)得点は59.0(12.2)点であった。性別では,男性59.1(11.8)点,女性58.9(12.5)点で男女間で有意差はみられなかった(P=0.784)。年齢階層別の検討では,一元配置分散分析の結果有意(P<0.001)となり,多重比較の結果概ね高い年齢階層であるほど高い SOC 得点であることが明らかになった。SOC を従属変数,居住地域(11区分),都市規模(4 区分)およびその交互作用項を独立変数とし年齢を共変量とした共分散分析の結果,いずれも有意な関連はみられなかった。結論 本研究を通じて,日本国内に在住する日本人集団を代表する SOC スケール得点を得ることができた。また性差,地域差はみられず,年齢による影響がみられていた。本研究成果を基準値とすることで年齢などの影響を考慮した分析が可能になり,今後,SOC スケールの研究的・臨床的活用が期待される
著者
佐藤 伊織 戸村 ひかり 藤村 一美 清水 準一 清水 陽一 竹内 文乃 山崎 喜比古
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.39-49, 2004

我々は、不妊治療と出生前診断について、一般市民の知識・信念・態度を、自記式調査票により調査した。東京都N区の住民基本台帳から30代〜50代の者179名を無作為抽出し、そのうち住所の明らかな169名を対象とし、99の有効回答を得た。各調査項目と属性間、一部項目間の二変量の関係についてPearsonのx2検定を行った。不妊治療の知識やそれへの態度については、男女に明確な差は認められなかった。しかし、女性の方が不妊治療をよりシビアにとらえる傾向が見られた。市民の中には、不妊を夫婦双方の問題として取り組む姿勢も見られ、これからは実際に男性からも積極的に不妊治療に参加できる環境を整えることが望まれる。出生前診断や中絶に関する態度は、その人の年代・子どもの有無によって違いが見られた。出生前診断が必ずしも優生思想や障害者差別に結びつくものではないという点について特に、認識の普及が必要である。
著者
山崎 喜比古
出版者
医学書院
雑誌
看護研究 (ISSN:00228370)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.479-490, 2009-12-15

はじめに 健康生成論およびSOC概念・尺度の提唱と本稿の目的 20世紀後半,特に最後の四半世紀,健康・病気と保健医療の世界においてパラダイムシフト,すなわち,それまでの健康・病気と保健医療に関する伝統的支配的な見方・考え方に代わる新しい見方・考え方の提唱と普及が進んだ。 その1つに,ユダヤ系米国人の保健医療社会学者アーロン・アントノフスキー(Aaron Antonovsky)博士(社会学)が,1979年と1987年に刊行した2大著作で世に問うた健康生成論(salutogenesis)とストレス対処・健康保持力概念SOC(sense of coherence)がある。書名を和訳すれば,1作目が『健康,ストレス,そして対処─心身の健康への新しい見方』(Antonovsky, 1979)であり,2作目が『健康の謎を解く─ストレス対処と健康保持のメカニズム』(Antonovsky, 1987/山崎・吉井監訳,2001)である。 Antonovskyによれば,従来の医学は,予防医学や公衆衛生も,基本的には,疾病生成論(pathogenesis)的な観点から,疾病を発生させ増悪させる危険因子(リスクファクター;risk factor)と,その軽減もしくは除去の方策について,膨大な知識と実践を蓄積してきた。それに対して健康生成論は,疾病生成論とは180度転回した角度,すなわち,健康はいかにして回復され,保持され,増進されるのかという観点から,その要因を健康要因(サリュタリーファクター;salutary factor)と呼び,健康要因の解明と支援・強化がめざされる理論である。 さらにAntonovskyは,人々の健康を守り改善するためには,疾病生成論と健康生成論が相互補完的に,車の両輪のように発展させられなくてはならない,にもかかわらず,健康生成論は,疾病生成論に比べてあまりにも大きく立ち遅れてきたという。 SOCは,直訳すれば首尾一貫感覚,すなわち,自分の生きている世界(生活世界)は首尾一貫している(coherent),つまり,筋道が通っている,腑に落ちるという感覚である。我々は,SOCの日本語との呼称としては,わかりやすさの点から,日本に紹介した当初より,何をどのように感じている感覚なのかを表現する「首尾一貫感覚」ではなく,何に対してどのような働きをする感覚なのかを表現する「ストレス対処・健康保持能力」または単に「ストレス対処能力」のほうを用いてきた。しかし,それも,「能力」とするか,それとも単に「力」とするかについては,正直,ずっと迷い続けてきた。本号焦点でも,基本的には従来通り,「能力」を用いているが,本稿では,あえて「能力」の代わりに,包括性のより高い「力」のほうを使わせていただくこととした。両者のニュアンスの違いについては,簡単にではあるが後述する。 SOCは,Antonovskyが,上述した健康生成論的な観点から,極めてストレスフルな出来事や状況に直面させられながらも,それらに成功裏に対処し,心身の健康を害さず守れているばかりか,それらを成長や発達の糧にさえ変えて,明るく元気に生きている人々のなかに見いだした,人生における究極の健康要因であり,健康生成論の要の概念である。 Antonovskyの健康生成論的な発想と見方・考え方は,その後,世界の保健,医療,看護や心理などヒューマンサービスに関わる広範な分野の学問と実践にパラダイムシフト的なインパクトをもたらした。また,SOC概念がAntonovskyの2作目の著作(Antonovsky, 1987/山崎・吉井監訳,2001)において尺度化され,SOC尺度が提案されることによって,この20年あまりの間に,SOCと健康生成モデルの実証研究が大いに促進され,年々,幾何級数的な増加を示し,世界の学術雑誌に掲載されたSOC実証研究論文だけでも,今日までに千数百本にものぼっている。健康生成モデルとは,SOCはどのような働きをするのか,SOCは何によって育まれるのかということについての理論モデルのことである(図1)。 本稿では,以下,こうしたSOCとその着想のもとになった健康生成論とはどういう概念であり理論なのか,特に,SOCはどういう感覚なのか,人生における究極の健康要因として,ストレスフルな出来事や状況に直面して,どのような働きをする,どういう力なのかということについて,Antonovskyの提唱した理論をベースに,その後の実証研究の成果も踏まえて,概説してみたい。筆者らが2008年に出版した『ストレス対処能力SOC』(山崎・戸ヶ里・坂野編,2008)の第1章「ストレス対処能力SOCとは」とも重なるところが少なくはないが,本稿では,さらに整理と深化を随所で図ったつもりである。
著者
八巻 知香子 山崎 喜比古
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.13-25, 2008-08-08 (Released:2016-11-16)

