著者
福田 健二 朽名 夏麿 鬼頭 秀一 山路 永司 斎藤 馨 小貫 元治 鯉渕 幸生 三谷 啓志 吉田 善章 神保 克明 松尾 泰範 末吉 和人
出版者
日本芝草学会
雑誌
芝草研究 (ISSN:02858800)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.20-30, 2013-10-31 (Released:2021-04-22)
参考文献数
9

福島第一原発事故による放射能汚染のホットスポットとなっている千葉県柏市に位置する東京大学柏キャンパス内の緑地において, 汚染実態調査を行うとともに芝生の除染試験を行った。2011年8〜10月に測定したキャンパス内の地上1mの空間線量率はほぼ0.3〜0.6μSv/hの範囲にあり, 芝生や森林の面積当たりの放射性セシウム汚染量は39〜137kBq/m2であった。芝生地の放射性セシウムは表層0〜1cmの土壌粒子に最も多く含まれ (35〜107kBq/m2), 芝の植物体およびサッチに含まれる量に比べてはるかに多かった。除染方法として, リールモアとロータリーモアを用いた芝刈りとサッチの吸引 (A方式) と, ソッドカッターによる芝生の剥ぎ取り (B方式) とを行い比較した結果, A方式による空間線量率の低下はわずかであったのに対し, B方式では約0.4〜0.6μSv/hだった地上5cmの空間線量率が0.11〜0.21μSv/hまで低下した。このことから, 千葉県東葛地域の芝生地の除染には, ソッドカッターを用いた芝の剥ぎ取りが最も簡単かつ有効な手段であると考えられた。一方, 雨どいからの飛沫が降り注ぐ約5m2の範囲において, 表層2cmで100kBq/kg, 深さ4〜6cmで10kBq/kg以上の土壌汚染がみられ, 深さ6cmまでの表土の入れ替えを行っても地上5cmで0.5μSv/h前後までしか低下しなかった。
著者
渋谷 園実 桐谷 圭治 福田 健二
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.19-31, 2017-01-05 (Released:2019-01-05)
参考文献数
60

クロツヤヒラタゴミムシは,日本全国に分布し,幅広い標高に生息する森林性の種で,生息地の変化に鋭敏な反応を示すことから,生物指標種として期待されている.しかし,その生態については不明な点が多い.そこで,本研究では,本種の生活史を明らかにするため,千葉県柏市の里山で2012年4月から2013年4月の期間,32個のピットフォールトラップで44回の定期調査をした.定期調査に加え合計196個のトラップを使用して6月と7月,9月,10月に拡大調査を実施した.さらに,本種の飛翔の有無を確認するために,2013年に年間を通じマレーズトラップ(3基),衝突板トラップ(10基)を設置した.定期調査で捕獲した1,272個体のうち142個体を解剖し,生殖器官の成熟度と飛翔筋の経時的変化を調べた.また,体長と後翅長については,拡大調査で捕獲した901個体を測定した.本種は,5月に新成虫が出現し,7月までの間は未成熟で活動性は低い.その後10月までは活動を停止することから,夏眠すると考えられる.秋に短期間で斉一的に性成熟し,活動性が高まり多数捕獲される秋繁殖型の種である.活動最盛期の蔵卵数は平均109個で,卵サイズはほぼ斉一の小卵多産型である.後翅は長翅型であるが,体長および前翅長に対する後翅の相対比率が小さく,飛翔筋は認められなかった.さらに,マレーズトラップと衝突板トラップで捕獲されなかったことより,長翅型だが飛翔しないと考えられる.本研究は,フィールド調査と解剖を組み合わせたことにより,生殖器官の成熟度や飛翔筋の発達状態などの経時的変化を把握し,本種の生活史の解明に寄与した.これらの知見は,今後,近縁種との比較研究の基礎的資料となるばかりでなく,本研究で採用した方法は,オサムシ科甲虫の生活史に関する知見を蓄積する際に活用できる.
著者
福田 健二 朽名 夏麿 寺田 徹 マンスーニャ モハマド レザ ウディン モハマド ニザム 神保 克明 渋谷 園実 藤枝 樹里 山本 博一 横張 真
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.83-98, 2013-12-25 (Released:2017-04-03)
被引用文献数
2

