- 著者
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山本 希美子
安藤 譲二
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.124, no.5, pp.319-328, 2004 (Released:2004-10-22)
- 参考文献数
- 24
- 被引用文献数
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血管内面を一層に覆う内皮細胞は血流と直接接していることから,機械力である流れずり応力に曝されている.内皮細胞は流れずり応力の変化を認識し,その情報を細胞内に伝達して,形態や機能や遺伝子発現の変化につながる細胞応答を起こす.流れずり応力に対する内皮細胞の応答は生体で生じる血流依存性の現象である血管新生や血管リモデリング,粥状動脈硬化症の発生に重要な役割を果たすと考えられている. 近年,流れずり応力の情報伝達に関する多くの研究により流れずり応力がGタンパク,アデニル酸シクラーゼ,イオンチャネル,タンパクキナーゼ,接着分子など多彩な情報伝達因子を活性化することが示された.この事実は流れずり応力の情報伝達に複数の経路が関わっていることを示唆している.現在のところ,これらの経路のうち,どれが一次的で,どれが二次的であるかは分かっていない.同時に複数の経路を活性化するのが,流れずり応力の情報伝達の特徴かもしれない. 内皮細胞にずり応力を作用させると,細胞内情報伝達系でセカンドメッセンジャーとして働くカルシウムの濃度が即座に上がることから,カルシウムシグナリングを介した感知機構がある.内皮細胞にずり応力が作用すると細胞内カルシウム濃度が上昇する反応が起こる.そこで本報告では,ヒト肺動脈内皮細胞において,ずり応力の強さに依存して細胞外カルシウムの細胞内への流入が起こることを観察した.このカルシウム流入反応には主にATP作動性カチオンチャネルであるP2XプリノセプターのサブタイプであるP2X4を介していた.また,血管内皮細胞は流れずり応力に反応して,多種類の血管作動性物質を合成,貯蔵,放出することが知られている.この点に関して,我々は流れずり応力を受けた内皮細胞から応力依存的にATPが放出されることを確認した.以上の結果から,この流れずり応力により放出される内因性のATPがP2X4レセプターを活性化することで,内皮細胞のカルシウム反応を修飾する機序が示唆される.