今日でも依然として障害者差別や障害者を劣位におく価値観があることは国内外で繰り返し指摘されているが、これらのテーマを扱う研究の多くが、受け手である障害者個人への負の影響という観点からのみの測定が大半を占め、価値観自体の議論や把握はなされてこなかった。本研究は、障害のある人が感じている「障害者への社会のまなざし」それ自体について把握する手法について提案し、是正が望まれている「社会のまなざし」の特徴を明らかにした。結果から、障害者が感じ取る「障害者への社会のまなざし」は、否定的な要素についても、肯定的な要素についても存在を感じている人は非常に多く、否定的な要素については是正を、肯定的な要素については広がりを望んでいた。「障害者への社会のまなざし」の肯定的評価傾向は、対人的な被差別経験および移動・情報入手の不便による日常の不快な経験の多寡と強く関連しており、日常生活の実感に基づくものと考えられた。
著者
坂野 純子 菊澤 佐江子 的場 智子 山崎 喜比古 杉山 克己 八巻 知香子 望月 美栄子 笠原 麻美
出版者
岡山県立大学
雑誌
岡山県立大学保健福祉学部紀要 (ISSN:13412531)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.19-25, 2010

本研究では、大学生の精神障害者への否定的な態度をスティグマ的反応尺度により把握し、その因子構造と関連要因を明らかにすることを目的とする。青森県、大阪府、岡山県、東京都、奈良県の大学生を対象にビニエット方式で質問紙調査を実施した。ビニエットの事例疾患はうつ病、統合失調症、ぜんそくの3種類を用意し、それらを無作為に対象者に振り分けた。分析項目はビニエットの人物に対するスティグマ的反応、疾患事例、回答者の性別、専攻分野とした。大学生のスティグマ的反応を検討するために最尤法を用いたプロマックス回転による探索的因子分析を行った。その結果、「精神障害者と接することへの不安」「精神障害者の責任能力への不信」「精神科医療を受けていることへの抵抗感」「精神障害者の知的能力や生産性への期待」「精神疾患への恥辱」の5因子が抽出された。一元配置分散分析と多重比較の結果、「精神障害者の責任能力への不信」「精神障害者への恥意識」因子は、ぜんそく群よりもうつ病群および統合失調症群にスティグマ的反応が強い傾向がみられたが、両者の間には差はみられなかった。専攻分野別では「精神障害者の責任能力への不信」「精神障害者の知的能力や生産性への期待」「精神疾患への恥意識」3因子では、看護系が社会福祉系、人文社会系理工系に比べてスティグマ的反応が小さい傾向がみられた。そのうち「精神疾患への意識」因子は社会福祉系が理工系に比べてスティグマ的反応が小さい傾向がみられた。
著者
戸ヶ里 泰典 山崎 喜比古 小出 昭太郎 宮田 あや子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.51-57, 2006 (Released:2014-07-08)
参考文献数
14
被引用文献数
5

