著者
稲田 尚子 黒田 美保 小山 智典 宇野 洋太 井口 英子 神尾 陽子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.123-133, 2012-06-20 (Released:2017-07-27)

反復的行動尺度修正版(Repetitive Behavior Scale-Revised: RBS-R)は,自閉症スペクトラム障害(ASD)児者の反復的行動の種類の多さとその問題の程度を評価する尺度であり,6下位尺度43項目から成る。本研究は,日本語版反復的行動尺度(RBS-R)の信頼性と妥当性の検討を目的として行われた。対象者は,ASD群53名(男性:女性=42:11;平均年齢=11.2±10.5歳)と,対照群40名(知的障害児者23名,定型発達児者17名)とした。養育者の報告に基づき,専門家が日本語版RBS-Rを評価した。Cronbachのα係数は0.91であり,良好な内部一貫信頼性を示した。各43項目における評定者間一致度(級内相関係数)は0.79から1.00の範囲であり,評定者間信頼性は高かった。日本語版RBS-Rの該当項目数および合計得点はいずれもASD群で対照群よりも有意に高く,十分な弁別的妥当性を示した。また,合計得点は,小児自閉症評価尺度東京版に含まれる反復的行動に関連する3項目の合計得点と有意な正の相関(r=0.65)があり,併存的妥当性が確認された。今後,さらなる検討が必要であるが,日本語版RBS-Rの信頼院と妥当性が示された。
著者
高橋 秀俊 石飛 信 原口 英之 野中 俊介 浅野 路子 小原 由香 山口 穂菜美 押山 千秋 荻野 和雄 望月 由紀子 三宅 篤子 神尾 陽子
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.103-108, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
42
被引用文献数
3

聴覚性驚愕反射(ASR)は,精神医学領域におけるトランスレーショナル・リサーチにおいて,国内外で広く研究されており,特にプレパルス・インヒビション(PPI)は,精神障害の有力なエンドフェノタイプ候補と考えられている。自閉症スペクトラム障害(ASD)では,知覚処理の非定型性についてよく知られているが,ASD の PPI に関しては一貫した結論は得られていない。最近我々は,ASD 児では ASR の潜時が延長しており,微弱な刺激に対する ASR が亢進していることを報告した。そして,いくつか異なる音圧のプレパルスを用いて PPI を評価したところ,ASR の制御機構である馴化や比較的小さなプレパルスにおける PPI は,一部の自閉症特性や情緒や行動の問題と関連するという結果を得た。ASR およびその制御機構のプロフィールを包括的に評価することで,ASD や他の情緒と行動上の問題にかかわる神経生理学的な病態解明につながることが期待される。
著者
大井 学 神尾 陽子 松井 智子 藤野 博 田中 優子 高橋 和子
出版者
金沢大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

某市3公立小学校の全学年児童1,374人のうち、775人について、対人行動チェックリスト(SCDC)日本語版12項目のいずれかにあてはまった169人(21.8%)と、そうでない者のうち約1割にあたる78人について、対人応答性尺度(SRS)日本語版の得点をもとに86人について、CCC-2との関連を検討した。またPDD児10名を含む4歳1ヶ月から11歳6ヶ月(平均生活年齢6歳4ヶ月)の41名を対象としてCCC-2日本語試作版を実施した。田中・ビネー知能検査V、絵画語彙発達検査(PVT-R)、J.COSS第三版、親への調査などを同時に行った。PDD群とTD群の群間比較ではIQ値、CCC-2指標(正値、負値、GCC、SIDC)で有意差があったが、生活年齢、PVT-R、J.COSS、父母の年齢や教育歴などに有意差はなかった。通級指導教室に通級する知的障害のない発達障害の小学生約60名の保護者にCCC-2およびPARSを、対象児にPVTおよびJ.COSS(第三版)を実施した。PARSのスコアから広汎性発達障害の可能性が示唆された児童をASD群に、ASDの基準を満たさずPVTおよびJ.COSSのスコアから語彙および文法理解力に顕著な困難があると評価された児童をSLI群に分類した。ASDにもSLIにも該当しない場合、その他の発達障害群とした。CCC-2の語用に関する領域(場面に不適切な話し方、ステレオタイプ化さわた言語、コミュニケーション場面の利用、非言語コミュニケーション)のスコアを群間で比較し、発達障害児における語用の問題について、特にその障害がASDに固有のものかどうかに焦点を当て検討した。ASD小学生50名にCCCを実施しクラスター分析を行って、4クラスターを得た。
著者
米田 英嗣 鳥居 深雪 神尾 陽子 Just Marcel Adam
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、小説などの物語を用いて自閉スペクトラム症(ASD)をもつ成人および児童における日常生活スキルプログラムを開発することを目的とした。紙面上で、AQ、対人応答性尺度(SRS-2)、現代文の評論文と小説文に解答した。PC上で、言語を用いた心の理論課題(White et al., 2011)、図形を用いた心の理論課題(Castelli et al., 2000)に回答をした。その結果、プログラムの実施前後でパフォーマンスを比較した結果、図形の動きに対して心的状態を帰属する傾向が高くなることがわかった。言語を用いたトレーニング効果が非言語性の心の理論課題に転移し、成績の向上が認められた。
著者
神尾 陽子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.884, 2016-10-15

