著者
杉尾 幸司 吉田 安規良 本多 正尚 松田 伸也
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.115-122, 2008-11-30
参考文献数
3
被引用文献数
1

児童生徒の理科に対する興味・関心等を育成することを目的として合宿形式の学習活動「中学生サイエンスサマーキャンプ」を実施した。実施内容として,森林内部の動植物の夜間生態観察やマングローブ林の生物観察,天の川と星座の観察,小型天体望遠鏡での木星・星雲の観察,地層の観察,タンパク質と脂肪の消化実験を計画した。沖縄県のように豊かで特色のある自然環境を持つ地域においては,生物観察などの野外活動は大変魅力あるプログラムであるが,日程の変更が容易でない宿泊型体験学習において,野外活動を主体とした計画は,天候に依存するリスクが大きくなる。今回の取り組みにおいても,実施当日は台風接近による悪天候にみまわれたため,夜間生態観察の代わりに室内でのスライドを使った講義を,星座観察の代わりに天体望遠鏡の構造や天球儀を用いた天体のみかけの運動についての講義を行うなど,実施内容の一部を代替プログラムに変更した。天候の影響を受けやすい内容に関しては,効果的な代替プログラムについても十分に検討する必要がある。全日程終了後のアンケート結果からは,取り組み内容の「おもしろさ」「わかりやすさ」に関して高い評価が得られた。また,「全体の印象」「来年の参加」などの項目についても高い評価が得られるなど,実施内容は参加者に高く評価された。大学が今回のような取り組みを通して地域社会への貢献により積極的に取り組むためには,現実に即した支援体制の充実が強く望まれる。
著者
吉田 安規良
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.115-125, 2007-11-30
被引用文献数
2

ナトリウム-銅(II)-グリセリン錯体法を利用して,脂肪が酵素によって分解し,グリセリンが生成することを確かめる教材実験を開発した。基質としてオリーブ油を選定した。消化液は市販のビオフェルミン健胃消化薬錠から0.50%(W/V)リパーゼAP6溶液を調製して用いた。試験管にオリーブ油と調製した消化液を1.0 mLずつ入れて撹拌した後,40℃で24時間反応させた。24時間後の消化液はナトリウム-銅(II)-グリセリン錯体法によって,グリセリンの存在を示す青色を示した。失活した消化液では青色を示さず,グリセリンが生成しないことを確認した。遠心分離機の代わりにろ紙やディポーザブルメンブレンフィルターユニットを用いても実験が可能であることを確かめた。ビオフェルミン健胃消化薬錠以外の胃腸消化薬でも,同様の結果を得られるものがあることを確認した。
著者
吉田 安規良 吉田 はるか 馬場 壮太郎
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.585-588, 2021

<p>生徒の科学的思考力等を育成し,それを測る問題を作成し,適切に評価できる理科教員を育成するため,中学校・高等学校の理科教員免許取得希望学生を対象として,「思考・判断・表現」の評価を目的とした火成岩の同定を問うペーパーテストの出題内容をどのように捉えているのかを調べた.出題内容に違和感を感じた学生もいたが,ほぼ全員が出題者の想定通りに「正答」した.27人中15人が岩石の判断理由を答えさせた点を,11人が火成岩に関するいくつかの知識を組み合わせて解答させた点を肯定的に評価していた.全体的な色の特徴から岩石を特定することの困難さを7人が,採点基準の曖昧さや採点の難しさを6人が,出題構成と配点に関する問題を4人が指摘していた.学習内容に関する専門性を高めるとともに,ある種の受験技術で容易に解答可能な問題を科学的な思考力等を問う問題として出題すべきでないことを学生が学ぶ必要性をこの結果は示している.</p>
著者
吉田 はるか 吉田 安規良
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.197-209, 2021
被引用文献数
1

<p>生徒の空間把握能力の中でも視点移動能力の育成がカギとなる天文分野の学習に際し,小型広角カメラ(ウェアラブルカメラ)を内蔵することで内側から見た状況を確認できるように改造した透視天球儀を用意した。中学校理科「地球と宇宙」単元での授業実践を通して,生徒自身が五官や運動器官や思考力を用いて分析したり,操作したり,総合したりすることを確実に容易になしうる性質である「具体性」について,この改造した透視天球儀を評価した。4回の授業で改造した透視天球儀を用い,そのうち3回は実際に生徒に操作させた。授業後に,70人中57人から改造した透視天球儀を利用したことが天体の運動の理解に役だった旨の回答を得た。12人が「天球儀に慣れるまでが難しい」旨の指摘をしたが,実質3回の操作経験で,ほとんどの生徒が天球儀を操作できるようになり,地球の自転や公転と天体の動きの関係を考えることができた。このことから,改造した透視天球儀は,生徒の具体的視点移動から心的視点移動への移行を支援し,心的視点移動能力の習得の一助となる「具体性」のある教具だと判断できる。</p>
著者
吉田 安規良 島田 悠那 馬場 壮太郎
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.355-358, 2020