目的 地域や職場等の保健計画において,能力面の評価指標として Perceived Health Competence Scale (PHCS)が期待されている。そこで PHCS 日本語版のワーディングを修正した修正版 PHCS 日本語版の信頼性および妥当性を検討することを本研究の目的とする。方法 日本国民全体より層化二段抽出した男女3,000人に対し,面接法を行い1,910人より回答を得た(回収率63.7%)。信頼性分析として,Cronbach α(以下 α)係数による内的一貫性の確認と,Item-Total 相関分析,および項目削除時の α 係数を算出した。妥当性の検討として,PHCS スコアと性,年齢,慢性疾患の有無,18歳時の慢性疾患の有無の 4 つの属性特性との関連性について,および健康関連ライフスタイルの各指標との関連について一般線形モデル(General linear model; GLM)による分散分析を行い,内容妥当性および構成概念妥当性の検討を行った。成績 α 係数は.869と十分な値となった。また,Item-Total 相関,項目削除時の α 係数では異常値はみられず一定の信頼性が確保された。一方,年齢に関しては60歳以上と未満とで差がみられた。慢性疾患をもつ人,および18歳時に慢性疾患をもっていた人のほうが低い PHCS スコアであることが明らかとなった。また,性,年齢,慢性疾患の有無,18歳時の慢性疾患によらず,PHCS スコアは,喫煙,運動,食習慣と大きく関連が見られたが,飲酒,健診受診頻度とは関連がみられなかった。結論 修正版 PHCS 日本語版の信頼性,妥当性は概ね示された。修正版 PHCS 日本語版は使用可能であると考えられる。また,縦断研究による PHCS の予測妥当性の検討のほか,形成要因・介入方法の検討が望まれる。
著者
吉田 真二 山崎 喜比古
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.241-254, 2021-04-15 (Released:2021-04-23)
参考文献数
57

目的 高齢者のQOL支援のため,健康かつ前向きに生きる力概念を包含した動態的なライフを生命・生活・人生の3つの次元で捉える主観的QOLを測定する尺度の開発を試み,その信頼性と妥当性を検討することである.方法 文献調査,慢性疾患患者へのインタビューを行い項目を作成し,3つの次元各々が1項目ずつの計3項目から成る主観的QOL尺度を完成させた.本尺度は,質問項目に参照期間を設け,誰にでもある生活や人生の浮き沈み双方の日数比をVisual Analogue Scale(VAS)による7件法で自己評価を行うものである.本調査では,病院の外来患者や,地域包括支援センターなどの紹介によりリクルートした70~84歳の在宅高齢者100人を対象に,他記式質問紙調査を行った.信頼性の検討は,Cronbach α(以下α),Item-Total(以下I-T)相関分析,項目削除時のα係数の算出により行った.内容妥当性の検討は,自由回答の内容分析に依った.構成概念妥当性の検討は,階層的重回帰分析を行い,抽出された主観的QOLの関連要因の意味内容を検討し,また先行研究との一致も確認した.結果 信頼性の分析では,α係数は0.898であり,I-T相関と項目削除時のα係数のいずれも基準値をクリアできており,一定の信頼性が確認できた.内容妥当性の検討では,3つの次元各々で抽出したカテゴリは共通性と固有性からなることがみてとれ,ともにQOLの各次元の概念の特徴を示しており,内容妥当性が概ね確認できた.構成概念妥当性の検討では,就労している者,役割や経済的にゆとりが有る者,利用中の介護サービスが1つの者よりも2つ以上の者,主観的健康管理能力やソーシャルネットワーク,Sense of Coherence(以下SOC)が高群の者は主観的QOLが有意に高かった.また,主観的QOLは,SOCの有意味感と経済的にゆとりが有ることとに有意な関連性がみられ,これらの結果は先行研究と一致しており,構成概念妥当性が確認できた.結論 本尺度の信頼性と妥当性が概ね確認でき,使用可能性が示された.
著者
清水 準一 山崎 喜比古
出版者
JAPANESE SOCIETY OF HEALTH EDUCATION AND PROMOTION
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.11-18, 1997-03-30 (Released:2010-03-19)
参考文献数
26
被引用文献数
4