本書は成人自閉症スペクトラム障害(ASD),それも高い言語能力を持つ患者,あるいはASDと診断されるほど極端ではないが強いASD特性を持つ成人患者(閾下ASD)を対象としている。発達障害への感度が上がった今なお,言語を流ちょうに話すASD(閾下ASDも)の人々は幼児期に「発達の遅れ」という分かりやすい要素がないがために,周囲に理解されない長い孤独の時間を過ごし,社会に居場所を求めて苦闘している。そして精神科臨床にはこうした成人ASDが一定の割合で潜在する。診療時間を十分に取れない精神科医にとって,通常の医師—患者関係を築きにくいこうした一群の患者の深刻なニーズはわかるものの,どのように彼らの訴えを理解し,対応するのがよいかはすぐにでも知りたいところであるだけに,ASDの精神内界に迫る本書はその先鞭を付けた待望の一冊と言える。精神病理学者として多数の名著を世に送ってきた著者の手になる初のASD論である本書は,精神病理学をベースとしているが精神病理学だけに閉じられていない点ですべての読者にとって読みやすくかつ刺激的な内容となっている。発達障害に苦手な印象を抱いている精神科臨床医には開眼の衝撃を与え,また発達障害の知識を持つ読者には自らの臨床経験に立ってその前提を批判的に検討することを促すに違いない。 第1章で取り上げられたのは,「定説化」している自閉症の「心の理論」仮説である。この心理学的仮説は1980年代に脚光を浴びたのち主役の座から降りたものの今なおASDの脳画像研究などでは前提とされることが少なくないが,著者はこれを正面から批判的に検証し,自閉症仮説以前に,そもそも人が他者を理解する際の仮説として間違っている,と一蹴する。先ず自己ありきという「心の理論」仮説に対して,他者からの志向性に対して立ち上がってこない自己をASDの問題の本質と捉え,既成の発達心理学の発達論や自閉症の症候論を広く展望した上で他者に対する了解,という観点から論を展開する。そしてASD者は発達過程のいずれかの時点で自己にめざめるが,そのめざめこそが成人ASD者の固有の問題を形作る,とする。このような議論は,著者の視線がASD者,定型発達者双方に向けられ,これまで見る側であった定型発達のありようを容赦なく問い直し相対化した結果,生まれたものである。成人ASD者のエビデンスのピースをつなぎ合わせることができないでいた評者の立場からは,文献を展望した上でご自身の豊富な臨床経験を素材として内海先生ならではの論考を加えてこうした精神病理学的臨床論を提示してくださったことに心から感謝したい。女性ASDのアンメット・ニーズの奥底に光を当てたという点も,本書の試みは新しい。これを機に精神医学においてASD,そして発達障害をめぐる架橋的な治療論が活発となることを期待する。
著者
高橋 秀俊 中鉢 貴行 森脇 愛子 武井 麗子 飯田 悠佳子 荻野 和雄 神尾 陽子
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.229-234, 2013 (Released:2017-02-16)
参考文献数
26