千葉県柏市の都市近郊林において,福島第一原子力発電所の事故による放射性セシウム汚染の実態を調べた。2011年8月〜12月の地上1 mの空間線量率は0.3〜0.4 μSv/h程度であった。2011年秋〜2012年秋に採集された植物体の放射性セシウム濃度は, 2011年受けた枝や常緑樹の旧葉では1.2〜8.8 kBq/kg,事故時に展葉していなかった常緑広葉樹の当年葉や落葉広葉樹の葉では0〜2.8 kBq/kgであった。2011年夏〜秋に採集された地表徘徊性甲虫ではほとんどが5 kBq/kg以下であったが,キノコでは高い値のものが多く,最大61 kBq/kgを示した。2012年春に伐採された間伐木の放射性セシウム濃度は,ヒノキでは外樹皮,次いで旧葉で高く,落葉樹では外樹皮で最も高かった。いずれも辺材,心材へのセシウムの浸透がみられた。これらは,里山活動における薪や堆肥の利用に支障をきたす汚染レベルであった。大青田の樹木地上部への放射性セシウム沈着量の推定値は,ヒノキの枝葉への大量の沈着を反映して,ヒノキ・イヌシデ林の地上部で5.7 kBq/m^2と,コナラ・クヌギ林の地上部の3.7 kBq/m^2の約1.5倍であった。コナラ・クヌギ林の地下部5 cmまでの沈着量合計は85 kBq/m^2であり,地上部と地下部を合わせた林分全体の放射性セシウム沈着量は約90 kBq/m^2と見積もられた。2013年1月のコナラ林の土壌では,放射性セシウムはリター層よりもA層に多く分布しており,落葉の除去による除染効果はほとんど期待できないと考えられた。
著者
河村 あゆみ 田中 正之 牛嶋 隼也 中井 壱 峯口 祐里 福田 健二 浦島 匡
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.44-48, 2019 (Released:2019-04-26)
参考文献数
10

京都市動物園で出産した飼育したキリン個体より,各種の泌乳時期の乳の回収をおこない,成分組成を分析した。分娩後55日の常乳における成分組成は以下のとおりであった;1.8%炭水化物,8.7%脂質,7.0%タンパク質,1.1%灰分。これらの値は牛乳の成分組成と比べたとき,脂質とタンパク質の濃度は高い一方で,炭水化物の濃度は低かった。乳の固形分濃度は分娩後66日で急速に低下していたが,これはキリンの固有の特徴と考えられた。この固形分濃度低下は,この時期に仔が母乳を摂取しながら固形食(カシ,ネズミモチなどの葉)の同時摂取を開始することとの関連が示唆された。これらは,キリンの仔に代用乳を摂取させなければならないケースにおいて,貴重な情報になるであろう。
著者
松尾 晶穂 岩切 鮎佳 松下 範久 田端 雅進 福田 健二
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.254-261, 2022-10-01 (Released:2022-11-29)
参考文献数
34

ウルシの種子は,物理的休眠と生理的休眠を併せ持つ複合休眠状態にあると推測されている。ウルシ種子の発芽率を向上させるために,発芽促進に効果があると報告された方法を種子の物理的休眠と生理的休眠の打破に分けて評価した。ウルシ種子の物理的休眠の打破には,濃硫酸への60~120分の浸漬,または内果皮の一部除去が有効であった。濃硫酸に90分浸漬した後の種子では,種子の2カ所から吸水が始まることが観察された。濃硫酸浸漬後の種子に対する生理的休眠打破の方法としては,4~12週間の低温湿層処理が有効であった。しかし,内果皮を一部除去した後に低温湿層処理した種子は発芽しなかった。濃硫酸に90分浸漬させた後に8週間の低温湿層処理を行った種子の発芽率(73.2±2.7%)は,濃硫酸浸漬処理と低温湿層処理を単独で行った場合(それぞれ,0.8±1.0%,0.4±0.9%)や無処理の場合(0.0±0.0%)の発芽率よりも有意に高く,二つの処理を組み合わせた方法がウルシ種子の発芽促進に有効であることが確認された。
著者
伊藤 進一郎 福田 健二 中島 千晴 松田 陽介
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1980年以降、日本ではブナ科樹木に萎凋枯死が発生し、被害は拡大している。この被害は、カシノナガキクイムシが伝搬するRaffaelea quercivoraによって発生することが明らかとなった。本研究では、アジア地域でカシノナガキクイムシ科昆虫に随伴するRaffaelea 属菌を調べ、それらの病原性を明らかにすることを目的とした。その結果、タイ、ベトナム、台湾で採集したカシノナガキクイムシ科昆虫からはRaffaelea属菌類が検出された。それらの菌類は、ミズナラに対して親和性があること、またタイの1菌株がミズナラに対して病原性を示すことが明らかとなった。
著者
福田 健二 鈴木 和夫
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.625-628, 1988-12-25
被引用文献数
2