エンパワーメント理論はヘルスプロモーションと同様の基本理念を持つ概念として近年アメリカを中心に地域・精神保健, 福祉, 看護などの領域で注目されている概念であり, 本研究では海外の文献のレヴューによりその意味と意義の解明を試みた。エンパワーメント理論におけるパワーとは自らの生活を決定する要因を統御する能力のことであり、このパワーが欠如したパワーレスな状態が健康に対する危険因子であることは既に分かっている。エンパワーメントとは, このパワーを持たない人達が自分達の生活への統御感を獲得し, 組織的, 社会的構造に影響を与える過程とされる。幾つかの介入研究をまとめるとエンパワーメントは「参加」―「対話」―「問題意識と仲間意識の高揚」―「行動」といった過程を経て達成されている。介入や測定は対象を個人―組織―コミュニティ等に分けて行われていることが多く, 介入によって獲得された結果を測定する試みがなされている一方でその過程自体を測定することはできていない。エンパワーメントはそれまで個人的・主観的事象とされてきたパワーレスが社会的・客観的な事象と考えられるようになるに伴い, 個人レベルの介入だけでは解決できなかったパワーレスを様々な社会科学の知見を活用することにより改善する可能性を秘めているという点に専門家の期待が込あられていると考えられる。〔日健教誌, 1997; 4: 11―18〕
著者
戸ヶ里 泰典 山崎 喜比古 中山 和弘 横山 由香里 米倉 佑貴 竹内 朋子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.232-237, 2015

<b>目的</b> 健康保持・ストレス対処力概念である sense of coherence (SOC)に関する研究は近年増加しており,介入研究のアウトカム指標として用いられる例も多くなってきている。その一方で SOC スケール日本語版は標準化が行われていない現状にある。そこで全国代表サンプルデータを用いて13項目 7 件法版 SOC スケール日本語版の基準値を得ること,すなわち,性・年齢別の得点分布,居住地域および都市規模とスケール得点との関係を明らかにすることを本研究の目的とした。<br/><b>方法</b> 日本国内に居住する日本人で居住地域,都市規模,年齢,性別による層化 2 段抽出により2014年 1 月 1 日現在で25歳から74歳の男女4,000人を対象とした。2014年 2 月から 3 月にかけて自記式質問紙による郵送留置法を実施し,2,067票を回収した(回収率51.7%)。分析対象者は男性956人,女性1,107人,平均年齢(標準偏差(SD))は50.0(14.3)歳であった。<br/><b>結果</b> SOC スケールの平均(SD)得点は59.0(12.2)点であった。性別では,男性59.1(11.8)点,女性58.9(12.5)点で男女間で有意差はみられなかった(<i>P</i>=0.784)。年齢階層別の検討では,一元配置分散分析の結果有意(<i>P</i><0.001)となり,多重比較の結果概ね高い年齢階層であるほど高い SOC 得点であることが明らかになった。SOC を従属変数,居住地域(11区分),都市規模(4 区分)およびその交互作用項を独立変数とし年齢を共変量とした共分散分析の結果,いずれも有意な関連はみられなかった。<br/><b>結論</b> 本研究を通じて,日本国内に在住する日本人集団を代表する SOC スケール得点を得ることができた。また性差,地域差はみられず,年齢による影響がみられていた。本研究成果を基準値とすることで年齢などの影響を考慮した分析が可能になり,今後,SOC スケールの研究的・臨床的活用が期待される
著者
楠永 敏恵 山崎 喜比古
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-11, 2002-06-30 (Released:2016-11-16)

本稿は、病いの経験(illness experience)に関する欧米の研究から、病いの個人誌(biography)に与える影響を整理し、今後の研究の一指針を示すことを目的としている。そのため第1に、既存の研究で踏まえておくこととして、病いの経験の定義、病いの経験へのアプローチの特徴、研究の対象・枠組・テーマの3点を要約した。第2に、慢性の病い(chronic illness)は個人誌を混乱させるというBuryの概念モデル(1982)を提示し、検討すべき点として混乱の領域と混乱の普遍性を挙げ議論した。さらに、この混乱した個人誌は再構成されることを指摘し、その再構成の結果やプロセスに関する考察と、再構成の場としての語りについて解説した。第3に、病いの個人誌に与える影響に関する今後の研究課題を提案した。
著者
黄 京性 川田 智恵子 山崎 喜比古
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.49-60, 1998