<p>地学分野おける野外観察学習は,小中学校ともに学習指導要領で重要視されているものの実施率が低い.本研究では,理科の学習指導に授業者の視点でICTを身近なものとして活用するための在り方を検討するため,マーカーレス型ビジョンベースAR技術を用いて,沖縄で実際に観察可能な断層としゅう曲に注目した中学校向け地層観察代替教材を製作した.また,教材製作過程から「理科を教える教師教育」の在り方を展望した.学習内容に興味関心がある学生は,高度なICT活用能力が無くても大学での学びを生かして自らのアイデアを基盤にARを利用した地層観察代替教材が製作可能である.製作した教材は,現職教員からARと携帯情報端末を用いるという枠組みは肯定的に評価されたが,内容構成や使用のメリットに関しては十分には受け入れられなかった. </p>
著者
吉田 安規良 岡本 牧子 江藤 真生子
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.33-38, 2020

<p>「一人一台端末」という教育ICT環境を活用できる教員の養成には,教職志望学生のICT活用能力の実態を様々な観点から知る必要がある.そこで,休校中の遠隔授業を想定して,中学・高等学校理科教員志望学生34人の教材探索力を把握した.8割の学生が,学校の授業で一般的に行われる授業者による説明を代替できる動画を含むコンテンツを提示した.ICTを活用したモデル実験や家庭学習では実施が相当困難な実験観察の代替を意図した解答が10人から寄せられた.「教員のICT活用指導力チェックリスト」と照合した結果,学生は,動画や映像などを利用して児童生徒の理解へつなげること,知識の定着や技能の習熟をねらった個別最適化学習,児童生徒が自ら当該コンテンツにアクセスできるような指導,他単元や他教科など全体を通した活用を想定できていたが,児童生徒がコンピュータを使ってアウトプットすることは想定していないことが推察できた.</p>
著者
吉田 安規良 吉田 はるか
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.3-30, 2020

<p>平成時代の理科を教える教師教育を振り返り,その中で得た気づきを新しい―令和―時代の理科教育の創造へとつなげる一助とするために,本報では,日本理科教育学会の学術雑誌『日本理科教育学会研究紀要』・『理科教育学研究』で"平成"時代に報告された理科を教える教師教育に関する研究を整理した。その結果,理科を教える教師教育に関する研究報告は,発行年別に見ると,1997(平成9)年,1998(平成10)年,1999(平成11)年以外で,巻別に見ると,第38巻,第39巻,第41巻以外に,総計111編掲載されていた。この111編は,①日本理科教育学会教育課程委員会報告(5編),②教員志望学生の現状に関する調査研究(28編),③現職教員の現状や要望,授業の実態を把握する調査研究(39編),④教員志望学生を対象とした理論的,実践的研究(20編),⑤現職教員を対象とした理論的,実践的研究(8編),⑥諸外国の教師教育に関する研究(8編),⑦その他(3編)に大別された。そのほとんどが,教職志向の学生と現職教員に関する事例的な報告であり,理科を教える教師教育者の専門性開発を扱ったものやコア・サイエンス・ティーチャーに関するものは無かった。対象校種は小学校に関するものが多く,科目内容的には天文学に関するものが地学で目立った。平成時代の日本理科教育学会における理科を教える教師教育に関する研究成果には,様々な背景をもった理科を教える教員志望学生や現職教員に対する教育や自らの経験だけに依拠しない形で対応できる理科を教える教師教育者の専門性開発に繋がる,令和時代の理科を教える教師教育の礎となるものが数多くあり,その深化と発展,さらには社会への提案と還元が期待される。</p>
著者
吉田 安規良 上地 飛夢 吉田 はるか
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.53-58, 2019