材線虫病による年越し枯れのアカマツについて, 病徴の進展に伴う材部の電気抵抗値および葉の水分生理特性の変化について検討を加えた。材部の電気抵抗値は, 秋から冬にかけてはほとんどが正常な値を示したが, 感染翌年の春〜初夏にかけて180kΩ未満の値をとるものが多く, 春季の村内におけるミクロフロラの変化が示唆された。P-V曲線から得られた葉の水分生理特性は, 桔死直前の春〜初夏まで正常な季節変化を示して, 細胞壁弾性率(ε)には変化が認められなかった。
著者
渋谷 園実 桐谷 圭治 村上 健 深谷 緑 森廣 信子 矢島 民夫 福田 健二
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.95-103, 2015-10-05 (Released:2019-04-25)
参考文献数
32

地表徘徊性甲虫のクロツヤヒラタゴミムシは,日本全国および東アジアに広く分布し,森林的環境に多く出現する.樹木の伐採や笹薮の刈り払いの後にクロツヤヒラタゴミムシの個体数が顕著に増加した例があり,本種の生息地変化に対する鋭敏な反応がうかがえたが,今後環境変化の指標種として活用していくためには,本種の生態的特質,とりわけ食性の解明が必要である.そこで,千葉県柏市の大青田の森(100 ha, 35°54’ N, 139°55’ E)で2012年の春期(5月~7月)と秋期(10月~12月)にピットフォールトラップで捕獲した1,273個体のうち112個体を解剖し,消化管内容物の顕微鏡観察を行った.112個体のうち,83個体から定型物が検出され,多種の節足動物を捕食していることがわかった.また同一個体から複数種と思われる餌生物の体片が検出されたことから,一度に様々な種類の餌を食べていることがわかった.本種は広食の捕食者(generalist predator)であり,数mm程度の小型の餌を丸飲みか噛み砕く程度で捕食していると考えられる.また複眼や2本爪が多く検出されたことから昆虫類の成虫も捕食していると考えられる.一方,種まで同定できたホソムラサキトビムシなど,トビムシ類は11個体から検出された.以上のように,消化管から餌の完全個体,あるいは定型の体片が検出できたので,解剖は本種の食性を推定する有効な手段であると考えられた.
著者
浦島 匡 福田 健二
出版者
日本応用糖質科学会
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.155-163, 2018 (Released:2018-08-22)

人乳には常乳で12~13g/Lの濃度でミルクオリゴ糖が含まれている。ヒトミルクオリゴ糖(HMOs)は若干の例外を除いて,還元末端にラクトース(Gal(β1-4)Glc)を含み,それにガラクトース(Gal),N-アセチルグルコサミン(GlcNAc),フコース(Fuc),N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)が結合した化学構造を有する。人乳には240種類ものHMOsの存在が報告されているが,現在までに162の化学構造が決定されている。それは母乳栄養児の小腸内で大部分は消化・吸収を受けないで大腸に到達し,そこで有用性腸内細菌の増殖・定着を促進する,病原性細菌・ウイルスが宿主腸管上皮に付着するのを防止する,腸管バリア機能を持つ,壊死性腸炎を予防する,などの機能を発揮する。また一部のHMOsは吸収され,血液とともに体内循環する過程で,免疫を調整し抗炎症性を発揮する,脳神経系の成分の合成材料として利用される,などの機能も報告されている。HMOsと同一の化学構造を有するオリゴ糖を産業レベルで利用するためには,大量に合成する技術がネックとなっていたが,近年少数のHMOsのグラム単位での合成方法が開発された。それに伴って,合成HMOsを使用したin vivoでの機能探索研究を行った論文が多数報告されるようになり,糖質科学の中でもっとも活発な研究領域になっている。合成2'-フコシルラクトース(2'-FL)を添加した育児用調合乳の製造販売も開始され,今後HMOs関連糖質を使用した食品素材や医薬品素材の開発によって新たな産業が立ち上がってくることが予想される。本総説では,近年報告されたHMOsの機能研究の中でも,脳神経機能への刺激,腸管での吸収と体内動態,腸内細菌叢の調整に関わる例とともに,少数のHMOsを添加した人工調合乳を摂取させたヒト乳児への介入試験例を紹介する。その中で,HMOsの機能研究や利用に関わる将来を展望する。
著者
田端 雅進 高野 麻理子 渡辺 敦史 福田 健二 井城 泰一 本多 貴之 小谷 二郎 黒田 克史
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

