著者
木村 美智枝
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.41-46, 2004-04-25

要約筆記とは,話が聞こえてきたら書いて伝える通訳のことをいう.日本語を日本語で通訳する.この方法は「話せるが聞こえない,聞こえにくい」という障害をもつ方々にとって大切な情報保障手段である.この要約筆記には「速く・正しく・読みやすく」書くという三原則がある.この三原則など要約筆記に関わることを習得するために,各地で講座が開催されている.ここで守秘義務の重要性も教える.講座を修了すると現場に通訳として出る.現場では,より多くの情報を提供できるように4人でチームを組んで通訳する.通訳だからその場限りの伝達で,記録ではない.一般に,要約筆記はOHPによる方法の場合が多い.時と場所に応じて,パソコン,OHC(オーバー・ヘッド・カメラ),ノートテイクなどの形で行う場合もある.方法は幾通りもあるが,要約筆記とは,聞こえない,聞こえにくい,そして手話を理解できない方々の大切なコミュニケーション手段である意義は変わらない.
著者
大井 学
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.224-229, 2002-12-30
被引用文献数
2

最近の他者理解研究と語用論研究の進歩に支えられて,高機能広汎性発達障害をもつ個人に対するコミュニケーション支援が有望となり始めている.それには彼らの適応改善や精神障害の予防効果も期待できる.しかし,彼らの語用障害の広大さと根深さについての明確な理解なしには,専門家の努力は無効となることが懸念される.技法の妥当性に関するこの視点からの十分な吟味がないまま,伝達スキルを訓練したり会話の知識を教えたりしても,役に立たないばかりか,彼らの混乱と不安を増やすことにさえなりかねない.今のところ次の3つが実行可能なアプローチとして考えられる.(1)彼らと周囲とのコミュニケーションの崩壊の修復,(2)周囲の人々が効果的なコミュニケーション戦略を用いるよう促す,(3)高機能児・者同士の仲間体験機会の提供.いずれの場合も彼らとのコミュニケーションに関する専門家のリフレクションが重要な鍵となる.
著者
都田 青子
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.86-90, 2003-08-30
参考文献数
6

本稿では音韻論の中心的理論の1つである最適性理論がどのような理論であるのか,ということについて先行理論との比較をとおして紹介した.特に日本語のラ行音の獲得過程を取り上げ,省略,ダ行音との混同,といった段階を経て正しい音形が獲得されていく同過程が制約間の優先順位の変化によって説明可能である,ということを実際の分析をとおして示した.従来の規則を機軸とした理論枠組みとの比較をとおして,最適性理論に基づいた言語発達(獲得)の考え方の特徴について検討した.
著者
青木 久
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.41-46, 2002-04-25
参考文献数
8

本報告では,我々がこれまでに開発した1つのスイッチで操作するコンピュータ使用支援機器と,現在研究を進めている重度身体障害児・者用の新しい入力手段を紹介した.新しい入力方法は,文字認識に対する皮膚電位変化をスイッチの作動信号に採用したので,スイッチを操作するためにどのような動作も必要としない方法である.4名の健常な被検者の左手掌から記録した皮膚電位には,ターゲット文字の判別時に交感神経皮膚反応(SSR)が観察された.4名の被検者における文字認識時のSSR出現率の平均値は,63%であった.SSRのような皮膚電位をスイッチ作動信号として使用することには,脳波によるBrain Computer Interfaceと比較して,記録方法や信号判別の簡便さや,利用者の特別な訓練を必要としない点などの多くの利点があることが明らかになった.しかし,実用化するには,SSRの反応潜時が長いこと,出現率が低いこと,慣れなどの問題を解決する必要があることが示唆された.
著者
道関 京子 門脇 大地 米本 恭三
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.147-156, 1995-12-25
参考文献数
30
被引用文献数
2

