- 著者
-
庄司 隆行
- 出版者
- 東海大学
- 雑誌
- 萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2003
深海域に棲息する動物のうち、無顎類、板鰓類、硬骨魚類、甲殻類からそれぞれ1種ずつを選び、各嗅覚系の形態比較と行動実験を行った。試魚として、静岡市興津沖水深300-600mにおいて捕獲したヌタウナギEptatretus burgeri、ホラアナゴSynaphobranchus affinisおよび熊野灘(水深300-400m)にて捕獲したホソフジクジラEtmopterus brachyurus、オオグソクムシBathynomus doederleiniを用いた。形態観察として嗅板表面を走査型電子顕微鏡により観察し、摘出した脳、鼻腔組織の嗅神経および嗅索に脂溶性蛍光色素(DiI)を浸透させ嗅房、嗅球、終脳における嗅神経の走行を蛍光顕微鏡にて観察した。ホラアナゴ嗅神経束は他魚種よりも太く、嗅球に入力する前の段階で2本以上の分枝を形成していた。これは、嗅細胞数の多さと嗅球でのニオイ情報の処理能力の高さを示している。ホソフジクジラも同様にきわめて大きな嗅房、発達した嗅球を持っており、ニオイ情報の収集、処理能力は高いと推測された。ヌタウナギの鼻腔は7枚の大きな嗅板からなる嗅房を通り食道に連絡していた。嗅球は終脳と比較して大きく、一方延髄の味覚中枢は未発達であった。また、ヌタウナギとオオグソクムシを用いてニオイ刺激に対する行動観察を行った。特にオオグソクムシの実験では、動きのトラッキングを暗黒下において容易にしかも精密に行なうため、体の位置と向きを示す赤外線ダイオードフラッシャーおよび記録・解析用ソフトウェア(Windowsベース)を開発した。これにより、様々なニオイに対する深海生物の嗅覚行動の観察が容易にできるようになった。ヌタウナギ、オオグソクムシともにきわめて鋭敏な嗅覚感度を持つことも明らかとなった。