我々の研究グループは国産漆の増産に向けたDNAマーカーなどに関する研究を行い,ウルシクローン間で漆滲出量やウルシオールの成分組成等に違いがあり,漆の硬化時間に影響を与えることを明らかにした。本研究では,これまでの成果を発展させ,傷とシグナル物質による樹体反応のウルシクローン間の相違性,及び漆滲出量に関与する組織構造と遺伝子の解析を行い,漆滲出量増加に対するシグナル物質の作用機序を明らかにする。さらに,漆の硬化時間に直接影響するラッカーゼの構造と生合成に関する遺伝子発現をクローン間で解析し,漆成分の生化学的特性の多様性が漆の品質に与える影響を明らかにする。
著者
清水 淳子 林 康夫 福田 健二
出版者
Japanese Institute of Landscape Architecture
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.865-868, 2008
被引用文献数
1 2

Koganei Cherry Street is located along Tamagawa canal in Tokyo and designated as a national cultural property. However, in recent years decline of cherry trees of this street is concerned about shading from surrounding other trees and incidence of wood-rot disease. We tried to survey the current condition of wood-rot fungi distribution on the cherry trees and to examine the effect of shading on the fungal occurrence. The survey was conducted five times through 2005 to 2007, identifying the fruit bodies of wood-rot fungi and measuring the tree size and the proportion of shaded canopy. In 2007, fruit bodies of wood-rot fungi composed of 38 species in 28 genus were found on 51.5% of 666 cherry trees. Shading did not show significant effect on the occurrence of fruit bodies. On the other hand, tree size had a significant effect and the larger trees suffered form wood-rot disease more frequently than smaller trees.
著者
清水 淳子 林 康夫 福田 健二
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.128-129, 2007-07-31
被引用文献数
2
著者
福田 健二 宝月 岱造 鈴木 和夫
出版者
日本林學會
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.p289-299, 1992-07
被引用文献数
14

マツ材線虫病における病原性発現のメカニズムを明らかにするため, 病原性の異なる2系統のマツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)と, ニセマツノザイセンチュウ(B. mucronatus)をクロマツ苗に接種し, 木部柔細胞の細胞学的変化と通導阻害(キャビテーション)とを時間的, 空間的に比較した。強病原性のS6-1系統を接種した場合, 木部放射組織柔細胞および軸方向柔細胞の脂質の消失, 細胞質の変性, およびそれらに続いて木部通導阻害が広範囲に生じ, 形成層が壊死して苗は枯死した。弱病原性のC14-5系統接種および非病原性のニセマツノザイセンチュウ接種では, 細胞生理の変化と通導阻害は形成層近傍を除く限られた範囲にのみ生じ, 葉の水分生理状態に変化はなかった。一方, キャビテーションを誘導するとされる蓚酸水溶液で処理した苗は, 広範囲に木部柔細胞の変性と通導阻害を生じ, 旧葉の変色, 当年枝の萎凋という, 材線虫病特有の病徴を現した。以上のことから, マツ材線虫病では木部柔細胞の変性, 通導阻害の順に病徴が進展し, 形成層の壊死と通導阻害が広く生じた場合に枯死にいたることが明らかにされた。
著者
鈴木 和夫 福田 健二 梶 幹男 紙谷 智彦
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.80, pp.p1-23, 1988-12
被引用文献数
6