全体構造的言語治療(ヴェルボトナル体系)を概括し,これを日本語臨床に適用するため独自の方法論の展開を考察し,最後にそれを重度失語症患者に施行した結果について述べた.本法は,経験と切り離さないやり方で,つまり人間生活活動の動的な本質を取り込んだ科学的言語治療の方法論である.VTSの考え方の基本に忠実に沿って組み立てた,日本語失語症治療の一つの試みと可能性を述べ,全体構造としてしか機能しない人間に対する,言語治療研究の必要性について訴えた.
著者
後藤 慶子 浅野 和海
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.99-105, 2004-08-25
被引用文献数
1

1歳5ヵ月時に口蓋形成術を受けた硬軟口蓋裂児は,2歳2ヵ月の言語初診時に,軟口蓋の形態は良いが顕著な開鼻声と声門破裂音を示し,その後鼻咽腔閉鎖機能不全の状態が続いた.3歳3ヵ月でストロー使用と/p/の構音が可能になり,4歳を過ぎて破裂音/p,t,k/の構音が一貫して可能となるのと平行して,鼻咽腔閉鎖機能は良好になった.摩擦音,破擦音の習得のために4歳7ヵ月から1年間,系統的構音訓練と文字・音韻意識を活用する働きかけを行った.本児は言語理解に比し表出が遅れ,随意的口腔運動や模倣的な表出に困難さが認められた.特異的言語発達障害と呼ばれる臨床像に近く,聴覚情報の処理と構音運動の企画に問題があると思われた.鼻咽腔閉鎖機能良好の判定に術後3年と長期を要し,口蓋裂に合併した特異的言語発達障害の影響が示唆された.
著者
大井 学
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-15, 1994

「自然な方法」による3つの言語指導法,相互作用アプローチ,伝達場面設定型の指導および環境言語指導に関連する最近の研究を展望し,それらの理論的な背景,技法,効果,今後の方向について検討した.大人との相互作用が子供の言語獲得に及ぼす影響に関する研究に基づく相互作用アプローチは,相互作用を改善し既有の伝達技能の使用を促す効果があるが,それによる新たな言語構造の獲得を示す証拠はない.また高い指示性と低い応答性という仮定の他に指導のモデルを求める必要がある.慣例化された活動が子供の伝達と言語理解を促すという研究結果を基礎としている伝達場面設定型の指導は,標的とされた伝達技能の改善に効果が認められているが,活動の選択や行動連鎖の形成方法について検討する必要がある.応用行動修正技法を基礎とする環境言語指導は,先の2つのアプローチとの交差によって,「自然な方法」による言語指導の発展に寄与することが期待される.
著者
神山 政恵 吉岡 博英
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.16-25, 1993

全国の公立学校難聴・言語障害学級の実態と担当教師のいわゆる『聴能言語士(STと略す)』の資格への意識を調査する目的で約3分の1に当たる503学級を任意に抽出し,アンケート調査を実施した.その結果は,次の通りである.<br>1) 回収率は61%であった.<br>2) 担当教官は教師歴10年以上のベテランが任命されることが多く,継続の意思を持っている者が多かったが,教室の運営面と言語障害児の指導面の両者の悩みを抱えつつ訓練を行っている様子がうかがえた.<br>3) 一人の担当者が1日に4~6人程度の言語障害児を訓練し,1~2人の職場が多かった.<br>4) 担当者の多くは小学校普通免許状のみを所有し,言語障害に関する専門教育を受けたものは少なく,ほぼ全員が専門教育の研修の必要性を認めていた.<br>5) 担当者の大多数が医療STの資格の必要性を認めていたが,教師にも同様の資格が必要かについては,約半数が必要と回答していた.
著者
原 恵子
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.10-18, 2001-04-30
被引用文献数
11

日本語の読み習得の初期段階での音韻意識(phonological awareness)の発達の様相と,それが読み習得とどのように関連するのかを検討するために,健常就学前児123人(年中,年長児),小学生98人(小1~小3)を対象に,音削除(deletion),単語逆唱(reversal),母音同定の音韻操作課題と平仮名短文の読解課題を行った.その結果,就学前の1年間に,3拍語の音削除,逆唱課題をこなす音韻操作能力が整ってくること,小学校入学後,全員が学校での平仮名指導を受けた後には,4拍語の逆唱,6拍語の音削除,CV音節中の母音同定が可能になることが明らかになった.各課題間の相関を検討すると,音削除,逆唱の能力と平仮名短文の読解との間に高い相関が認められた.今回用いられた音韻操作課題に示される音韻意識がどのように読み習得の発達を支えるのか考察で論じた.
著者
林 耕司 松本 幸子 岩立 志津夫 小島 哲也
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.58-68, 1989
被引用文献数
3 6

