著者
小池 淳一
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.205, pp.459-472, 2017-03

本稿は、民俗儀礼を起源とする俳句の季語を文芸資源と捉え、その形成の過程を論じようとするものである。七五三という儀礼は実は新しく、都市的な環境のなかで成立したものである。そして特に現代では古い状況から新しい状況へと変化することを示す儀礼というよりも、人生の階梯を晴れ着などで示す表層的な儀式という性格が顕著である。そうした七五三が文芸資源として俳句作品に用いられる際には、子どもの成長や晴れ着の着こなし、儀式のなかでの動きを切り取るものとして機能している。社会的な儀礼よりも一時的な儀式としての意味合いが強調される。一方、岡見は「堀川百首」の源俊頼の和歌における「をかみ」の語釈として胚胎し、近世の季寄せや歳時記の類にこの語に関する関心が引き継がれてきた。記録上は、多少のバリエーションがあり、担い手や方法に差異があるが、実際の民俗儀礼として明確に確認はできない。この語は俳句作品のなかでは年の暮の情景を示すものとして、さらには時間感覚を表出させるものとして働く場合が多い。それは幻想的であり、年中行事というよりも特殊な境界の時空をとらえるものとなっている。This paper considers the haiku season words originated from folk rituals as the resources of literature and examines how they have developed.One example is Shichigosan (a gala day for children of three, five, and seven years of age). This is rather a new ritual, established in urban settings. Today it is a superficial ritual to dress children up to celebrate their climb up the ladder of life, rather than a ritual to make a transformation from the existing to a new situation. When this ritual is used as a resource of literature in haiku, the word is intended to conjure images of growing children, their gorgeous gala dresses, and their behaviors in the ritual process. A focus is placed on the meaning of being a temporary ritual, rather than a social ritual.Another example is Okami (a ritual held on the New Year's Eve to tell a fortune for the next year). This was originated from the word "okami" referred to in a tanka poem of Minamoto no Toshiyori in Horikawa Hyakushu (Horikawa One Hundred Poems) and continued to appear in kiyose and saijiki (catalogues of haiku season words) compiled in the early modern times. Surviving documents indicate that there were some variations in who and how to perform this folk ritual though these details cannot be actually confirmed. In haiku, the word "okami" is often used to indicate year-end sentiments or a sense of time. The word conjures a fantastic image, suggesting the time and space on the boundary with a fantasy world, rather than an annual event.
著者
小池 淳司 上田 孝行 秋吉 盛司
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.367-374, 2004
被引用文献数
2

社会資本ストックの効果を正確に計測するには, 社会資本ストックによる便益の空間的帰着構造を把握する必要がある. 一方, わが国は自然災害の危険にさらされており, 特定の地域への災害が目本経済全体あるいは全国の各地域にどの程度影響するのかを事前に評価するためにも, 社会資本ストックによる便益の空間的帰着構造を知ることは重要な課題である. そのため, 本研究では社会資本ストックを生産要素の一部として扱うことが可能な空間的応用一般均衡モデルを構築し, 社会資本ストックの間接スピルオーバー効果を様々な経済変数および社会的厚生の観点から評価する. また, 実証分析を通じて, 関東地方での災害により経済的被害を全国レベルだけでなく各地域別経済的被害を明らかにした.
著者
佐藤 啓輔 吉野 大介 小池 淳司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.I_229-I_240, 2014 (Released:2015-05-18)
参考文献数
16

アジアの"Land-locked" countriesと呼ばれている内陸国は,貿易にかかる輸送コストの比重が大きく,これが貿易の発展を阻害する大きな要因となっている.このボトルネックを解消すべくADB等の援助機関が各国政府とともに国境をまたぐ幹線道路の整備を行っているが,これらの幹線道路の整備を各国の経済活動の活性化に繋げるには道路整備が地域経済活動へ及ぼす影響を定量的に把握することが重要である.本研究では,"Land-locked" countriesの一部の国々を対象に,現地の交通・物流状況を整理するとともに既存の統計調査結果を用いた産業・物流の実態を分析する.分析にあたっては,現状把握に加えて応用一般均衡(SCGE)モデルを適用し幹線道路整備による空間的な経済効果の波及状況を算出する.
著者
小池 淳一
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.193, pp.293-303, 2015-02

地域の開発に際して文化をどのように位置づけ、利用するか、という問題は実は言語戦略の問題でもある。本稿はそうした地域開発のキャッチフレーズとも標語ともとれる術語についての予備的考察である。ここでとりあげる術語とは〈民話〉である。〈民話〉はしばしば、民俗学の領域に属する語のように思われるが実はそうではない。〈民話〉は民俗研究のなかでは常に一定の留保とともに用いられる術語であり、またそれゆえに広がりを持つ言葉であった。一九五〇年代の日本民俗学において〈民話〉は学術用語としては忌避されていた。それは戦後歴史学のなかで、民話が検討対象となり、民衆の闘いや創造性を示す語として扱われていたことと関連し、民俗学の独立の機運とは裏腹のものであった。そうした留保によって〈民話〉はかえって多くの含意が可能になり、地域社会とも結びつく可能性が残されていった。特に「民話のふるさと」岩手県遠野市では口承文芸というジャンル成立以前の『遠野物語』と重ね合わされることによって〈民話〉が機能した。その結果として、遠野は「〈民話〉のふるさと」となったのである。How to evaluate and utilize culture in community development is also considered as a matter of linguistic strategies. This article provides a preliminary consideration of the terminology used as a catchphrase or slogan for community development. More specifically, this study focuses on folktales. The word "folktale (Minwa)" is often mistaken as a technical term of folklore studies. In reality, folklorists always use the term in a reserved way, which gives it a wide range of meanings. In the 1950s, Japanese folklorists rarely used "folktale" as an academic term. This was partially because after World War II, historians studied folktales using the term to represent creativity or a struggle of people, which was contrary to the trend of independence of folklore studies. Due to the reserved attitude of folklorists, however, the term could have many connotations, leaving the possibility to be linked with local communities. In particular, in Tōno, Iwate Prefecture, a city also known as the Home of Folktales, folktales played a role in relation to "the Legends of Tōno (Tōno Monogatari)" years before the establishment of oral literature as a genre. This is the very reason why the city has become the Home of Folktales.
著者
小池 淳一
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.174, pp.133-144, 2012-03