漏脂病はヒノキやヒノキアスナロ(アテ)の生立木樹幹から樹脂が異常に流出する現象であって,大正初期から林業上問題とされてきた。本病の病因については,いままでに雪圧説,害虫説,病原菌説などがあって,充分に納得できる説明が得られていなかった。ヒノキやヒノキアスナロの漏脂病の発生実態について詳細に調査した結果,漏脂病の病徴には,初期病徴として樹脂流出型,初期病徴の癒合・進展した型として漏脂型,さらにこれらの病患部に菌類が関与した溝腐型があり,この3つが漏脂病の典型的な病徴と考えられた。このような病徴を示す病患部は,地上1~2mの高さに最も多くみられた。このような病患部の樹幹上における発生状況は,積雪深と関係が深く,経時的に推移するものと考えられた。漏脂病の発生誘因について検討した結果,漏脂病は雪や寒さといった気象的因子を誘因として,内樹皮に傷害樹脂道を異常形成させて,樹脂流出型の初期病徴が形成されるものと考えられた。ヒノキやヒノキアスナロ生立木が,このような環境ストレスを引き続いて被るか,あるいは初期病徴が癒合・拡大して漏脂型へと進展し,また,凍裂などの物理的損傷部位や漏脂型病徴を呈する部位に菌類が関与すると,溝腐型病徴へ移行するものと考えられた。そして,このようなヒノキやヒノキアスナロ生立木からは,樹脂が異常に流下し続けるものと考えられた。The "Rooshi" pitch canker of Hinoki (Chamaecyparis obtusa) and Ate (Thujopsis dolabrata var. Hondai) is frequently observed in heavy snowfall regions as well as the northern part of Japan. Reforestation with Hinoki has become so widespread that the pitch canker is becoming one of the most serious disease. Empirically, the "Rooshi" pitch canker of Hinoki is supposed to be one of the restriction factors on natural distribution of Hinoki forest in Japan. However, there are few scientific papers on the disease. The cause of the disease has not been explained enough. From our survey, the "Rooshi" pitch canker is considered to be a disease complex rather than a discrete canker disease. The classic symptoms of the disease are classified into three types, that is, a bleeding type, a resinous sink type, and a grooved pitch canker type on the trunk of living tree. In this study, we discussed on the mechanisms of the development of "Rooshi" pitch canker. A bleeding type is supposed to be an incipient stage of "Rooshi" pitch canker and caused by abiotic stress factors such as cold and snowfall. This incipient stage of the disease develops to a resinous sink type on the trunk. And, finally, a grooved pitch canker is formed on the trunk accompanying fungi such as Sarea resinae and Pezicula livida (Cryptosporiopsis abietina).
著者
鈴木 和夫 福田 健二 井出 雄二 宝月 岱造 片桐 一正 佐々木 恵彦 斯波 義宏
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1989

1.材線虫病感染後の光合成・蒸散などのマツの生理的変化と萎凋・枯死機構との関連について検討を加えた結果、これらの生理的変化はキャビテーションが或る程度以上進行した後に、水ストレスの発現と同時に、あるいは、それ以降に生ずる現象であることが明らかにされた。2.材線虫の病原性と電解質の漏出現象との関連について細胞レベルで検討した結果、病原力の強弱に応じてマツ組織への影響が異なり、その強さに応じて電解質の異常な漏出が生じることが明らかにされた。3.材線虫病感染組織で産生されるセルラーゼについて検討した結果、このセルラーゼは真核生物起源であり、生きた細胞からの電解質の漏出を高めることが明らかにされた一方、抵抗性マツでは、この電解質の漏出は殆ど見られない。4.強・弱病原線虫を用いて、マツ組織細胞の応答について組織化学的に検討を加えた結果、DAPI染色によって組織細胞の生死の判定が容易となり、この方法を用いて病原性の差異を判別することが可能となった。5.誘導抵抗性の発現について検討した結果、誘導抵抗性はマツ樹体にストレスがかからない条件下、すなわち気象環境によるストレスと弱病原線虫によるストレスが、あるバランスを保った時にのみ誘導される現象であると考えられた。