保健福祉教育の一形態として今後の展開が期待される「統合教育」につき、高校時の「統合教育」経験者(以下「統合校」)と非経験者(以下「非統合校」)の比較から、当時の印象、その後の障害者問題に対する意識変容、今後の保健福祉教育の望ましいあり方の検討を目的とした。対象は統合教育実施校の卒業生徒54名、非実施校の卒業生徒142名であり、質問紙法を採用した。統合校では、「統合教育」への違和感はほとんどみられなかったものの、障害児の学校選択については、特殊学校を勧める者が多くなっていた。その主たる理由は、障害児への差別や偏見ではなく、障害児の将来の生活独立を重視した考えであり、また現段階では普通学校が「統合教育」を実施するに環境が不十分であるという評価からであった。また、「統合教育」は障害者問題に関心を持つ契機と捉えながらも、障害者の受容態度や障害者問題に積極的に取り組む行動変容には至っていなかった。一方、障害者を取り巻く環境については、対象者の殆どが不充分であると捉え、特に障害者の就職先や障害者のための情報提供が不充分であると指摘していた。本研究より、普通学校での「統合教育」の有効性が確認され、その拡大実施に向けより一層の関心が求められた。また、障害児のみならず、一般生徒のノーマライゼーションに対する実践につながる環境づくり及び工夫の必要性が示唆された。
著者
関 由起子 山崎 喜比古
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.25-38, 2004

本研究は、注射業務のエラーを発生させる業務過程と防護の欠陥を明らかにするために、4病院14病棟とその病棟に所属する看護師を対象とし、業務観察、聞き取り調査、質問紙調査、エラー事例面接を行い、多側面から業務分析を行った。その結果、8つの注射業務段階を医師、薬剤師、看護師が順に担っていたが、全体をみるとエラーを最小にする単純化、標準化、可視性、可逆性に乏しい業務過程であった。注射業務過程に存在する防護は、指示内容と各段階で扱う薬剤情報との照合確認、次段階の担当者への業務終了合図と情報伝達、適切な作業行為の保障、指示内容の妥当性の検討の4つが抽出された。しかし各防護の手段は一つであり、エラーが他で発見・訂正されるシステムは存在せず、多重の防護は存在しなかった。有効な事故防止対策立案には業務分析が必須であり、エラーの発生を最小限にする業務過程の構築と、エラー防護の欠陥を改善することが重要であった。
著者
小原 裕子 山崎 喜比古
出版者
関東社会学会
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.1991, no.4, pp.105-116, 1991-06-15 (Released:2010-04-21)
参考文献数
9

A questionnaire survey and analysis was conducted for 133 women's college students to clarify the current Japanese young generation's acceptability towards foreign people. The Social Distance Scale was made and used In the survey. As a result, young Japanese are willing to accept foreigners according to their social situation (e.g. teacher-student relationship) or their interest in a progressive society, and according not to nationality, race and physical appearance. However, those who tend to show their conservativeness still remain pro-Western.
著者
戸ヶ里 泰典 山崎 喜比古 小手森 麗華 佐藤 みほ 米倉 佑貴 横山 由香里 木村 美也子
出版者
山口大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

2008年度、2009年度の、5月、11月、2月に、本調査対象校中央大学附属高等学校の2007年度、2006年度入学生を対象とし、6回の調査を実施した。そこで、2007年に実施したデータと合わせて、1年生の5月から3年生の2月まで計9回にわたり測定されたsense of coherence(SOC)スコア変動および、その変動に及ぼす要因の探索を行った。その結果、中学時代の課題に対する成果、成功経験や、高校生初期の教師との関係、あるいは、教師によって作り出される受容的な環境が、その後のSOCの上昇を大きく左右していること、学校に対する誇りや居場所感とも言えるような学校における所属感覚もまた、大きくSOCの変動を左右していることが明らかとなった。
著者
山崎 喜比古 井上 洋士 伊藤 美樹子 石川 ひろの 戸ヶ里 泰典 坂野 純子 津野 陽子 中山 和弘 若林 チヒロ 清水 由香 渡辺 敏恵 清水 準一 的場 智子
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

健康生成論と人生究極の健康要因=Sense of Coherence(SOC、首尾一貫感覚)並びにエンパワメントアプローチを取り入れた、支援科学でもある新しい健康社会学の理論と方法を、「健康職場」づくりの研究、病と生きる人々の成長と人生再構築に関する研究、SOCの向上や高いことと密接な正の関連性を有する生活・人生経験の探索的研究、当事者参加型リサーチを用いた調査研究の展開・蓄積を通して、創出し描出した。