著者
本 秀紀 愛敬 浩二 森 英樹 小澤 隆一 植松 健一 村田 尚紀 木下 智史 中里見 博 小林 武 上脇 博之 奥野 恒久 近藤 真 植村 勝慶 倉持 孝司 小松 浩 岡田 章宏 足立 英郎 塚田 哲之 大河内 美紀 岡本 篤尚 前原 清隆 中富 公一 彼谷 環 清田 雄治 丹羽 徹 伊藤 雅康 高橋 利安 川畑 博昭
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

比較憲法研究・憲法理論研究を通じて、(1)先進諸国が「ポスト・デモクラシー」という問題状況の中でさまざまな問題を抱えていること、(2)各国の政治状況・憲法制度の差異等が原因となって、その問題の現れ方には多様性があること、の2点が確認された。そして、「ポスト・デモクラシー」の状況の下で国内・国際の両面で進行する「格差社会」化の問題は、今日の憲法制度・憲法理論において有力な地位を占める「法的立憲主義Liberal Democracy」の考え方では、適切・正当な対応をすることが困難であることを明らかにした。以上の検討を踏まえて、民主主義をシリアスに受け止める憲法理論の構築の必要性が確認された一方、「政治的公共圏」論を抽象論としてではなく、(日本を含めた)実証的な比較憲法研究との関連において、その意義と問題点を検討するための理論的条件を整備した。
著者
大河内 美紀
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

アメリカにおけるデパートメンタリズムの議論を中心に、解釈の多元性に関する検討を行った。1990年代(ブッシュ政権)以降、合衆国においては行政権の拡大が指摘されており(James P. Pfiffner)、オバマ政権期に分割政府状況に至ると議会と大統領との対立はさらに顕著になった。そうした問題意識から、合衆国では、立法に署名する際に大統領が一種の解釈宣言を行う署名時声明を素材として、解釈権の所在が論じられたり(S. Kelley)、立法府はいったん制定された法律の執行に口を挟むべきではないとするanti-aggrandizement principleの見直しの指摘(Simon Hansen)などが登場してきている。これらの議論は、国家機関の間における「公的な」憲法解釈権の配分をめぐるものであり、まさにデパートメンタリズムの現れたものと言える。しかし、留意すべき点が2点ある。第一に、これが厳格な三権分立を統治の基軸とする合衆国における現象であるという点である。無論、日本においても機関訴訟のような形で国家機関間の権限配分が問題となる場面は存在する。しかし、立法-行政の間の責任と協調をベースとする議院内閣制の日本において、合衆国におけるデパートメンタリズムのような形で解釈の多元性が表出することは例外的と考えられる。第二に、これらが憲法解釈が最終的に確定される局面、いわばラストワードの場面における対立であることである。しかし、ラストワードの場面は憲法解釈の表層にすぎず、その解釈の正統性はより下位の層における解釈によって支えられているとみるべきである。ポピュリスト立憲主義はラストワード以外の場面に光を当てる可能性を持つ議論であるものの、なお、それを自覚的には論じておらず、それがポピュリスト立憲主義の限界となっている。
著者
紙野 健二 市橋 克哉 下山 健二 高田 清恵 高橋 祐介 豊島 明子 大沢 光 山田 健吾 前田 定孝 大河内 美紀 林 秀弥 藤枝 律子 稲葉 一将 岡本 裕樹 宮澤 俊昭
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

グローバルな規模で展開再編する市民社会は、少子化、大規模災害や自然環境の破壊が典型的であるように、自らの存続にとっての数多くの脅威に直面して、国家に解決すべき、しかし困難な多くの課題を突きつけている。このような国家と市民社会のそれぞれの運動に対抗するものとして、双方性を有する行為である契約が観念される。それは、国民生活に必要な役務の交換が国家から市場へと転化した結果一方的に提供される役務の「選択」の法制度に対して、またこのような法制度に対する多数の国民意思を正確に反映できなくなっている民主主義の機能不全に対して、ますます強く観念せざるをえない。このような意義を有する契約が、いかなる行政領域の法を反映して、どのような実体法手続法的な形態となって表現しているのかを論証するべき必要を明らかにしたことが、本研究の成果である。研究成果の一書による公表が、計画されている。