著者
窪寺 恒己 天野 雅男 森 恭一 青木 かがり 篠原 現人 西海 功 大泉 宏 庄司 隆行
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

中深層性大型イカ類に関しては、特殊水中ビデオカメラ・ライトを開発し深海の環境を乱すことなく、それらの行動生態を記録し生物量の推定を試みた。2011年には小笠原沖でNHKと共同して有人潜水艇から世界初となるダイオウイカの生態観察・撮影に成功した。一方マッコウクジラに関しては、加速度マルチロガーと超小型水中カメラロガーを直接取り付けることにより、潜水中の行動を3Dで捉えることに成功し、餌となる大型イカ類を追跡・捕獲する行動パターンを明らかにした。また、深海の腐肉食性ベントスの蝟集実験を行い、蝟集物質の科学的組成を解析するとともにベントス群集の時間的変遷を明らかにした。
著者
大泉 宏 幅 祥太 中原 史生 三谷 曜子 北 夕紀 斎野 重夫 吉岡 基
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.243-248, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
12

2019年5月と7月に北海道知床半島沖の根室海峡でシャチの白色個体が2例観察された.1頭目は成熟したオス,2頭目はメスか未成熟のオスと推定された.北太平洋周辺海域からこれまでに報告されたシャチの白色個体の写真と比較した結果,どちらの個体も既知の個体の特徴と一致しなかった.これら2頭はアルビノであるか白変種であるかの判断は出来なかったが,いずれも確認できた範囲内では,通常黒色である部位が白かった.このようなシャチの白色個体が日本の沿岸から確認されたという報告は無く,これらの2頭は日本における初記録と考えられる.
著者
鷲見 みゆき 大泉 宏 三井 翔太 崎山 直夫 鈴木 聡 樽 創
出版者
日本セトロジー研究会
雑誌
日本セトロジー研究 (ISSN:18813445)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-7, 2023-11-20 (Released:2023-11-30)

スジイルカStenella coeruleoalbaは,世界中の熱帯から温帯の海域にかけて広く分布するハクジラ亜目に属する小型鯨類である.本研究では,本種の食性解明のための基礎的知見を得ることを目的として,2019年1月から2021年5月までに相模湾の神奈川県沿岸に漂着した10個体の胃内容物を調査した.その結果,6個体の胃から頭足類(カギイカ,ホタルイカモドキなど5科3種)の顎板,魚類(ハダカイワシ,オオクチイワシなど2科3種)の耳石が確認された.魚類・頭足類ともに日周鉛直移動を行う中・深層性の種が主体であったことから,漂着したスジイルカ6個体が索餌のため中・深層まで潜水したか,或いは夜間に表層へ浮上した小型遊泳動物を採餌していたことが示唆された.
著者
大泉 宏 中原 史生 吉岡 基 三谷 曜子
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

北海道の釧路沖と羅臼沖でシャチ(Orcinus orca)の調査を行った結果、2007年から2017年の写真から両海域で合わせて380個体が識別され、既知の個体と合わせ計506個体が登録された。海域共通の個体は少数であったこと、海域に独特の鳴音があったこと、衛星標識個体の回遊範囲が異なっていたことから、両海域のシャチは少なくとも行動圏の異なる比較的独立した集団と考えられた。衛星標識個体は千島列島から太平洋西部にまで回遊し、鳴音にはロシア沿岸の集団との関連が予想された。北海道東部にはシャチの重要な生息地があることを明らかにでき、その分布範囲と個体群構造の基礎的知見を構築することが出来た。
著者
大泉 宏
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

飼育下のミナミハンドウイルカ(Tursiops aduncus) 1頭に給餌し、その後の食道胃内における消化の進行を内視鏡を用いて観察した。観察では餌の種と尾数または量を変化させて、餌の消化段階と時間経過の関係、および一定量の餌が消化されて空胃に至るまでの時間を明らかにした。また、イルカにイカの顎板を給餌し、食道胃に不消化物として滞留する顎板が吐出されるまでの時間を調べた。その結果、100gから200g程度の餌一尾は約1時間半から2時間程度で消化されること、一回の満腹量に相当する餌は12時間で完全に胃内の消化が完了すること、イカの顎板の大部分は24時間で排出されることが明らかになった。さらに餌の一部を人工消化液を用いて試験管内で消化させ、餌種による消化の進行速度の違いの検証と、イルカの胃から抽出したペプシンの活性条件をpHと温度について明らかにした。これらの結果は、イルカの食道胃における餌の消化速度を明らかにしたものである。これは、野生のイルカ類から得られる胃内容物の分析を行う際に、単位時間当たりの餌摂取量を推定する手がかりとなると期待され、自然条件下におけるイルカの餌消費量やエネルギー要求量を明らかにする上で有用と考えられる。
著者
大泉 宏
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

小型歯鯨類の食性研究のため胃内容物調査を行い、ツチクジラ合計32頭、マゴンドウ4頭、ハナゴンドウ11頭、ハンドウイルカ5頭、マダライルカ3頭、スジイルカ1頭、イシイルカ43頭の胃内容物標本採集を行った。この他タッパナガ22頭の胃内容物記録を行った。江ノ島水族館と共同でカマイルカの代謝および餌消費量実験を行なった。得られた標本については現在分析中であるが、イシイルカとタッパナガはそれぞれトドハダカとスルメイカを多く捕食していることが示された。カマイルカの実験では、約5800-9100kcal/dayの酸素消費率が示された。また、鯨類の餌14種について熱量分析を行った。中層性魚類耳石80種についてデジタル画像化を行った。胃内容物標本採集は平成11年度から継続して行ってきており、情報の蓄積が進んできたところである。これまでの調査でツチクジラの調査頭数は67頭になり、この他にも多くの鯨種について胃内容物標本が入手されるようになった。解析はまだ途上の部分が多いが、今後の進展が期待できる。技術開発的要素として行ってきた魚類耳石の形態に関する研究は、日本周辺のハダカイワシ類主要36種に加え、東北沿岸で定置網や着底トロール漁獲される魚類、三陸沖合城で中層トロールにより採集されたハダカイワシ類以外の中層性魚類80種の採集を行い、デジタル画像化した。さらなる種数の充実化やデータベース化は今後の作業である。また、海洋生態系におげるエネルギーフローの研究の基礎情報とするため、餌生物中の熱量を分析した。種類はタラ類を中心としたもので、主にツチクジラの餌を想定しているが、これも今後標本入手の機会があれば種類を充実化させていく。カマイルカを用いた代謝実験は予備的実験が終了し、研究用データが取れ始めたところである。