本研究は図形シンボルを使った人工言語システム(NSL86)による言語発達遅滞児への言語訓練の可能性を検討する目的で行なわれた.対象は訓練開始時CA9:2の精神発達遅滞のある発語困難児である.訓練前の言語評価の後,単語,2語連鎖,3語連鎖の順に訓練を開始した.理解と表出を並行して訓練した.単語訓練で学習されたシンボルは順次コミュニケーションボードに載せ,日常での会話に使用できるようにした.約15ヵ月の訓練を通して,計96語(名詞68語,動詞22語,形容詞6語)の単語と,「動作主+動作」「対象+動作」「動作主+対象+動作」の3構文の学習が成立した.全体を通して理解より表出で正答率が高い傾向が見られた.訓練室や家庭でコミュニケーションボードによる自発的で積極的な会話も可能になった.これらの結果から,言語訓練手段としてのNSL86の可能性について考察した.
著者
竹本 喜一
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.43-46, 1996-04-25
被引用文献数
1

Prader-Willi症候群(PWS)児に対する言語訓練経過をまとめ,構音の変化・特徴について検討をした.本症例では,新生児-乳児期に筋緊張の低下症状により,構音器官の運動の稚拙からくる発語の遅れや不明瞭な構音が生じた.そこで,不明瞭な構音の改善として構音器官への直接的なアプローチを含む構音訓練と言語理解面の向上を図る言語訓練を施行した.その結果,訓練20ヵ月後,不明瞭な構音に,(1)奥舌音の前舌化傾向の減少,(2)破裂音全体の明瞭化,(3)鼻音化母音の消失などの変化が現れた.また,理解面でも,概念形成の確立,理解語彙量が増加した.
著者
横張 琴子
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-11, 1996-04-25
参考文献数
34
被引用文献数
1

失語症のグループ訓練は,心理的改善や社会性の向上,コミュニケーションの活発化に寄与する補助的訓練として,個人訓練終了後に実施されることが多く,個人訓練に代りうるものではないといわれてきた.筆者らは,障害のタイプと重症度を同質にしたグループを編成し,言語機能改善をもめざしたグループ訓練を,可能な限り発病初期から実施してきた.(1)仲間作りや社会性の向上をめざした談話,(2)刺激-反応タイプや,(3)ゲーム形態の言語訓練,(4)リズム体操と斉唱,(5)書道,絵画の実技指導を含むさまざまな趣味育成,(6)患者,家族の生活活性化,(7)個別のテキストを用いた家庭学習指導,(8)ステップ別カードによる日記指導などを取り入れた多面的指導を継続した結果,QOLの向上とともに,狭義の言語機能改善も得られた.グループ訓練は失語症治療において,有効性の高い手段と考える.
著者
大澤 富美子
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.55-60, 1999-04-30
被引用文献数
1

進行性神経筋疾患者に対する補助代替コミュニケーション(AAC)アプローチを開発するため,日本ALS(筋萎縮性側索硬化症)協会近畿ブロックが1996年12月に実施した実態調査の159名の結果を考察した.それにより,使用しているAAC手段の種類が少なく使用頻度も低いことと,本格的な使用開始時期が人工呼吸器の装着などにより発話不能になった後と遅い,つまり,音声言語との併用期間が短いことが推測された.また,パソコン機器(意志伝達装置)の使用頻度が低いことから,機器操作訓練や運動機能低下に伴ったスイッチ更新が適切に行われていないことと,操作の一部に介助が必要となっていることが,機器使用の阻害要因として考えられた.以上のことから,早期からの非機器・機器的AAC手段の段階的導入に伴った評価・訓練と,導入後の維持支援プログラムを検討した.