<p>透視天球儀にどのようなウェアラブルカメラを組み込むと,天球儀を外から観察しながら,想像に頼ることなく天球儀の内側からの様子も観察できる教具として利用可能なのかを判別するために,Wi-Fi接続により遠隔操作可能なウェアラブルカメラによる透視天球儀内部からの映像の差を確認した.総じてカタログスペック上の画角が大きいものほど実際に確認できる映像の視野が広く,対角画角が185°以上となっているような,できる限り広角で撮影できるウェアラブルカメラが望ましいことが分かった.ただしカタログスペックが同じであっても,得られる画像の視野の広さが同じとは限らないため,実際に得られる画像や透視天球儀への取り付け方法を確認する必要がある.画角が狭い安価なウェアラブルカメラに安価な広角レンズを取り付けるというような簡単に思いつく工夫では視野の狭さは改善しなかった.実際に使用する際には白飛びを防ぐため,照明をつけなくても天球儀上の文字が読める程度の明るさの部屋で使用し,窓の外の明るさが画像に影響しないようにする必要がある.</p>
著者
吉田 安規良
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.111-116, 2018

<p>天球儀を外側から直接観察しつつ地球から見た天体の動きも観察できるようにウェアラブルカメラを組み込んだ透視天球儀と市販の非透視型天球儀を用いて,教員免許状更新講習を実施した.受講者は天球儀の操作法を時間内に習得できた.多くの受講者から,天球儀を教材・教具として使用するメリットとして,季節や月日,時刻と天体の位置との関係や天体の相互位置関係が確認できることや簡単に観察・観測できない地点の星空の様子を確認できることが,デメリットとして「視点移動の難しさ」や「操作説明の難しさ」がそれぞれ寄せられた.改造した透視天球儀は,視点を変換しながら天体の動きの理解を促すものだと評価された.一方,問題点として「準備の簡素化」と「カメラから得られた画像中の星や星座をわかりやすくする」が特に指摘された.</p>
著者
吉田 安規良 小田切 忠人 Yoshida Akira Kotagiri Tadato
出版者
琉球大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
琉球大学教育学部教育実践総合センター紀要 (ISSN:13466038)
巻号頁・発行日
no.20, pp.133-158, 2013

2013年から4年制大学で本格実施される「教職実践演習」に先立ち、沖縄こどもの国と連携しながら「ドリームフェスティパル2012」という行事の企画・運営を主とする、特別活動の運営をモチーフとした試行実践を行った。受講した学生は「対人関係能力」や「協働体制の構築」の重要性を理解し、これらに代表されるこれからの教員として必要な資質能力を修得していたと判断できる。学生にとってこの取り組みそのものは達成感や充実感を味わえるものであり、今回の試行実銭は「教職実践演習」 の一形態として有効であると判断できる。しかし、とりわけ卒業研究との両立に際して負担感があることもわかった。
著者
吉葉 研司 吉田 安規良 中尾 達馬 Yoshiba Kenji Yoshida Akira Nakao Tatsuma
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.181-193, 2014-08

本研究の目的は、2013年度の教職実践研究・教職実践演習(沖縄こどもの国と連携して実施した「ドリームフェスティバル2013」という行事の企画・運営)を通して、受講生たちが教員として求められる資質・能力を習得しているかどうかを明らかにすることであった。今回の実践を通して、受講生22名は、行事運営能力や対人関係能力、使命感や責任感、子どもや大人さらには社会に対する理解、特別活動としての指導力等を定着し得ていたことが確認できた。The purpose of this study was to reveal whether participants had enough ability and equipment as elementary or junior high school teachers. 22 participants were engaged in the Practical Seminar for the Teaching Profession, which included planning and managing school-related special events, named "Dream Festival 2013" (which was held with Okinawa Zoo & Museum). As a result, it could be interpreted that they had enough ability to plan and manage events, interpersonal ability, sense of mission, responsibility, deeper comprehension about human being (e.g., children, adults, and society), and leadership of special activity.
著者
吉田 安規良 呉我 実香 Yoshida Akira Goga Mika
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.51-70, 2008-08

沖縄県教育庁八重山教育事務所管内の2つの小学校の変則的な複式学級設置校での授業実践から、変則的な複式学級での教育実践に何が必要かを考察した。(1)2つの小学校とも、教育課程や校内人事を工夫し、授業運営を可能な限り単式化していた。(2)国語の複式授業では、変則的な複式学級特有といえるような特別な工夫は見あたらず、「わたり」や「ずらし」といった複式学級一般で用いられる手法が利用されていた。少人数のため徹底的に個に応じた指導が行われており、「変則的な複式学級だから必要とされる資質・能力」というより、「目の前の子どもに寄り添った指導」ができることが重要である。正誤表追加 : 2009年2月10日