著者
佐々木 陽子
出版者
南山大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

異文化とコミュニケーションする能力及び感性の伸長を期待すべき若年層にとって、他者のどのような態度や外見から相手を文化背景が異なると認識するのか、その境界はどのような条件でゆらぐのか、障害者や老人などを含めた異文化とのコミュニケーション環境にどのように置かれており、それが他者への意識や関心にどう反映されているかを研究し、とくに共生的な志向や態度がどのような条件で伸長しやすいかを模索した。理論研究としては、異文化間コミュニケーションにおける「他者」を分析し、共生することと多文化主義であることがグローバリズムの中で並立するためには、「他者の」ものとして外在化した問題を「自らの」問題として再統合するイマジナリーな領域の保持が重要だと結論付けた。エスノグラフィック・リサーチでは、高校の国際事情クラスや偏見低減教育から収集したデータを分析し、共感の喚起や追体験的要素が「他者の問題を自らに統合する態度」と関わりがあることを見出した。質問紙調査は、愛知県と東京都の高校生を中心にした若者約3000人を対象に、先行の異文化間コミュニケーション能力に関する研究や多文化主義(教育)に関連する研究から、関連する心理尺度を使用したうえ、社会心理学における接触仮説をもとにした接触と偏見の関連、さらに心理係数および国際化とされる態度のうちとくにグローバリゼーションにおける共生的態度との関連を調べた。接触仮説は支持されたが、心理係数のうちあいまい耐性尺度と共感尺度の接触仮説への影響が確認された。また、経験した教育内容や、平素の友人や外国文化とのコミニニケーションの取り方や興味もまた、接触仮説を揺るがせる要因として大きく、そこから、教育における共生的態度や偏見のない認知の育成への可能性を見出した。
著者
安積 徹 佐々木 陽一 喜多村 昇 山内 清語
出版者
国際教養大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

以前安積は、モリブデンの六角クラスターの三重項状態からの燐光の温度変化を解析し、燐光は、三重項状態がスピン軌道相互作用によって分裂した3つのスピン副準位からの発光の重ね合わせによるものと解釈した。その後、モリブデンクラスターと同じ電子数で同じ対称性のレニウムクラスターについてGreyらによって報告されたが、彼らは、スピン副準位を考えず、温度変化の原因を振動励起状態からの発光の寄与と結論した。一方、北海道大学の喜多村らは、スピン副準位の寄与を考えたが、安積のモリブデンクラスターと異なり、4つのスピン副準位が関与していると結論した。電子数も対称性も同じである2種類のクラスターでどうして発光機構がそれほど異なるのかを解明するために、本研究では、モリブデンクラスターとレニウムクラスターを総合的に理論、実験の両面から再検討を行った。実験は、モリブデンクラスターについては、カウンターイオンの異なる2種類のクラスターを、また、レニウムクラスターについては、配位子の異なる2種類のクラスターを、結晶状態およびPMMAポリマー溶液状態で燐光の温度変化を詳細に観測した。その結果、すべてのモリブデンおよびレニウムクラスターについて、燐光は主として3つのスピン副準位からの発光の重ね合わせであることが明らかになった。更に、測定温度を極低温の3Kまで拡張した測定により、2番目のスピン副準位についてJahn-Teller効果による対称性の低下が起こり、それに伴ったエネルギーレベルの分裂が観測された。理論面では、従来のd電子のみを考慮する二重群論に基づく理論が、この種のクラスターに広く適用できることが明らかとなった。
著者
荻野 博 谷口 功 松村 竹子 田中 晃二 佐藤 弦 佐々木 陽一
出版者
東北大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

本研究を推進する上で基本となる単核、二核および多核錯体ならびにクラスターの合成について大きな進歩が見られた。特に二核錯体については系統的な錯体の合理的な合成がいくつかの系で可能となった。これらの成果にもとずき、錯体の電子状態と酸化還元電位との関連および混合原子価状態の理解を深めることができた。ゼロ次反応速度則に従う電子移動反応系、プロトン移動と共役した電子移動やCO_2還元を触媒する錯体の発見など、興味ある種々の電子移動反応系が発見された。金属タンパク質の電極上における酸化還元挙動の研究の歴史は極めて浅いが、本研究においても大きな進展が見られた。金属錯体の光誘起電子移動反応が理論および実験の両面から研究された。走査トンネル顕微鏡(STM)の発明とその後の急速な発展は、これまでほとんど推測の域をでなかった固体界面の研究状況を一変させつつある。電極と溶液界面における電子移動との関連から、本研究においてもSTMを使った表面化学種の構造解析が行われ、大きな発展があった。以上述べた研究は研究者間の相互の連絡のもとに進められた。平成3年11月11日および12日の両日にわたって東工大において、さらにまた平成4年11月11日および12日の両日にわたって分子科学研究所でそれぞれ公開シンポジウムを開催し、総括的な検討を行った。なお1992年のノーベル化学賞は「化学系における電子移動理論への貢献」を行った米国カリフォルニア工学大学のマーカス教授が受賞した。我々の研究提案がいかに緊急性があったか、また時宜を得たものであったかを証明したものと自負している。