著者
中里見 博
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、次の4点を明らかにすることにあった。すなわち、(1)インターネットの普及が、ポルノグラフィの制作現場・消費行動にもたらした変化の実態。(2)その変化が、性暴力や性差別行為などの重要な人権侵害に与えている影響。(3)こうした変化や影響に対する、従来の性表現規制諸法(刑法わいせつ物頒布罪、児童ポルノ禁止法、青少年保護育成条例)の有効性。(4)諸外国の新たな規制法の調査研究、および日本における新たな規制法の考察、さらに「表現の自由」との関係。(1)(2)については、2回の盗撮に関するアンケート、ポルノ使用と性意識に関するアンケート、暴力ポルノ制作現場を取材したライターからの聞き取り、ポルノ制作プロダクション関係者からの聞き取り、インターネット被害相談サイト運営者からの聞き取り、ポルノ被害臨床例を持つ医師からの聞き取り等の調査活動、また暴力ポルノ事件刑事裁判傍聴、インターネット掲示板の観察等の諸活動をつうじて、インターネットの普及がポルノグラフィを未曾有に増大させ、制作現揚と消費行動を大きく変化させ、彩しい数の深刻な性被害を、女性および子どもに生じさせていることを明らかにした。次に(3)(4)については、1年に1億ページのペースで増大するサイバーポルノに対して、既存の諸立法がほとんど有効に機能していなことを明らかにし、そのうえでアメリカおよびカナダの立法および裁判動向について検討を行なった。その結果、カナダ刑法のわいせつ物規制における「被害アプローチ」の重要性を示し、アメリカの反ポルノグラフィ公民権条例における「民事アプローチ」の潜在的可能性を解明した。これらの立法・裁判動向によれば、ポルノグラフィに対する「被害アプローチ」による規制は、「表現の自由」の憲法的保障と矛盾しないことが明らかになったといえる。また、近年増大している性的盗撮も、それをポルノ被害の一種とみなして、盗撮に対する諸外国の立法動向を検討した。
著者
本 秀紀 愛敬 浩二 森 英樹 小澤 隆一 植松 健一 村田 尚紀 木下 智史 中里見 博 小林 武 上脇 博之 奥野 恒久 近藤 真 植村 勝慶 倉持 孝司 小松 浩 岡田 章宏 足立 英郎 塚田 哲之 大河内 美紀 岡本 篤尚 前原 清隆 中富 公一 彼谷 環 清田 雄治 丹羽 徹 伊藤 雅康 高橋 利安 川畑 博昭
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

比較憲法研究・憲法理論研究を通じて、(1)先進諸国が「ポスト・デモクラシー」という問題状況の中でさまざまな問題を抱えていること、(2)各国の政治状況・憲法制度の差異等が原因となって、その問題の現れ方には多様性があること、の2点が確認された。そして、「ポスト・デモクラシー」の状況の下で国内・国際の両面で進行する「格差社会」化の問題は、今日の憲法制度・憲法理論において有力な地位を占める「法的立憲主義Liberal Democracy」の考え方では、適切・正当な対応をすることが困難であることを明らかにした。以上の検討を踏まえて、民主主義をシリアスに受け止める憲法理論の構築の必要性が確認された一方、「政治的公共圏」論を抽象論としてではなく、(日本を含めた)実証的な比較憲法研究との関連において、その意義と問題点を検討するための理論的条件を整備した。
著者
中里見 博
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.39-69, 2007
被引用文献数
3

女性の性売買は, 深刻な性的不平等であるにもかかわらず, 今日継続されている.売買春は, その内と外の女性に対する暴力の誘発, ジェンダーの再生産, ジェンダー化されたセクシュアリティの構築という実質的な意味で性差別の制度的実践にほかならない, 売買春を「性的サービス労働」の売買とみなす「性=労働」論は, 売買春の現場で行なわれている性的使用=虐待を「サービス労働」と称して正統化するものである, 性差別・性暴力と対抗してきた性的自己決定権という人権は, 売買春に適用されて変質した.それは売買春を雇用労働とすることを否定するが, 自営業の売買春を否定できず, 合法化する働きをなしうる.しかも自営売春業の合法化は売買春による差別・被害を全社会規模で拡大することになる.元来性的自己決定権と一体であったにもかかわらず矮小化され喪失された性的人格権を復位させる必要がある.そうすることで買春行為は, 金銭で性的人格権を買い取る違法な行為と評価することができ, 例えばスウェーデンでは実現している買春者処罰法のような売買春禁止法への展望が拓けるであろう.
著者
中里見 博
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:3873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.39-69, 2007-02-20

女性の性売買は, 深刻な性的不平等であるにもかかわらず, 今日継続されている.売買春は, その内と外の女性に対する暴力の誘発, ジェンダーの再生産, ジェンダー化されたセクシュアリティの構築という実質的な意味で性差別の制度的実践にほかならない, 売買春を「性的サービス労働」の売買とみなす「性=労働」論は, 売買春の現場で行なわれている性的使用=虐待を「サービス労働」と称して正統化するものである, 性差別・性暴力と対抗してきた性的自己決定権という人権は, 売買春に適用されて変質した.それは売買春を雇用労働とすることを否定するが, 自営業の売買春を否定できず, 合法化する働きをなしうる.しかも自営売春業の合法化は売買春による差別・被害を全社会規模で拡大することになる.元来性的自己決定権と一体であったにもかかわらず矮小化され喪失された性的人格権を復位させる必要がある.そうすることで買春行為は, 金銭で性的人格権を買い取る違法な行為と評価することができ, 例えばスウェーデンでは実現している買春者処罰法のような売買春禁止法への展望が拓けるであろう.
著者
中里見 博 杉田 聡
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

アダルトビデオなどのポルノグラフィ被害の実態把握という課題については、「ポルノに関連した被害に関するアンケート調査」を全国の婦人相談員、女性弁護士(一部男性含む)、フェミニスト・カウンセラー約2500人を対象に行ない、311の回答を得た。回答結果を集計・分析した結果、ポルノに関連した被害の相談を受けたことがあったのは167人で、総計267件の被害件数に上った。被害内容は「強制視聴」80件、「模倣行為の強要」73件、「強制だましによる出演」9件など、私たちが想定したあらゆる被害が報告された。婦人相談員を対象にしたこともあり、ドメスティック・バイオレンスの一形態としてポルノグラフィに関連した被害が非常に多発している実態を把握できた。ドメスティック・バイオレンスとしてのポルノグラフィ被害の被害者は、女性(妻)だけでなく、幼い(4歳や8歳)の女児が父親にポルノグラフィに影響を受けた強制わいせつ、ポルノグラフィの強制視聴の被害を受けていた。ある弁護士の回答には、「あらゆる性犯罪の裏にはポルノグラフィがあると思われる」という現状認識があった。法的救済策の比較法研究であるが、アメリカで起草された、従来の刑法わいせつ物規制とはまったく異なる新しい法的アプローチ、反ポルノグラフィ公民権条例について、その全体構造・ねらい・社会的歴史的背景・政治的インパクトなど多面的に分析できた。またカナダ、オーストラリアでも政府がポルノグラフィ被害について調査し認識しているが、イギリス同様ポルノグラフィの蔓延とその被害救済には無力なわいせつ物規制法しか有しない実態も明らかになった。