本稿では目をめぐる民俗事象を取り上げ、感覚の民俗研究の端緒とするとともに、兆・応・禁・呪といった俗信の基盤として考察した。まず最初に、柳田國男の一目小僧論を検討し、さらにその範疇に入らない年中行事における目の力に対する伝承を指摘した。次いで片目の魚の伝承や縁起物のダルマに着目し、片方の目しかない状態を移行や変化の表現としてとらえるべきであることを確認した。さらに左の目を重視する説話的な伝承が確認できること、また片目というのは禁忌の表現でもあることを見出した。最後に「見る」という行為から構成される民俗について、特に「国見」、「岡見」、市川團十郎における「にらみ」、「月見」などを取り上げて分析した。その結果、従来は「見る」行為には鎮魂の意義があるとされてきたが、さらにその内容を詳細に検討する必要があることが判明した。今後はさらに多くの「見る」民俗を分析するとともに五官に関わる民俗を総合的に検討することを目指したい。This article deals with folkloric events over the eye, marking the start of the study of folklore of the senses, which are studied as the basis of folk beliefs e.g. in the form of omens, knowledge, taboos and Magic. The article first examines the theory of the Hitotsume-kozo (one-eyed boy) of Kunio Yanagita and also indicates traditions for the power of the eye in annual events outside the above categories. Subsequently, it focuses on the tradition of the oneeyed fish and daruma dolls as auspicious and confirms that a one-eyed status should be understood as an expression of transition and transformation. Furthermore, it indicates a narrative tradition that prioritizes the left eye and finds that one-eye is also a taboo expression. Finally, this article analyzes the folklore composed of the actions of "seeing" by dealing, especially with "kunimi," "okami," "nirami ( glare) " in Ichikawa Danjuro, "tsukimi ( moon viewing) ," etc. As a result, the need for further detailed examination of the contents is clarified, although actions of "seeing" were conventionally thought to mean soothing someone's soul. In future, the author of this article would like to analyze more "seeing" folklore and comprehensively examine the folklore of five senses.
著者
小池 淳司
出版者
鳥取大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

現在,わが国では,財政赤字の増大などの社会的要請をうけて,社会資本整備評価必要性が叫ばれている.社会資本整備評価のためには定量的な客観性を有する評価手法が必要であるが,そのためには経済理論に基づいた社会資本整備手法の確立が不可欠である.土木計画学の分野では,これら社会的要請に答える形で,社会資本整備評価に応用一般均衡モデルを適応する試みがここ数年の研究課題となってきている.本研究では旅客交通整備評価のための空間的応用一般均衡モデルの開発と同時に,その実証分析に向けた応用の検討を行うことを目的としている.一般に,空間的応用一般均衡分析による交通整備評価は物流交通整備を対象としているため,旅客交通を明示的に扱うことが不可能である.そのため,本研究では世帯が消費する自由目的の旅客交通行動と企業が消費する業務目的の旅客交通行動を応用一般均衡のフレームで整合的モデルを構築している.さらに,交通需要データ(全国旅客純流動調査)と社会経済データ(地域間産業連関表)によりモデル内の未知パラメータ推定手法を提案することで実証可能としている.実証研究としては,わが国における整備新幹線計画,リニア中央新幹線計画,さらに,羽田空港発着枠増加などの効果を計測し,地域別の帰着便益を算出している.一方,東京首都圏における震災による交通マヒの社会経済的被害なども算出している.以上の研究成果は,土木計画学研究発表会,応用地域学会年次大会,WCTR(世界交通会議),RSAI(世界地域学会),災害比較シンポジウムなどを通じで内外の研究者と意見を交わし,評価を受けている.さらに,査読付き論文として,土木計画学研究論文集,Proceedings of 1^<st> Workshop for "Comparative Study on Urban Earthquake Disaster Managementに登載された.
著者
因 雄亮 高橋 淳史 大家 敬士 平野 研人 樋口 政和 川崎 秀二 小池 淳 村上 仁己
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.34, no.10, pp.73-76, 2010-02-27

近年,携帯電話端末上でコミックを閲覧する機会が増えている.コミックを携帯電話画面上で閲覧するには,携帯電話の画面サイズと解像度が十分でないため,コミックをコマ毎に分割し,整列する必要がある.そこで,我々は輪郭走査を用いた高速かつ高精度コミック閲覧用コマ分割システムを開発し,現在商用化されている手法との比較,特性評価を行った.