自閉症スペクトラム障害(ASD)では,知覚処理の非定型性について知られており,低次の知覚処理機能と高次の機能との関連の脳内基盤の発達的変化を明らかにすることは,ASDの病態形成メカニズムを理解する手がかりとなりうると考えられる。聴覚性驚愕反射(ASR)は,精神医学領域におけるトランスレーショナル・リサーチにおいて,国内外で広く研究されている。今回我々は, ASD 児 10名とそうでない児童34名を対象に,ASR検査を実施した。聴覚刺激として,65 ~ 110dB まで 5dBきざみで10段階の音圧の聴覚刺激を提示した。さらに,対人応答性尺度で評価された定量的自閉症特性との関連も検討した。ASD 児では,ASRの潜時が延長しており,微弱な刺激に対するASR が亢進しており,これら ASR の指標は,いくつかの自閉症特性と相関した。ASR の指標が, ASDの病態解明に関して有用である可能性が示唆された。
著者
桑田 左絵 神尾 陽子
出版者
九州大学大学院人間環境学研究院
雑誌
九州大学心理学研究 (ISSN:13453904)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.273-281, 2004
被引用文献数
3

The purpose of this study was to present the perspectives of adjustment in parents of children with develop-mental disabilities, by reviewing the literature from Japan, Europe and America. The results were as follows: 1) It is necessary to develop a model of the acceptance of disabilities by parents with disabled children according to the types of disabilities. 2) It is necessary to explore the factors that encourage the acceptance of disabilities by parents or discourage it, not only to describe changes in mental states of parents. 3) It is important to note that while carrying out the early intervention for the children, the diversity of the families should also be taken into consid-eration when supporting the families.
著者
神尾 陽子
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.4_58-4_63, 2010-04-01 (Released:2010-10-18)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1
著者
中西 陽 石川 信一 神尾 陽子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.544-554, 2016
被引用文献数
7

本研究では, 中学校の通常学級集団で実施する社会的スキル訓練(Social Skills Training: SST)が, 自閉スペクトラム症的特性の高い生徒の社会的スキルと学校適応感の向上に効果があるかどうかについて検討した。自閉スペクトラム症的特性の程度は, 対人応答性尺度(Social Responsiveness Scale: SRS)を用いて評価された。SST介入群は, 自閉スペクトラム症的特性の高い生徒9名(Higher levels of autistic-like traits: H-ALT), 低い生徒54名(Lower levels of autistic-like traits: L-ALT)からなり, 全3回のSSTプログラムに参加した。その間, 統制群(H-ALT5名, L-ALT51名)には特別な介入は行わなかった。その結果, H-ALTの生徒に関しては, 統制群では肯定的な変化が示されなかったのに対し, 介入群では有意な社会的スキルの向上と身体的ストレス反応の低下が示された。L-ALTの生徒に対しては, 統制群と比較して介入後に学校適応感の向上が示された。したがって, 本研究でのSSTは生徒の自閉スペクトラム症的特性の水準に応じて異なる効果が期待できる可能性が示された。
著者
稲田 尚子 黒田 美保 小山 智典 宇野 洋太 井口 英子 神尾 陽子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.123-133, 2012

反復的行動尺度修正版(Repetitive Behavior Scale-Revised: RBS-R)は,自閉症スペクトラム障害(ASD)児者の反復的行動の種類の多さとその問題の程度を評価する尺度であり,6下位尺度43項目から成る。本研究は,日本語版反復的行動尺度(RBS-R)の信頼性と妥当性の検討を目的として行われた。対象者は,ASD群53名(男性:女性=42:11;平均年齢=11.2±10.5歳)と,対照群40名(知的障害児者23名,定型発達児者17名)とした。養育者の報告に基づき,専門家が日本語版RBS-Rを評価した。Cronbachのα係数は0.91であり,良好な内部一貫信頼性を示した。各43項目における評定者間一致度(級内相関係数)は0.79から1.00の範囲であり,評定者間信頼性は高かった。日本語版RBS-Rの該当項目数および合計得点はいずれもASD群で対照群よりも有意に高く,十分な弁別的妥当性を示した。また,合計得点は,小児自閉症評価尺度東京版に含まれる反復的行動に関連する3項目の合計得点と有意な正の相関(r=0.65)があり,併存的妥当性が確認された。今後,さらなる検討が必要であるが,日本語版RBS-Rの信頼院と妥当性が示された。